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“働きかた改革” の目的は労働生産性向上
2017/06/30(Fri)
 6月30日 (金)

 昨年の春、政府は政策に 「同一労働同一賃金」 を掲げました。
 6月16日、労働政策審議会は厚生大臣に 「同一労働同一賃金に関する法整備について」 建議しました。このあと国会に法改正案が上程されます。
 基本的考え方は、「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間には賃金、福利厚生、教育訓練などの面で待遇格差があるが、こうした格差は、若い世代の結婚・出産への影響により少子化の一要因となるとともに、ひとり親家庭の貧困の要因となる等、将来にわたり社会全体へ影響を及ぼすに至っている。また、労働力人口が減少する中、能力開発機会の乏しい非正規雇用労働者が増加することは、労働生産性向上の隘路ともなりかねない。」 などを指摘しています。
 それを克服するために
「賃金等の待遇は、労使によって決定されることが基本である。しかしながら同時に、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の是正を進めなければならない。このためには、
(1) 正規雇用労働者・非正規雇用労働者両方の賃金決定基準・ルールを明確化、
(2) 職務内容・能力等と賃金等の待遇の水準の関係性の明確化を図るとともに、
(3) 教育訓練機会の均等・均衡を促進することにより、一人ひとりの生産性向上を図るという観点が重要である。
 また、これを受けて、以下の考え方を法へ明記していくことが適当である。
・雇用形態にかかわらない公正な評価に基づいて待遇が決定されるべきであること
・それにより、多様な働き方の選択が可能となるとともに、非正規雇用労働者の意欲・能力が向上し、
 労働生産性の向上につながり、ひいては企業や経済・社会の発展に寄与するものであること」
と建議します。
 具体的には 「不合理な待遇差の実効ある是正のため、昨年末に政府が提示した『同一労働同一賃金ガイドライン (案)』 について」実効性を担保していくといいます。

 政府が掲げる “働きかた改革” を貫徹しているのは 「非正規雇用労働者の意欲・能力が向上し、労働生産性の向上につながり、ひいては企業や経済・社会の発展に寄与するものであること」 です。“働かせ方改革” です。労働者の過酷な労働実態や生活格差を改善が目的ではありません。
 「賃金等の待遇は、労使によって決定されることが基本」 です。
 力関係から使用者が “自主的” に決める賃金に対する不信から 「正規雇用労働者・非正規雇用労働者両方の賃金決定基準・ルールを明確化」 のために最低賃金制は始まりました。最低賃金は何を基準にするかはそれぞれの国で違っています。一般賃金に比べて不当に低くない、労働の質と量とがちがえばその違いに相応しい 「公正賃金」 や、生活できる金額の 「生活賃金」 がありますが、少なくても労働者の生活確保・維持を目的としています。労働者が提供する労働力は商品とちがいストックできません。しかし労働者は定期的休息が必要です。そのためには、賃金は休息中にたいする補償も必要で、それによって労働力が回復できます。
 しかし実態としての非正規労働者の賃金決定は、会社が募集した時に労働者が応募し、離職しない額です。日本の最低賃金は 「公正賃金」 や 「生活賃金」 からも程遠いものです。そこに非正規労働者は存在させられています。
 非正規労働者の賃金を低く固定して労働生産性を高めてきたのがこれまでのやり方でした。その恩恵を受けてきたのが会社と正規労働者です。会社は他社との競争に勝ってきました。正規労働者は非正規労働者を犠牲にして雇用を守り、賃金を上昇させてきました。そのことをかえりみることはありません。
 労働生産性を高めるためには同じ職場にいる非正規労働者の尊厳を高めるために処遇を改善し、そのことによって意欲・能力が向上するという認識と手順が必要です。そのことが結果的に 「企業や経済・社会の発展に寄与する」 ことになります。


 労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備についてです。
「現行法においては、正規雇用労働者と短時間労働者・有期契約労働者との間の待遇差については、①職務内容 (業務内容・責任の程度) ②職務内容・配置の変更範囲 (いわゆる 「人材活用の仕組み」) ③その他の事情の3つの考慮要素を考慮して不合理と認められるものであってはならないとされている」。
 パートタイム労働法第8条と労働契約法第20条に謳われている 「均衡待遇規定」 です。
 しかし 「現行法の規定は、正規雇用労働者と短時間労働者・有期契約労働者との間における個々の待遇の違いと、3考慮要素との関係性が必ずしも明確でない」 実態があることを認めます。
「こうした課題を踏まえ、待遇差が不合理と認められるか否かの判断は、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に対応する考慮要素で判断されるべき旨を明確化することが適当である。」 と建議します。そして考慮要素としては 「③その他の事情の解釈による範囲が大きくなっている。」 といいます。
 具体的には 「考慮要素として 『職務の成果』 『能力』 『経験』 を例示として明記することが適当である。また、労使交渉の経緯等が 個別事案の事情に応じて含まれうることを明確化するなど、『その他の事情』 の範囲が逆に狭く解されることのないよう留意が必要である。」 と建議します。このことはすでにパートタイム労働法第10条に 「職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案し、その賃金 (通勤手当、退職手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。) を決定するように努めるものとする」 と謳われていると説明します。「成果」 「意欲」 「能力」 「経験」 から待遇差は生じうるということです。「均等待遇規定」 と 「均衡待遇規定」 もちがいます。
 そして、現行法において 「均等待遇規定」 は、短時間労働者についてのみ規定されていたが有期契約労働者についても対象とすることが適当であるとします。
 比較対象となるのは 「同一の使用者に雇用される正規雇用労働者」 が適当であるとしています。

 “働き方改革” は、同じ非正規労働者同士に 「成果」 「意欲」 「能力」 「経験」 でによって競争をあおり、賃金格差をおこなってかまわないということです。
 労働者と労働組合は 「均等待遇」 について質問、主張したりすると 「成果」 「意欲」 「能力」 「経験」 で切り返されることもありえます。労働組合と労働者はこれらについて評価基準をはっきり設定することを要求する必要があります。
 そもそも 「成果」 「能力」 などはなにをどう評価するかについては労使にとっては現在に至るも課題になっています。それをいとも簡単に明記するということは、“賃金を上げてほしかったら言われたとおりにしろ” “とにかく実績をあげろ” ということになりかねません。自己責任論です。
 今、経済界からは雇用の流動化が必要だと叫ばれています。即戦力を得やすくするためです。企業が不要と判断した労働力を排除し、必要な労働力に切り換えることを容易にすることです。それは 「解雇の金銭解決制度」 の提案と一体のものです。ここでも労働生産性だけから議論が行なわれています。
 労働者にはそれぞれ得意業務、こなすことができる業務、挑戦してみなとわからない業務、不得手な業務があります。得意分野・専門分野を簡単に変更することはできません。日本の終身雇用は、挑戦してみなとわからない業務も時間をかけて経験させて得意分野になることを期待してきました。そのような政策が必然的に 「労働者の意欲・能力が向上し、労働生産性の向上につなが」 っていきました。そして雇用の安定は 「ひいては企業や経済・社会の発展に寄与」 してきました。
 しかし 「成果」 「能力」 を強制することは労働者間に競争を激化させ、不要と判断した労働者を容赦なく排除する方向に向かいます。労働者は孤立するなかで業務遂行を余儀なくされます。「解雇の金銭解決制度」 が成立していない中では労働者をわざと不得手な業務に配置して 「成果」 を強制します。そして 「能力」 がないと “いじめ” て離職に追い込んでいる実態がありますす。
 教育・訓練の機会の保証は能力の蓄積のためのものではなく、短期戦でのテクニック取得のためです。
 “働き方改革” における 「均等待遇規定」 は、非正規労働者にも正規労働者と同じように競争を強制させるということです。労働者の中に生まれる 「格差」 は自己責任です。そのような労働感・職場秩序がさらに作り上げられていきます。
「『フレキシブルな労働市場』 は、現在従事している仕事に全力を傾けようとする気持ちも、献身的に取り組もうとする気持ちを起こさせないし、その余地も与えない。現在従事している仕事に愛着を覚え、その仕事が求めるものに夢中になり、この世界のなかでの自分の場所を、取り組む仕事やそれに動員されるスキルと同一化することは、運命の人質になることを意味する。」 (ジグムント・バウマン著 『新しい貧困』 青土社)


 派遣労働者についてです。
 現状を踏まえると 「1) 派遣先の労働者との均等・均衡による待遇改善か、2) 労使協定による一定水準を満たす待遇決定による待遇改善かの選択制とすることが適当である。」 と建議します。
 具体的には、派遣先の労働者との均等・均衡方式として
「ⅰ) 派遣労働者と派遣先労働者の待遇差について、短時間労働者・有期契約労働者と同様の
 均等待遇規定・均衡待遇規定を設けた上で、当該規定によることとすること
 ⅱ) 派遣元事業主が 「ⅰ」 の規定に基づく義務を履行できるよう、派遣先に対し、派遣先の労働者
 の賃金等の待遇に関する情報提供義務を課す (提供した情報に変更があった場合も同様) とともに、
 派遣元事業主は、派遣先からの情報提供がない場合は、労働者派遣契約を締結してはならない
 こととすること(なお、派遣先からの 情報は派遣元事業主等の秘密保持義務規定 (労働者派遣法
 第24条の4) の対象となることを明確化すること)
 ⅲ) その他派遣先の措置 (教育訓練、福利厚生施設の利用、就業環境の整備等) の規定を強化」
が適当とします。
 そして労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式として
「派遣元事業主が、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数代表者と話し合い、十分に派遣労働者の保護が図られると判断できる以下の要件を満 たす書面による労使協定を締結し、当該協定に基づいて待遇決定を行うこと
①同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準と同等以上であること
②段階的・体系的な教育訓練等による派遣労働者の職務の内容・職務の成果・能力・経験等の向上
 を公正に評価し、その結果を勘案した賃金決定を行うこと」
が適当とします。


 「労働者に対する待遇に関する説明の義務化」 についてです。
「非正規雇用労働者 (短時間労働者・有期契約労働者・派遣労働者) が自らの待遇をよく理解し、納得するためにも、また、非正規雇用労働者が待遇差について納得できない場合に、まずは労使間での対話を行い、不合理な待遇差の是正につなげていくためにも、非正規雇用労働者自らの待遇の内容に加え、正規雇用労働者との待遇差に関する情報を、事業主から適切に得られ、事業主しか持っていない情報のために、労働者が訴えを起こすことができないといったことがないようにすることが重要である。」 と建議します。
 そのために、短時間労働者・有期契約労働者に対して
「ⅰ) 特定事項(昇給・賞与・退職手当の有無)に関する文書交付等による明示義務、その他の労働条
 件に関する文書交付等による明示の努力義務 (雇入れ時) (パートタイム労働 法第6条第1項・第2項)
ⅱ) 待遇の内容等に関する説明義務 (雇入れ時) (パートタイム労働法第14条第1項)
ⅲ) 待遇決定等に際しての考慮事項に関する説明義務 (求めに応じ) (パートタイム労働 法第14条第2項)」
などの現状に加え、
「短時間労働者・有期契約労働者が求めた場合には正規雇用労働者との待遇差の内容やその理由等について説明が得られるよう、事業主に対する説明義務を課すことが適当である。」 とします。
 その場合、「事業主に説明を求めた非正規雇用労働者と職務内容、職務内容・配置変更範囲等が最も近いと事業主が判断する無期雇用フルタイム労働者ないしその集団との待遇差及び その理由並びに当該無期雇用フルタイム労働者ないしその集団が当該非正規雇用労働者に最も近いと判断した理由を説明することとする」 とします。
 最も近い無期雇用フルタイム労働者自体のそれぞれの賃金は 「成果」「能力」 による評価によってばらつきが発生しているからです。
「派遣労働者についても、派遣元事業主に対し、上記 (1) のⅰ) ~ⅲ) 及び派遣労働者 が求めた場合には待遇差の内容やその理由等についての説明義務・不利益取扱禁止を 課すことが適当である。」としています。


 行政による裁判外紛争解決手続の整備等についてです。
「非正規雇用労働者にとっても、訴訟を提起することは大変重い負担を伴うもので あり、これらの規定が整備されて以降も、訴訟の件数は限られている実態にある。 非正規雇用労働者がより救済を求めやすくなるよう、行政による履行確保 (報告徴収・助言・指導等) の規定を整備するとともに、行政ADR (裁判。外紛争解決手続) を利用しうるよう規定を整備することが求められる。」 と建議します
 そのために 「現状では、均等待遇規定については報告徴収・助言・指導・勧告の対象としているが、均衡待遇規定については、報告徴収・助言・指導・勧告の対象としていない。しかしながら、均衡待遇規定に関しても、解釈が明確でないグレーゾーンの場合は報告徴収・助言・指導・勧告の対象としない一方、職務内容、職務内容・配置変更範囲その他の事情の違いではなく、雇用形態が非正規であることを理由とする不支給など解釈が明確な場合は報告徴収・助言・指導・勧告の対象としていくことが適当である。」 としています。


 法施行に向けて (準備期間の確保) は 「法改正は、事業主にとって、正規雇用労働者・非正規雇用労働者それぞれの待遇の内容、待遇差の理由の再検証等、必要な準備を行うために一定の時間を要する。したがって、施行に当たっては、十分な施行準備期間を設けることが必要である。」 とあります。
 鳴り物入りで議論を始めた割には実施はかなり先になるということです。
 そうであっても労働組合は “待ち” ・ “働らかされ方改革” の姿勢です。
 本当の “働きかた改革” のためには、今こそ労働組合が現場の声を集めて政府を先取りする提案、対案をして議論をまき起こすチャンスです。

   「活動報告」 2016.6.9
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ストレスチェック情報はマイナンバーで管理され・・・
2017/04/07(Fri)
 4月7日 (金)

 4月7日付の朝日新聞は 「マイナンバーシステム、利用に年100億円?」 の見出し記事が載りました。そのまま紹介します。

 中小企業の会社員らが加入する 「協会けんぽ」 や大企業の 「健康保険組合」 などが、加入者やその家族のマイナンバーを使って所得確認などをするシステム利用料が、合計で年約100億円にのぼることがわかった。ただ健康保険組合連合会 (本部・東京) が 「高額にすぎる」 と反発。厚生労働省は引き下げの検討を始めた。
 ステムは7月の稼働を目指し、厚労省主導で220億円をかけて開発を進めている。健保組合などが加入者のマイナンバーを使って、住民票のデータや家族の収入、年金を受け取っているかどうかなどの情報が取り寄せられる。加入者の扶養家族の確認や、傷病手当金と公的年金を二重で受け取っていないかなどもチェックできるという。……

 マイナンバーは、保険組合などが加入者の住民票のデータや家族の収入、年金を受け取っているかどうかなどの情報が取り寄せられる、加入者の扶養家族の確認や、傷病手当金と公的年金を二重で受け取っていないかなどもチェックできる制度になるということです。


 マイナンバーは、当事者は管理されている情報がわかりません。しかし当事者の情報は他者によって管理され、利用されます。
 マイナンバーには93項目の情報が入ることになっています。
 戸籍、住所、氏名、年齢・・・のほかにも資産、収入関係、年金、保険関係などがあります。保険の具体的なものとしては、年金保険料や年金額、確定拠出年金 (日本版401k) の記録、健康保険があります。さらに医療、福祉関係として、かかった医療機関や医療費の金額、持病、医療情報、医薬品による副作用情報、身体障害者手帳の交付、生活福祉資金貸付、生活保護に関する情報等があります。雇用関係としては、雇用保険の失業給付、労災保険の給付などがあります。要するに、資産、健康状況や雇用状況などあらゆる情報が管理されることになります。
 よく言われることですが、徴兵制が採用されたら、国は健康診断などの手続き抜きで召集令状を発行することが可能になります。


 さて、このようなマイナンバー制度とストレスチェック制度の関係はどのようになるでしょうか。危惧していたことが実現しようとしています。あらためてストレスチェック制度の危険性を指摘するために、15年12月8日の 「活動報告」 を再録します。

 ストレスチェック制度の開始で何がどう変わるでしょうか。
 最大の点は、チェック票の 「心身のストレス反応」 の導入です。事業者によって労働者1人ひとりの精神状態に関する検査とデータ作成が合法的に行えるようになりました。労働者は、第三者から 「心の管理」 が行われるのです。残念ながら法案作成から成立までの間に、人権・人格、基本的人権、個人情報保護というような問題は議論に上がりませんでした。
 今後、「心身のストレス反応」 検査の合法化は前例となり、他のところでも第三者によって 「心の問題」 への干渉が悪用されていきかねません。
 世界的には人格権侵害、人権無視の行為であり得ないことです。これは 「安全配慮」 以前の問題です。

 第1回の専門検討会にイギリスの例が紹介された資料が提出されました。
 そこには記載されていないですが、イギリスのストレス調査は、「職場のストレスの多くの原因は、人事関係の問題である。職場のいじめ、長時間労働の慣習、人員整理とそれによって残された人々にかかる作業負荷、そして、女性差別や民族差別のようなことは、全て人事 (HR) が対処すべき問題である。」 「もし事業者が労働時間、労働量、管理形式のような分野に及ぶ基準を満たそうとするなら、人事部は重要な役割を果たさなければならない。」 ということを目的とされています。人事関係とは日本でいう労務管理のことです。人事関係・人事部の対処こそが調査されるのです。

 国際安全衛生センターの資料からです。
 2004年11月、イギリス安全衛生庁 (HSE) は、職場ストレスに関する新しいマネージメント基準を発表しました。基準は法で規制されるものではないですが、企業が職場のストレスレベルを測定し、その原因を特定し、この問題に取り組むスタッフに役立てることを目的としています。
 最初のマネージメント基準は2003年6月に公表されました。この基準では6つの重要な職場のストレッサーである 「作業要求」、「管理」、「支援」、「関係」、「役割」、「変化」 を低減する目標を設定しています。この目標達成のためには、一定の割合のスタッフが、ストレッサーの管理方法に満足しているということを示すことが事業者にとって必要となります。
 さらに法では、5人以上の労働者を有する企業は、労働関連ストレス、いじめ、いやがらせを防止する上での対策が含まれている安全方針を文書で作成しなければなりません。
 職場ストレス原因は多種多様ですが最も重要ないくつかの潜在的根源をあげ、克服できないものはないと断言しています。効果的なストレスマネージメントの鍵の1つは、これらのストレッサーが発生するおそれがある場所を認識し、ストレッサーが現実の問題となる前に、それに対応する準備があるかということです。

 職場ストレスの主原因として、次のようなものが特定されています。
 ・企業内での不適切、あるいは不十分なコミュニケーション、特に人事異動期間中についての家庭及
  び仕事に基づいたストレスは成長し、お互いに影響し合い増大する
 ・個々人に与えられた作業要求は、各々の能力に適合したものでなければならない。そして、作業量
  は作業要求にふさわしい作業方法に見合っていなければならない
 ・過重労働及び過少労働ともにストレスになり得る
 ・交替制勤務及び夜勤は、本質的にストレスが多く、災害発生の高いリスクにつながるおそれがある
 ・自宅勤務は、労働者に孤独感を感じさせるおそれがあるので、支援体制が必要となる
 ・ホット・ディスキング(職場で個々人の机を決めていないこと)や、短期間契約は、特別な プレッシャ
  ーにつながる
 ・役割のあつれき、不明確で変化する役割は、全てストレスにつながる
 ・神経をすり減らし、いじめがある管理の仕方は相談、支援、管理でのバランスが必要となる
 ・中間管理職のコミュニケーションスキルの不足。管理職は、コミュニケーション訓練が要求され、通常の
  人よりも、このスキルが必要となる
 ・余剰人員整理のためには、スペシャリストを訓練するという特別なニーズが必要となる
 ・照明が不適切で不十分な職場は、スタッフが不快に思い、かつモチベーションが高まらない環境と
  なる
 ・新技術の導入において、計画的かつ、斬新な方法で行われない場合には、ストレスレベルを高める
 ・労働者が常に働いていることを要求されているように感じる職場環境

 日本のストレスチェック票と比べると明らかですが、「仕事のストレス要因」、「周囲のサポート」 はありますが 「心身のストレス反応」 はありません。ストレスは個人的問題か、職場全体の問題かというような捉え方はしません。イギリスが特異なのではありません。本来の職場のストレスチェックはこのようなもので、日本が特異なのです。
 イギリスがこの地平に至ったのは、労働政策の決定が政・労・使で激論のすえ行われているからです。日本は、使・使の代弁者・労の不在で行われていのが実態です。これでは労働者の人権・人格は保護されません。


 作成されたチェック票の管理は誰が行うのでしょうか。
 ストレスチェックの結果、労働者の体調不良が明らかになったら医師や保健師は労働者に結果を通知します。労働者は面接を希望する時は事業者に面接の申し出をすることができます。厚労省はこのようなシステムだから、事業者は労働者個人の情報を勝手に取得できないと説明します。
 ではチェック票はだれが保存・管理するのでしょうか。ちゃんとした保健室があり、産業医や看護師がいる職場ならそこが管理するでしょう。それ以外は。事業主が管理します。事業主は労働者の健康に関する情報は喉から手が出るほど欲しいです。猫に魚の番をさせることになりかねません。労働者の不信は消えません。


 ストレスチェック制度が開始された12月1日は、特定秘密保護法が完全施行された日でもあります。今後は秘密を漏らす恐れがないと 「適正評価」 を受けて選定された者たちだけで特定秘密を取り扱っていきます。取扱者は、薬物乱用や精神疾患、酒癖などが調べられました。自衛隊員だけでなく国家公務員、警察官、さらに民間企業の社員もいます。取扱者数は今後もっと増えるといわれています。
 この後、適正評価に際し、対象者を1人ひとり呼び出して調査したり、周囲に対象者であることを知られないで判断できる方法はないでしょうか。こう考えた時、精神疾患の 「適正評価」 については、せっかく実施したストレスチェック票の 「心身のストレス反応」 を流用したいという考えが浮かんで来るのは必然です。これがいつからかストレスチェック制度導入の目的になっているのではないでしょうか。防衛省は、人びとの健康に関する情報は喉から手が出るほど欲しいです
 厚労省は、ストレスチェック制度では事業者でも労働者個人の情報を勝手に取得できないと説明します。しかし昨今のパソコンからの情報の流出状況を見ていると、完全に保護されている情報はありません。

 2016年1月1日からマイナンバー制度がスタートします。
 総務省は、「マイナンバー制度は、住民票を有する全ての方に1人1つの番号を付して、社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理し、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されるものです。マイナンバーは、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平かつ公正な社会を実現する社会基盤」 と説明しています。
 「情報提供ネットワーク」 の役割があると言われています。しかし自治体で管理する、利用者からは見えない情報の収集です。
 具体的には、法第6条の 「利用範囲」 で、社会保障分野、税分野、災害対策分野などに利用されます。
 実際は、社会保障分野はさらに年金分野、労働分野、福祉・医療・その他の分野に分けられます。労働分野は、雇用保険等の資格取得・確認・給付を受ける際に利用、ハローワーク等の業務に利用とあります。
 福祉・医療・その他の分野は、医療保険法等保険料徴収等の医療保険における手続き、福祉分野の給付、生活保護の実施等低所得者対策の業務に利用とあります。マスコミ等では社会保障分野として 「メタボ検診」 や予防接種がクローズアップされています。
 注意しなければならないのは、健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者の医療に関する法律による保険給付の支給、保険外の徴収に関する事務も含まれます。保険給付の支給は、人びとの健康状態の掌握が可能になります。
 2015年10月14日、マイナンバー制度のシステム設計の契約に絡んで厚労省の室長補佐が収賄容疑で逮捕されました。厚労省のシステム設計や開発に関わる調査業務2件の企画競争にシステム開発会社が受注できるように便宜をはかった見返りとして現金を受け取っていました。室長補佐は情報政策担当参事官室室長補佐ですが、収賄が言われるときは社会保障担当参事官室に在籍しています。開発内容は病院が持つ情報と連携させるシステム作りなどです。患者の病名、通院・入院の頻度の情報がマイカードに蓄積されるのです。


 企業は、賃金支払い、税の徴収・納付のために労働者からのマイナンバーの報告を受けて提出書類に記載することになっています。会社は社員のマイナンバーを掌握することになります。賃金計算を、子会社、経理専門会社や社労士などに委託している企業も多くあります。企業はナンバーの流出を止めることはできません。
 ストレスチェック票にマイナンバーが記載されて管理されたら、個人情報が知らないうちに流出していることになりかねません。マイナンバー制度によって、労働者の健康状態・情報が個人が知らないところで企業に 「提供」 され、管理されることになりかねません。
 その 「活用」 で、労務・人事管理において差別・排除、退職勧奨がわけがわからないうちに進められていきます。
また体調不良で退職した労働者が再就職しようとした時に、相手会社から理由が明らかにされないまま拒否されるという事態が発生しかねません。


 マイナンバー制度は 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」 に基づくものですが、改正マイナンバー法が成立した2015年9月3日には 「改正個人情報保護法」 も衆院本会議で成立しました。個人情報保護法は国及び地方公共団体の責務等を明らかにしていますがプライバシーの保護はありません
 改正個人情報保護法は第一条で (目的) を謳っています。
「……国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。」
とあります。
 太字の部分が追加されました。つまりは、個人情報は産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現のために利用していいということになり、その他の個人情報の前に位置づけられています。簡単にいうと、改正によって企業が持つ個人データを使いやすくするのとプライバシー保護の在り方が見直されます

 第15条は (利用目的の特定) を謳っています。 改正前です。
「個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的 (以下 「利用目的」
 という。) をできる限り特定しなければならない。 ……
2 個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を
 有する
と合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。」
これが改正では、企業などが本人の同意なしに変えられる個人情報の使い道の範囲が 「相当の関
 連性」 があるから 「関連性を有する」 範囲に変わりました。
 第23条は (第三者提供の制限) を謳っています。
「個人情報取扱事業者は、以下の場合を除いては、あらかじめ本人の同意を得なければ、個人データを
 第三者に提供してはならない。……
2.人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが
 困難であるとき。」
 身体の保護が、「個人の権利利益を保護することを目的とする」 と使用者の安全配慮義務を拡大解釈して、使用者が勝手に情報を取得するような状況が生まれないでしょうか。一度集めた個人情報は別の目的にも転用できます。


 ストレスチェック制度では情報の不正利用に対する罰則が設けられているから大丈夫という人たちがいます。
 しかし個人情報保護法は、企業が情報取得を秘密裏に行い、漏えいが発覚したら後付の説明を行って合法だと居直れるように 「改正」 されました。居直るにしても謝罪するにしても、取得したら 「勝ち」 です。

 個人情報保護は、自分がしっかりとプライバシーを守っていれば大丈夫というレベルの問題ではありません。日本では個人情報が外部に漏らされることが人格権侵害という捉え方は小さいです。個人情報が他者から管理される、情報がどう利用されることになるか、そして個人が国家に管理されることに抵抗がありません。集団の中では仕方ないという諦めや、当たり前と捉える傾向があるようです。だから無防備と同時に他者のことも顧みず、いろいろなところに干渉したり、インターネットなどで他者の情報が流れていると書き込みをして追加の “情報提供” をしています。
 すでに様々な情報は収集されて管理されているのです。

 安倍政権のこの時期に、「ストレスチェック制度」、「秘密保護法」、「マイナンバー制度」、「個人情報保護改正」 が施行されるのは偶然でしょうか。
 くりかえしますがマイナンバー制度はあらゆる情報が盛り込まれ、人びとの一切を管理しようとするものです。


 「職場のストレスチェック制度」 は、チェック票の 「心身のストレス反応」 がなかったら、労働者の期待するところであり有効活用も可能でした。労働組合や安全衛生委員会などで議論する資料にもなりえます。しかし開始される制度は 「検査結果の集団ごとの分析」 は努力義務ということです。
 「心身のストレス反応」 を含んで 「検査結果の集団ごとの分析」 が行われ、議論ための資料として活用することは個人の労働者を犠牲にするものです。
 ストレスチェック制度が実施されても、労働者にとって検査を受けることは義務ではありません。
 やむなく検査をうけざるを得ないとしても 「心身のストレス反応」 は拒否しましょう。
 チェック票にマイナンバーを記載することに反対しましょう。
 一次予防が目的なら、チェック票は無記名での提出も有効です。無記名でも 「検査結果の集団ごとの分析」 はできます。
 実施されても、体調不良者のリストアップ、排除・退職勧奨等に繋がらないよう監視をして行く必要があります。

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失業率が低い時は、労働者が要求を獲得するチャンス
2017/03/31(Fri)
 3月31日 (金)

 3月31日、総務省が発表した労働力調査によると、2月の完全失業率 (季節調整値) は2.8%と1994年6月 (2.8%) 以来22年8カ月ぶりの低水準となりました。
 就業者数は50カ月連続増加で6427万人、雇用者数も50カ月連続増加の5754万人でした。内訳は正規労働者3397万人で、非正規労働者は2005万人です。
 完全失業者81カ月連続減少で188万人です。完全失業率を年代別にみると15歳から24歳が4.4%、25歳から34歳が4.0%、35歳から44歳2.7%でそれ以上は平均を下回ります。年齢が低いほど高くなっています。男女別にみると、男性が3.0%と95年6月以来の低水準となり、女性は2.7%と横ばいでした。
 94年とは、いわゆるバブル景気がピークを越えたころです。その後上昇し、90年代後半に4%後半を続け、2000年代になると5%をこえます。03年頃に4%台に下がり、減り続けて07年には3%台になりますが08年のリーマンショックでまた5%台に突入しますがそのあと下降を続けていました。

 完全失業率とは労働力調査における労働力人口に占める完全失業者の割合 (公表失業率) です。完全失業者とは、15歳以上で、仕事がなくて調査期間中に少しも仕事をしなかった (就業者ではない)、仕事があればすぐ就くことができる、調査期間中に仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた (過去の求職活動の結果を待っている場合を含む) という人です。調査期間に1時間でもアルバイトなどで賃金が得られる仕事をしたのであれば、統計上、「就業者」 となってしまいます。
 完全失業者のうち失業期間が1年以上の者を長期失業者と呼びます。1%後半から2%くらい存在します。
 また、契約期間満了などによる退職をふくむ非自発的失業者も存在します。非自発的失業率は完全失業率とほぼ同じような動向を示し、1%後半から2%半ばくらい存在します。

 しかし実際の失業者はこれだけではありません。潜在失業者がいます。就業を希望していて、仕事があればすぐにつくことが可能であり、過去1年間に求職活動を行ったことがある者で、現在は今の景気や季節では適当な仕事がありそうにない近くに仕事がありそうにない、自分の知識・能力に合う仕事がありそうにない、勤務時間・賃金などが希望に合う仕事がありそうにない等の理由で求職活動を行っていない者です。潜在失業率はほぼ1%存在します。
 そうすると潜在失業をふくむ失業率は、完全失業率に約1%加算されます。この失業率の算出は他の国とは違います。調査期間に1時間でも仕事をしたら 「就業者」 ということも含めて日本の失業率は低いということではありません。


 雇用労働者数を雇用形態別にみてみると、非正規労働者の占める割合は、90年にはじめて20%を超えます。95年に日本経団連は報告書 「新時代の 『日本的経営』」 を発表すると増え続け、03年に30%を超えます。「雇用の流動化」 がいわれ始めます。
 もう少し細かく見ると、97年11月、北海道拓殖銀行と山一証券が倒産しています。97年の正規労働者は3812万人でしたがその後3300万人から3400万人の間を続け17年2月は3397万人です。非正規労働者を見ると、97年は1152万人 (23.2%) でその後増え続け、17年2月は2005万人です。


 15年6月9日の 「活動報告」 で松下電器について書きました。その部分転載です。
 89年、幸之助は亡くなります。
 90年代半ば、経営企画室はあと数年で3万人が余るとはじき出します。余剰人員は明らかです。しかし 「赤字でもないと、世間がリストラを許さなかった」
 雇用維持のため、さまざまな手が打たれました。総務の年配社員を工場にもどし、パートを切ります。すると 「社員の雇用を優先した。不良品が増え、速度が落ちた」 状況が生まれます。
 2001年度は大幅な赤字に転落します。大幅な早期退職募集が行われ、約1万3千人が退職しました。
 「あの松下が」 と衝撃的なニュースが流れました。そして松下が早期退職募集するのならと日立製作所、東芝、富士通などでも開始されます。「日本型雇用」 の転換でした。
 その結果失業率が5%台に跳ね上がりました。

 松下は、その後も早期退職募集を行います。
 雇用を大事にしていたといっても、労働者はみな正規社員や直接雇用者だったわけではありません。ご多分にもれず請負労働者、派遣労働者が製造現場を支えていました。
 雇用問題は、正規社員の問題がクローズアップされているときに、実は非正規労働者の問題が深刻化を増します。非正規労働者でもパート労働者の問題が論議されているときに派遣労働者の処遇が悪化します。非正規労働者の問題がクローズアップされている時、請負労働者、個人事業主・偽装雇用の問題が深刻化します。
 この連鎖も見過ごすことができません。


 08年9月のリーマンショックを見て見ます。08年第Ⅱ期は正規労働者3418万人でしたが、第Ⅳ期は3390万人でその後も変化は大きくありません。一方、非正規労働者は第Ⅱ期が1732万人で第Ⅳは1796万人ですが、09年第Ⅱ期は1684万人に減少します。労働者派遣事業所の社員等だけをもっと細かく見ると、08年第Ⅱ期576万人、第Ⅲ期643万人、第Ⅳ期643万人、09年第Ⅰ期567万人、第Ⅱ期557万人です。いわゆる派遣切りで年越し派遣村が開設された時です。
 景気の後退を非正規労働者にとってかえて乗り切ろうとしますがそれが無理だとなると解雇を通告してきます。非正規労働者は雇用の調整弁で、合わせて労働法制も改正されます。


 派遣切りに際して正規の労働者の労働組合はほとんど行動を起こしませんでした。
 派遣切りを可視化した年越し派遣村の開設・運営は、いわゆる個人でも加入できる小さな労働組合・ユニオン等と市民運動団体によって担われました。
 そのなかで全造船関東地協いすゞ分会は地域闘争で派遣労働者を守ります。そのときの状況を最近発行されたパンフレット 「半世紀の闘い 工場と地域と世界のなかで」 から抜粋して紹介します。

 08年のリーマンショックの後の12月に、契約期間の途中であっても非正規労働者1400人全員の雇止めがおこなわれました。「日比谷派遣村」 が開設された時のことです。
 とんでもない! こんなことが許されてたまるか! と、不当なやり方にたいして年末から全造船関東地協で取り組みます。直接雇用の期間工労働者はいすゞ分会に、派遣労働者は湘南ユニオンにと連名で組合加入を呼びかけました。いすゞ分会に11人、湘南ユニオンに22人が加入しました。
 藤沢で全造船関東地協、いすゞ分会、湘南ユニオンは団体交渉を開催しました。まずは社宅や寮への居住の保証を約束させました。そして解雇撤回、契約期間中の雇止めはふざけんじゃないという要求です。会社はリーマンショックだからしょうがないじゃないかと主張します。だめだ!
 さらに外国人労働者の問題もありましたが神奈川シティユニオンが取り組んでいました。
 同時にいすゞ本社への抗議行動も展開しました。新聞やテレビも闘いを取材し報道しました。
 派遣会社にも派遣社員の雇用を保障にさせるためにいすゞに要求しろと要求しました。派遣会社は要求しました。
 こうした集中的な闘いの取り組みを展開し、本社抗議行動を予定していた日の早朝に会社からファクスが届きます。すぐに石川議長に連絡し、資料を作り、本社前にいったら、マスコミの方が会社に問い合わせをしました。契約期間中の解雇は撤回し、その後は自宅待機扱いにして賃金保障はするというものですが希望退職をにおわす内容でした。阿部知子衆議院議員が国会で質問したり、抗議闘争が拡大する状況のなかで自動車工業会や経団連からも注意されたようです。
 いすゞと交渉を続けて2か月もしないうちに、組合員から 「まだどうにかならないのか。お金がない! 飯が食えない」 との声が上がりました。交渉経過を説明してもなかには 「そんなことを言われて帰ってきたのか」 と不満をぶつける方もいました。つまり派遣社員の労働条件ではたくわえをすることができなくて余裕がないのが実態です。今でもそうです。1か月でも雇用が途切れると生活ができません。びっくりしました。この時に私はそれまで最低賃金ということに関心が薄かったことに気付かされました。
 10年、組合の闘う方針を守って切り捨てを認めないで継続雇用を求めて闘いきった1人の期間工の労働者が新しい仕事に就き、この時の闘争は解決して終了しました。


 非正規労働者を雇用の調整弁とすることは許されません。
 完全失業者のなかには、いじめ・おどし・だましなどによる退職強要も含まれます。正規の労働者も景気の調整弁になっています。また長時間労働による体調不良で退職した労働者もいます。労働者は経営者のいいなりになる必要はありません。
 働き方改革、「同一労働同一賃金」 は、政府や経済界に委ねるのではなく、労働者・労働組合からの働きやすさ、安心できる雇用の要求を獲得して監視していく必要があります。

 人員不足は、労働者が要求をかかげて獲得するチャンスです。

   「活動報告」 2015.6.9
   「活動報告」 2011.12.26
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「金銭解決制度」 は雇用を不安定にする
2017/03/07(Tue)
 3月7日 (火)

 厚労省は、15年10月29日から 「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」 を開催しています。その第13回が3月3日にありました。そこに厚労省から裁判で解雇が不当とされてから解決金が支払われ、雇用契約が終了するまでの流れを示す 「金銭解決制度」 の概要案が補足資料として提出されました。
 現在の労働紛争の解決制度である労働審判やあっせんでない新しい制度です。厚労省は新制度導入の目的を、ほとんどお金を得られずに解雇されて泣き寝入りをしている労働者を救済するといいます。(16年1月26日の 「活動報告」)

 これまでの案は、裁判で不当な解雇と認められた場合、解雇された労働者が望めば職場復帰を諦める代わりに会社に補償金を請求できる制度と説明され、「不当解雇の金銭解決」 を決めるのは労働者でした。
 しかし補足説明では新たな案も追加されています。
 1つは、裁判において①労働契約上の地位の存在確認の判決と同時に②使用者に一定額の金銭の支払いを命じる判決がだされて③労働契約の終了を宣言されるという案です。3つの判決を一回の裁判手続きで処理します。しかしこれまでの検討会では困難という結論に至りました。
 2つ目は、解雇無効の判決がでて確定した後に労働者が金銭救済を申し立て、裁判所が一定額の金銭支払いを命じ、使用者が金銭を支払います。
 3つ目は、労働契約上の地位の存在確認と一定額の金銭の判決と同時に給付の判決が出されて労働契約の終了の判決が出され確定した後に労働者が金銭救済を申し立て、判決で一定の金銭を命じ、使用者が金銭を支払います。
 4つ目は、労働契約上の地位の存在確認請求と金銭請求と労働契約終了請求を同時に出し、解雇無効の判決と一緒に使用者が金銭を支払うことで労働契約を終了します。
 この他に、解雇を不法行為として損害賠償を請求する訴訟や、実体法に権利を創設する仕組みとして、労働者が金銭救済を請求して訴訟に至って解雇が客観的合理的理由・社会的相当性を欠くと認められた場合、判決で一定の金額の支払いを命じ、使用者が金銭を支払います。

 これまでは解雇された労働者が職場復帰を諦める代わりに会社に補償金を請求できる制度と説明されてきましたが、判決で金銭額までおよぶ制度が導入されたら、使用者の復職拒否・金銭解決の主張や裁判所の契約解除の誘導の有効性が大きくなります。労働者側だけでなく、使用者が金銭解決を望んだ場合にも活用されます。
 現在は、解雇案件が裁判に持ち込まれた場合、判決よりは和解の方が実際に支払われる金額が高くなっていました。しかし判決で金額が提示される場合には使用者の拒否もあり得ます。その結果、「低い相場」 が定着する可能性があります。
 解雇事案は1件ずつ事由が違いますが、使用者は先を見越して “安心して解雇” できるようになっていきます。
 新制度は使用者を救済する制度です。


 使用者側は日本の労働者の雇用は保護され過ぎていると主張します。
「かつて大企業の 『正社員』 になれば、定年まで雇用が保障されるというイメージがありました。しかし 『はじめに』 でも触れたとおり、今では名だたる大手企業でも正社員の追い出しが本格化しています。正規雇用を削減する上で、退職を誘導する仕組み (事実上の退職強要) が果たす役割は大きく、諸外国と比較し、日本の解雇規制の実態は厳格ではありません。先進諸国が加盟するOECD (経済協力開発機構) のデータでは日本の雇用保護の厳格さはむしろ低いほうに属します。退職強要による 『自主的離職』 をOECDの解雇指標に含めれば、雇用保護に関する日本の位置はさらに低下するでしょう。長年の労働運動の努力で確立している整理解雇に関わる法理は裁判や労働委員会で争う場合には有効ですが、大半の労働者はそこに至る前に職場を去っています。」 (森崎巌 他編著 『ビジネス化する労働市場政策 劣化する雇用』 旬報社)
 「はじめに」 です。
「バブル経済が破綻した90年代以降、長期不況のもとで日本型雇用慣習は次第に変容しています。大企業の男子正社員でも関連会社への出向が日常化し、入社時の企業で定年を迎えられる労働者は半数をはるかに下回るまでになっています。電気産業をはじめ、名だたる大企業でも希望退職や退職勧奨という事実上の退職強要 (リストラ) が公然と行われるようになりました。『追い出し部屋』 はその典型です。」
 会社は、雇用の流動化の名のもとに社員の教育や研修・訓練を放棄して実質解雇し、実践力として活用できる労働力にとって変えます。労働が労働者に宿っているという捉え方が失われています。さらに実践力としても非正規労働者が増大しています。(16年2月19日の 「活動報告」)
 そして再就職のための教育や研修がひとつのビジネスとして登場しています。


 「整理解雇に関わる法理」 は、使用者に雇用ルール確認させるもので、解雇権の濫用を防止する役割を果たしてきました。労働者と労働組合はこれを武器に抵抗してきました。また雇用ルールが労使関係を維持させてきました。
 これまでも解雇事件においても団体交渉で解決した案件はたくさんあります。交渉において再度雇用ルールを確認することもあります。
 しかし新制度が登場したら、「整理解雇に関わる法理」 が形骸化し、使用者の雇用政策を乱暴にさせます。不要と判断した労働者に対する意識的いじめ・嫌がらせがおこなわれる危険性もあります。紛争が発生しても労働者にあきらめの気分が発生し抵抗は弱まります。使用者のやりたい放題になりかねません。現在の労使関係が崩されていく危険性がでてきます。
 2013年には裁判で不当とされた解雇が約200件ありました。制度が導入されたら 「有効活用」 されて増大することが予想されます。


 厚労省は解雇されて泣き寝入りをしている労働者を救済すると説明しますが、泣き寝入りをするのは使用者が 「整理解雇に関わる法理」 を逸脱したり、こじつけての退職強要をしたり、労働者を脅したりだましたりする場合です。必要なのは人権を無視した手段を禁止する対策であり、金銭解決の手法ではありません。

 政府の 「金銭解決制度」 は、現在進められている “働き方改革” と一体のものです。雇用の流動化は 「雇用の劣化」 を招いていますが拍車がかかります。まずその防止が先です。
 同一労働同一賃金や長時間労働の制度導入と “解雇のやりやすさ” がバーターになることは許されません。「ホワイトカラーエグゼンプション」 が導入され、長時間労働で体調を崩した労働者は 「金銭解決制度」 でどのように救済されるのでしょうか。
 使用者に労働者の使い捨てを保障するような制度の導入は絶対に許されません。


  「活動報告」 2016.1.26
  「活動報告」 2015.8.21
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「同一労働同一賃金」 に向けて労働者の声を
2016/12/06(Tue)
 12月6日 (火)

 11月29日、「働き方改革実現会議」 が開催され、正規労働者と非正規労働者との格差を改善する 「同一労働同一賃金」 の方向性が見えてきました。浮上している案はヨーロッパのEUの労働指令に倣って非正社員に対して 「客観的合理的理由のない不利益な取扱いを禁止する」 というものです。具体的には、(1) 仕事の内容や責任の程度、(2) 配置などの変更の範囲、(3) その他の事情、の3つの考慮要素に照らして裁判官が合理的かどうかを判断するという幅広の解釈が成り立つようにし、2016年末までに “よい例・悪い例” のガイドラインも作成します。
 その後、労働契約法、パートタイム労働法及び労働者派遣法などの関連法に差別禁止の条文を盛り込むというものです。
 「客観的合理的理由のない不利益な取扱いを禁止する」 は会社側が合理的理由を立証する責任を負うことになり、法の行為規範として正社員との処遇の違いについての説明責任も発生しますが、裁判を起こされても負けない程度の水準までは引き上げてるというものです。
 賃金格差は、同じ仕事をしている者と比べて格差は80%未満、福利政策等は均等にということのようです。かけ声は大きかった割には落ち着き先は法律を特段変えなくても現在の労契法20条やパート法を根拠に制度をきちんと遂行するなら実現しなければならない内容のようです。

 EUの労働指令には、パートタイマーや有期契約労働者であっても 「雇用条件について、客観的な理由によって正当化されない限り、有期労働契約であることを理由に、比較可能な常用労働者 (正社員) より不利益に取り扱われてはならない」 とあり、EU各国はこれに基づいて法制化しています。
 たとえばフランスでは 「期間の定めのある労働者 (有期契約労働者) が受け取る報酬は、同等の職業格付けで同じ職務に就く、期間の定めのない労働者が同じ企業において受け取るであろう報酬の額を下回るものであってはならない」 (労働法典) となっています。
 ですから、雇う側も非正規労働者を使用して人件費を抑えるという考えはとりません。また雇用関係においては雇用の調整弁の役割も果たしていません。非正規労働者は増えていますが1割前後です。そこには根底に人権の平等、対等の思想があります。

 日本では、非正規労働者はバブルが崩壊したことから急激に増え続けてきました。国際競争力をつけるための人件費抑制や雇用の調整弁の役割を担わせるためです。さらには株主への配当を重視した会社経営のためです。労働分配率はこの10年で10%ダウンしました。
 労働法制の規制緩和が続けられ、総労働者数に占める非正規労働者の割合が40%におよび、賃金以外の労働条件でも格差が拡大し、社会問題を発生させています。
 時間あたり平均賃金は、正規雇用労働者を1とした場合、非正規労働者のフルタイム労働者で0.68、パートタイム労働者では0.53、半分です。日本においては、正社員は能力・年齢・勤続年数などで昇給する職能給と呼ばれる属人給が主流であるのに対し、非正社員はどんな職種に就くかという職務基準で時給が決まります。とはいっても格差が大きすぎます。そもそも非正規労働者のフルタイム労働者とはどのような位置づけなのでしょうか。格差を強制した雇用でしかありません。非正規労働者の賃金は、最低賃金プラスアルファーというものが多く存在します。非正規雇用労働者世帯の貧困率は20%です。(2015年のOECD調査)
 
 海外での正規労働者と比較したく非正規労働者の賃金はどうでしょうか。
 イギリスは71.4、ドイツは79.3、フランスは89.1です。

 さらに日本では正社員と非正規労働者は各種手当や福利厚生、教育制度などがちがいます。
 これについても 「働き方改革実現会議」 で議論になりました。裁判官が合理的かどうかを判断する基準となります。
 例えば、賞与の額に差をつけることは “よい例” になりますが、正規労働者だけに支払うのは “悪い例” になるといいます。通勤手当、精皆勤手当などの各種手当は同じ額を支払うことになります。退職金、企業年金、住宅手当などについてはこのあとに “よい例・悪い例” が示されます。健康診断や病気休職などに差をつけることは “悪い例” です。教育機会については、雇用形態によらず同じ業務を担っているならば同じにすることが “よい例” になります。


 働き方改革実現会議では、反対する声も大きかったようです。
 経団連は今年7月19日に 「同一労働同一賃金の実現に向けて」 と題する提言を出しました。「わが国の賃金制度は多様であり、職務給を前提とする欧州型同一労働同一賃金 (職務内容が同一または同等の労働者に対し同一賃金を支払う原則) の導入は困難」と指摘し、現行の労働契約法、パート法の基本的考え方を維持すべきと、政府に牽制球を投げました。
 「将来的な仕事・役割・貢献度に対する発揮期待 (人材活用の仕組み)」 による処遇の違いも合理的要素と見なすことを求めている節もあります。「幹部候補の総合職」 は様々な経験を積ませてゼネラリストに育成する職能的な働き方と賃金体系を温存したいという思いがあるようです。

 正社員の地位は守らなければならないという主張です。1995年に日経連が発表した 「新時代の 『日本的経営』」 の、長期蓄積能力活用型グループ、高度専門能力活用型グループ、雇用柔軟型グループの3種類の労働者グループの区分けが連想されます。企業経営の維持として長期蓄積能力活用型グループの重要性が強調されますが、雇用における非正社員の職務内容は検討することなく格差を維持したいということです。それ以外のグループを軽視したために貧困などの社会問題も発生させたという企業責任にはまったく関心が寄せられていません。
 そして、「同一労働同一賃金」 が実行されたならばどうくぐり抜けるかという議論が始まっています。これまで以上に職務を厳密にし、違いを設けることによって 「同一労働」 を回避するという方法です。また、業務を分社化・アウトソーシングをし、雇用主を違えることによって格差を維持できるという考えもあります。

 そのような思考の根底にあるのは、正規労働者は会社という共同体の “内輪”、非正規労働者は共同体から排除される “外部” というとらえ方です。村社会です。正規労働者と同じような貢献性を強要しても、同じ職場で働いている労働者同士という関係性を作ろうとはしません。
 この思考は労働組合も同じです。
 正規労働者と比べて大きな格差がある非正規労働者の割合が40%に至ることを容認してきたのは労働組合です。その立場は会社という共同体の “内輪” で “外部” を排除してきました。労働者の権利、生活権、人権などの問題に関心を示しません。これが多くの企業内組合の実態です。


 その一方で 「同一労働同一賃金」 の考えを取り入れている企業もあります。
 りそな銀行は2008年の人事・給与制度改革において、社員を正社員、業務範囲などを限定する限定正社員、パートの3つに分け、職種で共通の職務等級制度を適用し、同じ等級なら時給換算の基本給も同じにしました。ただし職種に応じた責任の違いや転勤・異動の有無などを賞与や退職金、福利厚生に反映して差をつけています。
 導入のきっかけは03年に実質国有化されたことによる人員削減で大勢の正社員が去り、新卒採用も止まる経営危機がありました。そのなかで残った従業員の働く意欲を引き出す必要に迫られました。


 今、企業は労働力不足の状況にあります。トヨタなどでもかなり前から非正規労働者や期間工を正規労働者に切り換えています。
 そのことが、政府が労働者の処遇改善を進めている理由の1つになっています。

 今は非正規労働者の処遇改善のチャンスです。労働組合の出番です。
 労働組合と労働者は、経団連の抵抗に対抗する運動を進めていく必要があります。
 労働分配率の低下を転換させ、大幅な最低賃金を実現させ、労働者の権利、生活権を保障させなければなりません。
 そして賃金だけでなく、非正規労働者を共同体の “内輪” ・仲間として位置づけ、力量アップのために教育・訓練の機会を保障し、ともに活躍できる場を保障させなければなりません。
 EUに倣うというなら、社会、会社における労働者の地位、人権についても検討される必要があります。


   「活動報告」 2016.12.02
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