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当たり前の生活ができる最賃に
2017/07/28(Fri)
 7月28日 (金)

 厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会の小委員会は25日夜、2017年度の最低賃金 (時給) の引き上げ額について、全国の加重平均で25円・3%上げるべきだとの目安をまとめました。現在の全国平均は823円です。実現すれば全国平均は848円になります。
 安倍政権は 「1億総活躍プラン」 で、毎年3%引き上げて全国平均1000円とする目標を掲げ、賃上げで景気浮揚を狙っています。今年3月にまとめた「働き方改革実行計画」にも同じ目標を明記しています。政府は企業への賃上げの呼びかけを続け、2020年までに「1000円」に引き上げることを目指しています。
 今年も物価や所得水準などの指標をもとに都道府県をA~Dの4ランクに分け、ランクごとに目安額が提示されまし。東京など大都市部のAランクは26円。Bは25円、Cは24円、Dは22円。この目安を参考に都道府県ごとに引き上げ額を決め、秋以降に順次改定されます。現在の最高は東京都の932円で、最低は沖縄の714円です。

 厚労省は、第2回の小委員会に資料を提出しました。今年の春闘の連合における妥結状況と高校卒の決定初任給です。
 連合調査の非正規労働者の春闘妥結状況は、時給の値上げ額は、単純平均は20.46円、平均時給965.13円、加重平均は21.29円、平均時給952.18円です。
 労務行政研究所による東証第1部上場企業と生命保険、新聞、出版でこれに匹敵する大手企業を調査対象にした高校卒の決定初任給は、事務・技術職一律166.231円、現業167.759円です。
 1か月の労働時間を8時間×21.75日 ((365日-104日) ÷12ヶ月) =174時間として計算すると
 平均時給965.13円×174時間=167.932円です。
 高校卒の決定初任給とほぼ同じ額になります。
 つまりは、非正規労働者の賃金は年齢や経験年数に関係なく高校卒の初任給とほぼ同じ額になります。
 しかし非正規労働者の賃金965.13円は労働組合に組織された労働者の平均で、最高の東京都よりも高い額です。これを非正規労働者の実態とみることはできません。
 最低賃金は都道府県によるばらつきのなかで各ランクのギリギリの賃金で働いている労働者も大勢います。


 海外ではすでに19世紀後半から最低賃金に関する法律が制定されます。
 理由は、賃金は労使の交渉によって決定されるべきで国家が介入すべきではないが、そうすると組織されていない労働者や家庭内労働などの労働者が低賃金のままに置かれるという事で該当しないということで最低賃金の決定機関が必要という声が大きくなっていきます。
 1928年、ILOは26号条約 「最低賃金決定制度の創設に関する条約」 を批准します。条約は、「団体協約その他の方法によって賃金をきめる制度が存在しない、あるいは賃金が非常に低い職業に従事する労働者を保護するため、最低賃金率をきめる制度を作ることを目的とした条約である。」 を目的としています。

 1970年、ILOは131号条約 「開発途上にある国を特に考慮した最低賃金の決定に関する条約」 を採択します。
 条約の目的は、
「最低賃金については、1928年の最低賃金決定制度条約 (第26号) や1951年の最低賃金決定制度 (農業) 条約 (第99号) があり、重要な役割を果たしてきた。しかし、第26号条約は賃金が非常に低い限られた産業や業種だけを対象にしたものであった。そこで、一般的に適用されるが、発展途上国のニーズを特に考慮した新たな条約を採択する時期がきたとして、本条約が採択された」
です。 規定としては
「この条約の批准国は、雇用条件に照らして対象とすることが適当な賃金労働者のすべての集団に適用される最低賃金を決定し、かつ随時調整できる制度を設置する。制度の対象集団の決定は権限ある機関が、関係のある代表的労使団体と合意または十分に協議して行う。
 最低賃金水準の決定にあたり考慮すべき要素には、可能かつ適当である限り、次のものを含む。
 1.労働者と家族の必要であって国内の一般的賃金水準、生計費、社会保障給付及び他の社会
  的集団の相対的生活水準を考慮したもの
 2.経済的要素(経済発展上の要請、生産性水準並びに高水準の雇用を達成・維持する必要性を含む)
  最低賃金制度の設置、運用及び修正に関連して、関係ある代表的な労使団体と十分協議する。」
です。
 日本の最賃制度は最賃とはいえません。


 終戦後、戦争中の賃金統制令がずっと残っていました。廃止されたのが昭和46年9月です。給与審議会ができますが、インフレと最低賃金の関係、公務員の賃金に適用したら財政にどういう影響を与えるか、最低賃金を決めるとしたら最低にするのか、標準にするのか、そういう議論が中心に議論がおこなわれます。しかし片山内閣のときの新物価体系による公定価格に入れる業種別平均賃金が出てきると、この議論は終わってしまいます。
 47年9月に労働基準法が施行されます。労働基準法の中に賃金委員会の規定があり、賃金委員会で最低賃金を審議することができる、その審議会に基づいて労働大臣が最低賃金を決めることができるという条文が入っていました。
 しかしGHQは、インフレで混乱している時期には最低賃金をやるのはあまり適当でないという意見を出したりしたこともあり、基準法ができたのですが、賃金委員会の条文だけは適用されませんでした。
 48年、経済9原則でインフレが収束すると最低賃金をそろそろ検討すべきではないかという意見がだされて50年に労働基準法および賃金審査会令による中央賃金審査会ができます。しかしその後も何段階かの議論をへます。

 戦後の賃金要求は生活給から始まりますが、能力給が登場し、毎年の賃金増が続くと産業間、企業間、さらに企業内においても個人間に格差が顕著になり、労使ともの課題になります。生活給的要素と能力給的要素をどう調和させるかが、最低補償的な要素を賃金制度の中でどう捉えるかが問題になります。
 総評は57年、「産業別最低賃金保障」 をうち出しますが中味は各企業でばらばらです。例えば、私鉄は年齢別最低補償・最低賃金18歳〇〇の要求で、おおよそ年齢30歳、勤続10年、扶養家族3人の基準時点に対する最低賃金を柱にして、年齢係数、勤続係数、経験係数、職格係数等を計算要素とした生活給賃金を要求しました。
 しかし中小企業などは置き去りになっていました。
 このようななかで最低賃金法制定の要求が大きくなり、57年5月に中央賃金審査会が再開され、59年、最初の最低賃金法が成立します。しかし業者間協定による最低賃金を認めていました。これはILO26条の決定機関に関する条項に抵触します。
 その後、ILOの国際労働基準を守れという労働組合の運動によってやっと1968年に最低賃金法が改正され、業者間協定は廃止されました。


 2007年11月28日、最低賃金法が改正されました。ワーキングプア解消を目指すため最低賃金を決める際、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」ことを明記し、9条には「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」 との文言も加えられました。
 この流れは、2009年に民主党政権になると加速しました。翌年、2010年6月に策定された政府の 「新成長戦略」 では、民主党のマニフェストに沿って、「最低賃金について、できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1000円を目指す」 ことが決められ、2020年までに達成すべき最低賃金の水準として 「全国最低800円、全国平均1000円」 という目標が設定されました。
 これでも正規労働者と比べたら6割くらいの水準です。


 高卒初任給、現在の非正規労働者の平均時給、そして生活保護はほぼ同じ水準です。
 高卒初任給は、家族と生計を一緒にするか、会社の寮などに入った時に維持できる生活費です。独立して生計を維持できるものではありません。非正規労働者も同じです。ましてや非正規労働者が一家の大黒柱であったり、扶養家族を抱えている場合は生計が成り立ちません。
 それでも 「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」 ということは、働いている者の方が働いていない者の収入を上回るということでしかありません。
 フランスでは生活困窮者への扶助は 「積極的連帯所得手当」 ととらえられ、世代をこえてだれでも生活困窮者に陥る可能性がある、そこから這い上がるための支援も必要という “持ちつ持たれる” の共通認識があります。
 しかし日本では生活困窮者にも自己責任・自助努力を強制し、そこから這い上がることも困難にしています。日本の社会福祉政策の貧困さが最低賃金の水準も決定しています。

 現在の非正規労働者の平均時給965.13円が1000円になったとしてもILO条約の 「1.労働者と家族の必要であって国内の一般的賃金水準、生計費、社会保障給付及び他の社会的集団の相対的生活水準を考慮したもの や2.経済的要素(経済発展上の要請、生産性水準並びに高水準の雇用を達成・維持する必要性を含む)」 といえるものにはなりません。
 憲法第二十五条で保障されている 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。○2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」 は、最低賃金法にはおよびません。
 その結果、生活を抱える非正規労働者はダブルジョブ、トリプルジョブをおこなわざるをえず、必然的に長時間労働を強いられています。


 最低賃金法の議論が起きると必ずでてくる主張があります。
 1つは、中小企業は人員削減をおこなわなければならないか潰れてしまうというものです。しかし中小企業のためにそこで働く労働者は我慢しなければならないのでしょうか。現在ばらまかれている雇用に関するさまざまな補助金はそのようなものにこそ優先して給付される必要があります。
 もう1つは、生活費補てんのために働く主婦パートの時給はそう高くなくてもいいのでは、賃上げを望まない人もいるというものです。その人たちは働く時間を短くすればいいのです。
 3つ目は、正規職員の本音で、高くすると正規労働者の賃金に影響が出てくるというものです。時代錯誤と言える主張ですが、使用者が賃金を抑える理由として公然と登場し、正規と非正規労働者の分断をはかります。

 最近は 「今すぐ時給1500円」 の要求が掲げられています。
 年収では年間労働時間2000時間として、1500円×2000時間=300万円です。
 これでも労働者の平均年収の8割にもなりません。
 本来の“働きかた改革”はこのようなことにもメスが入るものでなければなりません。

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PIP (業績改善計画) が退職強要に利用されている
2017/07/04(Tue)
 7月4日 (火)

 6月27日の第20回ワンコイン講座は、4月18日に厚労省が発表した第2回 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」 報告書作成に検討委員会委員として携わった労働政策研究・研修機構の内藤忍副主任研究員をおまねきして、調査から見えて来たもの、5年前の調査からの変化などについてお話を伺いました。(『実態調査』 報告書については2017年5月23日の 「活動報告」 参照)
 お話は、2011年度に全国の都道府県労働局にあっせん申請がおこなわれた 「いじめ・嫌がらせ」 の事案284件を対象に労働政策研究・研修機構が調査して2015年6月に発表した報告書 「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態 -個別労働紛争解決制度における2011年度のあっせん事案を対象に-」 についてとの比較検討も行われました。
 2つの 「報告書」 に重なる気になることがありました。

 2012年3月15日、厚生労働省は 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) を発表しました。「提言」 は、日本で初めて職場のいじめ・パワーハラスメントの概念規定・定義を行いました。「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」 です。
 続けて 【職場のパワーハラスメントの行為類型】 を挙げています。【職場のパワーハラスメントの行為類型 (典型的なものであり、すべてを網羅するものではないことに留意する必要がある)】 と断ったうえで6類型をあげています。
 ①暴行・傷害 (身体的な攻撃)
 ②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 (精神的な攻撃)
 ③隔離・仲間外し・無視 (人間関係からの切り離し)
 ④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 (過大な要求)
 ⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと (過小な要求)
 ⑥私的なことに過度に立ち入ること (個の侵害)

 「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態」 報告書は 【職場のパワーハラスメントの行為類型】 の6類型以外に大分類として 「7経済的な攻撃」 (重複計上) を取り上げています。63件ありました。これらを中分類すると 「1.経済的不利益を与えること」 の行為数43件 (15.1%)、「2.労働者の権利を行使させないこと」 の行為数20件 (7.0%) となります。
 さらに小分類がおこなわれています。「1.経済的不利益を与えること」 は 「1.経済的な不利益・制裁」 行為数14件 (4.9%)、「2.不当な評価(降格等)」 7件 (2.5%)、「3.成果の取り上げ・成果をあげる機会の取り上げ」 5件 (1.8%)、「4.事実上の解雇となる雇用の終了」 9件 (3.2%)、「5.労働日・労働時間の短縮、残業禁止命令」 8件 (2.8%) です。「2.労働者の権利を行使させないこと」 は 「6.権利の剥奪」12件 (4.2%)、「7.権利に関わる問い合わせに応じないこと」 8件 (2.8%) です。
 
 第2回 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」 報告書の企業調査で 「貴社で設置している相談窓口において、制度上対象としている相談テーマをお教えください。(複数回答可) また、従業員からの相談内容のうち、多い内容の上位2つまでをお教えください。(2つまで)」 の質問に対する回答です (回答3365社)。
 相談テーマとして 「人評価・キャリア」 39.3%、「賃金、労働時間の勤労条件」 47.4%が設置しています。そのなかで 「従業員から相談の多いテーマ (2つまで)」 は 「賃金、労働時間等の勤労条件」 18.2%、「評価・キャリア」 9.3%となっています。
 「パワーハラスメントに関する相談件数が増加した (または変わらなかった) 理由としてどのよう なことが考えられますか。当てはまるものを全てお教えください。(複数回答可)」 の質問にたいする回答で (回答1322社)、「評価・処遇への不公平感、不満が増加している」 が13.2%ありました。少なくない数値です。
 「過去3年間にどのようなパワーハラスメントに関する相談がありましたか。具体的な内容及び加害者と被害者の関係として当てはまるものを全てお教えください。(複数回答可)」 の質問にたいする回答で、6類型には含まれない 「その他」 として 「パワーハラスメントに関する相談の内容」 5.9%、「パワーハラスメントに該当すると判断した事案の内容」 2.4%がありました。

 従業員に対する質問で 「あなたの勤務先が設置している相談窓口で、あなたご自身が実際に相談したことがあるものがあればお教えください。(複数回答可)」 の質問にたいする回答 (3741人) で 「人事評価・キャリアについて」 が5.8%、「賃金、労働時間等の勤労条件について」 が5.5%ありました。
 「あなたが受けたパワーハラスメントは以下の6つの (行為類型の) どれに当てはまるかお教えください。(複数回答可)」 の質問にたいする回答に、6類型には含まれない 「その他」 が全体で6.2% (前回は8.6%) ありました。
 明らかに6類型には含まれない行為で少なくなく起きています。


 最近の労働相談のなかでは 「賃金」 「評価」 に関連する案件が目立ちます。特に、PIP (Performance Improvement Plan 業績改善計画) の相談が増えています。これが2つの報告書にも表れているのだと思われます。
 PIPとは、労働者への業績改善 (向上) のための指導方法です。具体的には、会社 (上司) が人事評価が低いと判断した労働者にたいして具体的な業績目標や取るべき行動等改善目標を設定し、期間を設けて進捗状況を確認しながら改善を促します。
 往々にして目標設定は会社 (上司) が一方的に設定し、労働者は従います。業績目標は数値だけではありません。改善目標の項目に労働者が達成できないような無理難題をわざと挙げたりすることもあります。そして改善できなかった場合には大幅な降給、さらに肩たたき・解雇にも至ります。実際には、会社が戦力外と判断した労働者や、余剰人員がでた時などにターゲットを絞ったリストラをするときにおこなわれます。会社によっては規定に 「目標達成に至らなかった場合は解雇する場合がある」 と謳っているところもあります。
 PIPは業務指導として行われます。労働者は指導なので拒否できないと思い込んで不本意ながらも従います。自分の認識とは違う能力不足を通告された時は会社にたいして不信感が生まれますが、同時に自信を喪失し、反論するエネルギーを奪われます。その結果、“行き過ぎた”指導で体調を崩す労働者も出ています。
 日本では従業員教育として、社内で先輩が後輩と一緒に日常の業務をこなしながら知識やスキルを教える 「職場内研修」 ・OJT (On The Job Training) と、社外でおこなわれる研修などを受講する 「職場外研修」 OffJT (Off The Job Training) があります。
この研修を通じて会社は必要な人材を育成し、長期に活躍してもらうことを期待しました。しかし最近はあまり行われていません。その理由の1つに、労働者同士がライバルになったことが上げられます。また会社は長期の雇用を期待していません。

 PIPは、OJT、OffJTとは逆に会社から排除する手法として使われています。
 行き過ぎた指導は 「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」 で職場のパワーハラスメントそのものです。


 ある研究会でこの問題が議論になった時、いじめ問題か、人事制度、賃金・評価制度の問題として対応すべきかかという議論になりました。
 実態としては、会社は人事制度、賃金・評価制度の問題から切り離し、規定・規則に則った対応はとりません。労働者は、わけがわからない、どうしたらいいかわからない、反論できないことが指導の口実で執拗に追及されています。あきらかにいじめが指導の名のもとにおこなわれます。そして経済的不利益を被るに至ります。
 議論では、労働者と労働組合は、反撃の手法を見失っていますが、やはり賃金・評価制度の問題として対応していかなければならないのではないかということになりました。


 1995年に導入された成果主義賃金制度 (成果の定義は実際には難しい) は、評価によって日本で初めて 「降給」 を “合法化” するものでした。しかし、生産性の向上を目指して導入した制度は機能せず、逆に職場秩序を解体し、生産性を低下させることになり短期間で変更を余儀なくされました。
 その後、成果主義は修正され、“名ばかり” の実質的実績主義がはびこりました。その後、「役割給」 が登場します。「役割」 は職務に 「ミッション」 が加わります。ミッションとは、企業全体の経営方針や価値観についての 「職責を果たすために進んでとるべき行動」 や 「貢献することの責任」 です。企業全体がめざす方向と個々の労働者が仕事上で同じ方向性、つまりは企業への忠誠心が要求されます。そこには “上司の顔色を伺う” ことも含まれます。評価に企業への忠誠心が加味されると労働者は尊厳が奪われます。そのような役割の達成度にたいして評価が行われて賃金が決定します。
 成果主義賃金制度が導入されると労働者間の賃金差が大きくなります。使用者は労働者の個別管理の徹底をはかってきました。
 役割給は、労使の関係が従属・隷属になることを要求します。そして一方的業務指示、そして排除・退職勧奨に至っています。
 
 日本ではなぜ 「降給」 がなかったのでしょか。
 労働者の 「職能」 における 「成果」 は、日々研讃を積んで発揮されます。日々スキルアップします。逆に労働者の 「能力」 は一朝一夕にして落ちることはありません。
 つまり本物の 「成果」 は短期間で下がることはありません。評価が下がるのは、①業務が変更になった、②職場環境が変化した、③評価制度が変更になった、④評価者が 「成果」 を人為的に 「評価」 した、⑤労働者が体調を崩した、またはサボタージュをした、⑥社会が大きく変動した、場合です。
 ⑤以外は労働者の責任ではありません。⑤でも長時間労働などで体調を崩した場合は労働者の責任ではありません。労働者は、騙されないよう気をつけなければなりません。自分自身の職能にもっと自信を持ち主張する必要があります。

 労働者は使用者と労働契約を締結して就労します。使用者は労働条件を明記した就業規則を提示しなければなりません。労働基準法第2条は 「労働条件は、労働者と使用者が、対等な立場において決定すべきものである」 と謳っています。
 労働基準法第89条に就業規則に盛り込まれる事項が列記されています。賃金に関しては 「二 賃金 (臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。) の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」、職業訓練については 「七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項」 と明記されています。
 賃金についての 「賃金規定」 は就業規則の一部です。評価は賃金を決定します。ですから 「評価規定」 は賃金規定の一部です。評価においては公明な 「評価規定」 と公平な運用が必要です。評価規定では 「評価基準設定」 と 「評価基準適用」 が開示されなければなりません。
 PIPの運用はこのようなことを逸脱して行なわれています。

 労働者保護のための労使対等を原則とする労働法制は闘いによって勝ち取られてきたものです。労働契約によらない一方的契約・契約解除は労働者に奴隷的拘束を課すもので認められません。労働契約によらない評価は正しい評価とはいえません。労使対等を基本に据えた対応が必要です。

 企業内組合の中には評価の問題は個人の問題だから取り組まないと宣言しているところもあります。しかし具体的評価内容は個人的問題でも、評価規定の運用は労働条件の問題であり労働組合が介入する必要があります。「個人的問題」 は取り組まないための口実です。
 また個人の結果は掌握出来なくても、労組として全体の動向については掌握をしておく必要があります。

 労働者の 「職能」 における 「成果」 は、指導・訓練・教育によってさらに高められます。PIPは本当にそのようなものであるかを確認する必要があります。意欲を奪ったり、逆に疑問を増すような、ましてや体調を崩すような指導は指導とはいえません。
 当り前のことですが、早期に成果が上がるか、それなりの時間を要するかは人によって違います。早期に成果をあげる者だけが能力があるなどという判断はだれにもできません。


 使用者が労働者の労働意力を奪うことが一番の生産性向上の疎外になります。逆に労働者に安心感を与えて、その力量を正しく評価し、発揮させたときに最も生産性は向上します。

   「活動報告」 2017.5.23
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「同一労働同一賃金」 の修正が始まった
2016/12/28(Wed)
12月28日 (水)

 政府は、12月20日の働き方改革実現会議で非正規労働者の処遇改善を目指した 「同一労働同一賃金ガイドライン (指針)」 案を発表しました。
 前文には 「このような正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取り組みを通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにし、我が国から 『非正規』 という言葉を一掃することを目指すものである。」 とあります。
 非正規のうち有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者を対象に正社員との格差是正を企業に求めます。待遇は基本給、賞与・手当、福利厚生、教育訓練・安全管理の4項目に分類して合理的な差、非合理な差について具体的な事例をあげて説明しました。
 賃金の大きな比重を占める基本給は (1) 職業経験や能力 (2) 業績・成果 (3) 勤続年数――の3要素の基準を設定し、それぞれの要素で働き方を評価し、雇用形態にとらわれない基本給を払うよう促し、正社員と非正規で評価が同じであれば同水準の支給を原則としながら、違いがある場合はその違いに応じた支給を求めています。

 翌日のマスコミ各紙は実効性が伴うのかの合唱でした。
 さらに逃げ道・抜け穴を教示がはじまっています。労働者・労働組合はそれを許さない取り組みが必要です。注意喚起を含めて紹介します。

 具体的見解です。
 12月26日のダイヤモンド・オンラインは、現在ビジネス研究所長八代尚宏の寄稿 「働き方改革が目指す 『同一労働同一賃金』 はなぜ実現しないのか」を載せました。
「競争的な労働市場では、賃金の低い企業から高い企業へと労働者が移動することで、賃金格差は自然に解消される。同一労働同一賃金が実現しないのは、そうした労働移動を妨げる障壁があるためで、それが何かを示し、取り除くための処方箋を描くのが、本来のガイドラインの役割である。
 このカギとなるのが 『雇用の流動化』 である。しかし、この肝心の点が報告書ではほとんど触れられていない。これは、(1) 賃金は正社員主体の労働組合と使用者との合意で決める、(2) 労使協調をもたらす固定的な雇用慣行の堅持、(3) その範囲内で非正社員にできる範囲のことだけするという 『労使自治の原則』 が、暗黙の前提となっているためだ。」
「日本の短時間労働者の時間当たり賃金はフルタイムの正社員の6割弱と、欧州主要国の8~9割と比べて大きい。これは主として若年層で小さく中高年層で大きい、正社員の年功賃金カーブから生じている。この年功賃金を所与として、どうすれば非正社員との賃金格差を縮小できるのだろうか。
 仮に勤続年数の等しい非正社員に正社員と同じ年功賃金を適用しても大きな意味はない。有期雇用の非正社員にとって、年功賃金のメリットが生じる前に雇用が中断され易いからである。」
「企業内訓練を通じた労働生産性の上昇は、年齢が高まるほど個人間のばらつきも拡大する。過去の高い成長期に大企業を中心に普及した年功賃金は、今日の低成長期には社員間の生産性に見合わない賃金格差の主因となる。日本企業でも個人の仕事の概念を明確化して、これまで避けてきた人事評価に本格的に取り組む時期に来ている。」

 指針の実効性に、当然のことですが非正規労働者は大きな期待を持っています。正規労働者既得権を防衛意識が働きます。
 八代の見解は思い込みで、翻弄されたら危険です。雇用の流動化が同一労働同一賃金を実現させる、非正規労働者の要望が実現しないのは 「労使自治の原則」 による労働組合との集団的労働契約が存在するからだと説明し、その解体を提案します。そうすると年功序列の賃金制度も解体され、高齢者の賃金分が非正規に回されるという主張です。逃げ道が閉ざされた高齢者が攻撃の対象になっています。
 確かに現在の企業内組合の多くは非正規労働者を組織しないで正規労働者の利益だけを主張しています。その弱点が突かれていますが、だからといって労働組合・労使自治が不要ということではありません。労働組合・労使自治が解体されたらこれまで以上に労働者がバラバラにして管理され孤立化が進みます。労働者の賃金は 「流動化」 して不安定な状態におかれます。非正規労働者の正規労働者化ではなく、正規労働者の現在の非正規労働者化が進みます。「雇用の流動化」 は少数の勝ち組と多数の負け組を生み出すことが想定されます。


 12月21日の日経新聞は 「政府 『同一賃金』 へ指針 非正規の格差是正促す」 の見出し記事を載せました。
「もっとも、企業と働き手の生産性が高まらなければ、企業の稼ぎは増えず、非正規職員の給料を上げるための原資は得られない。同一労働同一賃金とともに、時間でなく成果で賃金を払う脱時間給の導入などを一体で実現する必要があるが、関連法案は国会で棚ざらしになったままだ。
 同一労働同一賃金は非正規労働者の処遇改善にどの程度の効果があるのか。賃金の多くを占める基本給の格差を縮める効果は、今のところ限定的になるとの見方が多い。
 指針は基本給を 『職業経験や能力』 『業績・成果』 『勤続年数』 の3つの要素に分類した。例えば入社以降の経験や能力が同じであれば、非正規の職員という理由だけで待遇を正社員より低くしないように求めている。
 ただ、指針は経験や能力などが同じかどうかの基準を示しておらず、企業が自ら判断することになる。対応はばらつきが予想され、いまの仕組みを変更しない判断をする企業も多いとみられる。」

 生産性を高めて原資を得るためには、成果で賃金を払う脱時間給の導入を実現する必要がある、働いた時間ではなく成果に応じて賃金を払う 「ホワイトカラー・エグゼンプション」 の導入が不可欠だという主張です。現在の 「ホワイトカラー・エグゼンプション」 法案は対象者が年収によって制限されていますが、ゆくゆくは制限が下降していくのは明らかです。すでに導入している企業も存在します。
 しかし自己に対する高い評価の期待はそれ相応の無理を強制され競争が進みます。ホワイトカラー・エグゼンプションは 「過労死促進の労働時間制度」 です。高い成果への評価の期待の先には、労働できない結果が存在するという負の教訓が共有されていません。本質的には労働者のことを考えないで企業利益だけが優先されています。


 「プレジデント」 12月23日号は 「『賃金節約』 要員の非正社員に企業は本当にボーナスを出すのか?」 の見出し記事を載せています。
 最初に厚労省による2015年の調査結果 「非正規を雇う理由は 『賃金の節約のため』」 の表を紹介しています。「賃金の節約のため」 38.8%、「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」 33.4%、「即戦力・能力のある人材を確保するため」 31.1%などです。つまりは初めから均等待遇は難しいということを遠回しに主張しています。
 そして逃げ道を教示しています。
「とくにボーナスは上がる可能性がある。……だが、会社の業績などへの貢献度に応じて支給している場合、指針ではこう言っている。
『無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない』
 つまり、正社員と同じ貢献をしていれば同額を支給しなさい、貢献度が違うのであれば、それに見合った金額を支給しなさいと言っているのだ。」
「『正社員と同一の職業経験・能力を蓄積している非正社員には、職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、蓄積している職業経験・能力に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない』
  ……
 しかし、この指針では例外も設けている。
 具体的には (1) 総合職という名のキャリアコースの違い、(2) 転勤・職務内容の変更の可能性――の2つである。」

 貢献と成果は違います。貢献は会社が期待した成果が実現したものです。評価は上司の主観により差が付きます。それを容認しています。
 例外としての総合職という名のキャリアコースの違い、転勤・職務内容の変更の可能性は、現在の正規労働者間においても一般職や限定社員という位置づけで処遇がちがっています。さらに細分化した手法を駆使すれば賃金差は認められるという説明です。非正規労働者の改善の基準は一般職や限定社員です。


 12月27日の 『ダイヤモンド・オンライン』 は 「同一労働同一賃金の議論に足りない 『労働結果の評価法』 の視点」 の見出し記事を載せました。
「一番重要なのは、『同一労働同一賃金』 の実現によって非正規社員の待遇が改善され、わが国労働力の生産性が向上することではないだろうか。だとすれば、明らかに議論が不足している領域がある。それは、パフォーマンスマネジメントだ。
 そもそも、『同一労働同一賃金』 の考え方は、『同一労働とは何か』 ということを明確に定義する必要がある。そして、ここでいう同一労働とは、私の考えでは、労働する内容の定義であったり、労働する内容の予定であったりするのではなく、労働した結果だ。」
「ただし、現在の 『働き方改革実現会議』 の議論の方向性では、本来の趣旨での実現は難しいのではないか。肝心の 『パフォーマンスマネジメントの実現』 という視点が抜けていると感じる」

 「同一労働同一賃金」 は予定ではなく結果論、つまりどのようなパフォーマンス・成果を出したかたかで決定されるべきで、「同一の労働結果」 こそが 「同一の賃金」 であるべきという主張です。12月21日の日経新聞と似ていますが、そもそも 「同一労働同一賃金」 の議論は不毛だという主張です。
 現在の 「同一労働同一賃金」 の議論は生産性が向上しないので正しくない、向上のための正しい評価は結果に対する評価でそのほうが平等だという主張です。しかしパフォーマンスに対する評価制度は確立していませんし、困難です。くりi切り返しますが主観的です。その結果、労働者は会社への献身性という従属が要求されます。
 この主張の危険性は、使用者の労働者使い捨て政策に非正規労働者の側から目先の判断で世論が形成されかねないということです。最終的に現在の議論が歪曲されて到達しかねません。


 12月28日の 「ダイヤモンド・オンライン」 は 「本気で 『非正規』 をなくし、同一労働同一賃金を実現する方法」 の見出し記事を載せています。
「『非正規』 を減らすためには、正社員を増やす必要があり、そのためには企業が正社員を雇う負担を軽減する必要があり、さらにそのためには正社員の 『流動性』 を高める必要がある。
 第一に必要なのは、ルール化された金銭補償で正社員を解雇することを可能にする 『解雇の金銭解決ルール』 制定だろう。
企業の側では予測可能なコストで解雇できるので、需要の変動にも、また採用の失敗の可能性に対しても、これまでよりも積極的にリスクを取って、正社員を雇うことができるようになる。」
「ところで、個人の処遇は、企業と社員が、個別の交渉で決めていいのではないだろうか。業績・成果・経験・能力・人材の将来的な可能性・人材の確保など、企業側が社員の報酬を決める際に考慮したい要素は多数ある。ガイドラインにあるように、同じ業績・成果に対しては同じ処遇でなければならないことをルールで縛ると、柔軟な契約がしにくくなって、企業も社員も不利益を受ける可能性がある。
 企業と社員が個別に報酬を決定する際に、企業は社員に対して納得的な基準を提示する必要が生じるが、この場合に、一番分かりやすいのが 『同一労働同一賃金』 的な考え方をベースとすることだ。
 正社員 (ガイドラインでは 「無期雇用フルタイム労働者」) と非正規労働者の処遇を近づけることよりも、理想を言うなら、全労働者を一定の補償の下に解雇ができる現在よりも流動的な 『正社員』 として一律に扱うようにできれば、雇用形態の違いによる差を気にする必要がなくなる。
 また、全ての正社員の雇用と報酬が柔軟に調整できるようになると、企業にとっても、社員にとっても、よりフェアで効率的な仕事の進め方が可能になるだろう。」

 使用者の願望が先走った本音がストレートに主張されています。「同じ業績・成果に対しては同じ処遇でなければならないことをルールで縛ると、柔軟な契約がしにくくなって、企業も社員も不利益を受ける可能性がある」 はあまりにも乱暴です。
 労働組合との集団的労働契約を破棄して個別交渉にし、納得的な基準を提示するのが一番分かりやすい 「同一労働同一賃金」 的な考えだといいます。そして正規労働者を雇用するのはリスクが大きいので雇用の 「流動性」 を推進するために 「解雇の金銭解決ルール」 制定を急げという主張です。
 企業の社会的責任、労働者保護・生活保障という視点がまったくありません。そのような企業が労働者を大切にすることはありません。


 「同一労働同一賃金」 の議論に 「ホワイトカラー・エグゼンプション」 や 「解雇の金銭解決ルール」 が登場しています。「実効性がない」 指針に実効性を持たせるためと称して今後このような議論が進みかねません。
 しかし、議論の中に労働組合の主張がまったく聞こえてきません。労働組合は非正規労働者の声を聞き、一緒によりよい 「同一労働同一賃金」 を実現させるために具体的行動を進めていかなければなりません。


   「活動報告」 2016.12.6
   「活動報告」 2016.12.2
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賃金ランキング 2014年は20国中19位
2016/06/28(Tue)
 6月28日 (火)

 6月24日の朝日新聞の 「表裏の歴史学」 は 「古代の勤務評定」 がテーマでした。
 古代の官僚の場合、基本的な給与 (季禄) は官職に相当する位に応じて額が決められ、年に2回、春・夏の分が2月上旬に、秋・冬の分が8月上旬に支給されました。半年に120日 (年に240日) 以上出勤していることが必須条件でした。大宝令には、前年の勤務評定が 「中下」 以下の者には2月の給与は支給しないとの規定がありました。つまりいくら所定の日数以上出勤していても、九等評価で 「中下」 以下をとると、給与が半年分まるごとカットされてしまいます。
 古代の勤務評定のポイントは、「善」 と 「最」 です。「善」 は4種。徳があること、清廉であること、公平であること、まじめに勤めていること (恪勤) の4つで、この 「善」 を1つ以上得る必要があります。「最」 は職種に応じた42種類の評価基準です。「最」 を得て、「善」 を1つ得ていれば、その年の勤務評定は 「中上」 です。
 勤務評定は毎年行なわれ、6年で総合評価を受けます。6年間 「中中」 であれば位が1階上がります。

 「善」 は今でいうなら行動評価、「最」 は業績評価です。古代においても評価項目は分かれていました。勤勉さは古代から必須でした。また、評価が生活を脅かすという事態もあったと推測されます。


 「朝日新聞グローブ」 6月5日号の特集は、「『給料の話』 おいてけぼりのニッポン」 です。
 経済協力開発機構 (OECD) の統計で先進国などの賃金を、実際にどれだけのモノやサービスを買えるのかを基準に比較したら、日本の賃金ランキングは1991年に20国中9位 (36,152米ドル) だったのが、2014年には19位 (35,672ドル) まで落ち込んでいます。グローバル化やIT化などはあるにせよ、あくせく働いても暮らし向きが良くならない現実があります。
 
 フルタイムで働く人の平均賃金は1997年の459万円をピークに下がり続け、2014年には400万円を割り込みました。主要国でこれだけ長く賃金が上がらないのは珍しいです。00年以降ほぼ横ばいです。
 ただGDPや企業の利益は平均賃金のように減っていません。生産性が上がってもその分け前が働き手に配分されていません。

 フルタイムということは、その間増え続けた非正規労働者を含めたら平均値はかなり下がります。

 日本総合研究所の山田久調査部長は、「市場の力も、組合の力も、どちらも中途半端になっている」 と指摘しています。
 転職市場が発達した米国なら、賃金カットすれば働き手がにげていくので賃金は下がりにくいです。市場の力で、伸びる産業や賃金が高い産業に人が移ります。欧州では、産業別に労資が職種ごとの賃金を決めて労働組合が賃金を守ります。
 日本は職を失うと再就職が難しいです。組合も企業別で弱いです。そのため賃金よりも雇用が優先されます。その結果、「失業率は上がりにくいけれど、賃金は下がりやすい」 ことになっています。

 日本でのこの構造、とくに職を失うと再就職が難しいという状況は、体調不良に陥っても我慢して隠して雇用を維持することを余儀なくします。住宅問題、教育問題がまたそうさせます。そうすると、休職に至るときは深刻な状況になっていて、問題の解決や復職がさらに難しくなります。


 カリフォルニア大学バークリー校のスティーブン・ボーゲル教授は「品質と安さで戦う日本モデルの強さが揺らいでいると言います。
 長い停滞の中で、日本企業は正社員の長期雇用を維持してきました。それが、賃金が下がってきた大きな理由です。正社員をリストラする前に、グループ企業への配置転換や賃金抑制をするため、正社員の賃金は上がりにくくなります。
 さらに、長期雇用の仕組みを守るために、正社員の数を絞り、賃金が低く雇用を調整しやすい非正規社員の割合がましました。これが平均賃金を下げたのです。
 米国では経営が厳しくなると人の数を減らして人件費を調整します。失業した人の生活は一気に厳しくなります。ボーナスや給料のカットは確かに不運ですが、失業よりはましでしょう。
 正社員の長期雇用を維持するのは、会社にとっても利益になります。日本の競争力の源となってきた製造業では、働き手と企業が長期的な関係を築くことが品質管理やコスト競争での強みになってきました。簡単にクビを切るような会社に、働き手は協力的にはなりません。
 もちろん、問題もあります。1つは、正社員と非正規労働者の二極化です。20~30代の若い人や女性に非正規労働者が偏り、労働市場が分裂してしまっています。また、賃金を下げても長期雇用を守るのは、それぞれの会社にとっては合理的でも、経済全体では消費者の購買力が下がってデフレになる悪影響があります。
 より大きな問題は、世界で富を生み出す産業が、日本が得意とする製造業からサービスや情報技術 (IT) にシフトしていることです。雇用を守って品質と安さで競争するこれまでの日本モデルの優位性から揺らいでいるのです。製造業の強みを維持しながら、どう新しい分野に打って出るか。

 正社員の長期雇用は、労働組合も労使協調と非正規労働者の排除の構造を作り上げてきました。その結果、同じ職場でも正規労働者と非正規労働者は賃金だけでなくさまざまな格差を生み出し、深刻な社会状況を生み出してきました。


 米ニューヨーク市立大学の経済学者ブランコ・ミラノビッチ教授は、ベルリンの壁崩壊から20年間で、世界の人びとの所得がどれだけ増えたかを調べました。すると 「超リッチ層」 (世界の所得上位1%) と、「振興国の中間層」 (上位30~60%) はともに所得が6割以上増えています。
 これに対し、先進国の中間層にあたる人々 (上位10%~20%) の所得は1割以下しか増えていませんでした。
 ミラノビッチは 「産業革命以来となる、賃金のガラガラポンが起きている」 と語っています。中間層がやせ細っているのは先進国に共通の現象だが、賃金が下がり続ける日本に、打つ手はあるのかと指摘します。


 2013年、米シアトルの市長選挙で 「最低賃金15ドル」 が争点になりました。
 14年、シアトルがあるワシントン州では全米に先駆けて 「時給15ドル」 の最低賃金が条例になりました。天保レベルの最低賃金は日本とほぼ同じで時給7.25ドル (約800円) です。
 時給15ドルを求める動きは、12年にニューヨークでファーストフードの従業員がストライキを起こしたのが始まりです。ストやデモが全米に広がり、シアトルに続いてニューヨークとカリフォルニア州でこの春、最低賃金を時給15ドルに段階的に引き上げることを決めました。
 なぜ15ドルなのでしょうか。サービス従業員国際労働組合 (SEIU) の現地トップのデービット・ロルフは 「働き手を鼓舞できる数字なのだ」 といいます。大胆な上げ幅だからこそ、メッセージがはっきりして世論の支持を得ました。
 
 米の平均賃金は上がり続け、世界2位につけています。しかしけん引役はハイテクや金融業界に努める人たちで働き手の中では少数派です。
 一方、中間層が細っています。背景には製造業の没落があります。自動車最大手ゼネラル・モーターズ (GM) 発祥の問い、ミシガン州フリントでは、40年前に約8万あったGM関連の職は、業績不振などで約1万まで減少しました。住民の4割は貧困ラインを下回る年収しか得ていません。
 全労働者の42%が時給15ドル未満という調査もあります。


 特集の締めくくりのタイトルは 「安月給で、もつのかニッポン」 です。
 1998年日本の平均賃金が下落に転じ、転換点でした。アジア市場は通貨危機で失速しました。
 前年に山一証券が自主廃業に追い込まれ政府は 「日本版ビッグバン」 と呼ばれる金融改革に乗り出します。
 慶応大学の樋口美雄教授は 「株主や投資家の影響が強まり、企業は利益を上げても賃金で還元しない傾向が強まった」 と話します。このころから、非正規労働者の割合が高まります。
 雇用を優先した日本の失業率は、他国と比べると低いです。ただ、雇用を守るために、事業の継続そのものがしばしば目的化します。もうけを度外視した安売り競争になり、賃下げ圧力が生じます。賃金低下で消費者の購買力が伸びないことも、安売り競争に拍車をかけます。
 社会保障負担がのしかかる日本。主な担い手である中間層の賃金が減り続ければ、社会の維持可能性は大きく揺らぎます。


 かつて、中間層がそれなりの数を占めていた時、かれらが支払う税や社会保険料が福利厚生を拡充させてきました。中間層の下の層をカバーしてきました。しかし中間層が減少し、さらに痩せていくと不可能になります。格差拡大が進む中でどの層に対しても「自己責任論」まで登場します。しかし自助努力のためにはベースが必要です。
 その一方、ミラノビッチ教授がいう 「超リッチ層」 と先進国の中間層にあたる人々は社会的責任を果たさないで個人的に肥え太り続け、保護もうけています。新たな階級社会が登場しています。
 賃金問題を解決するには、この 「階級」 のためだけの政治を止めなければなりません。そして社会的責任を課たさせることを含めた分配の再構築が必要です。


  「活動報告」 2016.17
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勤務評価から見たドイツと日本の公務員制度のちがい
2016/06/21(Tue)
 6月21日 (火)

  「季刊労働法」 16年春季号は、研究論文 「ドイツ・官吏の勤務評価」 を載せています。
 ドイツでの官吏は、日本での上級公務員や監獄、警察署、消防署および守衛などのスタッフのことを言います。公法上の任用関係にあり重要労働条件は議会で決定され、公法上の任用関係にあります。ストライキ権は認められていません。
 それ以外の職員や現業労働者などの公務被用者は自治体と司法上の労働契約関係にあります。

 日本では、1885年 (明治18年) に伊藤博文が内閣制度を定めて内閣総理大臣に就任するときにドイツ・フランスを真似た官吏制度をつくります。1886年 (明治19年) に帝国大学令を定めて東京大学を帝国大学とし、官吏養成機関とします。
 旧憲法下では、天皇の大権に基づき任官され公務の担任を命ぜられた公法上の関係にあ高等官と判任官を指しました。民法上の契約により国務に就いた雇員・傭人とは区別されていました。
 地方公共団体において公務に従事し官吏に相当する者は公吏と呼ばれていました。
 戦後は、国家公務員全体を官吏と呼んでいます。
 日本国憲法は、公務員を 「全体の奉仕者」 と位置付けています。

 日本では、2009年に国家公務員に対して新たな人事評価制度が開始されました。
 地方公務員についても14年に地方公務員法が改正され、16年度からはすべての自治体で義務付けられました。その内容は国家公務員の制度を踏襲するものと思われます。(2016年5月17日の 「活動報告」 参照)


 ドイツの官吏の勤務評価についてです。
 成績主義は伝統的官吏の人事運用原則の1つでもっぱら採用と昇進で利用されてきましたが給与制度でも適用可能です。1997年に初めて成績給と業績給が導入され、導入されました。
 業績給は、卓越した特別な個人の業績対して支給されます。最長1年の手当です。

 人事制度は、使用者と公務員代位評が協議して合意します。合意不成立時には使用者側が単独で決めます。昇進での判断材料や人材育成、適正な配置、動機付け等に利用されます。評価時期は、遅くても3年ごとに、または勤務上ないし個人的事情が評価を必要とする時は行なわれます。最多は3年ごとです。
 評価指標は、適正、能力および専門的な業績です。相対評価か絶対評価については、定期評価では各人ごとに絶対評価です。ただし、臨時評価では、たとえば昇進では1人の募集に対する応募者ごとに選抜する相対評価です。専門的業績は、とくに作業結果、実際の作業方法、作業行動について、上司である場合にはさらに指導方法について評価されます。
 勤務評価は、統一的な評価基準にもとづいて、通常2人以上から行なわれます。詳細は上級勤務官庁が評価指針で定めます
 評価される俸給グループおよび役職レベルの官吏の比率は、最上級得点10%、次に高い得点で20%を超えないものとします。
 本人への開示、評価懇談は開示されます。人材育成目的を達成するためには、本人に改善すべき点を認識してもらう必要があるからです。人材育成措置には、例えば、1、勤務上の資格向上、2、官吏職の人材育成、3、協力懇談、4、勤務評価、5、目標協定、などです。
 勤務評価は、官吏に言葉の完全な意味で開示され告げられます。開示は文書によって行われ、評価は人事記録に残されます。
 評価ラウンドの結果は被評価者に点数リストの形式を含む適切な方法で知らされます。
 

 勤務評価の目的は、1、人選、職業的昇進、3、最適の配置の保障 (配置目的)、4、動機付け目的、5、喚起目的、が挙げられています。
 業績給支給の目的は、1、行政における近代化過程の支援、2、生産性ないし行政サービスの質の改善、3、人事指導の改善、4、顧客指向および市民指向の改善、を誘導し動機づけることです。
 評価手続きについてです。評価懇談の目的は評価の説明、とくに価値評価とその根拠の説明です。評価内容全体をカバーし、被評価者の本人評価は確定にとって影響をもちません。評価結果は公開が原則です。
 評価に対して異議申し立てする方法としては、異議申し立て、苦情処理、そして行政裁判所への再審査請求の3段階があります。


 課題記述と要件プロフィルは業績評価の基礎です。それによって被評価者の職務に必要な用件が明らかになります。
 課題記述は職務で具体的に認識される課題および職務 (例、計画、実施、実施の振り返り) を定めるのに対し、要件プロファイルは、人がその課題を遂行するうえで必要になる能力 (例、計画能力、組織的能力) を定めます。両社が評価者からできるだけ統一的に使用されることにより、近代的な評価制度として整えられます。
 専門的業績は、とくに作業結果、実際の作業方法、作業行動について、上司である場合にはさらに指導方法について評価されます。
 課題記述を前提に業績を測定する指標として、コミュニケーション・人との対応、作業方法・課題遂行、専門的知識・認識上の要件、動機付け・忍耐力、作業結果、管理職の指導指標が挙げられています。


 能力評価をする目的は、個々人の能力を把握することにより、人員配置および人事選考の判断材料にすることです。本人の発展可能性およびキャリア展開を検討する手がかりになります。それは本人の特定の能力開発のための後押しをあたえ、継続訓練の基礎となります。この評価はランク付けの方法で行なわれます。

 勤務評価の特徴としては、方法は体系的業績評価であり、昇進の判断材料には目標協定はありません。評価指標にはチーム力が必ず含まれています。


 人事評価における日本の上級国家公務員にあたる官吏と、公務員にあたる公務被用者の違いです。
 官吏は、業績給支給のためではなく、人事決定、人材育成が目的です。公務被用者は協約上の業績給支給のためです。
 官吏は、評価方法で目標協定の利用がごく一部です。
 評価指標は、「公共へのサービス」 は共通しますが比重は官吏の方が高いです。


 ドイツと日本の公務員の比較です。
 利用目的がまったく違います。ドイツでは人事決定、人材育成なので勤務評価に対する関心は高くありません。日本では賞与や昇給等のためです。
 業績評価の方法は、ドイツは指標が仕事の質、仕事量、社会的関係の3本柱で体系的業績評価ですが、日本は知識・技術、コミュニケーション、業務遂行に対する能力評価と目標管理の組み合わせです。


 日本がドイツ・フランスの官吏制度を取り入れてから100年以上が過ぎました。人事評価制度から見てもあまりにも大きな違いが生じています。ドイツは政府機構を推進するスタッフの組織ですが、日本は官僚制度の維持と人脈につながる制度に変えられました。評価の基準はお上への “迎合”、気に入られる傾向が強くなっています。
 ドイツでは公務被用者は自治体と司法上の労働契約関係にありますが、日本では地方公務員も任用です。地方公務員を含めて官吏の意識をもって官僚制度を維持するシステムに組させられて人びとを管理・支配側に位置し、その思考になってしまっています。「全体の奉仕者」 ではありません。そしてそこに“心地よさ”と安住を感じて積極的に受け入れています。

 日本の国家公務員の人事評価マニュアルは180ページに及ぶものが作成されています。分量が多く手続きが複雑なのは目くらましです。基準がはっきりしません。労働者が理解できない状況が一方的評価を許しています。
 地方公務員についてもこの4月から義務付けられました。
 大災害が続く中で、行政のあり方がするどく問われました。これを機会に公務員労働者は評価制度だけでなくどのような労働をすべきかを捉えかす時期に来ています。


  「活動報告」 2016.5.17
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