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トリプルスタンダードの上はなんと言う?
2011/09/09(Fri)
9月9日(金)

 9月8日、「第9回精神障害の労災認定の基準に関する専門委員会」が開催されました。
 現在の「判断指針」の基準が改正されます。その1つが時間外労働時間の取り扱いです。
 長時間労働についての厚労省と専門委員会委員の主張は、「長時間労働と体調不良の関係はエビデンスがない」、「睡眠時間が6時間以内なら体調に異変をきたすという報告はある」という理由から放置する状況が続いています。
 現在は、よく時間外労働が100時間では認定にならない、120時間でも判断が分かれると言われています。しかも恒常的なものは対象外です。発症した6か月以内に急増した事実がなければなりません。
 「睡眠時間が6時間以内」や時間外労働100時間、120時間という数字だと問題がはっきりしませんが、1日24時間、1か月720時間から逆算するとわかりやすいです。
 「長時間労働と体調不良の関係はエビデンスがない」のはいいことです。なぜなら労働者はモルモットでないからです。よく海外では精神障碍者や獄中者がモルモットになっています。エビデンスがなくても労働者の健康保持・予防のために先手を打つのが厚労省の任務です。

 「脳・心臓疾患」の労災認定基準は、発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合は業務と発症との関連性が強いと評価できる、となっています。
 しかし現在検討が行われている「精神障害」の労災認定基準専門検討会では、時間外・休日労働時間が100時間だけの「出来事」では「心理的負荷強度」が「Ⅲ」にはならない、つまり労災認定は難しくなります。これは労災認定制度におけるダブルスタンダードです。
 また、労働安全衛生法第66条の8は、事業者に1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超える労働者に対して面接指導等を義務付けています。やはり100時間を超えると危険だと捉えているのです。

 厚労省は2006年3月に「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定し、具体的には1か月100時間、2~6か月平均では月80時間、長期間では月平均45時間以上の時間外労働は健康障害のリスクが高い、時間が長くなるほどリスクが高くなるということを踏まえ、適切な就業上の措置を総合的に講じることを提案しています。生かしてほしいスタンダードです。
 しかし労働安全衛生法も「総合対策」も遵守しなかったからといってペナルティーがありません。これでは使用者は遵守するはずがありません。時間外労働は野放しになっています。
 このような状況で労働者は我慢したり、諦めたりしています。そうしないと「敗者」になってしまうからです。
 「判断指針」と労働安全衛生法や「総合対策」は整合性がありません。使用者の都合だけが配慮され、労働者の健康問題は後付けになっています。
 改正される「判断指針」の労災認定基準は、「総合対策」の「健康障害のリスクが高い」のスタンダードを設定すべきです。

 憲法学者の古関彰一著『日本国憲法の誕生』で労働権に触れている部分を紹介します。
 1946年の憲法案を審議する国会に社会党は修正案を提出します。
  「政府案23条 法律はすべての生活部面について、社会の福祉、生活の保障、及び公衆衛生の向上
  及び増進のために立案されなければならない。
  修正案 政府案23条第1項に『すべて国民は健康にして最小限度の文化的水準の生活を営む権利を
  有する』を挿入。」
 これが現在の第25条です。憲法を巡ってはGHQからの押し付けなどの論議がありますが、少なくても第25条は違います。しかし現在においても権利は実現せずに要求の段階です。
 労働権についても修正案を提出します。
  「政府案26条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保証す
  る。
  修正案 政府案26条の次に以上を設け、『国民は休息の権利を有する。国は最高8時間労働、有給
  休暇制、社交教養時間の設定等に努力する』を規制する。
  さらにその次に一条を追加し
  『国民は老年、疾病、労働不能に陥った場合、生活の安全を保障される権利を有する。
  右権利は社会保険の広汎なる発達、無料施設の給与、療養地の提供等により之を保障する。
  戦災その他による寡婦の生活は特に保護される』を規定する。」
 「国民は休息の権利を有する。国は最高8時間労働……」は23条とリンクして労働者の生活権を保障するものでした。そのため審議においては25条を盛り込めば26条の修正案は省いてもいいということになったと言います。立憲の審議経過では「すべて国民は健康にして最小限度の文化的水準の生活を営む権利を有する」には労働権も含まれていたのです。
 当時の平均労働時間は1日8時間を下回っていた実態もありました。「最高8時間労働」という提案理由もそこにあります。「最高8時間労働」の文言が生かされていたら、今頃はどうなっていたでしょうか。

 さらに「戦災その他による寡婦の生活は特に保護される」は、女性議員の加藤シヅ江の意見があったといいます。「寡婦」は「戦争未亡人」のような一時的なものではなく、それ以外の死別、さらには「家」制度廃止後における「離別した夫人の生活権」の問題を含めて考えていたといいます。加藤は政府案の男女平等規定が形式にすぎないところを衝いて「単ニ此ノ憲法ノ条文ノ上ニハ機会的ニ男女ガ平等デアルト云フ風ニ、書カレテ居リマスノデハ、本当ノ意味ニ於テ、実際ノ生活ニ於テ平等デアリ得ナイノデゴザイマス」と主張しました。
 しかしアメリカ人であれ日本人であれ、4、50代の働き盛りの男たちにとって、母性や幼児、老人の権利や休息権などといった人権は共通して遠い存在だったと言います。
 「遠い存在」の箇所は、実際には労働者、特に女性労働者にとっては一貫して切実な問題となっています。
 古関教授は「憲法がその制定過程で切り捨てられてきた様々な権利を改めて検証し、引き継いでいかなければならない」と述べています。
 切り捨てられてきた権利に奪われた、失った権利を合わせて労働権を生活権の中で捉え返し、取り戻す闘いが必要です。

 
    当センター「いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター」のホームページ・ご相談はこちらから
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