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東芝には人権がない
2011/02/25(Fri)
2月25日(金)

 2月23日、東京高裁で行われた「東芝女性社員労災(うつ病)事件」の解雇無効確認・損害賠償請求訴訟控訴審判決言渡しを傍聴しました。
 労災認定をめぐる行政訴訟は2009年5月に勝訴が確定しているので、今回の訴訟も勝訴になることはわかっていました。
 この事件は労災申請が2004年9月に、解雇無効確認訴訟は同年11月に行われています。労災申請の段階から支援をしてきましたが、2つとも時間がかかりすぎます。その間当該の体調は戻っていません。会社に配慮がありません。
 原告は埼玉・熊谷工場で働いていました。原告が体調を崩した新しいプロジェクト立ち上げの時期には、他に2人の自殺者が出ています。しかし東芝はいずれも業務によるものではないという主張で、覆い隠そうとしました。1人の自殺については2008年3月に労災認定になりました。(もう1人は申請をしていません)
 裁判では、会社はタイムカードについて、倉庫にしまっているので探すのが大変だなどという理由で提出を渋ったりしました。
 東芝という企業には、この事件以外にもそうですが、人権がありません。労働者を思いやるという気持ちが全くありません。
 
 今回の判決で、裁判所は全損害額の8割程度しか認めませんでした。
 弁護士の説明では、かつては全額だったが、この間同じような裁判でやはり8割から6割しか認められていないということです。
 安全配慮義務について、かつては使用者の“気づき”が問題にされてきました。
 しかしこの間の動向は、いわゆる「新たな枠組み」の「医師が労働者のストレスに関連する症状・不調を確認し、その結果を受けた労働者が事業者に対し医師による面接の申し出を行った場合」において、「申し出を行わなかった場合」には労働者の側にも責任があるという主張を含めた“労働者責任論”の先取りのような気がします。(今回の原告はきちんと申し出をしています)
 やはり「新たな枠組み」の推進には問題があります。

 この事件の労災申請は埼玉県内の労働監督署に行われました。
 かの2009年度に精神障害等における労災認定者数がゼロの県です。県北には大企業の工場が林立する中にあって不思議なことです。
 おそらくは、せっかく進出してくれた企業に逃げられたくないという行政を含めた地域の思いが、乱暴な労務管理に目をつむる姿勢になっているのだと思います。割を食っているのは労働者です。


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2月19日 ~講演とシンポジウム~ 報告
2011/02/22(Tue)
2月22日(火)

 2月19日、「職場のいじめ・メンタルヘルスを考える ~講演とシンポジウム~」が全国から60人の参加で開催されました。

 主催者挨拶に続いて労働安全衛生センター連絡会議議長・いじめ メンタルヘルス労働者支援センター顧問の天明佳臣医師に講演をしていただきました。
 天明医師は、産業医の経験を踏まえ、労働者が置かれている現状と精神疾患に罹患する原因をデータを駆使して解説をしてくれました。また労災認定が少ない原因について、「現在の判断基準は『ストレス―脆弱性理論』を巧みに利用して『相対的有力原因説』を根拠にしているから」「労働者個々の業務状況を相対化してしまう『同種労働者基準理論』で扱うから」と問題点を指摘しました。
 労働者の体調維持のためには、慢性疲労はいきなり慢性化するのではないので、まず急性疲労の1週間以内の早期回復対策を行う必要があると問題提起しました。
 続けて工藤仁美民主党衆議院議員から挨拶を受けました。議員になる前はユニオンの委員長でもあった工藤議員とは、これまでも懇親を続けています。いじめガイドライン制定要求等の課題については今後も連携して運動を進めていくことを確認し合いました。
 シンポジウムに移りました。
 まずパネラーの金子雅臣さん(職場のハラスメント研究所・所長)、森崎巌さん(全労働省労働組合委員長)、東海林智さん(日本新聞労働組合連合委員長)に、それぞれの立場から現在の労働者の置かれている状況をどう捉えているか話をしてもらいました。
 金子さんは、以前と比べると上司、同僚、労働組合それぞれが変わった、以前は助け合いがあったが今は弱い者に向かってパワハラが行われると指摘しました。そして自治労10万人調査の分析結果として、“パワハラは仕事の中で起きている”状況を報告しました。
 森崎さんは、この間の労働現場の変化として「人を雇う」ということに変化が起きたと指摘しました。転機は派遣法で、人を雇って育てるのではなく「いい人いませんか」や「ひと山いくらでの人集め」が行われるようになっています。また労基署等の相談窓口から見えてくる問題として貧困と関連した相談が増えていると報告をしました。
 東海林さんは、新聞労連として相談を受けた事例を紹介しながら、最初から無理な課題を押しつけて“無能”という評価をし、“人間を壊して”解雇する事例が増えていると指摘しました。また各新聞社で5%は身体不調で退職していると報告しました。

 では解決に向けて労働者、労働組合はどうしたらいいかという討論に移りました。
 金子さんは、調査の中では労組に対する期待は大きかったことを踏まえて、職場環境の問題と捉えて包み込める体制作りの必要性を提案しました。また起きている問題について、パワハラだとジャッジをしていける人権感覚を磨かなければならないと指摘しました。そしてどういう職場を作っていくかという課題を設けて挑戦しなければならないと結びました。
 森さんは、労働は変化しているが雇用関係の中で信頼関係や尊重を社会に根付かせて行かないと変わらない、例えば労働者を人間扱いしないトライアル雇用などは止めさる必要があると指摘しました。そしてそれぞれの相談窓口は部分的対応しかできていないが、関係機関・団体が気づいて繋げるネットワークを作る必要があると提案しました。
 東海林さんは、新聞労連はスローガンに「奪われたものは奪い返す、働くことの尊厳を奪い返す。人間は商品ではない」を追加して頑張っていることを紹介しました。そしてどこの職場であれ、1人でもメンタルヘルスの不調者が出たら、人間関係を含めて職場の再点検をしようと呼びかけていると報告しました。   

 この後、会場からの質問にパネラーから回答してもらいました。
 金子さんは、いじめガイドラインについて「使用者も内部矛盾を抱えている、いじめなどを規制したいけど何をどう規制したらいいかわからない。やはりガイドラインは必要」と経験を披露しました。森崎さんは、いじめをなくす責任は使用者にあることを確認したうえで、つらいということを伝える必要があると提案しました。東海林さんは、いじめに遭った場合ICレコーダーに録音し、相手が冷静な時に聞かせることを提案しました。

 職場のいじめにどう対処したらいいか、その解決策の方向を探る講演とシンポジウムは3時間半に及びました。参加者それぞれが今後活動するうえで示唆に富む発言がたくさんありました。


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労働基準法36条は悪法
2011/02/18(Fri)
2月18日(金)

 昨年出版された濱口敬一郎著 『新しい労働社会』 (岩波新書) に、戦前の工場法は何よりも長時間労働で健康を害した女工らの健康を守るために設けられたが、戦後の労働基準法の1日8時間労働は、健康確保ではなく 「余暇を確保しその文化生活を保障するため」 のものとされ、そのため残業については無制限になってしまったとあります。
 確かに法制定の段階では民間も公務員も週労働が1日8時間までには至らなかったようです。しかし48年になると週労働が48時間を超える状況、つまり残業が恒常化するに至りました。
 年間総実労働時間は、60年の2.432時間をピークまで増加を続け、その後第一次オイルショックまで減少を続け、横這いになります。
 この頃から労働省のデータは当になりません。なぜなら、短時間労働者が増加しますが彼らも計算の分母に含まれるからです。
 長時間労働は今も残されたままです。

 民主党政権になってからの昨年6月18日、「『成長戦略』 『元気な日本』 復活のシナリオ~」 が閣議決定しました。
 その中の 「(6) 雇用・人材戦略 ~ 『出番』 と 『居場所』 のある国・日本~」 には
  「【2020 年までの目標】
  『年次有給休暇取得率70%、週労働時間60時間以上の雇用者の割合5割減』、『最低賃金引上げ:全国最低  800円、全国平均1000 円』、『労働災害発生件数3割減、メンタルヘルスに関する措置を受けられる場合の割合100%、受動喫煙の無い職場の実現』 これらの目標値は、内閣総理大臣主宰の 「雇用戦略対話」 において、労使のリーダー、有識者の参加の下、政労使の合意を得たもの。また、これらの目標値は、「新成長戦略」 において、「2020 年度までの平均で、名目3%、実質2%を上回る成長」 等としていることを前提 。」
と記載されています。
 なんとあと9年後の2020 年にも 「週労働時間60時間」 つまり月間残業時間80時間が存在することが前提の目標なのです。
 このような 「シナリオ」 を前提にして今 「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討委員会」 が開催されています。だから認定基準は 「1か月の残業限度は100時間か120時間か」 という論議になるんです。

 体調不良者や過労死が続出するのは長時間労働を規制する法律がないからです。
 労働基準法の 「協定さえ結べば制限のない残業を命じることができる」 という36条では悪法です。
 かつての労働基準法改悪のなかの女性の残業規制の撤廃の時、逆に女性の残業規制の規定を男性労働者にも適用させる方向でこそ改正要求をすべきでした。   


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「公務員は残業をあまりしていない」
2011/02/16(Wed)
2月16日(水)

 昨年12月13日、厚労省で「第3回精神障害の労災認定の基準に関する専門検討委員会」が開催されました。
 大きな検討課題は2つです。1つは、「出来事」が複数ある場合の総合的判断のあり方です。2つ目は、「出来事」の中の長時間労働をどれくらいに設定するか、つまり残業時間が何時間だったら労災と認定するかです。
 委員は「労働時間と健康の因果関係は証明されていない」ということを前提にして、勝手なことを発言します。そして以前から言われている「睡眠時間は6時間で充分」に生活時間の5時間を足して、それ以外の時間は労働させても大丈夫という方向になり、「1か月の残業限度は100時間か120時間か」というところでの論議になりました。
 その中で、このような検討委員会の常連である山口浩一郎上智大学名誉教授(法学者)は、「地方公務員の判断指針は残業時間が80時間と緩くできている。なぜなら地方公務員は残業しないから、5時で帰るから、該当者がいないから基準が緩くてもいいんだ」と発言しました。裏を返すと、民間労働者の場合には残業時間が80時間ではなくもっと厳しくした方がいい、そうしないと認定者が増えるという言い方です。そもそも判断基準に客観的基準はないという主張です。
 それを受けて織英子委員(弁護士・信州大学大学院法曹法務研究科講師)は、「長時間労働でも週休2日ならば個人的自由があるということで篩い落とすことができる」と発言しました。
 みんな篩い落とす基準を考えています。

 彼らは、問題ある発言をしても委員はみんな同じ意見のはずと捉え、傍聴者も誰もまともに聞いていないと思っていたのでしょう。しかし2つの検討課題はもちろん、判断指針の改定は深刻な問題だと捉えて耳を傾けていた傍聴者が約3人いたのです。
 全国安全センターと支援センター等は、この間、この発言は黙認することはできないと対応を検討していました。
さすが厚労省も問題発言と気付いたのでしょう。なんと出来上がった議事録からはこの部分は抹消されていました。確かにあった発言を勝手に抹消することも大きな問題です。
 全国安全センター等は、議事録抹消問題を含めて厚労省と交渉することにしました。

 イギリスの精神科医R.D.レインは朝鮮戦争の時の体験を『レイン わが半生』(岩波現代文庫)に書いています。
 「私の仕事の一部は、陸軍が必要としない兵士たちを精神病だという理由で陸軍から『降職』させることだった。そもそもそういう兵士たちはまず患者であるということで自動的に『降格』されていた。だが、8項目から成る基準に基づいて一体どの程度までダウングレイドさせればよいのか。……診断とグレイドづけは、どの患者にも並たいていでない影響を及ぼした。……私に判断できる限りでは、経済的にも影響を及ぼすこのような臨床資格の格付けの基準設定に関する方針は、陸軍の医療部門の外から発していた。その実態は私には永久に分るまい。誰と誰を原隊に復帰させ、誰と誰を除隊させたらよいのか。ある月は10%の人を復帰させ、90%の人を除隊させたかと思うと、翌月には10%を除隊させ、90%を留任させた。陸軍がどの程度まで人員を切り詰めるかという決定は陸軍当局次第だった。」
 イギリス陸軍における兵士の降格の判断は、精神科医が兵士を診断した健康状態によるのではなく、陸軍の人数合わせ・体制維持から逆算されていたのです。

 日本における精神障害等の労災認定数少なすぎます。実態からではなく、厚生労働省の政策に基づいて基準が制定されています。


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何から何まで管理しようとする社会風土
2011/02/11(Fri)
2月10日(木)

 少し下火にはなったがまだ「タイガーマスク運動」が続いているといいます。
 タイガーマスクが登場した時、誰なのかと栓索と捜索が続きました。そして各地に次々と登場すると児童養護施設に待機するマスコミまで現れます。それでも捕まえることができないとなると、「覆面思考」は行き過ぎという主張まで行われてきました。
 静かに行われている善意が批難されるまでに至りました。
 善意にルールがあるのでしょうか。誰も迷惑していません。不可思議な現象です。誰であるかを知ってどうするのでしょうか。
 「あしなが育英会」は、支援をする側もされる側も「ともに名乗らないこと」が原則なのだそうです。

 日比谷派遣村が閉村すると『朝日新聞』の「朝日歌壇」に、派遣村にいたと思われる公田耕一さんの投稿が選ばれて掲載されました。何度か掲載が続くと新聞社は「ホームレス歌人」と呼んで名乗り出ることを期待しました。それがだめだと分かると、投稿謝礼を届けられないので連絡を欲しいと呼びかける大きな記事を乗せました。新聞社があまりにも本質が見えていないと思い手紙を送りました。
 「……誰でも皆、プライドを持っています。しかし“こんなところ”に来ざるを得なくなった自分への怒り、支援を受ける屈辱、恥ずかしさを持っていました。誰か知り合いにでも会わないかという恐れもありました。同時に久しぶりの食事の美味しさ、暖かさ、人の思いの温かさなどが入り混じっています。……」
 だからこそまた立ち上がれるのです。
 手紙が功を奏したのかその後呼びかけはありません。
 「ホームレス歌人」はお世話になった人たちへのお礼を、自分ができる方法で行ったのです。誰であるかを知ってどうするのでしょうか。
 2つとも、知らない人の行為を見逃すことが不安なのです。

 2月7日の「朝日歌壇」に
   「伊達直人公田耕一その人を
     知りたくもあり 知りたくもなし」
 という投稿が載っていました。このほうが多くの人の思いだと思います。

 以前に書いた労働政策審査会の「建議書」に記載されている「新たな枠組み」は、労働者の健康状態を知りたくてしょうがない使用者の願望に沿ったものです。労働者の健康管理を上から網を張って行おうとしています。そのために健康診断におけるスクリーニングと医師を利用するのです。
 知ってどうするのでしょうか。
 労働者は体調不良を自覚してもなかなか上司に訴えません。秘密を守ってくれる保健室にこっそり行ったり、外部の医師にかかっています。我慢できなくなって体調不良を申し出ると“窓際族”に追いやられたり退職勧奨などの不利益な取り扱いを受けることを肌身で感じているからです。
 「新たな枠組み」が実行されたら保健室や外部の医師の位置が変わります。事業者の管理強化の一環に組み込まれていると敏感に受け止め、個人で問題を抱えたままで出社拒否症になったり、さらに遠くの医者にかかります。
 使用者は、労働者を危険な状況に放置しておきながら、労災申請や損害賠償訴訟などで使用者の安全配慮義務を問われたときに反論できる資料作りをしておくことを労働安全衛生管理の基本にしています。だから、本当は労働者1人ひとりの健康情報を管理したくてしょうがないのです。できたら定期健診で「スクリーニング」をした情報を全部入手し、労災申請や訴訟において「○年○月ころまでは大丈夫だった」と主張したいのです。
 「新たな枠組み」はそのような対応に至る危険性があります。
 使用者は、健康情報の管理の前に、過重労働の解消などやらなければならないことはたくさんあります。
医師による不調確認の前に、社員が不調が軽い段階でも会社が休養を勧めるような職場の雰囲気と雇用継続の保障が必要なのです。

 一昨年11月の「自殺防止月間」のスローガンは「お父さん 眠れていますか」でした。
 これは家族による父さんへの「スクリーニング」です。お父さんは家族からもチェックされるのです。
 この姿勢が政府・厚労省の基本姿勢です。だからスローガンにだれも疑問を感じなかったのです。

 何から何まで管理しようとする社会風土があります。自主的に、個性的に、目立たないように行動する自由がありません。そうしないとお互いが不安なようです。危険な社会です。
 

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