2011/10 ≪  2011/11 123456789101112131415161718192021222324252627282930  ≫ 2011/12
厚労省はずるい
2011/11/04(Fri)
11月4日(金)

 10月24日、厚生労働省は、「労働安全衛生法の一部を改正する法律案要綱」 を労働政策審議会に諮問し、審議会から答申を受けたので法改正作業に入ると発表しました。
 要綱の項目は 「第一 精神的健康の状態を把握するための健康等」、「第二 受動喫煙の防止」、「第三  電動ファン付き呼吸用保護具」、粉じん濃度が高くなる作業をする労働者に使用を義務づけられている保護具についてです。
 「第一 精神的健康の状態を把握するための健康等」 は、メンタルヘルス対策の充実・強化で、具体的には、
 「・医師又は保健師による労働者の精神的健康の状況を把握するための検査を行うことを事業者に義務
   づけます。
  ・検査の結果は、検査を行った医師又は保健師から労働者に直接通知されます。医師又は保健師は
   労働者の同意を得ずに検査結果を事業者に提供することはできません。
  ・検査結果を通知された労働者が面接指導を申し出たときは、事業者は医師による面接指導を実施し
   なければなりません。なお、面接指導の申出をしたことを理由に労働者に不利益な取扱をすること
   はできません。
  ・事業者は、面接指導の結果、医師の意見を聴き、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮な
   ど、適切な就業上の措置をしなければなりません。」
という内容です。
 私たちが問題視してきた、いわゆる 「新たな枠組み」 の具体的推進です。

 昨年12月22日、労働政策審査会安全衛生分科会は 「建議書」 を提出しました。その中に 「医師が労働者のストレスに関連する症状・不調を確認し、その結果を受けた労働者が事業者に対し医師による面接の申し出を行った場合には、現行の長時間労働者に対する医師による面接指導制度と同様に、事業者が医師による面接指導及び医師からの意見聴取等を行うことを事業者の義務とする」 という 「新たな枠組み」 がありました。
 「現行の長時間労働者に対する医師による面接指導制度」とは、2006年4月に改正された労働安全衛生法による1か月100時間以上の時間外労働をした労働者が事業者に対し医師による面接の申し出を行った場合にはそれを行わなければならないという規定です。
 一見、労働者の健康状態を考慮した政策に見えます。しかし2月10日と3月30日に問題点を指摘しましたが、労働現場、現在労働者が置かれている実態から見たならば諸手を挙げて賛成することはできません。

 この流れを作ったのは、昨年5月28日付で 「厚生労働省 自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」 が提出 した 『誰もが安心して生きられる、温かい社会づくりを目指して ~厚生労働省における自殺・うつ病等への対策~』 の 「報告書」 です。
 その中に、
  「(3) 職場におけるメンタルヘルス不調者の把握及び対応
   労働安全衛生法に基づく定期健康診断において、労働者が不利益を被らないよう配慮しつつ、効果
  的にメンタルヘルス不調者を把握する方法について検討する。
   また、メンタルヘルス不調者の把握後、事業者による労働時間の短縮、作業転換、休業、職場復帰
  等の対応が 適切に行われるよう、メンタルヘルスの専門家と産業医を有する外部機関の活用、産業
  医の選任義務のない中小 規模事業場における医師の確保に関する制度等について検討する。また、
  外部機関の質を確保するための措置についても検討する。特に、メンタルヘルス不調者の把握及び対
  応においては、実施基盤の整備が必要であることから、これらについて十分な検討を行う。」
とあります。

 この直後の5月31日から、厚労省では 「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」 が開始されます。
 検討内容は、「職場におけるメンタルヘルス対策の充実は重要な課題となっている。このような状況に対応するためには、労働者のメンタルヘルス不調の把握、把握後適切に対応するための専門家の確保などの実施基盤の整備が必要である。」 ということで、検討項目は 「労働者メンタルヘルス不調の把握方法について」、「把握後適切に対応するための実施基盤の整備について」 です。「医師が労働者のストレスに関連する症状・不調を確認」 するためのスクリーニングについても論議されました。
 検討会は毎回活発な論議が交わされました。
 たとえば、第1回目の検討会では早々弁護士の委員が意見を述べました。
 「平成21年3月の 『当面のメンタルヘルス対策の具体的推進について』 の中で、かなり面接指導、『メンタルヘルス不調者の早期発見と適切な対応の実施』 という項目を設けて、長時間労働の話であるとかを謳っていらっしゃると思うのですね。
 実務上、労働者の立場からやっていて何が問題かと申しますと、結局守れていないからこそ、そういう労災の事故が起こる場合が多いのです。ですから、大企業の場合はシステムとして入っているけれども、自主性に任せていて労働時間は実態を反映していなくて、きれいに残業時間が45時間に揃ってしまっているとか、中小のお金がない所は、そういうシステム自体を入れられていないわけです。
 ですから、過去に特にメンタルヘルス関係で打ち出された通達なりが、どういう原因で守られていないのか。守られていないとすると、労働者の側に問題があるのか、それとも使用者の側に問題があるのか、それは規模に応じてどういう変動があるのかというところの分析をしっかりしないと、いつまで経っても通達ばかり出す形になって、具体的な効果が上がっていかないと思うのですね。ですから、その点について、厚生労働省のほうでどのような把握をされているのか。……そういうものを踏まえた上でこれからどのように不調者を把握して、把握したあとどうするかで議論したほうが建設的になるのではないかと思います。」
 拍手喝采したくなるような意見でした。
 医師、保健師、看護師の委員からは、スクリーニングの有効性について疑問も出されました。
 今回の法改正の「医師又は保健師による労働者の精神的健康の状況を把握するための検査」はこのスクリーニングをいうと思われます。
 東大教授の医師である川上委員が発言しました。
 「厚生労働科学研究費の健康科学の研究事業で、昨年度地方公務員を対象に、うつ病に関するスクリーニングを受けたいかどうかという意識調査をいたしました。いま結果が上がってきたところですが、労働者の中で、『受けたい』 という方は50%ぐらいで、『いいえ』 が2割弱、『どちらとも言えない』 が3割という状況で、半数ぐらいの労働者はうつ病スクリーニングに好意的に言うかもしれませんが、それ以外の方はどのように考えるかというのは大きな問題だと思います。
 また同時に 『スクリーニングを受けるときに何を大事と考えますか』 というお尋ねをしたところ、……『結果が医師や看護職以外に見られないこと』 が6割、『二次スクリーニングで面接をされる場合には、専門家に診てほしい』 が6割、『ストレス対処などの勉強をも同時にさせていただきたい』 が6割あります。
 このようなことを見ますと、スクリーニングを行うときに事業者がその結果を見られる現在の定期健康診断の体制では、少し難しいという印象があります。……通常の所では健康診断の結果は、現在の法制度では事業者が結果を見ることができますので、この辺りをどのように体制づくりをするか。心の健康づくり指針も、十分な体制がないと行えないようだと、かなり慎重な論調のものを、用意していただいた指針の中にも書き込んでありますので、中小規模事業場などでどのようにするかというのは、すごく大きな課題だと思います。
 2番目は、スクリーニングだけをやって、予後が良くなるという研究については、あまり高いレベルの科学的根拠がありません。……
 3番目は、スクリーニングというのは、一般的にスクリーニングでポジティブの人に会うと、すぐにうつ病者に会えるような印象がありますが、決してそうではなくて、一般集団中に1%のうつ病者がいて、いまやっているスクリーニングをやりますと、例えば1.000人の事業者だと100人ぐらいがポジティブに出てきて、その中にうつ病の方が2%いるかいないかという状況で、2%の方を見つけるために100人に面談をするというのは、非常に効率の悪い状況が実際にも発生しています。
 その中で、強制的にというか、スクリーニングを型どおりにやってしまうと、うつ病ではない方も病院に行きなさいということが出てきて、そういう無駄な受診、治療が必要ではない方も受診させてしまう可能性もありますので、こういう点も少し考慮しなければいけないかと思っているところです。」
 第2回目以降は、産業医と保健師、看護師の立場、あり方についても激論が交わされました。
 産業医の委員が 「保健師や看護師には安全衛生を指導する権限がない」 という趣旨の発言をすると、保健師の委員からは 「保健師や看護師は現場を知っている。就業規則を知っている。産業医は知らない」 と反論する場面もありました。

 結局 「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」 の論議を踏まえては 「新たな枠組み」 の推進はできませんでした。そのため 「報告書」 は座長あずかり (実際は事務局、つまり厚労省) となりました。
 
 今年6月から 「産業保健への支援の在り方に関する検討会」 が開催され10月5日に 「報告書」 が出されました。
 「産業保健への支援の在り方に関する検討会報告書」 を検討してみます。
 「産業医が実際に関与した実務」のデータがあります。1000人以上の事業場でさえ 「労働者の健康情報の保護に関する相談」 63.0%、「労働者の健康障害の原因調査」 64.2%、「健康管理計画の企画立案の指導助言」 70.3%、「作業環境に関する医学的な評価、措置の勧告指導」 72.1%でしかありません。ましてや全体平均はそれぞれ20.8%、15.6%、19.1%、23.1%です。
 産業医の役割はこの程度でしかありません。つまりは労働安全衛生政策はやはり人事部等の権限の方がはるかに大きいのです。
 「長時間労働者に対する医師による面接指導制度の認知状況」 のデータがあります。1000人以上の事業場では99.1%、全体平均は50.6%です。
 問題は実際にどれくらいの労働者が面接指導を受けているかです。
 独立行政法人労働安全衛生総合研究所が2010年5月に事業場を対象にした 「長時間労働者に対する医師による面接指導等の実施状況調査報告書」 によれば、「実施状況」 は、300人以上の事業場でも47.0%、全体で16.6%です。
 面接指導を実施しなかった事業場のうち、面接指導等の対象者がいたが面接指導を実施しなかったのは300人以上で40.0%、全体では20.1%です。
 理由は、複数回答ですが、「労働者からの申し出がなかった」 が300人以上で100%です。その他の規模でも圧倒的です。
 事業場規模が大きいほど面接指導を 「労働者からの申し出がなかった」 を理由にして実施しないのです。
 このような事態や川上委員の報告は何を物語っているのでしょうか。ここにこそ問題の本質があります。
 ところが今回の 「長時間労働者に対する医師による面接指導制度の認知状況」 においては、「認知状況」 は記載されていますが 「面接指導の実施状況」 などは捨象されています。
 「医師が労働者のストレスに関連する症状・不調を確認し、その結果を受けた労働者が事業者に対し医師による面接の申し出を行った場合には、現行の長時間労働者に対する医師による面接指導制度と同様に」 などとあたかもうまく機能しているとでも言いたげですが実態は違っています。
 厚労省は都合悪いことは隠してしまいます。ずるいです。

 本質問題を隠した 「労働安全衛生法の改正」 は危険です。
 

   当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 厚労省 交渉・審議会 | ▲ top
| メイン |