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アメリカで職場暴力対策への具体的取り組み開始
2012/04/06(Fri)
 4月6日(金)

 全国労働安全衛生センターの機関紙『安全センター情報』2012.4号は 「労働における暴力」 を特集し、アメリカとヨーロッパの新たな動きを取り上げています。
 盛りだくさんの内容ですのでかい摘んで紹介しています。

 1998年にILOは労働における暴力に関する報告書の初版を発行した時、深い共感を呼び起こし、それ以来世界中で関心と意識が高まりました。
 2009年6月15日付のILO 「労働における暴力の予防」 には 「長い間無視、否認、あるいは生活の一部として受け入れなければならない不快な現実としかみなされなかった労働における暴力が、被害者と企業のパフォーマンスに等しく大きなコストをもたらす。重要な安全衛生ハザードととらえるべきであると注意を払われるようになったのはごく最近のことである。」 とあります。

 2011年9月8日、アメリカ労働安全衛生庁 (OSHA) は 「職場暴力事象の調査または監督の執行手順」 と題した指令を出しました。
 1970年の労働安全衛生法では、使用者は労働者の安全かつ衛生的な職場を提供する責任を負っています。OSHAの役割は、基準を設定および執行し、またトレーニング、教育および支援を提供することによって労働者に労働安全衛生法がうたう状況を保障することです。
 指令が出された背景には、「職場暴力は、いくつかの業種で職業ハザードと認識されており、また他の安全問題と同様に、使用者が適切な予防措置を講ずれば回避または最小化することができる。同時にそれは、アメリカの労働者に悪影響を与え続けている。職場暴力は、14年間以上、職場における死亡原因の上位4位に残っており、毎年数千人の労働者及びその家族に影響を与えている。」 という状況があります。
 労働統計局 (BLS) の致死的労働災害センサス (CFOI) は、2000年から2009年を通じて年平均590人の殺人が発生し、労働関連死亡災害の4位になっています。2009年は、女性の職場死亡の1位の原因でした。2010年に発生した4.547件の死亡労災のうち、506件が職場殺人でした。
 さらに毎年平均15.000件以上の非致死的な障害が報告されています。
 職場暴力被害者の19%は法執行機関、13%が小売業、10%が医療関係で働いていました。
 「いくつかの調査研究は、予防計画が職場暴力の事象を減少させることができることを示している。職場を評価することによって、使用者は、発生しつつある事象の可能性を減少させる手法を確認することができる。」 とあります。

 1996年に出された 「職場における暴力。リスクファクターと予防戦略」 (NIOSH) は、職場暴力を 「労働している、又は勤務時間中の者に向けられた暴力行為 (身体的暴行及び暴行の脅迫を含む) と定義しています。
 指令と同時に開設された 「職場暴力」 のホームページには 「職場の暴力とは、職場で起こる、身体的暴力のあらゆる行為または脅威、ハラスメント、脅迫、その他の脅威となる破壊的ふるまいのことである。それは、脅しや言葉の乱用から、身体的暴力や殺人にまでにもわたる。それは、労働者、利用者、顧客、訪問者にまで影響を与え、また巻き込む可能性がある。」 とあります。
 加害者と対象者との関係を表現した職場暴力は
 タイプ1-故意 強盗その他の犯罪を働きに職場に入ったもの。または犯罪を働く意図を
  持って職場に入った現または元労働者による暴力行為
 タイプ2-顧客/利用者/患者 顧客、利用者、患者、学生、在院者、その他使用者が
  サービスを提供する者による、労働者に向けられた暴力
 タイプ3-同僚労働者 現または元労働者、監督者または管理者による、同僚労働者、
  監督者または管理者に対する暴力
 タイプ4-個人 そこで働いていないが、労働者に知られている、または労働者と個人的
  関係をもつだれかによる暴力
に分類されています。
 ハイリスク業種としては
 1、医療及び社会福祉施設。(保安要員、保守党員を含む)
 2、深夜小売り施設
などが挙げられています。

 OSHAは、最近暴行により労働者が殺されたニューヨークおよびマサチューセッツの施設を召還しました。
 「これらの事象及び類似の事例は、使用者がその労働者を防護するために適切な予防措置を取っていれば、回避または減少できたものである」 と労働安全衛生担当の労働次官補は語っています。
 具体的対策としては、使用者がその労働者に提供することができる最良の防御のひとつは、職場暴力に対していかなるものも許さない (zero-tolerance) 方針を確立することだと言います。そしてこの方針は、すべての労働者、患者、利用者、訪問者、契約者、その他の社員と接触する可能性のあるすべての者をカバーしなければならないと言います。
 職場を評価することによって、使用者は事象発生の可能性を提言する方法を確認することができる、と言います。

 「職場暴力」 は職場のいじめ・嫌がらせとは違います。
 「職場暴力」 は日本においても存在し、増え続けています。例えばサービス業従事の労働者、行政機関の窓口業務担当者、教育関係者などは被害者です。しかし経営者の経営判断や管理監督者の判断から労働者が声を上げられないでいる状況があります。
 具体的対策はそれぞれの職種によって異なりますが、「使用者がその労働者に提供することができる最良の防御のひとつは、職場暴力に対していかなるものも許さない (zero-tolerance) 方針を確立すること」は労働者の安全衛生の問題として確認される必要があります。
 暴力行為の横行と労働者のストレスの増大は同根です。社会問題として取り上げられる必要があります。

 ストレスケア・ドットコムの 「アメリカのメンタルヘルス政策」 (2008年11月) から抜粋してアメリカのメンタルヘルスケア対策を紹介します。。(「IMCのホームページ」 → 「労働安全衛生」 → 「海外のメンタルヘルスケア」 で見ることができます。または http://ijimemental.web.fc2.com/amerikanomenntaruherusu2.mht)

 1990年代後半、アメリカでダウンサイジング、レイオフ、大量の人員削減が行われ、ホワイトカラーもその対象となると雇用不安から多くの労働者がストレスを感じるようになりました。白人男性の自殺率が高まりました。
 2001年1月に就任したブッシュ大統領は、公約の1つにメンタルヘルス対策を上げていました。ブッシュ政権は、歴代政権の中では、メンタルヘルス対策に最も熱心に取り組んだ政権と言われています。

 ブッシュ大統領は、2002年にメンタルヘルス委員会を設立しました。委員会は2003年に大統領に 「報告書」 を提出し、メンタルヘルス改革について提言しています。そこには、メンタルヘルス教育の重要性、消費者 (利用者) 中心のメンタルヘルスサービスの実現、サービス格差の是正、早期発見プログラム、より質の高いサービスの提供と研究促進、インターネットなどを活用した啓発活動の重要性などが盛り込まれています。
 「報告書」 では、「コンシューマー・センタード」 と 「リカバリー・オリエンティッド」 が強調されています。メンタルヘルスの目的は、単なる 「病気・障害の治癒」 ではなく、「会社や社会に復帰すること」 であるという意味です。
 また 「報告書」 では、政府機関は、省庁、自治体の壁を超えて、連携して個人個人に合わせたプランを作らなければ、利用者中心のケアはできないと結論づけています。
 いずれにせよ、政府機関及びメンタルヘルス・サービス・プロバイダー (医師、精神科医、心理療法家、ソーシャル・ワーカー、EAPプロバイダーなど) は、利用者中心の発想に変革し、「会社や社会に戻って以前と同じように生活していきたい」 という利用者の望んでいる最終目的を見誤ってはならないということが強調されています。

 この報告書をもとに、アメリカ精神医学会をはじめ、主要なメンタルヘルス関連団体がコラボレーションを組んで、法整備を求めるなどの 「メンタルヘルス改革キャンペーン」 を行いました。議会関係者も超党派でこのキャンペーンを支援し、青少年の自殺防止法などいくつかのメンタルヘルス対策法が制定されています。また政府機関においては、国立精神衛生研究所によって、自殺を防止するための 「Real Men, Real Depression」 というこれまでにはない啓発キャンペーンが展開されました。
 また、メンタルヘルスを担当する保健福祉省SAMHSAでは、報告書をもとに、事業者向けガイドライン、教育関係者向けガイドラインを作ったり、大人向けサイト、青少年向けサイトを作ったりするなど、様々な取り組みを進めています。

 アメリカはベトナムシンドロームが今も深刻な問題です。さらにイラクに派遣された兵士の中から多くの自殺者と精神疾患罹患者が出ました。
 メンタルヘルスは自殺、犯罪、青少年非行、薬物依存、ホームレス、差別、兵士のPTSD、育児放棄、虐待、いじめ、DV、介護、終末期医療、過労、企業の生産性など、あらゆる分野にかかわっています。報告書策定以降、アメリカでは、メンタルヘルスは、国家にとって極めて重要な問題であるという認識が深まりつつあるようです。

 ブッシュ政権はメンタルヘルス対策法の成立には力を入れていました。しかし、コスト負担を伴う企業経営への影響も考慮し、コストが増大しすぎる案ではなく低コスト案を支持する姿勢でした。
 その結果、2008年メンタルヘルス・パリティ法が成立しますが、法はリーマン・ショックをきっかけとした金融危機を受けて緊急成立した 「金融安定化法」 の一部です。この法律の成立によって、メンタルヘルス疾患を持つ多くの人が、身体の疾患と同等の保険を受けられるようになりました。これまでは、通院回数、入院日数などの事実上の上限があったメンタルヘルス疾患の保険が、体の病気と同等の保険となり、患者とその家族にとって希望の持てる状況が作り出されたようです。

 この法律成立の意義は、治療の際の経済的な面にとどまるものではありません。メンタルヘルスに対する偏見と差別を減らすことに、大統領・上院・下院が共同して国家として真剣に取り組むことを示したという点で、とても大きな意義があると考えられています。

 同じような報告は、『損保ジャパン総研クウォータリー』 07.12.31に論文 「米国におけるメンタルヘルス分野のヘルスサポートの取り組み」 に載っています。(http://www.sj-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt49-1.pdf)  

   
  当センター「いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター」のホームページ・ご相談はこちらから
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