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行政の進める労働安全衛生のモデルは軍隊                            「数」 や 「モノ」 としか見ていない
2018/05/25(Fri)
 5月25日(金)

 ストレスチェック制度についての勉強会のとき、日本では会社が社員におこなう健康診断を社員は健康管理をしてくれていると捉え何の抵抗もなく受け入れている、労働者は自分の健康情報を会社に管理されることに何の疑問も感じていないという議論になりました。
 労働安全衛生法第六十六条は(健康診断) 「労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。」 とあります。法律で定められた検査項目は、身長、体重、視力、聴力、血圧、尿検査、貧血、肝機能、血中脂質、血糖、胸部X線などです。
 第六十六条の六は(健康診断の結果の通知) 「事業者は、第六十六条第一項から第四項までの規定により行う健康診断を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該健康診断の結果を通知しなければならない。」 とあります。
 第六十六条の七は (保健指導等) 「事業者は、第六十六条第一項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。」 とあります。

 労働安全衛生法は、作業環境測定等の作業環境管理について、もう1つは労働者個人の健康管理について定めていますが事業者の責務はあいまいです。事業者は労働者の健康状態について情報を集めて管理し、提供するが、健康管理は労働者の責務ということです。労働者は、健康情報を会社任せで安心していますが危険です。もっと関心を持つ必要があります。そうしないと健康どころか自分自身を守れません。

 日本では、健康診断項目を増やすのは健康維持のためでいいことだと捉える傾向があります。
 2015年にストレスチェック法が施行されました。事業者は労働者の精神状態、“心身のストレス反応” をチェックできるようになりました。労働者は、“内心” まで提供します。しかし疑問や反対の声はほとんど上がりませんでした。結果がどう取り扱われているかも関心がありません。日本以外で同じようなものを導入しようとしたらただちに反対運動がおき、実施できなません。

 以前の相談案件です。
 労働者は就業中の交通事故で精神的体調不良に陥りました。しかし隠していました。会社の定期検診のときに保健師の問診があったので、精神的体調不良を訴えました。
 体調は悪化し、休職せざるを得ませんでした。その段階で団体交渉を申し入れました。
 交渉で、当該労働者は定期検診のとき保健師に体調不良を伝えたので会社は掌握していたはず、しかし業務の見直しは行われなかったと主張します。
 会社は、保健師から聞いていない。保健師は労働者の精神的体調不良は個人情報なので会社に報告しないと反論しました。
 保健師を責めることはできません。労働者の個人情報は漏らさなかったのです。労働者は期待を持ちましたが健康管理は自己責任なのです。


 「働き方改革法案」 の審議が続いています。労働安全衛生法改正も含まれています。いつものように長時間労働を前提にしたうえでの “健康管理” です。
 第百四条は、(法令等の周知) 「事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による (新設) 措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
 2 事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理する ために必要な措置を講じなければならない。」 とあります。

 まさか、情報のなかにストレスチェックの結果が含まることにはならないと思いますが、不安と恐怖を感じてしまいます。厚労省や事業者は、やむをえなかった、労働者のためを思ってやったと言いわけをするようなことがないよう監視していかなければなりません。


 精神科医の島悟医師が雑誌の座談会で次のように語っています。
「行政の進める労働安全衛生のモデルは軍隊なんですね。産業保健スタッフで言えば、産業医は軍医、衛生管理者は衛生兵です。『場の管理』 が基本なんです。それぞれの現場で使っている有機溶剤や薬剤など危険物の種類の違いなどに対応するために 『場を管理する』 という発想。実際のオフィスワークの場合はどこでも同じですよね」
 では「場を管理する」とは具体的にどのようなことを言うのでしょうか。
「ジェノサイド (大量殺戮) の恐ろしさは、一時に大量の人間が殺戮されることにあるのではない。『そのなかに、ひとりひとりの死がないということが、私にはおそろしいのだ。人間が被害においてついに自立できず、ただ集団であるにすぎないときは、その死においても自立することなく、集団のままであるだろう。死においてただ数であるとき、それは絶望そのものである。』 (石原吉郎著 『望郷と海』 ちくま学芸文庫)」
「総力戦としての戦争は、民衆が戦争に総動員され、その生命が危険に晒され奪われるというばかりでなく、人々をまさに 『数』 や 『モノ』 や 『原子的存在』 へと貶める極限状況を生み出した。」 (三谷孝編 『戦争と民衆 戦争体験を問い直す』 旬報社刊)
 「場を管理する」 政策は、画一的対応・管理をし、労働者を集団としか見ません。
 現在の競争社会においては会社も労働者を 「数」 や 「モノ」 や 「原子的存在」 としか見ていません。

 安倍首相の全国過労死を考える家族の会との面会拒否の対応は、過労死した労働者を 「モノ」、高プロや月100時間の時間外労働で働く労働者を 「数」 としか捉えていない証左です。だから被害者家族の声には関心がないのです。


 今、吉田裕著 『日本軍兵士 -アジア・太平洋戦争の現実』 (中央公論新社刊) が好評です。
「戦争に必要な兵員数を満たすため、陸海軍は徴兵検査などの見直しに取り組んだ。1927年に公布された兵役法によって、満20歳の青年は徴兵検査を受検することが義務づけられていた。
 徴兵検査では全国一律の基準で身体検査が行われ、身長や身体の強健度を基準にして、身体的な 『格付け』 が行われ、その優劣に従って1人ひとりの青年は順次、甲種・第一甲種・第二乙種・乙種・丁種・戊種にふるい分けられる。甲・乙種が現役に適する者、……現役とは軍隊に入営して軍務につく者のことをいう。」
「1940年1月には、陸軍身体検査規則が改正され徴兵検査の基準が大幅に引き下げられた。
 改正のポイントは、『身体または精神にわずかな異常があっても、軍陣医学上』、軍務に支障なし判断できる者は、『できるだけ徴集の栄誉に溶し得るよう、身体検査の条件を全般的に緩和した』 ことである。」

 兵士の健康診断は健康状態を診るものではありません。兵士の人数合わせ・体制維持をするために逆算するための手段です。「数」 です。
 同じようなことをイギリスの精神科医R.D.レインは朝鮮戦争の時の体験を 『レイン わが半生』 (岩波現代文庫) に書いています。
「私の仕事の一部は、陸軍が必要としない兵士たちを精神病だという理由で陸軍から 『降職』 させることだった。そもそもそういう兵士たちはまず患者であるということで自動的に 『降格』 されていた。だが、8項目から成る基準に基づいて一体どの程度までダウングレイドさせればよいのか。……診断とグレイドづけは、どの患者にも並たいていでない影響を及ぼした。……私に判断できる限りでは、経済的にも影響を及ぼすこのような臨床資格の格付けの基準設定に関する方針は、陸軍の医療部門の外から発していた。その実態は私には永久に分るまい。誰と誰を原隊に復帰させ、誰と誰を除隊させたらよいのか。ある月は10%の人を復帰させ、90%の人を除隊させたかと思うと、翌月には10%を除隊させ、90%を留任させた。陸軍がどの程度まで人員を切り詰めるかという決定は陸軍当局次第だった。」

 企業は、合理化・人員削減を遂行しながら業績を強制する一方で健康管理は労働者の自己責任です。軍隊と同じです。
 労働者は1日24時間の半分以上を職場で拘束されたらだれでも自己を失います。「数」 「モノ」 として粗末に扱われると 「人間という生き物」 はメンタルヘルスの体調不良に陥ります。この方が “正常” です。
「神経症を直視せず、『疲労問題』 を重視するならは、問題解決の方向は 『疲労回復』 に向けられる」 必要があります。
 「働き方改革法案」 の高プロ、月100時間の時間外労働の危険性の本質はここにあります。


 『日本軍兵士』です。
「結核患者に対する軍の基本的対策は、結局は 『排除』 だった。……
 このため、徴兵検査の際にレントゲン検査を行うことが決定され、1941年度の徴兵検査は受検者の半数に対して、42年度は受験者のほとんど全員に対して同検査が実施されている。……
 しかし、排除方針は 『両刃の剣』 でもあった。……
 身体検査の際、『既往症に肺結核ありとしてまたは自ら肺結核患者なりとして、診断書ないしはレントゲン写真を携え』、当然しないまま自宅に帰れるものと考えて、受診を申し出る者が多数いたため、医務室はその対応に忙殺された。しかし、別の機会に歩兵第一連隊の 『この種の兵の胸部レントゲン検査を行』 ったところ、『大多数は認むべき所見なく』、入隊して軍務についても問題のない者たちだったという。
 3人の軍医は、レントゲン検査の器機を持たず近隣に陸軍病院が存在しない部隊の場合、入営の可否を短時間で判断しなければならないこともあって、傾向としては結核の病歴を訴える者は、症状を 『重く見らるる嫌なきにあらずと言う』 と書いている。
 つまり、当時の軍事医学の水準からすれば、レントゲン検査によって結核患者であるか否かを正確に判断すること自体が困難だった。そのため少しでもその可能性がある者は軍隊から排除せざるをえない。しかし、それは誤診の可能性、あるいは結核の既往症を強調して入営を免れようとする者が増大することを意味した。」

 軍隊の結核検査は、「働き方改革法案」 の “健康管理” と似ています。
 産業医の多くは精神科が専門ではありません。長時間労働では誰もが体調不良に陥っています。労働者の心身を思慮して診察すると会社からクレームを受けたり敬遠されます。「数」 が不足するからです。しかしまだ大丈夫などと診断した場合はあとで損害賠償訴訟を起こされます。
 『重く見らるる嫌なきにあらずと言う』 の逆を訴える労働者も確実にいます。経済的事情、会社における将来の立場を考えてです。
 長時間労働の強制を最終的に止めることができるのは産業医ではなく事業主です。そして防止のための強制法の確立です。
 健康診断の前に、頻繁に受診しなくても健康が保たれる労働条件・環境づくりが先です。

 「活動報告」 2018.4.17
 「活動報告」 2018.3.2
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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「働き方改革」 で労働生産性は向上しない
2018/04/17(Tue)
 4月17日 (火)

 安倍政権は何かにつけ、2012年にアベノミクスが始まってから雇用は100万人以上増えたと豪語します。しかしその中身について触れることはありません。
 具体的にはどうなのでしょうか。
 内閣府の国民経済計算年次推計によると、確かに安倍政権が発足した12年から16年までに就業者は168万人増えました。内訳は、94%は65歳以上で、82%は女性でした。
 168万人の内訳は、介護事業などの保健衛生・社会事業が年間20万人以上のペースで急増して約100万人。次に事務代行などの業務支援サービス業76万人、宿泊・飲食サービス業12万人です。賃金水準が低い介護などのサービス業に集中しています。

 その結果、総務省が1月30日に発表した労働力調査によると、これまでは女性の労働参加率は、縦軸を就労率、横軸を年齢とする表を作成すると 「M字」 が描かれましたが、「逆U」 になっています。今はMの谷間の30代の落ち込みが緩やかになり、40代以降の労働参加率も軒並み上昇しています。中高年で主婦パートとして働き始める人が増え、17年の女性の労働力人口は前年から45万人増えて2937万人。60~64歳の労働参加率は54.9%と過去最高でした。
 男女雇用機会均等法が施行された1986年には、結婚・出産期にあたる年代の労働参加率が落ち込み、育児が落ち着いた時期に再び上昇するM字カーブを描き、その後も続いていました。M字カーブを描いていたのは他には韓国があります。共通していたのは男性労働者の長時間労働と女性労働者の低賃金です。
 労働力人口を10年前と比べると、65歳以上が125万人増、次いで45~49歳が79万人増でした。少子化で25~29歳は39万人減、30~34歳は34万人減少でした。

 一方、国民経済計算年次推計では製造業は28万人、建設業は約4万人、情報通信機器約2万人、電子部品・デバイス2万人減少しています。
 労働者1人ひとりが就労1時間当たりどれだけの付加価値を生み出しているかをはかる指標の労働生産性 をみると、労働生産性が高い製造業が構造調整で人手を減らしています。裁量労働制など隠された労働時間の実態をみると実際の労働生産性はどれほど高くなっているのかはわかりません。
 一方、生産性が低いサービス業に労働力が集まっている状況が浮き彫りになっています。 サービス業は労働力不足がいわれている中にあっても手取り収入は増えず、労働の質は高まっていません。労働生産性は、介護などの分野は12年~16年に3.8%、業務支援サービス業9.5%、宿泊・飲食サービス業3.1%低下しました。
 賃金水準も。厚生労働省の賃金構造基本統計から年収を推計すると、製造業の平均503万円に対し、宿泊・飲食業は349万円、介護は348万円にとどまっています。12年からの年収の伸び率は製造業の3.6%に対し、介護はわずか0.4%増です。

 雇用の流動化がいわれています。以前と違い、現在の企業は自社で労働者の教育・育成を行いません。経済協力開発機構 (OECD) によると、日本は25~64歳で教育機関で教育を受けている労働者の割合は2.4%で10%超のOECD平均に遠く及びません。長時間労働と低賃金のなかでその機会を作ることは困難ですが、企業も景気動向にあわせた “使い捨て” を行うなど長期雇用を望んでいません。企業は社会的責任を担おうとしていません。


 1956年から72年までの高度経済成長期に、就業者は955万人増え、その約6割を生産性が高い製造業が占めていました。
 1947年から49年は第一次ベビーブームで、49年の出生数は269万人でした。彼らが労働者となって納税の義務を果たし、社会の中枢を支えていたころは福祉政策も充実していきました。「国民の8割が中流意識」 の社会を作りだしました。この頃はお互いの助け合い思いやりも意識されていました。
 その後、71年から74年は第二次ベビーブームを迎え、73年の出生数は209万人でした。しかしその後出生数は増加することなく下降を続け、現在は100万人を切る事態になっています。

 2013年1月12日の 「活動報告」 の再録です。
 社会保障問題についての湯浅誠さんの講演です。
 湯浅さんは、高度経済成長期の 「3つの傘がしぼむと、雨に濡れる人が増える」 という図を示しました。
 いちばん上の傘は国、2番目は企業、3番目は正社員の傘です。
 国は、企業に様々な助成金と税制度の優遇などをする一方、子育て・家族の扶養、住宅問題は企業・個人に委ねました。本来の国の責務である社会保障の多くを企業が担いました。
 企業は、男性正社員に扶養家族手当を支払います。妻を働かせないで子育てに専念させる代わりに夫に長時間労働 (2人分の労働) を強いました。そして社宅保障や住宅ローンの支援をしました。さらに福利厚生施設まで提供しました。だから正社員は企業に忠誠を誓います。そして子供のために教育費を蓄えます。しかしゆとりはありません。ローンに縛られ、企業の傘から追い出されると家族全員の衣食住が奪われる恐れがあります。
 妻は労働を奪われていました。働く場合は家計補助の理由で低賃金のパート、アルバイトなどでした。その収入には課税免除額が設定されました。
 その一方、傘から追い出された非正規労働者、母子家庭の女性労働者や日雇い労働者は、国や企業が正社員に行っていた保障を受けられずに生活を維持していかなければなりませんでした。子育てをしながらワーキングプアに追いやられました。
 親の経済格差が子供の教育格差を生み出しています。

 バブルがはじけるとそれぞれの傘が閉じられます。貧困は傘の外に追い出された人たちを襲います。
 男性非正規労働者が増大しました。男性は 「社縁」 が切れると 「地縁」 も切れます。そうなると 「血縁」 も切れることになったりします。互助組織から排除され、その結果が自殺に至ったりします。
 格差社会は、会社でも、地域でも 「隣りに人がいなくなる」 状況を作り出します。
 貧困問題は、隣りの人に思いを寄せる、その関係性を作っていく中から社会全体の問題として捉えかえして解決していく必要があります。


 本来なら2000年頃に第三次ベビーブームを迎えることが予想されましたが、2000年の出生数は130万人でした。
 2000年頃は、まさにバブル経済は崩壊したあとで、リストラの言葉が躍っていました。それに拍車をかけたのが行政改革、規制緩和です。その結果、非正規労働者が増加していきます。
 出生率は2003年には最低の1.26を記録しました。しかし政府は、晩婚化が進んでいるなどといって問題の本質を視ようとしませんでした。
 OECDが作成した2010年の各国の出生率をみると最低は韓国で1.2、続いて日本、イタリア、ドイツ、スペインが1.4前後です。この数字をもう1つの軸・女性就業率からみるとイタリア58%、韓国60%、スペイン63%、日本68%、ドイツ76%です。全体として出生率が低い国は女性就業率も低いです。そこからは女性労働者の働きづらさが浮かび上がってきます。繰り返しますがその裏には男性労働者の過酷な労働があります。
 それらは国家収入に大きな影響をおよぼしています。あわせて第一次ベビーブームの人たちの医療・介護等の問題が押し寄せてきています。

 バブル崩壊は、大量の失業者を生みだしました。しかしこれに対する政府の対応はさまざまな分野での規制緩和の推進でした。「ワーキングシエア」 などがいわれましたが実行には移されませんでした。社会に 「勝ち組」 と 「負け組」 を登場させ、さらにその 「格差」 は拡大しました。それでも政府は 「負け組」 に対して自己責任論を押しつけました。非正規労働者だった者たちは起ちあがるすべがありませんでした。 第三次ベビーブームが到来する条件は存在しませんでした。 
 このなかで政府が進めた政策が医療・介護等の社会保障の削減です。高齢になって自己責任、自助努力を強制されるなら国家が存在する意味はありません。


 フランスの社会学者セルジュ・ポーガムは時代や社会によって異なる貧困の 「かたち」 を分析するための枠組みを提唱しました。枠組みは 「統合された貧困」 「マージナルな貧困」 「降格する貧困」 という3つの基本的な貧困の形態です。
「『統合された貧困』 は、経済発展があまり進んでおらず、大部分の人びとが貧しいが、家族や地域の強い紐帯があるような貧困を指す。『マージナルな貧困』 は、経済発展が進むとともに、雇用の最低所得保障の制度が用意された社会で、少数となった貧困者を 『社会的不適応者』 とみなしてコントロールするもので、貧困や貧困者への負のレッテル貼り (スティグマ) が強くなる。『降格する貧困』 とは、ポスト工業社会において、労働市場の不安定さが全般的に増大し、それが増す状況を指す。
 『降格する貧困』 は 『安定した困窮状態』 ではなく、私なりに言い換えれば、『不安定が深化するプロセス』 であるとも考えられる。たとえば失業が所得の低下を生み、それが住宅や健康状態の悪化を招き、家族との援助関係も希薄になったりして、しゃかいのあらゆる場面への参加が困難になる、また扶助制度を利用すれば、自分が社会に役立っていないような感情をいだくようになる、といった一連のプロセスを含んでいるとポーガムは述べている。
 このプロセスは、個人の 『社会的信用の失墜』 が深まっていくプロセスであり、『降格』 の意味もそこにある。しかも、このような 『降格する貧困』 のプロセスに巻き込まれるのではないか、という不安が社会全体に拡大しており、その中から社会的排除や孤独の増大が進むというわけである。『マージナルな貧困』 に比べて、『転落』 の可能性が拡大しており、これに対する制度対応が必ずしも十分でないところに、両者の違いがある。」(岩田正美著 『貧困の戦後史 貧困の 「かたち」 はどう変わったか』 筑摩選書)
「『失われた20年』 に出現した日本の多様な貧困の 『かたち』 は、『降格する貧困』 で説明できる。非正規雇用の若者の増大、生活保護を利用する単身高齢者のとめどもない拡大、相対所得貧困率の高さなどは、『不安定が深化するプロセス』 の新たな始まりとして受け止められた。」(岩田正美著 『貧困の戦後史』)

「内閣府は2010年に『生活困難を抱える男女に関する検討会報告j』を発表しているが、その委員を務めた阿部彩は2007年の国民生活基礎調査データを用いて、性別や年齢別に相対的所得貧困率を算定している。これによれば、もっとも貧困率が高いのは、母子世帯の母親、母子世帯の子どもで、以下、女性高齢単身世帯、男子高齢単身世帯、働ける年齢の女性単身世帯、男性単身世帯の順になっている。つまり、子どもだけでなく、女性、単身者に貧困が集中しやすいことが示された。」(岩田正美著 『貧困の戦後史』)
 その結果として
「第一次(2003年)から第六次(2010年)までの虐待死ケースの検証結果を見ると、年齢は0歳児が多く、第一次から第四次までの合計の約四割を占めていた。これが第五次検証では約五割となり、第六次検証では約六割に上昇している(心中ケースは除く)。〇歳児の月齢は〇カ月が最も多く、第一次から第四次までは約4割であったが、第5次検証では約5割、第6次検証では6割を超え、これも増加している。」(岩田正美著 『貧困の戦後史』)
 このよう深刻な問題の分析と対策はもっと早くからとられなければなりませんでした。

 
 労働力不足がいちじるしい介護業界で合理化を進めるのは限界があります。実際に介護業界を支えているのは、低賃金の非正規労働者のフル稼働と “奉仕” の精神を強制したサービス残業などを含めた過重労働です。その結果、就業数も増えていますが、労災などを含めて離職率が高くなっています。
 介護労働者の処遇を改善するには、利用者の負担を大きくするか、公的支援の増額に頼るしか方法はありません。しかし利用者の負担増は排除を作りだします。

 日本生産性本部の「日本日の生産性の動向 2014年版」によると、OECD加盟国34カ国のなかの日本の労働生産性は20位です。1990年代後半から主要先進7カ国中最下位を維持しています。
 この4月6日、産業別の労働生産性について、欧米4カ国と比較、分析した結果を公表しました。
 米国の生産性水準を100とした場合、サービス業の平均は50.7%でした。このうち 「宿泊・飲食」 38.8、「卸売り・小売り」 31.5%でした。製造業の平均は67.4%でした。ドイツと比べても88.7%でした。
 この数値を改善させようとするのが 「働き方改革」 です。その方法はさらなる過重労働と数値のごまかしによってです。
 労働時間が長いと生産性は上がるということではありません。
 離職率が高い産業は、生産性も低いです。そこには理由があり悪循環になっています。例えば、「お客様は神様です」 の意識を強制し、「第三者からの暴力」 を容認するサービス業の職場では生産性は上がりません。
 労働者の人権・尊厳を大事にする職場に変えていたら生産性は確実に上がります。


 日本の政府はどの方向からも対策を取ろうとしません。悪循環の連鎖を断ち切ろうとしません。
 富める者だけが社会保障を享受できる社会から、産業構造を見直すなかから労働者が誇りをもって働ける状況を作り出し、共同体の力を強化をはかりながら、社会保障の負担についても連帯・共助の精神で負担する方向に転換しないと、この深刻な状況から脱出でず、実質労働生産性は低下し、経済の発展もありえません。

 「活動報告」 2013.1.12
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「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」 Ⅰ
2018/04/10(Tue)
 4月10日 (火)

 3月30日、厚生労働省は 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」 (報告書) を公表しました。検討会は、昨年3月28日に政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 に 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」 と盛り込まれたことによるものです。検討会は、昨年5月から今年3月まで10回開催されました。


 職場のいじめ対策については、2012年3月15日に 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」 が 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) を発表しました。日本で初めての職場 (労働者) のいじめ問題への取り組みでした。タイトルに 「予防」 とあるように問題が発生する前から 「なくしていく」 取り組みからはじめることの重要性が語られています。「職場のパワーハラスメントは、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに、職場環境を悪化させるものである」 からです。
 具体的には、職場の一人ひとりそれぞれの立場から取り組みとして、最初にトップマネジメントへの期待、続いて上司への期待、そして職場の一人ひとりへの期待、さらに政府や関係団体への期待が語られています。職場のパワーハラスメントは構造的に発生するという捉え方です。
 職場からパワーハラスメントをなくし、働く人の尊厳や人格が大切にされる社会を創っていくための第一歩として 「提言」 をもとに組織的に取り組み、そこで働く一人ひとりは自分たちの職場を見つめ直し、互いに話し合うことからはじめることを期待しています。
 そのうえで、職場のいじめ・パワーハラスメントの概念規定・定義を行い、続けて6つの 【職場のパワーハラスメントの行為類型】 を挙げています。
「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」
【職場のパワーハラスメントの行為類型 (典型的なものであり、すべてを網羅するものではないことに留意する必要がある)】
 ①暴行・傷害 (身体的な攻撃)
 ②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 (精神的な攻撃)
 ③隔離・仲間外し・無視 (人間関係からの切り離し)
 ④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 (過大な要求)
 ⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を
  与えないこと (過小な要求)
 ⑥私的なことに過度に立ち入ること (個の侵害)
 【予防・解決に向けた労使の7つの取組】 として円卓会議のもとに開催された 「ワーキング・グループ」 の報告では、考えられる労使の取組について、既に対策に取り組んでいる企業・労働組合の主な取組の例を7つ紹介しています。
 ○ 職場のパワーハラスメントを予防するために ⅰ トップのメッセージ、ⅱ ルールを決める、
  ⅲ 実態を把握する、ⅳ 教育する、ⅴ 周知する
 ○ 職場のパワーハラスメントを解決するために ⅵ 相談や解決の場を設置する、ⅶ  再発を防止する
 要約すると 「提言」 の位置づけは、提言を周知・情報提供することにより、企業等における自主的な取組を促すことです。
 しかし 「提言」 は対策の範囲を 「同じ職場で働く者に対して」 と限定し、顧客からなどいわゆる 「第三者からの暴力」 と 「差別」 の問題は除外されています。


 「提言」 から7年が経ち、再検討が必要にもなっていました。
 「検討会」 の目的は (1) 職場のパワーハラスメントの実態や課題の把握、(2) 職場のパワーハラスメント防止を強化するための方策、などについての検討をおこなうことでした。名称が円卓会議の 「職場のパワーハラスメントの予防・解決」 から 「職場のパワーハラスメント防止」 に変わりました。このことからも議論の性格が違っています。「最初にトップマネジメントへの期待・・・」 の流れが消えました。
 検討会の結論としての 「報告書」 には職場のパワーハラスメント防止策が盛り込まれています。法律に禁止項目を盛り込む防止法制定、事業主に職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の措置を義務付け、基本法、事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示などのいずれかになることが想定されていました。そのため、労働者側委員、使用者側委員の発言は 「かまえた」 ものとなり現状認識、どのような行為がパワーハラスメントに該当するかの判断、パワーハラスメントの定義などについてそれぞれの立場をふまえた主張を展開しました。「報告書」 から逆算した議論です。例えば、使用者側委員は、定義等は厳格、防止対象とする行為はできるだけ限定的、防止策は緩いものにという主張になり、労働者側委員はなるべく早くに実効性がある規制を主張します。
 結局、「報告書」 はそのようなことのまとめとして労働政策審議会と厚生労働省に下駄を預けるものになりました。


 「報告書」 を検討します。
 まず現状について述べています。
 都道府県労働局における職場のいじめ・嫌がらせに関する相談の状況から職場のパワーハラスメントは増加傾向にあるといいます。しかし必ずしもパワーハラスメントとは言えない事案もあるといいます。実際、労働局の相談内容分類はあいまいです。どれに該当させるか困難なときに人間関係・いじめ・嫌がらせに分類されることがあります。
 それよりも 「提言」 の発表後、職場で問題が発生したときに声があげやすくなったという効果があります。このことはもっと評価されていいことです。
 企業でいうならば、職場環境と生産性はリンクすることを自覚した企業は 「提言」 に関係なく自主的に取り組みを進めてきています。職場のパワーハラスメント予防対策の取り組みには企業の規模に関わらず、大きな 「格差」 が出てきている現実があります。
「必ずしもパワーハラスメントとは言えない事案もある」 は、使用者側・労働者側委員の 「どのような行為がパワーハラスメントに該当するかの判断、パワーハラスメントの定義などについての主張」 の相違からのものもあります。

 発生の要因については、行為者及び被害者となる労働者個人の問題によるものと、職場環境の問題によるものがあるとの意見が示されたと述べています。
「労働者個人の問題としては、パワーハラスメントの行為者については、感情をコントロールする能力やコミュニケーション能力の不足、精神論偏重や完璧主義等の固定的な価値観、世代間ギャップ等の多様性への理解の欠如等があるとの意見が示された。また、パワーハラスメントの受け手となる労働者についても、社会的ルールやマナーを欠いた言動が一部には見られることもあるのではないかとの意見が示された。
 また、職場環境の問題としては、労働者同士のコミュニケーションの希薄化やパワーハラスメントの行為者となる労働者に大きなプレッシャーやストレスをかける業績偏重の評価制度や長時間労働、不公平感を生み出す雇用形態、不適切な作業環境等が要因であるとの意見が示された。
 特に、労働者同士のコミュニケーションについては、例えば、非常に困難な業務を与えたとしても、その際に、当該業務をやり遂げることの意義について十分な説明をすれば、パワーハラスメントであると受け止められずにすむなど、パワーハラスメントの発生に関わる重要な要素であるという意見が多数示された。職場のパワーハラスメントを防止するためには、これらの要因を解消することも重要である。」
 文章構成において労働者個人が先にきて、職場環境の問題が後になっています。この構成は 「報告書」 の特徴で、職場のパワーハラスメントの捉え方からきています。「提言」 の 「職場の一人ひとりそれぞれの立場から取り組みとして、最初にトップマネジメントへの期待・・・職場のパワーハラスメントは構造的に発生するという捉え方」 とは違っています。職場のパワーハラスメントは構造的に発生するという捉え方が消え、労働者の 「自己責任」 が大きく登場してきました。企業の対応が免罪されます。このようなことから相談案件数が減少したとしても改善されたということにはなりません。労働者はそのなかで就労を続けることになります。
 そのような傾向が厚労省の 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」 における 「何もしなかった」 と回答した割合40.9%、その理由として 「何をしても解決にならないと思ったから」、「職務上不利益が生じると思ったから」 と回答した要因につながっています。企業がパワーハラスメント対策を進めようとするなら、労働者にこのような意識を克服、改善させるために、なおさら構造的に発生するという捉え方が必要です。

 「自己責任」 の捉え方は、職場でパワーハラスメントが発生しても問題の本質がえぐられず、かえって企業の対応の困難さに繋がっていきます。
「具体的には、相談に来た被害者が一方的な主張をしており、被害者にも非があるのではないかと思われるケースや、調査の結果、被害を主張していた労働者が反対にパワーハラスメントの行為者であったことが発覚したケース、また、客観的にはパワーハラスメントではなかったにもかかわらず行為者とされて退職した者が、企業に責任を追及したケース等、様々な事案について示された。
 また、企業内の相談窓口に寄せられた相談のほとんどが、何らかの感情の動きをパワーハラスメントという言葉に置き換えた相談であり、本当にパワーハラスメントに該当すると思われる相談は全体の1割弱であったという意見も示された。こうした状況を含め、パワーハラスメントの被害が訴えられた際の事実関係の確認が難しく、被害者がメンタルヘルスに不調を来している場合や同僚等の第三者が行為者との関係性から萎縮してしまう場合等になかなか必要な証言が得られないことや、噂の流布等の場合には行為者を特定できないことが課題として示された。行為者と被害を訴える相談者の人間関係、地位、業務の状況等が千差万別であることから、パワーハラスメントに該当するか否かの判断が難しいとの意見も示された。」
 職場の労働者が、パワーハラスメントかどうかはさておくとしても、周囲や会社に何らかの訴えをしているという事実、労働者が精神的に自己を失いかけている状態に追いこまれているという状況が捨象されています。そこではすでに問題が発生しているのです。そのことを捉えようとしないと労働者の行為が特異に映ってしまい、再発や職場で別の問題が発生する事態が続くことになります。
 労働者への自己責任の押し付けは企業の責任転嫁です。

 「提言」 のパワーハラスメントの定義は 「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」 です。
 これに対して、以下の①から③までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理しました。
【職場のパワーハラスメントの要素】
 ①優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われること
 ②業務の適正な範囲を超えて行われること
 ③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
 さらに、パワーハラスメントに該当するか否かを判断するためのそれぞれの要素の具体的な内容について整理しました。
 ①優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われることについて
 「当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われること」 を意味する 「優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われること」 とすることが考えられる。
 この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・職務上の地位が上位の者による行為
 ・同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有し
  ており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
 ・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
 ②業務の適正な範囲を超えて行われることについて
 「社会通念に照らし、当該行為 が明らかに業務上の必要性がない、又はその態様が相当でないものであること」 を意味する 「業務の適正な範囲を超えて行われること」 とすることが考えられる。
 この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・業務上明らかに必要性のない行為
 ・業務の目的を大きく逸脱した行為
 ・業務を遂行するための手段として不適当な行為
 ・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして 許容される
  範囲を超える行為
 ③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は就業環境を害すること
 「当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」 を意味する「身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は就業環境を害すること」 とすることが考えられる。
 また、この時の 「身体的若しくは精神的な苦痛を与える」 又は 「就業環境を害する」 の判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」 を基準とすることが考えられる。この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・暴力により傷害を負わせる行為
 ・著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
 ・何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感 じさせる行為
 ・長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を 低下させる行為
 しかし、解釈を厳格にするということは、問題が発生した時の解決において 「幅」 ・ゆとり、裁量が狭められるということになっていきます。

 「提言」 の 【職場のパワーハラスメントの6つの行為類型】 を検討しています。
 既にパワーハラスメント対策に取り組んでいる企業のこれまでの取組が意味のないものにならないようにするため、大きく変えない方が良いという意見が示され、他に行為類型として追加すべきものも特段挙げられませんでした。
 それを踏まえながら6つ行為類型のうち、【職場のパワーハラスメントの要素】 の3つの要素を満たすものを職場のパワーハラスメントに当たる行為として整理されました。行為の態様が、6つの行為類型に該当しそうな行為であっても、3つの要素のいずれかを欠く場合であれば、職場のパワーハラスメントには当たらない場合があることに留意する必要があることになります。そのうえで3つの要素を満たすと考えられるものとそうでないものの例が新たに示されました。
 そもそも、「提言」 の 【6つの行為類型】 に ①暴行・傷害 (身体的な攻撃)、② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 (精神的な攻撃) などの暴力行為が職場のパワーハラスメントとして挙げられること自体が現状の深刻さを物語っています。

 また別の章では
 ➃ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 (過大な要求)
 ⑤ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を
  与えないこと (過小な要求)
について、
「➃ら⑤までについては、業務上の適正な指導との線引きが必ずしも容易でない場合があると考えられるとされている。
 その上で、こうした行為について何が 『業務の適正な範囲を超える』 かについては、業種や企業文化の影響を受け、また、具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分もあると考えられるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望ましいとされている。」
と述べています。職場のパワーハラスメントの基準は業種や企業によって異なるということになります。そうでしょうか。このような判断は他のところにおいてもダブルスタンダードを登場させ容認することになっていきます。

 ちなみに、他に行為類型として追加すべきものも特段挙げられませんでしたとありますが、労働政策研究・研修機構が2015年発6月に発表した報告書 「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態 -個別労働紛争解決制度における2011年度のあっせん事案を対象に-」 は、6類型では括れない事案が63件あり 「7経済的な攻撃」 (重複計上) があらたに取り上げています。中分類すると 「1.経済的不利益を与えること」 の行為数43件、「2.労働者の権利を行使させないこと」 の行為数20件となります。さらに小分類では 「1.経済的不利益を与えること」 は 「1.経済的な不利益・制裁」 行為数14件、「2.不当な評価 (降格等)」 7件、「3.成果の取り上げ・成果をあげる機会の取り上げ」 5件、「4.事実上の解雇となる雇用の終了」 9件、「5.労働日・労働時間の短縮、残業禁止命令」 8件です。「2.労働者の権利を行使させないこと」 は 「6.権利の剥奪」 12件、「7.権利に関わる問い合わせに応じないこと」 8件です。
 最近の労働相談においては、PIPなどの 「7経済的な攻撃」 の相談が急激に増えています。
                                 (つづく)
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「職場のハラスメント防止の法制化を」
2018/03/09(Fri)
3月9日 (金)

 3月2日、参議院会館において全国労働安全衛生センター連絡会議や職場のモラル・ハラスメントをなくす会、いじめメンタルヘルス労働者支援センターが呼びかけた 「職場のハラスメント防止の法制化を!! ~誰もがハラスメントを受けずに安心して働ける職場へ~」 集会が開催されました。
 国会議員や秘書、労働組合や運動団体など約100人が参加しました。
 厚生労働省からの 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」 の経過報告に続いて大和田敢太滋賀大学名誉教授が 「今こそ、ハラスメント規制立法の制定を ハラスメント絶滅なくして、『働き方改革』は不可能」 のテーマで講演しました。その後、各団体からの体験をまじえた報告をうけました。
 大和田敢太滋賀大学名誉教授の講演です。

        ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 2002年にフランスで大規模な労働法改正が行われました。その時に 「モラルハラスメント」 の規定がおこなわれ、労働法と刑法に使用者や実行者への処罰規定や防止規定を導入した制度ができました。
 そのことから、セクシャルハラスメントについては以前からありましたが、ヨーロッパを中心にさまざまな国で立法化が進みました。これが一連の現状です。国際的状況について、特にEUを中心に資料を作成しました。
 当時、日本にはモラルハラスメントの言葉はなかったので、私は 「精神的ハラスメント」 と表現し、日本のいじめ問題をハラスメントと位置付けて発言をはじめました。それから16年を経て防止法制定について一堂に会して議論することになりました。当事者の皆さんがいろんな形で声を上げてきたことが大きいと思います。 
 
 今年6月にフランスで、1年おきにおこなわれる国際ハラスメント学会が開催されます。それにあわせて国際的なハラスメント防止対策やハラスメントについて紹介している論文集を出版しようという呼びかけがありました。8カ国くらいを対象にそれぞれの立法はどうなっているかの作業を進めています。
 編集者は、日本の法律の状況を説明してほしいと要請してきました。セクハラについてはあるが法律はないと現状をはなしたらびっくりしていました。

 厚労省が2012年に発表した 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 は、当事者にガイドラインを示して自主的な解決を促すという内容です。個別企業にハラスメントを起こすなというだけでは不十分です。社会全体でのハラスメントは絶対に起こしてはいけないという合意、実現を提案していく、そのなかで個別企業もそれを前提としたハラスメント対策をおこなうということが必要です。なぜならハラスメントは構造的な要因から生じるからです。
 ベルギー政府の報告書には、ハラスメントはたまたま加害者の邪悪な心から起きる問題ではなくて、企業経営上の構造的な問題であり経営的な課題だとあります。
 「職場における暴力・ハラスメント」 は過労死と置き換えることもできます。過労死は社会的認識として企業経営上のさまざまな問題や構造的要因があるということで過労死防止対策法の立法規制はおこなわれてきています。同じように長時間労働や過労死・自殺とハラスメントの関係を考えると企業経営上の様々な問題や現在の社会状況に起因する構造的な問題だといえます。このように国際的な教訓として認識されるようになってきています。
 職場のアセスメントではないですが、ネルソン・マンデラは、南アフリカのアパルトヘイトという異常な暴力の中で迫害を受けましたが、最後はそれを克服して大統領となり、ノーベル平和賞を受賞しました。その教訓を世界保健機構の会議で、社会と政府・国家が暴力をなくすために努力することが必要だといっていました。

 労働者の健康とハラスメントをなくすためには、同じように社会全体の合意、そして国家が立法によって制度を作ることが今でこそ必要です。立法化は世界の常識です。
 なぜ、日本で立法化が必要なのでしょうか。1つは、この間、過労死事件が蔓延し、大企業の名前がたくさん登場しています。これらの原因としてハラスメントが横行しています。この状況はたまたま個別企業における特別の事由ではありません。いまの日本社会における働き方の問題、企業経営上の問題などさまざまな原因から発生しています。ですから社会的に規制することが必要です。経営的問題ということでは、EUではさまざまな統計を出しています。ハラスメントによって経済的生産性は1%から10%減少しています。それを克服すれば、企業の経済情勢は数字の上でも向上することになります。

 2つ目は、働き方改革の項目にはハラスメントも入っています。しかし今準備されている法案にはなぜか抜けています。本当の意味の働き方改革や自殺対策を進めるためには、ハラスメント対策を実効性あるものにする必要があります。
 最近、大企業のメーカーで製品の安全性の手抜き、検査偽装の問題が出ています。安全性軽視です。
 ハラスメントのなかに内部告発報復ハラスメントがあります。職場の労働者は何が安全対策かということについてはみな知っているはずです。しかし声を上げようとするとハラスメントに遭います。内部告発すると逆に配置転換されるとかのいろいろな不利益がおよんできます。公益通報者保護法はありますが要件は非常に厳しいです。そのため労働者は企業現場でさまざまな問題があっても報復を恐れてできないところに大企業における製品の安全性の手抜きの温床があるとおもいます。
 労働者が声を上げてもハラスメントされないという安心感を制度として保障すれば、現場で解決される問題は多いと思います。

 3つ目は、被害者を援助する社会的合意と制度が必要です。
 現在の国際的問題として、セクハラ被害をうけたハリウッドの女優が 「MeToo」 と声を上げています。個人的被害、あるいは有名税で仕方がないと思い込んで長い間あきらめていたのでしょう。しかし被害者がハラスメントと訴えて声を上げています。
 最近日本でもさまざまなハラスメントが30種類くらいあるといわれています。従来は個人的問題、自分の方に問題があったのではないかとあきらめていました。しかし人格や労働条件を劣悪化する、人格や権利を侵害するハラスメントであることが明らかになってきたことで訴えが広がっています。
 今のように法律がない状況では、労働者は被害を受けても安心して訴えることができません。それを援助する方向での社会的合意と制度が必要です。           

 厚労省の検討会においては、原点にさかのぼって、パワハラの根本的な対策としての法制化を検討する必要があります。
 パワハラについて狭い定義ではなく、包括的な定義が必要です。なぜならハラスメントは重複します。いろいろな経過があるなかで、例えば、セクハラと他のハラスメントが併合しているということがあります。
 外国では 「偽装ハラスメント」 が問題になっています。セクシャルハラスメントの被害者がセクハラだと訴えるのは勇気がいります。フランスでは、モラルハラスメントとして訴えられていても、裁判官は訴えられた内容について本当にそうなのか、もっと根本的なハラスメントが内在していないかをしっかりと見なければならないという判例があります。被害者はモラルハラスメントを訴えていても、実際のハラスメントは何かということを丁寧に検証する必要があるといっています。
 例えば、外国人や障碍者がハラスメントに、女性がセクハラにあった場合にどういうハラスメントとして訴えたたらいいのかという問題です。厚労省の解説書では、パワハラとセクハラが重なった場合は、セクハラで判断すると説明があります。セクハラは男女 機会均等法で法律的根拠があるためかもしれません。
 しかし細分化された定義だとその点に合致するかどうかは被害者が自分で立証する必要があります。しかもいろいろなハラスメントが重複した場合に、十分な保障がうけられません。厚労省の相談窓口も組織替えされて1つになりましたがまだまだセクハラとパワハラは別々です。総合的な相談窓口が必要です。

 そういう意味で、私の起案したパワハラの試案の定義は 「精神的・肉体的な影響を与える言動 (嫌がらせ行為) や措置や業務 (長時間労働・過重労働) によって、人格や尊厳を侵害し、労働条件を劣悪化しあるいは労働環境を棄損する目的・効果を有する行為や事実」 です。結果重視で意図は不必要です。
 昨年11月、最高裁は強制わいせつ罪の判決を出しました。わいせつ罪が成立するためには、加害者がわいせつ行為をするという意図は不必要で、結果を重視すべきとして認めています。
 ハラスメントは、加害者の目的や主観的立場を前提にすべきではなく、被害者の人格を侵害したり、職場環境を悪化させたという結果を重視して認めています。
 教育現場では「指導死」がいわれています。学校の教師が児童・生徒にクラブ活動などで指導といって無理難題を押し付けたことで自殺などに至った時は、いくら内容が指導であっても正当化・合理化されません。
 ところが企業社会では社員研修・教育の名がつくと何でも許されます。特に新入社員に仕事をおぼえさせるという名目で教育や訓練が行われています。その中で新入社員が不慣れな、あまり得意ではない業務にもどんどん業務が与えられ、オーバーワークになって過労死したという例もあります。ですから、厚労省の検討会においては、意図は不必要で結果を重視すべきであることを検証し、議論してほしいと思います。
 
 パワハラには外部からのハラスメントもあります。「お客様は神様です」 と消費者には逆らってはいけないというマニュアルが一部にあります。小売業者の顧客、あるいは鉄道の乗客、医療関係も患者からの暴力はかなりひどいです。従業員の尊厳と権利を守るようなために、このような問題もきちんとハラスメントのなかに取り込むことが必要です。
 定義で要件を厳しくすると、合致するかの立証責任は被害者が負いますが、被害者は普通法律の専門家ではないので立証は困難です。被害者が二の足を踏まないようにする必要があります。被害者が訴えられないのは第二次ハラスメントといってもいいです。
 被害者がハラスメントを訴えたことに対して、それがハラスメントではないという反証責任は加害者と名指しされた人、あるいは経営者・企業にあるというシステムに転換をはかるべきです。
 
 個別企業だけでハラスメントをなくす対策だけではハラスメントはなくなりません。社会全体でハラスメントがない社会をつくりあげるという大きな合意をつくるという方向で議論を進めることが必要です。

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ストレスチェック制度                     科学的根拠があることが任意で、効果がないことが義務
2018/03/02(Fri)
 3月2日 (金)

 2015年12月に労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度が実施されてから2年が経過しました。(2月 日の活動報告)
 ではその効果はどうでしょうか。昨年12月21日の毎日新聞に 「多くの企業で、高ストレスと評価されても医師面接に手をあげるひとが少ないことが課題になっている」 の記事が載りました。現場では労使とも戸惑いが出ています。
 そこで、全国労働安全衛生センター連絡会議は、2月27日、記事を書いた毎日新聞の稲田佳代記者をおよびして 「立ち止まってとらえ返してみよう! ストレスチェック制度 実施から2年」 のタイトルでもっと詳しく話を伺いながら参加者と意見交換をおこなう会合を開催しました。その報告です。

 昨年から毎日新聞で 「健康狂想曲」 を連載しています。最近は 「健康になれ」 の圧力が強いのではないかという認識から始まりました。介護保険も自立支援をさせると報酬をあげるというふうに80代、90代になっても筋トレをして元気になれというようなことをいっています。そのなかで働いている人のメンタルヘルスの現状を知りたいと思った時に浮かんだテーマがストレスチェックとは、何の意味があるのかということを調べてみたいと思いました。

 ストレスチェックの現状については、17年7月に厚労省が初めて実施状況調査の結果を公表しました。きちんと実施した企業が82.9%、その企業で受検した人が78.0%です。そうすると6割ちょっとの労働者しか受検していません。大企業は進んでいますが中小企業は遅れが目立ちます。また職種によって受検率に差があります。アパレルなど業種が小規模で散らばっているところはやりにくいという話を聞きましてた。

 取材で思ったのは、普通の社員に制度の知識がほとんどなく、受検したら何になるかわかっていません。中堅くらいの企業で、管理職を含めてだれかわかる人いますかと質問したら皆わかっていませんでした。「情報について本人の同意なしに会社に公表されることはない」 ことを知っていますかときいたら、「えっそうなの」 という返事でした。「そもそもうちは人事部なくて総務部の人が担当だけど、みんなの前で、あんた受検してないでしょう。ちゃんと受けてよ」 といわれた、高ストレスだといったら、みんなの前でフランクに医師面接を受けろといわれたということです。
 大企業はきちんと実施しているという印象がありますが、中小企業はラフな感じで進んでいます。

 ストレスチェックを請負っている企業をいくつか取材しました。共通していっていたのは、高ストレスと診断されたけれど、医師面接を希望する人はすごく少ないということです。厚労省の調査では従業員全体の0.6%です。東大の川上憲人教授の研究ではそのうちの1~10%ではないか、代々木病院の天笠医師を取材したら、感覚では1%くらいだということでした。本当にごく少数の人しか受診していません。
 この数字が多いのか、少ないのか取材していると、もともとストレスチェックのような仕組みを導入していた企業の方のはなしでは、導入前後でがっくり下がったということでした。今までならこれくらい受けるという数字には全然及びません。
 なぜなんですかと質問したら、会社に申し出るという仕組みが一番厳しいのではないかということでした。一般社員は産業保健スタッフと会社を分けて考えていたというのに驚きました。会社に知られずに産業保健スタッフだけに話せていたのが、今はすぐに会社に知られることになるのが嫌だという声が多かったです。

 制度の趣旨のはなしをする時に、みなメンタルヘルス不調者を出さないための一次予防の目的だといいますが、二次予防のスクリーニングされるのではないかと捉えている人が多いです。実際に、法律上の厳重な個人情報保護の仕組みが機能しないでそのような運用をしているところもあるのかもしれません。
 一部企業では会社に知られたくない人のために、個別に高ストレス者を把握して声をかけて、医師面接でなくていいから産業保健スタッフに会いにこないかと声をかけてカバーすることによって、制度導入前と同じような相談数を維持できているところもありました。一般の健康相談窓口を 「セーフティーネット」 として活用しています。

 帝京大学に取材したときに、そもそも科学的根拠がないということを制度導入のときからずっといわれている、導入に関わった川上教授はそういっていたということを聞きました。
 一次予防としてストレスチェックをして、結果を本人に返して自分のメンタルを整えてくださいというのはほとんど効果がないということがいわれています。実際に、川上教授らの制度が始まってからの厚労省科研での研究があります。ここでも返すだけでは意味がない、労働生産性の向上の効果もないといっています。ただ職場改善につながれば一定程度効果があるのではないかということを話していました。
 取材をしながら一番疑問だったのは、科学的根拠がある部分が任意で、効果がないといわれている自己責任のセルフケアとしての結果返却と医師面接が義務になっている制度の矛盾は何なのだろうかということです。
 制度上は、この制度では一回限りの医師面接をして意見書を書いたら一応終わりです。医師面接をしているのも会社の産業医ではなく外部の割合が多いです。ある産業医に取材した時に、その会社の産業医に繋げるという仕組みがあるといいが、そうではないので医師面接の効果にも疑問があるといっていました。

 とはいってもストレスチェックを導入した効果があると思われる部分もあります。メンタルヘルス対策に後ろ向きの企業もやらざるを得ない状況になっています。ただ導入の15年12月から1年は、みなやることに必死で、やっておしまいでした。2年目になってようやく、これだけお金をかけているんだから、平均金額は50万円だったと思いますが、何かに還元しないと意味がないと考えるようになってきています。実施企業の担当者のなかには、それをうまく労働者の職場改善になるために変えていけたらいいなと思っている方もいて、企業の管理部門や経営層にそうなるように促がしいているといっていました。
 企業内で産業スタッフの方は立場が弱いといっていました。それがストレスチェックを機に経営側の会議の場で、説明をしてこういうことをやった方がいいですよといえるチャンスをもらえるようになったことは大きいといっていました。

 労働安全衛生調査で順調に増えてきていた 「何らかのメンタルヘルス対策をしている企業」 がなぜか減少しています。2013年60.7%、15年59.7%、16年56.6%です。ストレスチェックを含めたメンタル対策なのに減少した理由は何なのか気になっていています。

    米 労働安全衛生調査 (実態調査) は、 事業所が行っている安全衛生管理、労働災害防
    止活動及び安全衛生教育の実施状況等の実態並びにそこで働く労働者の仕事や職業生
    活における不安やストレス、受動喫煙等の実態について把握し、労働安全衛生行政施を
    推進するための基礎資料とすることを目的としている。

 ストレスチェックを問題にしていましたが、大手企業では大分前から経営側のやり方としてロイヤルティーを測るサーベイを実施しています。職場の環境はどうですか、上司に相談しやすいですなどを聞かれています。ストレスチェックで把握できなくても会社はこれで職場を特定して把握できるということを話していました。
 ストレスチェックをしても、今増えているパワハラ対策には全然効果がないという話を聞いたので調べたら、パワハラ相談が増えています。ある企業ではパワハラをする側、される側の意識が変わってきているのではないかという話をしていました。

 労働相談を受けている知人にストレスチェックの相談がないかと聞いてみたら、不利益な取り扱いを受けた事例は見当たらない、関連する相談は1つもないといわれました。
 労働問題を担当している弁護士に聞いたら、逆の例が1件あるといわれました。パワハラでうつに追い込まれたと訴えた人が、その上司がきてから自分のストレスチェックの結果がこんなに悪くなったという原因変化を証明するものとして裁判所に証拠資料として出したということです。まだ認められるかどうかわかりませんが。ストレスチェックが悪用されるといわれていますが、それを逆手に取った例です。
 川上教授の研究では、受検者の約2割が不利益取り扱いを受けたと感じたと報告しています。もっと見ると、高ストレス者で医師面接を受けた人の場合は8~9%近いです。川上教授は、実際に不利益な扱いを受けた内容までは精査していないので何ともいえないと語っていますが、この数字は気になります。この人たちはどこかに相談しているのか、していないのか、この後もっと出てくるのか注目する必要があります。


 意見と討論
A 私が産業医をしているところは労働組合の推薦などのバイアスがかかっていて、そんなにひどい職場はりません。ストレスチェックの実施率も100くらいです。
 問題の1つは、現場の人たちはみんな分かっていないです。事前に安全衛生委員会や全職員を対象に説明をしたりするとやっとそこで 「へえ」 という感じです。
 健康診断と一緒に、前からの健康診断の時に同じ項目で問診をしています。職員は同じだと捉えていますし、それがそのままきています。
 分析結果を指摘しても会社はわかっていますといいますが積極的にはやっていません。。ではどう改善するかはストレスチェックからは回答はでません。その辺は現場の労働組合なり安全衛生委員会でしっかりやっていかなければなりません。よくなったらどういう要因なのかを議論する必要があります。現場の取り組みがしっかりしていていれば使えます。
 ただ、組合の人たちも関心ないです。やっと安全衛生委員会で話をすると議論になります。
 高ストレス者の面談もしていますが、私が産業医として面談するところと外部でするところがありますが、私の面談はゼロです。
 もともと産業医で健康相談をしていて、きていいよといっています。その健康相談はプライバシーを守るために誰が行ったかわからないようにしていました。今度はストレスチェックのデーターを出してお願いしますということですのでわかってしまいます。
 
稲田 ほとんどの会社は集団分析して返しても何ですかこれという感じでした。やはりそこをプロがいろいろ紹介して、厚労省が出している職場改善もあるので、すごく個別性が高いので、それをどれだけ蓄積して共有していくかが結構重要ですよねという話をしていました。

B 2年連続で、自治労の全国集会でストレスチェックの話がされていますが、やった実績を見せてくれるところが少ないのと、外に出したくない。
 工夫しているなと思えたのは神奈川の高等学校です。ストレスチェックと残業時間をクロスさせています。学校別・職種別でチェックできるようになっています。そうしたら、残業時間が長いとストレスになるというのがわかります。この方が普段のよりも議論がしやすいです。結果は学校単位で返します。その後の議論がどうか聞きたいと思いました。
 集団分析のもともとのデータに全国平均があります。ただあれを全国平均と思ってはダメです。今回は法律で行なったのだから新たに作ったらいいです。
 調査で59項目以外の項目を盛り込んだ場合は注意しなければならない。新しい項目が加わった時は、振るい分けの項目がはいったりするから。
 検診とストレスチェックは同時にするのはよくないとなっています。

A 去年ある教育委員会でやったのには新しい項目がはいっていました。「ワーキングウェッジ」 が。教員は、長時間労働などいろいろありストレスが高いんだけど、「やりがい」 などがあるので全体の健康度はよくなりごまかされますます。そこに重みをつけたら危険なことです。

B 分析を目的にするなら無記名でやって自分たちで加工できるようにした方がいい。記名にすることで守秘義務がかかってしまう。そうすると自分たちでいじれなくなる。

C 制度は自殺者3万人のなかで自殺対策として始まりました。 当時は民主党政権だったけど、厚生労働省が振られました。長妻厚労大臣が苦肉の策として作ったものとしか思えません。定期検診のなかにチェックを行うことになりました。労働組合はほとんど働く者の健康管理においてストレスチェックは悪いことではないと。この制度の本質的な問題への批判・反対の声はなくて オーケーということだった。
 ただこれまでの健康診断も、健康に関する情報は、企業が実施するわけなので、それを制度化する中では活用したいというのは当然のこと。それが差別や選別につながる危険性をわれわれは考えて反対の論陣を張ってきました。
 ただ、いい悪いは別として、小さな企業だと制度化されたらやらなければならない。
 健康診断の実施に企業もビジネスチャンスということになるのでいろいろ売り込みをしたりということもあって何とか1回目はとりあえずやりましたということになっていますが、2回目になってどうなるのか。

B 研究者は海外で、日本ではこういうのをやっていますとははずかしいことでとてもいえない。
 日本では、健康診断項目を増やすのはいいことだという傾向があります。法律で決められていない項目を本人の同意なしにやっています。健康のためならいいことだという風潮がある。
 海外に行ってこんなことを個人に義務付けているといったら、労働者は馬鹿だけど、カネかける使用者はもっと馬鹿だといって笑われます。
 少なくても医師の診断の受診率は目標を立てない方がいい。
 長時間労働にたいする医師の診断がうまくいっていません。そのなかでストレスチェック制度がうまくいくはずがないです。
 労働安全衛生の原則は国際的にかなり確立されています。危険の要因となるものを洗い出して、アセスメントして継続的に対処するということです。だから新しい課題、ハラスメントなどがでてくるときに、これが安全衛生の課題かどうかではなくて、対策の原則は一緒だから、その通りです。今ILOが出している暴力・ハラスメントの報告書にも条約・勧告案が書いてあるけどその通りです。「暴力は許さない」というトップの方針を鮮明にし、リスクアセスメントを強いるのが対策です。これはずべていっしょで、海外に通用するのはそのアプローチだけです。リスクアセスメントのツールとして無記名のアンケートがありうるかもしれないけど、個人の問題として挙げる段階で、なんでそのようなものが通用する社会なのかということが。

    「活動報告」 2018.2.5
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