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 惨事ストレスに強いパーソナリティは存在しない
2011/10/21(Fri)
10月21日(金)

 10月16日の 『朝日新聞』 に 「消防士9割 『惨事ストレス』 被災地派遣の800人調査」 の記事が載りました。
 調査は、名城大学が岩手、宮城、福島の3県を除く全国各地から緊急消防援助隊として5月下旬まで派遣された約28.000人のうちの800人を対象に実施され、有効回答率は66.9%だといいます。
 具体的には、活動時の精神状態として 「被災者や遺族に強く同情した」 (42%)、「もっと役にたてないのかと自責の念にかられた」 (40%)、津波や余震への不安や不眠、絶望を感じたり、涙が止まらなかったりするなどの症状も1割から3割いたという結果がでました。
 日常生活にも影響がある心的外傷後ストレス障害 (PTSD) の可能性が高い隊員も5%いたといいます。しかし記事は結果報告だけで評価がありません。

 消防士への惨事ストレス対策の取り組みは、阪神淡路大震災の経験から少しずつ開始されました。しかし地域的にばらつきが大きくありました。
 消防庁は2003年5月に 「消防職員の惨事ストレス対策に関わる緊急時メンタルサポートチームの創設等について」(通知) と 「緊急時メンタルサポートチーム派遣要綱」 を通知します。
 2005年6月には 「消防職員の現場活動に関わるストレス対策フォローアップ研究会」 が設置され、各消防本部や都道府県における惨事ストレス対策の取組状況、これまで対応した事例の調査及び分析、今後の対策の在り方等の検討が行われ、『報告書』 にまとめられました。
 そこには2005年段階で、惨事ストレス教育を行っている本部は平均23.8%でした。惨事ストレスを受けた職員を何らかの方法で把握しているは30.3%、職員へのケアを行っているは9.8%とあります。深刻な状況です。

 今は、工夫を凝らした教育・宣伝も行われています。(東京消防庁の取組については9月30日の 「活動報告」 参照)
 全国消防協会はカラー漫画によるパンフレット 『もうひとつの闘い ~語ることができない消防士~』 と 『消防士たちの惨事ストレス 家族用手引き』 を作成しています。
 消防署の隊長は、幼い時、消防士だった父親を火災出動で亡くします。
 署内でPTSDの資料が配布され、研修が行われようとします。しかし隊長は 「消防職員が悲惨な現場に行くのは当然」 「いちいちストレス抱える奴は消防になんか向いていない。とっとと辞表出せ」 「消防職員は強くて初めて家族を守れるってもんだ」 といって反対します。
 その隊長が、炎上火災で逃げ遅れた親子3人の救助活動で、重傷を負った子供を抱えたとき身体が動かなくなります。
 ストレスは気づかないうちに蓄積します。そして思いもよらないきっかけで溢れ出します。
 隊長は、それ以降、両腕にずっしりと、ぬくもりのない重さを感じていると 「告白」 します。上司がそう 「吐き出させ」 ました。それ以降、気が楽になり、チームを信用するようになりました。
 そして惨事ストレス研修にも前向きになっていきます。

 悲惨な状況を体験や目撃したら誰でもストレスを感じます。消防士、警察官、自衛官、医療関係者など職業的に遭遇する機会が多い者たちもそうです。問題はその時のストレスをどのようにして小さくするか、そのためにどのような予防をするか、業務遂行後はケアをするかです。
 そのなかで今回の調査の 「PTSDの可能性が高い隊員の5%」 は高いかどうかの捉え方が問題になります。
 アメリカでは、死亡事故を目撃した消防官に対し、3日以内に神経精神科のカウンセリングを受けることを定めた 「ストレス管理プログラム」 を適用しています。

 今年6月、韓国の新聞に韓国の消防士の惨事ストレス問題が載りました。
 中央消防学校によると、火災を鎮圧するハイリスクグループの消防官のうち、13.3%が 「精神疾患レベルのうつ病の症状」 を抱えているということです。
 問題は、多くの消防士が、こうした苦痛や悩みを訴える場所がない、同僚に対してさえ悩みを訴えられないことだといいます。カウンセリングやメンタルヘルスケアを希望する場合、市・道の災難 (災害) 心理治療センターをできることになっているが、他者の目を気にして通えないという雰囲気があるといいます。
 「消防官ではない友人たちは、“ひどい” と言ってこうした話を聞きたがらない。 だからといって神経精神科での治療は、組織内で“おかしい人”と見られないか気になって嫌だ」 という状況があります。
 このような中で、今年になって5月末までに8名の消防士が自殺しました。この4年間で自殺した消防士は25人。2009年は、自殺した消防士 (10名) が火災現場で殉職した消防士 (3名) より多いという事態になっています。
 この事態は、もしかしたら日本では警察や自衛隊と似ているのではないでしょうか。
 これらで惨事ストレス対策が取られているとは言えません。

 韓国だけでなく日本では、まだまだ精神的体調不良は 「主体の問題」 と捉えられていて、偏見の原因にもなっています。
 「今日でも使われているいくつかの心理テストがあるが、今もそれらをいくつか組み合わせて、心理的特性とか性格的な特徴とかいうものを評価する道具として心理学者は使っている。その組み合わせのことをテスト・バッテリーという。……
 (米軍は) 徴兵検査の時に心理テストを行って、戦闘要員としての適性を評価するという方法が、本当に功を奏したものかどうかはよく知らなかった。しかしこの方法が自衛隊の隊員を募集する時に、そっくりそのまま日本に輸入されて、アメリカ陸軍式のテスト・バッテリーを実施していたことを私は知っている。……
 しかし、これが本当に有効であったかどうなのかということになると……私はこの本を書くためにアメリカの陸軍軍医総監部出版の軍医の教科書 “Text Book of Military Medicine" シリーズの “Military Psychiatry" などというものを手に入れて、読んで調べて見た。そうしたら、精神科医ならば腹をかかえて笑うであろうことが出てきた。……
 (米軍は) 徴兵時にスクリーニング用心理テスト・バッテリーで精神医学的潜在カジュアルティーを排除できる、いわば予防できるんだということを真に受けて使用した。
 精神医学的な既往歴のあるものを徴兵せず、とくに不安障害と言われているようなものはだめであるということをやってしまった。……徴兵不適とされた者が160万人、第1次大戦の7.6倍に達した。
 このスクリーニングをやったにもかかわらず、戦場におけるブレーク・ダウンその他の精神医学的理由による除隊は、第二次大戦では第一次大戦の2.4倍。つまり、7.6倍の人が戦闘に不適だといってスクリーニングされたのに、2.4倍の精神医学的なブレークダウン現象が起きてしまった。……
 スクリーニング不可能と言う事実は何を語るか? 戦闘状況でのストレスに強いパーソナリティなんて存在しない。だれでも限界を超えればブレーク・ダウンするという真実が1つ。
 不安反応は、古兵と言えでも戦闘機関の長期化とともに、高い頻度でかならず出現する、つまり戦闘機械のような兵隊はつくれないという事実。」 (計見一雄著『戦争する脳』 (平凡社新書)
 自衛隊は、第二次大戦の米軍の教訓を生かしていません。隊員を人間とみなしていません。悲惨が悲劇を生み続ける危険があります。


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