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救助隊員に食事と睡眠と休息の保障を
2011/04/04(Mon)
4月4日(月)

 『女子アナ・吏良の海上自衛隊メンタルヘルス奮闘記』(講談社)が昨年末発刊されました。NHKキャスター出身の山下吏良さんの隊内での臨床心理士としての活動報告です。
 今、自衛隊は年間100人の自殺者を出しています。
 しかし「自衛隊では、『いじめ』があったという例は極めて稀です。何をもって『いじめ』というのか明確な定義もないのですが、実態として、集団生活においてまったくゼロということはないと思います。あまりにも要領が悪く鈍重な人や、自己中心的で極端に空気が読めない人は、集団の構成員から嫌われたり、辛く当たられたりするのがどこの社会でも普通だからです。」というトーンの文書が続くと、自衛隊そのものが自殺者を生み出していると確信させられます。
 それはさておき、本には惨事ストレスケアの具体例がいくつか載っています。私たちがあまり知ることが出来ないことです。それを紹介します。
 2001年末、北朝鮮の工作船が九州南西方に現れた時に、これを追跡した海上保安庁の巡視船が銃撃を行けました。その巡視船の乗組員数人がPTSDになったと言われています。
 2004年末のスマトラ沖大地震で津波があった時、海上自衛隊の艦艇3隻が派遣され、タイ・ブーケット沖で被災者の遺体の収容作業をおこないました。隊員は、特に辛かったのは子供の遺体の収容。子を持つ隊員は、「これが自分の子どもだったら」と考えて、心にかなり大きなダメージを受けてしまったと言います。
 自殺防止対策として、自殺やその他の重大な出来事に遭遇した隊員がどれくらいストレスやショックを受けているかを定量的に把握するための心理テスト「IES-R」(出来事インパクト尺度)を紹介していなす。今回の震災援助活動をしている人たちにも役立ちます。
 ・別のことをしていても、そのことが頭から離れない
 ・イライラして怒りっぽくなっている
 ・そのことを思い出させるものには近寄らない
 ・その時の場面が、いきなり頭に浮かんでくる
 ・寝つきが悪い
 ・ものごとに集中できない
 ・そのことについての夢を見る
 ・自分のせいではないかと思う
などの項目に「まったくない」から「非常にあてはまる」の5段階から選びます。(「IES-R」の詳細についてはインターネットで簡単に検索できます)
 自衛隊は、採用にさいして心理テスト・スクリーニングを行っています。
 しかし諸外国では行っていません。(『戦争する脳』計見一雄著 平凡社新書)なぜなら戦闘状況でのストレスに強いパーソナリティーなんてそもそも存在しません。だれでも限界を超えればブレークダウンします。事前予防はできません。不安反応は、古兵といえども戦闘期間の長期化とともに、高い頻度で必ず出現します。つまり戦闘機械のような兵隊は作れないのです。
 自衛隊には無用なことにこだわってすべて個人のせいにします。

 震災現場に派遣されている隊員が「遺体捜索の夢をみて真夜中に起きてしまう」と語っています。ケアが必要な段階です。
 しかしやはり自衛隊の「心のケア」対策は遅れています。
 精神医療と心理学の研究は戦時に推進され、利用されてきましたが日本の軍隊と自衛隊は、諸外国の対応や研究を習得していません。今も昔も「根性路線」を基本的に変えていません。戦時中の戦地にも、終戦後の帰還兵にも「南方ボケ」と呼ばれたたくさんのPTSD罹患者がいました。(『戦争する脳』)しかし放置されたままでした。その一方で同じ集団で同じような恐怖を体験した同期会が定期的に開催されています。しかし集団を離れると武勇伝を吹聴しています。
 同じように惨事ストレスケアを体験する警察官や消防士の対応や研究も共有していません。消防士はここ数年間の間に取り組みが急激に進みました。

 第一次大戦の経験から、イギリスの軍医は戦争神経症に関する治療方法における4つの原則を主張しました。
 戦争神経症とは、一杯に開いた目、強烈な震え、恐怖に満ちた顔つき、全身の皮膚は青ざめて冷たい、耳が聞こえなくなったり、口が利けず、目が見えなくなったり、四肢が麻痺してしまうなどの症状があらわれます。
 これに対して、
 1.プロクシミティー(proximity) 接近性。患者に接近していることと、障害が発生した場所に接近  している、可能な限り前線に近く、基地の病院より前線近くの病院での治療に収容。
 2.イミディアシー(immediacy) 直ちに。戦闘によるブレーク・ダウンが起きたらなるべく早く。
 3.期待(expectancy) 励ますこと。「病気ではないから、疲れを取ればすぐに原隊に復帰できる」と  言ってあげること。期待は「回復して仲間のところへ戻る、それができる」という本人と救助する側両  方のものです。
 4.シンプル(simplicity) 休息を取らせ、熱いシャワーを浴びさせる。一息入れさせてから温かい食  事を取らせ、そして眠らせることを最優先する。
 これらを組織の中に組み込んで行うということです。(『戦争する脳』)

 ちなみに、厚生労働省の「復職の手引き」はこの応用ではないかと思われます。しかし実態はやはり似て非なるものがあります。

 1972年の「あさま山荘事件」の時、警視庁の要請で現場には心理学者が動員されていました。
 彼らは、厳寒のなかでの活動であり体力を消耗することを避けるために交代で休息させること、前線の全隊員に詳細な情報をこまめに伝達すること、温かい食事をとらせることなどを助言しました。温かい食事がカップヌードルで、食べている様子が全国に放映されてその後爆発的な売れ行きになったというのは有名な話です。しかし長野県警はずっと冷たいおにぎりだったと言います。

 寝ない、食べない状況が続くということは精神的に悪影響が出てきます。これは福島原発事故で修理に奮闘している東京電力と協力会社の社員にも言えることです。
 被災地での救助活動や福島原発での作業は長期戦になります。精神論での頑張りではなく、食事と睡眠と休息をきちんと確保した対応をしないと二次被害、三次被害に襲われます。

  『戦争する脳』の著者は「軍や戦闘という、いわば非日常的な状況における現象、精神的に傷つき倒れていく人々の記述から、日常的なわれわれの平和な世の中と呼ばれている社会でも同様に傷つき、倒れていっている人々がいることに思いを及ぼさざるを得ない。」と、「4つの原則」などについては「職場のメンタル・ヘルス』なるものを考える時にもあるしさを与えるものである」と書いています。

 米軍では、軍隊が戦闘行為から離れる最長期間は2週間です。自衛隊は……。自衛隊は災害救助隊に再編成される必要があります。
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