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自殺者は本当に減ったの?
2014/04/01(Tue)
 4月1日(火)

 3月13日、警察庁と内閣府は2013年の自殺者数を発表しました。2万7,283人です。
 98年以降3万人を超えていましたが、ピークだった09年の32845人以降は減少を続け、10年31690人、11年30651人、そして12年からは2万人台になり27858人です。
 政府は07年6月に 「自殺総合対策大綱」 を閣議決定し、16年までに05年から20%以上減らす・「2万4000人台」 を目標設定しました。09年度に、自殺対策を支援する基金を都道府県に創設し、12年度までに118億4,000万円が市町村や民間団体などの活動に充てられました。

 13年は、全体の68.9%が男性。職業は 「無職者」 (学生や児童生徒は除く) が6割。年代別では60代が17.3%、40代16.8%、50代16.4%、70代13.9%です。
 遺書などから原因や動機を特定できた2万256人についての分析 (現場の警察官が最大3項目選択) は、最多が 「健康問題」 (うつ病5,832人、身体の病気4,463人など) 1万3,680人 (前年比0.4%増)、次いで 「経済・生活問題」 (生活苦1,277人、多重債務688人など) 4,636人 (11.2%減)、「家庭問題」 (夫婦関係の不和1,002人、家族の将来悲観587人など) 3,930人 (3.9%減)、職場の人間関係などの 「勤務問題」 (仕事疲れ649人、職場の人間関係539人など) 2323人 (6%減)、「男女問題」 912人 (11.9%減)、学業不振 (135人) やいじめなどの 「学校問題」 375人 (10.1%減) です。
 「健康問題」 では 「統合失調症の悩み・影響」 の増え方が最も大きく10% (115人) 増。「経済・生活問題」 では、「多重債務」 の減り幅が最も大きく、17% (151人) 減、なかでも40代と60代の減少ぶりが目立ちます。「就職失敗」 は20代に顕著で30% (45人) 減でした。

 「経済・生活問題」 が減少したと政府は吹聴したいのでしょうが、絶対数は多いです。もっと細かく分析しないとわかりません。少なくとも 「経済・生活問題」 が改善されたのは株主や一部の労働者でそれ以外のものにとっては実感がありません。いびつな 「経済・生活問題」 の“改善”が 「就職失敗」 を生み出しています。
 「勤務問題」 については、警察が作成しる報告書では失業者は労働者と扱われません。仕事が原因でうつ病に罹患して長期に失業している者は「無職者」 の扱いです。ですからこのデータからは本質的問題が見えません。
 自殺予防対策は、長時間労働や雇用不安などの 「危険因子」 を取り除く具体的取り組みが必須です。


 東日本大震災関連の自殺と判断されたのは38人です。12年24人、11年 (6月から12月) 55人です。
 38人の内訳は、福島県23人 (前年比10人増)、宮城県10人 (7人増)、岩手4人 (4人減)、福島県からの避難者1人です。
 原因・動機は、「健康問題」 22人 (前年比11人増)、「経済・生活問題」 9人 (4人増)、「勤務問題」 (仕事の失敗、職場環境の変化など) 5人 (3人増) です。「健康問題」 の内訳は 「うつ病」 13人 (5人増)、「身体の病気」 8人 (6人増)、「経済・生活問題」 は 「事業不振」 2人 「失業」 2人、「負債」 3人、「生活苦」 2人 (2人減) です。

 孤立していると自殺に至ることが多いと言われますが、1人で生活していると自殺しやすいということではありません。孤立と1人で生活することは違います。むしろ自殺者は家族と同居している者に多く、自分の意思で1人暮らしをしている者にはいないと言われます。
 被災地ではこれまでの共同体が壊されて1人暮らしの孤立が強いられています。
 このことをふまえた対策が必要です。

 被災地の自殺防止対策は、3月25日の 「活動報告」 で報告した、精神科の医師である岩井圭司兵庫教育大学大学院教授の講演を部分再録します。

「復興期の心のケアとしてPTSDは早く治してあげた方がいいし、トラウマでうつ病になった方も心のケアが必要です。被災地でのアルコール依存症の問題も大きな問題です。そのような大切な問題がありますが、一番大切なのは自殺防止対策です。取り返しのつかないことを起こさないことが大切です。
 自殺予防のためには横軸と縦軸の対策が必要です。横軸は横断的に見た時、ある人は別の人よりもハイリスクを背負っていて統計的に将来自殺する確率が高い。そういう人には随時注意が必要です。
 縦軸は、同じ人でも行動が変化してきたら自殺が迫っているんじゃないか、自殺しようと考えているのではないかという危険サインです。
 そのように横軸と縦軸でみていくことが必要です。」


 自殺者数の資料は警察庁の発表です。
 月別自殺者数の推移をみると、2011年5月が他の年の5月と比べて飛び抜け、6月もそうです。その後、例年なら増加する10月も含めて下降の一途を続けます。その傾向は2012年、13年と続きます。
では 2011年7月以降減少するような状況が生まれたのでしょうか。
 精神科医や相談を受けている機関は理由が 「わからない」 といいます。「これまでひどすぎたのだから高止まりではないか」 ということぐらいしか思い当たらないと言われます。

 12年6月22日、総務省は自殺予防対策の推進が不充分だと内閣府、文部科学省、厚労省に改善措置を勧告します。
 8月に厚労省医事課から、死体を改めて診察した際に異常があると認められる場合以外は、警察への届け出義務は生じないということを周知させる通達が出されました。医師の 「裁量」 が拡大しました。医師、警察共に業務が軽減になります。警察に届け出なければ自殺者数のデータには含まれません。
 それまで対応があいまいだったと国会でも問題になったこともあってのマニュアル化です。これを機に厳しくなったのではありません。緩くなっていたのを追認したのです。
 現在の日本の年間異常死者は10万人を超えると言われます。その中の突然死、病気や殺人以外の明らかに遺書などで原因・動機がはっきりしていて自殺と判断できるものだけが警察からカウントされます。警察にも 「裁量」 があります。
 監察医は極端に不足しています。異状死に対しては、警察官や立ち会いの医師が死体の表面検査だけで死因を決めています。自殺者数はもっと多いと思われます。

 このような 「操作」 が行われていたとしたら、本当に必要な対策は取られなくなります。
 繰り返しますが、自殺予防対策は 「危険因子」 を取り除く具体的取り組みが早急に必須です。
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体調不良は職場環境のなかで原因があって発生している
2013/03/22(Fri)
 3月22日(金)

 2月28日、自殺対策に取り組んでいるNPO法人ライフリンクは 「自殺実態白書2013」 を公表しました。2007年から2012年までに亡くなった方の遺族ら523人の協力を得て、5年間かけて聞き取り調査を行い、自殺に至るまでの過程・プロセスなどを分析し、まとめあげたものです。
 労作です。

 今回の調査からは、それぞれの属性によって自殺に追い込まれるプロセスが大きく異なっていることが浮き彫りになってきたといいます。そのことを踏まえて、属性ごとの自殺の特徴 (危機経路や援助希求の有無等) を明らかにしています。

 始めに調査から見えてきたことを10項目あげています。
 1.自殺の危機要因となり得るものは69個ある。自殺で亡くなった人は、「平均3.9個の危機要因」 を抱
  えていた。
 2.職業等の属性によって、「自殺の危機経路 (プロセス)」 に、一定の規則性がみられた。
 3.最初の危機要因 (出発要因) の発現から自殺で亡くなるまでの日数は、職業等の属性によって大き
  く異なり、「自ら起業した自営業者」 が最も短くて、その50%が2年以内に亡くなっていた。
 4.正規雇用者 (正社員+公務員) の25%は、配置転換や昇進等の 「職場環境の変化」 が出発要因
  となっていた。
 5.うつ病は、自殺の一歩手前の要因であると同時に、他の様々な要因によって引き起こされた 「結果」
   でもあつた。うつ病の 「危機複合度 (その要因が発現するまでに連鎖してきた要因の数)」 は、3.6と
  非常に高かつた。
 6.実は、自殺で亡くなった人の多くが 「生きよう」 としていた。亡くなる前に、行政や医療等の専門機関
  に相談していた人は70%に上った。亡くなる1か月以内に限つても48%が、何らかの専門機関に相
  談に行っていた。
 7.専門機関に相談していた人の約50%は、相談した当日に自殺で亡くなっていた。
 8.若年女性 (10~20代) の67%に、自殺未遂歴があつた。
 9.過去に虐待やいじめ等を受けた経験が 「自殺の遠因」 になっていた可能性のある人は、14%に上っ
  た。女性が19%と、男性 (12%) より高かつた。
 10.明確に 「自殺のサイン」 と呼べるものがあるわけではなかつた。「自殺のサインがあったと思うか」
  との問いに 「あつたと思う」 と答えた遺族は58%いたが、「それが発せられた時点でもそれを自殺の
  サインだと思ったか」 との問いには、遺族の10%しか 「思った」 とは答えなかつた。

 自殺に至るまでの平均年月は5.0年 (中央値)、7.5年 (平均値) です。


 自殺の危機要因となり得るものは69個ありましたが、そのうち 「勤務問題」 として抱えられていたのは、多い順に、職場の人間関係 (95)、過労 (69)、仕事の悩み (51)、職場環境の変化(配置転換)(43)、仕事の失敗 (39)、職場環境の変化 (転職)(19)、職場環境の変化 (昇進)(17)、休職 (113)、職場のいじめ (11)、職場環境の変化 (降格)(6)、定年退職 (3)です。
 現在の職場環境と孤立している労働者の姿が浮かびあがってきます。

 正規雇用者 (162人) についての10大要因は、育児の悩み、介護疲れ、職場環境の変化、過労、職場の人間関係の悪化、身体疾患、家族間の不和 (夫婦)、仕事の悩み、仕事の失敗、負債 (多重債務等)、うつ病です。抱えられていた危機要因の数は平均4.0個です。
 自殺に至るまでの平均年月は4.0年 (中央値)、6.3年 (平均値) です。
 亡くなる前にどこかの専門機関に相談していた割合は64.6%、1か月以内に相談していたのは44.7%です。
 非正規雇用者 (41人) についての10大要因は、統合失調症等、家族間の不和 (親子等)、職場の人間関係の悪化、家族間の不和 (夫婦)、身体疾患、失業・就職失敗、将来生活への不安、負債 (多重債務等)、生活苦、うつ病です。
 抱えられていた危機要因の数は平均3.9個です。
 自殺に至るまでの平均年月は6.9年 (中央値)、8.1年 (平均値)です。
 亡くなる前にどこかの専門機関に相談していた割合は66.0%、1カ月以内の相談は39.6%です。
 正規雇用者の10大要因には含まれているが非正規労働者にはないのが、育児の悩み、介護疲れ、職場環境の変化、過労、仕事の悩み、仕事の失敗です。逆に非正規雇用者の10大要因には含まれているが正規労働者にはないのが、統合失調症等、失業・就職失敗、将来生活への不安、生活苦です。
 正規労働者は長時間労働が家庭生活に及ぼしていることが窺えます。非正規労働者は、雇用不安・不安定、生活不安定の悪循環が窺えます。

 事例です。(「→」 は連鎖を、「+」 は問題が新たに加わってきたことを示す)
 【被雇用者 (労働者)】
  ① 配置転換 → 過労 + 職場の人間関係 → うつ病 → 自殺
  ② 職場のいじめ → うつ病 → 自殺

 自営業者・自ら起業 (55人・個人事業主を含んでいるのかどうかはわかりませんが) についての10大要因は、事業不振、身体疾患、失業日就職失敗、過労、保証人問題、負債 (多重債務等)、生活苦、借金の取り立て苦、家族間の不和 (夫婦)、うつ病です。
 抱えられていた危機要因の数 (平均) 4.6個です。
 自殺に至るまでの平均年月2.0年(中央値)、4.0年 (平均値)です。
 亡くなる前にどこかの専門機関に相談していた割合は63.3%、1カ月以内の相談は42.4%です。特徴としては、自殺に至るまでの年月が最も短い。保証人問題が大きく効いています。
 事例です。
 【自営者】
  ① 事業不振 → 生活苦 → 多重債務 → うつ病 → 自殺
  ② 介護疲れ → 事業不振 → 過労 → 身体疾患 + うつ病 → 自殺
 【失業者、等】
  ① 身体疾患→ 休職 → 失業 → 生活苦 → 多重債務 → うつ病 → 自殺
 です。

 それぞれの10大要因にうつ病、危機経路の自殺の一歩手前がうつ病です。
 うつ病に罹患するのは原因があります。これは自殺問題だけではありません
 せっかくの「自殺実態白書2013」をきちんと活かすなら、配置転換、過労、職場の人間関係、職場のいじめなどの問題への取り組みをしないうつ病対策はありません

 今、「労働安全衛生法案」 が上程されようとしています。
 「職場におけるメンタルヘルス対策の推進」 として、事業者に通常健康診断とは別にメンタルヘルスの不調者を見つけるために検査・スクリーニングを義務付けようとしています。
 現在職場で行われているスクリーニングは体調不良者の排除を目的にしているものが多くあります。だから正直に対応する労働者は多くありません。そうすると労働者がその後に体調不良に陥ると使用者の安全配慮義務は免責され、自己管理責任となります。
 体調不良は職場環境のなかで原因があって発生しています。使用者は、体調不良者を 「摘出」 する前に配置転換、過労、職場の人間関係、職場のいじめなどの問題に取り組む必要があります。
 厚労省はこのことを真剣に検討する必要があります。それをしないでスクリーニングだけを義務づけるのは、労働者をますます窮地に追い込みます。
 「労働安全衛生法案」 は危険です。

 労作 「自殺実態白書2013」 を、実態を知ることで済ませるのではなく、予防・防止対策として活用していく必要があります。


   当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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自殺防止は 「社長、社員を安眠させていますか」 をスローガンに
2013/01/25(Fri)
 1月25日(金)

 1月17日、警察庁は2012年の自殺者数の速報値を発表しました。1998年から3万人を超え、「自殺者数3万人時代」 と言われていましたが、3年連続で減少し、3万人を切って27.766人です。男性が19.216人、女性が8.550です。
 「白書」 は毎年5月頃に発表されますが、この間の様々な取り組みの効果が出ていることは確かです。民間団体は、自殺者を水際で止めています。また自治体も取り組みを開始、対策窓口などを設置しています。

 自殺者の報告書の様式は警察庁で統一しています。傾向を探る目的もあるのでしょうが長年変更されていません。(2007年まで様式は未公表でした。2008年に国会での質問の積み重ねなどを経てやっと公表されました) そこでは労働者の実態は見えにくくなっています。被雇用者数ははっきりしても、失業して雇用保険が切れた労働者や未加入または雇用期間が短かくて雇用保険が適用されない失業者、個人事業主扱いの労働者は 「無職」 の数値に含まれます。
 このような 「無職」 の労働者は体調不良から経済問題が発生しています。


 これまで何度も紹介したことをまたまたします。
 2008年9月14日、第4回 「WHO世界自殺予防デー」 シンポジウムで 『自殺実態白書2008』 が発表され、その分析結果が報告されました。
 1人の自殺の背景には平均4つの 「危機要因」 があります。自殺は、ある要因が発生し、それがまた別の要因を引き起こし、要因が連鎖していきながらいわばプロセスで起きています。そのプロセスを 「危機経路」 と呼びます。
 例えば、被雇用者の事例としては
  ① 配置転換 → 過労 + 職場の人間関係 → うつ病 → 自殺
  ② 昇進 → 過労 → 仕事の失敗 → 職場の人間関係 → 自殺
  ③ 職場のいじめ → うつ病 → 自殺
 離職者(就労経験あり)の事例としては
  ① 体調疾患 → 休職 → 失業 → 生活苦 → 多重債務 → うつ病 → 自殺
  ② 帯保証債務 → 倒産 → 離婚の悩み + 将来生活への不安 → 自殺
  ③ 犯罪被害 (性的暴力) → 精神疾患 → 失業 + 失恋 → 自殺
などが挙げられています。
 この連鎖を断ち切ることが自殺対策になります。

 自殺者数は警察署ごとに発表されますが、2004年から2006年までの被雇用者の多い警察署をリストアップすると (警察署の規模、人口数は違うことを踏まえなければならないが)、1位が愛知・豊田、2位が山梨・富士吉田、3位が福岡・筑紫野、4位が北海道・苫小牧、5位が北海道・北、6位が神奈川・厚木……の順になっています。2位の山梨・富士吉田は富士山を管轄しています。
 この分析を首都大学東京の宮台教授が報告しました。特徴として①工業地帯 (隣接) が多い、②地方都市が多い、③製造業が多いなどがあげられました。そこの製造業の特徴は①国際的競争から長時間労働が多い、②24時間交代の深夜労働がある、③誘致してもらったという地域性は労働法規を守りにくくしている、④非正規労働者 (特に派遣労働者) が多い、⑤成果主義・ノルマに負われている、です。

 このシンポジウムは土曜日でしたが、翌日はかのリーマン・ブラザーズが倒産し、その後、世界的な不況に陥りました。
 せっかく自殺防止対策の方法が発見されたのですが、打ち消されてしまいました。そして派遣労働者が大量に解雇されていきました。秋葉原で派遣労働者による殺人事件も起きてしまいました。
 入学試験のシーズンです。合格に向けては 「わからなくなったら基本に戻る」 「大切なところは繰り返す」 「いつやるのか、今でしょう」 です。
 その後労働者への対策は進んでいません。入学試験なら、自ら不合格になっています。


 なぜこのことを繰り返して紹介するのかというと、大手電機メーカーの工場閉鎖、退職希望者募集と自殺者数の関連性が気になるからです。本工だけが問題にされていますが関連会社、下請会社、非正規労働者を含めたらかなりの労働者が解雇されています。2007年の分析結果のようなことが繰り返される危険性があります。
 昨今 「追い出し部屋」 で問題になっている (実際はかなり前から存在し続けています) メーカーで自殺者が出ているという情報があります。社内のトイレで発見されましたが、すぐに箝口令が布かれ、会社は突然死と発表したと言います。大手企業は隠す手法も持っています。
 このような数は自殺者数に含まれません。労働者の自殺者数は実際はもっと多いです。
 安倍政権は経済成長の後に雇用創出ができると言っています。命が後回しになっていいます。

 政府は自殺防止対策の検討会を開催しました。そのなかで 「スクリーニング」 が提案されました。そして 「おとうさん、眠れてますか」 のスローガンを盛り込んだポスターを作製しました。
 それを受けて厚労省は今、労働者の体調管理のために労働安全衛生法を改定して使用者にストレスチェックのスクリーニングを義務付けようとしています。家庭では家族がお父さんのチェックをします。使用者の過重労働防止などは免罪です。
 労働者が健康を害さないための措置は、「作業環境管理」 「作業管理」 「健康管理」 の順序でおこなう必要があり、「作業環境管理」 「作業管理」 を抜きにして 「健康管理」 はありえません。「健康管理」 だけの手法は、長時間労働の固定に利用され、体調不良の労働者の排除に繋がる危険性があります。
 お父さんが過労死などに至った時、家族はお父さんのチェックが不充分だったと責任転嫁されかねません。労働者のメンタルヘルス対策を促進させるきっかけになった 「電通過労死裁判」 の控訴審判決は、両親が一緒に生活していながら監視を怠ったという理由で一審判決の賠償額を減額したことがありました。

 政府の 「自殺総合対策大綱」 には、「社会的要因も踏まえ総合的に取り組む」 と書かれています。しかしこれはいいろんなところにも書かれていますが枕詞でしかありません。
 労働者の健康管理は自己責任でも家族の監視責任だけではありません。まずは使用者の責任です。
 対策を小手先だけで進めてもすぐに行き詰ります。
 「社長、社員を安眠させていますか」 をスローガンにする必要があります。

 2011年3月5日、NPO法人ライフリンクは 「いのち支えるシポジウムこれからの 『自殺対策』 の話をしよう」を開催しました。会場に展示された自死者の生きざまを語るパネルのタイトルは 「弱かったのは個人ではなく支える力でした」 でした。


 暗い話だけではストレスがたまりますので明るい話を。
 『日本社会精神医学会雑誌』 に慶応大学大学院の岡檀教授と山内慶太教授の論文 「自殺希少地域における自殺予防因子の探索――徳島県旧海部町の住民意識調査から」 が載りました。それを読んで現地を訪れた森川すいめいさんの報告 「自死の少ない町に――徳島県旧海部町を歩く」 がみすず書房の 『みすず』 2012年12月号に載っています。抜粋して紹介します。

 「その町で生まれた互助グループが、朋輩組だ。その組の最大の特徴は、排他性が少ないことだという。日本でもっとも自死の少ない町の仕組みは、おそらくこれにある。」 「話を聞いていく中で朋輩組には、3つの力が伸びる仕組みがあると感じた。3つの力とは①コミュニケーション能力、②情報集積力、③危機介入力である。」
 コミュニケーション能力とは、「独居の高齢者が、孤独死するのが問題だと片方で言い、もう片方では部屋以外の居場所を奪う。」 「『ベンチがあれば、自然と人が集まって、そこでコミュニケーションが勝手に育つのです』」 です。あちこちに座るところがあり、またどこにでも座って話をします。
 情報集積力とは、「知らないことは学び、わからないことは相談し、話し合っていく。援助力はこうしておのずと伸びていく。援助力が伸びると、仕事は楽しくなる。」 「知らないことを調べる力がついている。問題は課題へと置き換えられ、課題は解決するものだと知っていると、危機介入力がきわめて高くなるから、安心して人は悩むことが出きる。」 「この町の人は相談することに慣れている。」です。
 危機介入力とは、「コミュニケーション能力が高まる利点は明らかである。たとえば、お互いに仲違いするような誤解があったときには、ことばや行動によって誤解は解決されやすくなるし、調子の悪くなったときは、『調子が悪い』 と遠慮なく話せるようになる。この町の格言がある。『病は市に出せ』 こうして、何かあった時にすぐに助けられるようにもなっている。」 「この町は 『申し訳ない』 と思う人が少ないそうだ。」 「この町は、精神病院に入院しなくてもいいようになっていると言う。それは、個人を尊重することの繰り返しによって、ひとりひとりが自分のペースで生きられるからと思われた。」 です。

 どれも難しいことではありません。
 町を職場に言い換えることができる環境を作りたいものです。 

  
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労働相談は自殺防止に寄与している
2012/06/26(Tue)
 6月26日(火)

 2011年度版の自殺対策白書が発表になりましたが、6月22日、総務庁は政府の進める自殺予防対策の推進が不十分だとして内閣府と文部科学省、厚生労働省に改善措置を勧告しました。やっと深刻さに気付いたのでしょうか。
 自殺者数は、1998年度から3万人台になりました。それから10年以上経ちますが減る傾向になりません。実際には、関係省庁は努力をしていないのです。
 日本の官庁は、何かへの対策をとるというとき、データを集めて分析をした資料を公表します。しかしそれで終わります。「提言」や法律は棚上げするために作成されます。担当者はそれだけではやりがいがなく、つまらないと思われますが官庁というところはそれで満足しています。ここが一番の問題です。

 今年1月に内閣府は、「自殺対策に関する意識調査」を実施しました。20歳以上の3.000人にアンケートを実施し、2.017人から回答を得た集約結果が5月2日に発表されました。新聞見出しは「『自殺考えた』4人に1人 内閣府調査、20代高い割合」です。
 自殺は個人の問題であるといわれていることについて、「そう思う」と答えた者が16.6%、「そうは思わない」が65.7%、「わからない」が17.0%です。
 自殺対策は社会的な取組として実施する必要があると思うかの質問に、「必要がある」と答えた者が77.9%、「必要がない」と答えた者が6.4%、「わからない」が14.3%となっています。
 個人の問題ではないので社会的取り組みが必要という結論になりますが、実際に行われているのは「個人への取り組み」です。

 「本気で自殺したいと思ったことがある」と答えた者が23%。各年代で自殺を考えたことがある者の割合は、20代が28%、40代は27%、50代は26%でした。「最近1年以内」に自殺を考えた者は5%。20代では10%でした。
 「自殺したいと思ったことがある」と答えた472人に、どのように乗り越えたかと質問しています。「家族や友人、職場の同僚など身近な人に悩みを聴いてもらった」と答えた者が38.8%、「趣味や仕事など他のことで気を紛らわせるように努めた」と答えた者が38.6%、「できるだけ休養を取るようにした」が18.0%、「医師やカウンセラーなど心の健康に関する専門家に相談した」が8.5%です。

 不満や悩みやつらい気持ちに耳を傾けてくれる人がいるかの質問をしています。男性では「いる」90.3%、「いない」8.6%、女性では「いる」94.7%、「いない」4.0%となってます。性別・年齢別に見ると、いずれの年代も「いる」と答えた割合は女性より男性が低く、中でも20歳代が最も低くなっています。この二者択一の設問にどのような意味があるのでしょうか。
 全回答者のうち悩みを抱えた時に誰かに相談したり、助けを求めたりすることにためらいを感じているが43%でした。
 自分がうつになった場合、どのような支障が生じると思うかとの質問をしています。複数回答で「家族や友人に迷惑をかける」が67.0%で最も高く、「職場の上司や同僚に迷惑をかける」が24.9%、「誰にも打ち明けられずに、一人で何とかするしかない」が23.2%、「仕事を休みたくても休みが取れない」が18.2%、「うつ病に対する職場の理解が得られにくいと不安を感じる」が12.8%、「家族や友人が離れていきそうで怖い」が10.7%、「職場での昇進や昇給に影響する」が5.5%となっています。

 せっかく意識調査を実施して、今までに「自殺したいと思ったことがある」と答えた人が472人いましたが動機について聞いていません。もったいないことです。
 自殺対策白書は自殺の動機を発表していますが、警察が使用している自殺者に対する報告様式での集約では職業や動機などがはっきりしません。以前から同じ様式を使用していて改善がされません。
 例えば、失業者とは雇用保険受給中の者で、終了した者やそもそも加入していなかった労働者は「無職」と扱われます。動機は「病気」が圧倒的ですが、何が原因で病気になったのかということには“関心を示したくない”ようです。「自殺の危機経路」が言われて久しいですが、「病気」の手前は問題にされません。本気で取り組む気がないのと同時に、そこにメスを入れることはタブーのようです。
 「ゲートキーパー」「気づき」は「個人への取り組み」です。「自殺防止対策」から自殺を起こさない社会構築、体調不良者を出さない職場環境の整備への転換が必要です。自殺者を止めるのではなく、自殺を考える者をいなくする対策です。


 個人加盟のユニオンや労働安全衛生センターは日常的に労働相談を受けています。精神疾患に罹患している相談者のほとんどが話をしていくうちに「自殺しようと思った」「自殺に失敗した」などと口にします。そう語ることができた労働者は自殺をしません。自殺をしないのは、するなと説教されたからではありません。体調を崩した原因を解消する方法、問題の解決策を一緒に探るからです。安心と信頼関係を作るからです。
 その中には、職場で孤立させられた、上司から理不尽な扱いをされた、過重な労働を担わされた、長時間労働が続いている、不当な処遇を受けたなどなどたくさんの原因があります。
 労働相談を受けている者は、自殺防止に寄与していると自負します。本気で対策をとるというのなら、関係省庁は是非意見聴取をしてほしいと思います。
 
 「家族や友人に迷惑をかける」「職場の上司や同僚に迷惑をかける」「誰にも打ち明けられずに、一人で何とかするしかない」「仕事を休みたくても休みが取れない」「うつ病に対する職場の理解が得られにくいと不安を感じる」「家族や友人が離れていきそうで怖い」はすべて労働問題です。労働現場の問題と捉えてしか解決できません。
 しかし相談者の中にはカウンセラーや行政機関窓口などに相談したら頓珍漢なことを言われたと語る者がたくさんいます。
 具体例を挙げます。「職場で孤立させられた」というと「気持ちを持ち直して頑張りなさい」。「上司から理不尽な扱いをされた」というと「我慢をすることも必要です」。「過重な労働を担わされた」というと「仕事の進め方を工夫してみては」。「長時間労働が続いている」というと「ほかの人も長いんですよね」。「不当な処遇を受けた」というと「仕事があるだけでも恵まれていますよ」。
 カウンセラーは本当に危険です。すべて本人のせいにし、自助努力を強います。人格を変えようとします。専門外でわからないから専門機関に行った方がいいというアドバイスをしないで職域を守ります。
 関係省庁が本気で取り組む気がなく、本質的問題にメスを入れることをタブーにしていることとカウンセラーや行政機関窓口の職域防衛は結託しています。

 労働者は過重労働や長時間労働など物理的に追い込まれたうえに精神的ゆとりも奪われているのです。カウンセラーや行政機関窓口担当者はそのような認識もなく相談者に対応するのです。そのため相談者が激昂したり、激論になったという話をしばしば聞きます。相談者が悪いのではありません。あきらめや怒りの先は失望です。

 労働相談ができるところにたどり着けた労働者は幸運です。しかし多くはそこまで至りません。
 精神科医は労働現場を知りません。しかし医師が労働問題は専門外なので労働組合に相談するようにとアドバイスをし、医師と労働組合が連携すると紛争の解決は早まります。成功例はたくさんあります。

    「ぼくの夢」

   大きくなったら
   ぼくは博士になりたい
   そしてドラえもんに出てくるような
   タイムマシーンをつくる
   ぼくはタイムマシーンにのって
   お父さんの死んでしまう
   まえの日に行く
   そして「仕事に行ったらあかん」ていうんや
    (父親を過労自殺で亡くした小学校1年生が書いた詩)

 子どもに「仕事に行ったらあかん」と言われるような職場をなくすことが自殺防止対策としてまず最初にしなければならない課題です。やらなければならない課題ははっきりしているのです。 

  
   
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「お父さんは眠れていない」 睡眠保障は会社の責任
2012/01/31(Tue)
1月31日(火)

 1月10日、警視庁がまとめた2011年の自殺者数が30.513人と発表されました。
 残念ながら、14年連続で3万人を超えてしまいました。しかし2年続けて減少です。
 昨年6月に発表された内閣府発表の「平成23年版 自殺対策白書」については6月14日の「活動報告」で触れましたが、もう少し労働者の実態を見てみます。

 職業別推移をみると、被雇用者(労働者)は1997年までの6.000人未満から98年に急増し、それ以降は8.000人前後を推移しています。
 無職者は97年までの1万1.000人台から、98年以降は1万5.000人台を維持しています。無職者とは、警察の資料は、自営業や学生以外の雇用関係がないもの、雇用保険の受給者も含みます。一応失業者のデータはありますが、無職者と失業者の区別ははっきりしません。自殺者数は決算期に多いという状況みられるので、その動向は失業率と似ているというのは当たっていないとは言われています。

 年齢別に見てみます。
 男性は15歳から24歳1.326人、25歳から34歳2.657人、35歳から44歳3.668人、45歳から54歳4.131人、55歳から65歳4.988人です。年齢が上がるとともに増えています。
 98年に急増した時、すべての年齢別がそうでしたが、特に45歳から54歳と55歳から65歳はすさまじいものでした。しかし2つの年齢別においてはその後の減少も目立ち、特に45歳から54歳においてはピーク時から1.500人の減少になっています。この辺をもう少し詳しく検討すると防止対策方針が見えてくるように思われます。
 女性は15歳から24歳605人、25歳から34歳1.085人、35歳から44歳1.224人、45歳から54歳1.102人、55歳から65歳1.387人です。年齢が上がるとともに増えていますが、男性の3分の1です。

 データは年齢別分類区分を変えていますが、被雇用者が占める割合は、男性は20代 44.1%、30代49.5%、40代46.0%、50代39.8%です。女性においては20代30.8%、30代26.9%、40代22.1%、50代16.8%です。
 無職者が占める割合は、男性は20代35.6%、30代42.3%、40代40.0%、50代41.0%です。女性は20代53.6%、30代70.3%、40代72.4%、50代76.6%です。

 被雇用者のどの業種が多いかということについては、労働人口における構成割合・数が明らかにされていませんのでわかりません。
 都道府県別の被雇用者、無職者の割合にも特別気になるような大きな差は案と思われます。

 白書には「職場におけるメンタルヘルス対策の推進」との項目で、労働者に対する対策が載っています。
 「『労働者健康状況調査』(平成19年)(厚生労働省)によると、仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者が約6割に上っている。」から始まり、メンタルヘルス対策に対する法改正、指針などが紹介されています。しかしその成果については触れられていません。
 成果が上がっていないのは、実効性があるような政策ではないからです。内閣府が提言しても厚労省が拒否します。厚労省が提言しようとしても使用者が拒否します。
 労働者の不安、悩み、ストレスは職場で起きています。しかし政府と使用者は職場の問題として解決するのではなく、つまりは核心を外して個人的問題として対応を迫ります。

 具体的に、労働時間や睡眠時間不足の問題があります。
 内閣府が作成している「共生社会政策」「いのち支える自殺対策」のホームページの「睡眠キャンペーン」は現在も相変わらず「お父さん、眠れてる?」が載っています。
 同じコーナーに「睡眠に関するQ&A」があります。
 そこには「もともとその人が必要としている睡眠時間には大きな個人差があるため、何時間以上眠れば大丈夫、という万人に通じる基準はありません。」「適正な睡眠時間の量について、万人に当てはまる基準を設けることはできません。これは必要とされる睡眠時間に個人差が存在するためです。発明家のエジソンの睡眠時間は非常に短かったと言われていますが、一方で、物理学者のアインシュタインは1日に10時間以上眠っていたそうです。」とあります。使用者や受験生の親・受験業者が見たら泣いて喜ぶ内容です。
 このようなことを平気で載せているということは、内閣府が自殺者を生み出していると言えるのではないでしょうか
 その中で、労働者が体調不良に陥ったら、労働者の自己管理と「お父さん、眠れてる?」とチェック・監視をしなかった家族の責任とさせられます。
 労働者が不愉快になるようなキャンペーンはいい加減やめてほしいものです。

 なぜ長時間労働、睡眠時間不足が発生しているのか。ノルマ、人員不足、責任感と支援体制の不在、雇用不安などなどです。子育てとローンを抱えて家族のために我慢をしている世代が多いのはその理由です。
 長時間労働は、前々回にも触れましたが、労働者の生活のバランスが保てなくなり安眠が確保できません。体調を崩します。
 長時間労働、睡眠時間以外にも、ノルマやいじめなど原因はたくさんあります。これらはすべて職場の問題です。
 しかし会社は、労働者の自殺を家族の悲劇と捉えても、一過性の問題と扱い、会社の悲劇や損失とは捉えられていません。労働者を人材とみていません。悲劇が悲劇を生み出しています。
 
 数字からも、自殺防止対策は、雇用政策・失業対策抜きにしては語れません。
 白書には、「失業者等に対する相談窓口の充実等」とあります。
 確かにハローワークの機能は以前と比べたら改善は図られています。
 しかし、基本的には、求職者をどこかに押し込んで事足れりという対応が強いということをよく聞きます。特に、委託されている民間事業者にその傾向が強いようです。中味ではなく件数稼ぎです。さらにカウンセラーやアドバイザーが「精神論」を振り回すとも聞きます。
 日本においてはカウンセラーが氾濫していますが、自分の価値観を押し付けたり、相談者・クライアントの人格を否定したり、変えようとするのはカウンセリングとは言いません。人格に対する暴力です。
 失業者等に対しては、住宅問題をはじめとする生活の保障による心身の安定、その時間的保障が必要です。
 求人会社が即戦力を要求するなかで、教育・訓練の機会の「格差社会」は自己責任では克服が困難です。再起に向かっての職業訓練の機会の提供が必要です。現在の期間は短すぎます。
 失業が社会に対する失望と同義語になっているのは克服されなければなりません。
 
 政府が「問題がある」「困った」と言えば深刻な事態をきちんと捉えているように受け止められがちですが方便にしか聞こえません。
 本当に困っているなら、現場労働者から直接実態と希望・要望を聞いてみればいいのです。実態と『白書』とは大きなかい離があります。 


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