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職場から “いじめ” をなくすために 「カウンターレポート」
2012/03/21(Wed)
3月21日(水)

 3月15日、厚生労働省は 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 を発表しました。「提言」 は、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」 と 「円卓会議参集者からのメッセージ」 とセットです。
 職場のいじめ・嫌がらせ問題について、予防・防止の取り組みと問題が発生してからの対応の双方への取り組みを提唱しています。予防・防止に取り組むことは使用者の責務で、取り組むことは労使ともにメリットがあり、逆に放置することはディメリットが大きいと解説しています。
 「ワーキング・グループ報告」 は、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」 と定義しています

 この間、全国労働安全衛生センター連絡会議とコミュニティーユニオン全国ネットワークは、厚労省に対して職場のいじめ問題への取り組みと予防・防止対策ガイドラインの制定を要求し続けてきました。やっと取り組みのスタートラインに立ちます。
 これまでは、団体交渉で労働組合がトラブルの事実関係を確認しながら 「いじめがあった」 と主張しても 「いじめとはなんだ。定義してみろ」 と居直る使用者もいました。交渉は入り口論議が続き、なかなか進行しないこともありました。
 今回定義されたことで、不充分ではあってもこの難関は突破されます。そして問題解決に向けて、労働組合の主張としてではなく社会的取り組みの必要性が確認されていると説得することができます。
 「提言」 の有効性は今後の労働者・労働組合の活用如何です。

 これまでも職場のいじめについて定義がまったくなかったわけではありません。
 東京都は2000年3月に発行したパンフレット 『職場のいじめ -発見と予防のために-』 で 「職場 (職務を遂行する場所全て) において、仕事や人間関係で弱い立場に立たされた成員に対して、精神的又は身体的な苦痛を与えることにより、結果として労働者の働く権利を侵害したり、職場環境を悪化させたりする行為」と定義しています。当時として 「精神的苦痛」 を盛り込んでいることは画期的でした。 (2012年12月6日の 「活動報告」 参照)
 人事院は、平成22年1月8日付で各府省人事担当課長あてにパワハラを定義した通達を出しています。 (職 職―1)
 「『パワー・ハラスメント』 については、法令上の定義はありませんが、一般的に 『職権などのパワーを背景にして、本来の業務の範疇を超えて、継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い、それを受けた就業者の働く環境を悪化させ、あるいは雇用についての不安を与えること』 を指すといわれています。」
 団体交渉などではこれらの定義を活用していました。

 いじめ メンタルヘルス労働者支援センターとコミュニティーユニオン全国ネットワーク、全国労働安全衛生センター連絡会議は、昨年初めに 「職場におけるパワー・ハラスメント防止対策ガイドライン (案)」 を発表しました。そこでは 「パワー・ハラスメントとは、職務上の権限や上下関係、職場における人間関係等に伴う権力を利用し、業務や指導などの適正な範囲を超えて行われる強制や嫌がらせなどの迷惑行為をいう。」 と定義しました。
 この 「防止対策ガイドライン」 を行動指針としてイントラネットに載せている企業もあります。
 今回の円卓会議の提言に合わせて、メンタルヘルス労働者支援センターと全国労働安全衛生センター連絡会議メンタルヘルス・ハラスメント対策局は、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議 カウンターレポート」 を作成しました。(ホームページ → 「要請・提案」に掲載) 厚労省にすべてを任せ、後から批判するのではなく、日常的相談活動での経験を踏まえて自分たちならこのような内容にするという 「対案」 です。
 「職場のいじめ」 ではなく 「パワー・ハラスメント」 という表現を使用しました。既に 「パワー・ハラスメント」 という言葉が、厳密性を欠くとはいえ広く世間で労働者が職場で被る迷惑行為全般を指している現状があるという理由からです。

 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」 が 「職場のパワーハラスメント」 という言葉を使用することについてはワーキンググループで議論が続いたと報告がありました。
 「いじめ・嫌がらせ」 と 「パワーハラスメント」 は持つ意味が違います。

 バブル崩壊後の1996年6月に5日間、管理職ユニオンと多くの労働組合などが協力してホットライン 「職場いじめ110番」 (第1回) が開催されました。その経緯と結果が報告されています。 (『「職場いじめ」 問題と日本の企業社会』)
 開催にあたって名称を決めるときに議論が起きました。
 「『いじめ』 だなんてそんな敗北主義の言葉はいやだ、恥さらしだ、というものだ。それに管理職ユニオン内で取り扱っているのは主に不当な処遇があったもの、つまりリストラのためにクビになったとか、やめさせるためにわざと酷い環境におかれたりとかいうもので、それを『いじめ』と一言で括ってしまうのは問題があるのではないかなどという意見がありました。
 しかし名称を巡る論議に時間を費やすのは非能率であり、言葉として無理があっても、語感が嫌いであっても、職場で起こっている一切合財の問題を、『職場いじめ』 という名称のもとに取り扱うことに決めた。」 「どんないじめが横行しているのかは分からないが、とにかくそのパンドラの箱を開けて、会社の問題というものを全て受け止めよう、というのがこ の『職場いじめ110番』 の趣旨であった。」

 森田洋司著 『いじめとは何か 教室の問題、社会の問題』 (中央公論新社刊) によると、80年半ば頃から 「いじめ」 の用語は 「嫌がらせ」 「迷惑行為」 「差別」 「侮蔑」 「いびり」 「八つ当たり」 「からかい」 「殴る・蹴る」 「いたぶる」 「無視」 「仲間はずし」 などの現象を総称して使用されはじめ、人々の認識や反応の仕方まで変更されてパターン化されていったといいます。同時に差別と関連して発生する 「いじめ」 は、「差別問題」 として括られ、「いじめ問題」 から抜け落ちてしまう傾向になったと言います。(1月11日の 「活動報告」 参照)
 ですから 「リストラのためにクビになったとか、やめさせるためにわざと酷い環境におかれたりとかいうもので、それを 『いじめ』 と一言で括ってしまうのは問題がある」という主張が出されるのも当然です。
 「リストラのためにクビになった」 に反撃するには、「嫌がらせ」 か 「いたぶる」 などかの 「権利侵害」 の分析が必要です。
 「やめさせるためにわざと酷い環境におかれた」 は 「嫌がらせ」 か 「侮蔑」、「いびり」、「仲間はずし」 などかの 「人権侵害 」です。
 それらは社会の風土・職場の風土、人権意識など根が深い構造の中から発生している社会問題てす。
 簡単に 「いじめ」 で括り、事実の有無だけを確認し、あってはならないことと確認して解決に至るだけでは根幹が見えなくなってしまいます。
 しかし時代とともに捉え方に変化も生じました。労働者が守勢的になっている状況があります。かつては 「いじめられている」 と言うこと自体プライドが許さなかった雰囲気がありました。今は違ってきています。
 社会でも職場でも労働者は「個」で管理されています。人間関係上のトラブルがすべて「いじめ」で括られて対処されてきました。

 そのかなで「パワーハラスメント」という和製英語が登場しました。職場の状況やそのなかで労働者が置かれる精神状態などについて理解のない、関心を示さない、労務管理を生業とするところから使用され始めました。問題の本質を益々曖昧にして一括りにしてしまいました。
 しかし 「パワーハラスメント」 の言葉が社会的に登場すると、「個」 で管理されている労働者が “いじめ” 問題について自己主張しやすくなったことも確かです。現在は職場で発生している人間関係のトラブル全般を指す言葉として曖昧なままで定着しました。

 最後の円卓会議では 「コミュニケーション」 が議論になりました。
 使用者側の委員は、業務指示に対する労働者の 「ほうれんそう」 を 「コミュニケーション」 と捉えて労働者の問題と捉えているきらいがあります。きちんとわかりやすく業務指示を出すのも、指導・アドバイスするのも 「コミュニケーション」 です。使用者と管理職は 「頭が高い」 です。報告を待つのが権威・威厳だと思い込んでいます。
 このような中からトラフルは発生します。リスクが発生しています。
 コミュニケーションはお互いに理解し合うための手段です。

 学校で起きている問題は今も 「いじめ」 と称されます。
 よく 「子どもたちは大人社会でのいじめを見て真似している」 と言われます。大人が希望を持てない社会は子供が希望を持てるはずがありません。大人社会のいじめは子どもたちから希望を失わせています。
 いじめをなくすことは、人との繋がりを大切にし、希望を持てる社会づくりに向かう第一歩です。

 2002年8月6日、ヒロシマ原爆被害者慰霊祈念式典で 『子供平和宣言』 が読み上げられました。
  「平和とはだれもが協力しあい、安心して暮らせることだと思います。そのために私たちができることは
 身の回りのいじめを決して見逃さないようになることです。友達のことを理解しようとする心をもつようにな
 ることです。悪いことは悪いとはっきりいえる勇気をもつようになることです。こうした私たち1人ひとりの
 小さな変化がやがて本当の平和な世の中を作り上げていくことにつながると思います。
  あの廃墟のなかから立ち上がり、広島のまちの命を消すことなく灯しつづけてくれたおじいさん、おばあ
 さん。今度は私たちが平和のリレーランナーとして受け取った命のバトンをしっかり握り締め戦争や原爆
 の恐ろしさと、平和の尊さを語り継いでいききます。
  そして1人ひとりが平和を作り上げる主人公となり、身近でできる小さな平和の輪をたくさん作り、その
 輪を世界中に、そして次の世代へとつないでいき、世界平和という大きな輪を作り上げていくことを誓い
 ます」
 ヒロシマの子どもたちの 「カウンターレポート」 です。 


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