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女性スポーツの発展は女性解放の歴史であり、闘いの歴史
2018/06/15(Fri)
 6月15日 (金)

 毎日新聞社の6月14日の会員限定有料記事に、筑波大学教授で柔道家の山口香さんへのインタビュー記事が載りました。タイトルは 「いま、性被害を語る スポーツ界の 『絶対的な服従関係』 がセクハラとパワハラを生む」 です。会員限定有料記事ですので長文の引用は控えます。
 取材した小国綾子記者は、山口さんをインタビュー直後の5月29日の夕刊に 「あした元気になあれ アメフットとMeToo」 の記事を書いています。そこから引用します。

 山口さんは 「選手が指導者と対等にものを言い合えない服従関係こそがスポーツ界のハラスメントの温床」 と訴え続けてきました。日大事件の経過を記した 「報告文」 を読んで 「親に虐待された子の苦しみに重なりました」 と語ったといいます。
 日大側は 「指示」 を認めていませんが、それでも指導者が選手を心理的に支配していくプロセスが読み取れます。監督が試合後のミーティングで反則タックルについて 「こいつが成長してくれればそれでいい」 と述べたことについて、「虐待する親もそう。虐待しながら 『お前のためだ』 と言う。だから子は自分を責めるしかなくなる。逃げられない。親に愛されなければ生きていけないから」
 「今回の件はスポーツ界の縮図です。彼だけじゃない」 と言い切りましす。「理不尽なことを強いられ、傷つき、人知れず消えていった選手がスポーツ界にどれほどいるか。指導者だけでなく、時に仲間からも 『負け犬』 『途中で投げ出した』 と批判されながらね」
 山口さんは 「今こそMeTooを」 と呼びかけます。


 取材の後、5月29日に発表された日本大学アメリカンフットボール部選手一同の 「声明文」 の抜粋です。
「ただ、少なくとも、私たちは、私たちの大切な仲間であるチームメイトがとても追い詰められた状態になっていたにもかかわらず、手助けすることができなかった私たちの責任はとても重いと考えています。これまで、私たちは、監督やコーチに頼りきりになり、その指示に盲目的に従ってきてしまいました。それがチームの勝利のために必要なことと深く考えることも無く信じきっていました。・・・そのような私たちのふがいない姿勢が、今回の事態を招いてしまった一因であろうと深く反省しています。」
「ただし、絶対に必要だと今思っていることは、対戦相手やアメリカンフットボールに関わる全ての人々に対する尊敬の念を忘れないこと、真の意味でのスポーツマンシップを理解して実践すること、グラウンドではもちろんのこと、日常生活の中でも恥ずかしくない責任ある行動を心がけるなど常にフェアプレイ精神を持ち続けることを全員が徹底することです。」


 会員限定有料記事です。(こっそりと)
記者 スポーツ界には、セクハラが起きやすい背景があるのでしょうか。
山口 スポーツ界における指導者と選手の “主従関係” の厳しさは、一般企業の上司と部下の比ではありません。良い方に転がれば、絆の強さや信頼関係につながるのですが、悪い方に転がれば、絶対的な服従関係となってしまう。
 これは男女ともに言えることですが、スポーツ界では絶対的な服従関係が、セクハラとパワハラの両方の温床となってしまっています。選手が指導者と対等に物を言える関係ができない限り、セクハラもパワハラもなくならないと思います。

記者 スポーツ界のセクハラ問題でガイドラインとなるようなものはないのですか?
山口 日本オリンピック委員会 (JOC) に女性スポーツ専門部会があり、そこでセクハラについてのガイドライン=注=を作成しました。一般に公開されているものではありませんが各競技団体を集めて説明しました。
  (注) JOCは2013年2月、加盟・準加盟計57団体の強化選手や指導者を対象にセ
  クハラや 暴力行為などについての無記名アンケートを実施した。それによると、暴力行為
  を含むパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを受けたと答えた選手は、全体の
  11・5% (206人)。一方、パワハラやセクハラを行ったと回答した指導者はわずか
  3・0% (43人) だった。
  記述回答では 「自分が競技をやめ、死んだら楽になるのかな。ゴミのように言われ
  存在すら否定される」 「いくら相談しても話が通じないため、自殺未遂をしたり何年た
  っても強烈なトラウマとして残る選手が多い」 と悲痛な訴えがつづられていた。
  JOCはその年、「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」 を採択。身体的制裁、言
  葉や態度による人格の否定、脅迫、威圧、いじめや嫌がらせなどに加え、「セクシュア
  ルハラスメント」 も暴力行為として宣言に明記した。

山口 スポーツ界において、セクハラとパワハラは紙一重だと思います。その背景の一つが、女子アスリートへの偏見です。
 もともとスポーツは男性のものとしてスタートしました。1896年の第1回近代オリンピックに女性選手は参加すら許されていません。1904年の日本の新聞記事には 「女子のスポーツが発達すると、女子らしさが失われ、品位を下げるのではないか」 というような論調すら見られました。
 例えば、最近は少なくなりましたが、かつては女子選手に 「恋愛禁止」 を命じる指導者がとても多かった。「女は恋をすると弱くなる」 という偏見からです。「女性は感情をコントロールできない」 と。
 そもそも、男性指導者が女子選手に恋愛を禁じるのは、圧倒的な主従関係を維持したいからではないでしょうか。
 スポーツは社会を映す鏡です。女性活躍が叫ばれる時代ですから、スポーツ界でも日本の女子選手たちが世界で活躍しています。ところが、いまだにレスリングや柔道で強い女子選手を紹介する記事では 「ひとたび柔道着を脱げばこんなに女性らしい」 「実は料理上手」 「編み物が趣味で意外と女子力も高い」 などの記述が散見されます。


記者 セクハラなど嫌がらせの温床となっている選手と指導者の 「絶対服従」 の関係性は、どのように変えていけば良いのでしょうか。
山口 これは実はとても根が深い問題なんです。なぜなら、日本では少年スポーツからして、選手が 「服従」 を求められる場面が多い。少年スポーツの指導者の意識改革も必要になります。
 私は1993年、JOCの在外研修制度で英国に1年間留学し、現地の柔道教室で子供たちに柔道を教えました。この時に選手と指導者の関係性について多くを学びました。
 面食らったのは、良くも悪くも先生と生徒の距離が近いことでした。・・・先生を一人の人間として見ていた。尊敬しつつ、同時に、対等な関係だったんです。
 「今日はこういう練習をするよ」 と伝えると、子供たちに 「なぜ?」 と問われる。コーチには説明責任があるので、なんとか伝わるよう説明しました。・・・なぜその練習が必要なのか、選手と指導者がともに考え、合意形成をしながら練習を進めていくことを、英国では少年スポーツのレベルで学んでいるのだと思いました。

記者 確かに、今回の日大アメフット部の反則タックルの背景にも、監督やコーチと選手との絶対的な服従関係があったようです。
山口 この件に関して多くのスポーツ関係者が 「ありえない事態だ」 「こんなひどい話は聞いたことがない」 と批判しています。でも、一人一人胸に手をあてて考えてほしい。・・・
 何も理由を説明せずに・・・選手との合意形成を積み重ねることなく、一方的に命令し、選手本人との主従関係の上にあぐらをかいて、従えばいいんだ、というような指導をしていませんか?


記者 日本で#MeToo運動が広がらない背景として、声を上げた被害者へのバッシングが指摘されています。・・・
山口 これも難しい問題です。・・・スポーツの場合 「あのコーチのお陰で今の私がある」 というような思いを持つ選手は、どうしても自分の指導者を否定したくないのです。特に、チームスポーツの場合、レギュラーに起用されなかった人がセクハラ被害を訴えたら 「あの人はレギュラーから漏れたから言ってるだけ」 というような批判のされ方もします。告発した途端、指導者やコーチからだけでなく、仲間からも批判されるかもしれない。これが、被害者が声を上げにくい一因となっているように思います。
 日大アメフット部の問題では、現役選手たちがみんなで声明文を出しました。感情を抑制しつつ、責任を転嫁せずに自己反省という形で声明文を出したことで、アスリートが自立していく姿を見せてくれました。一人で記者会見したチームメートを、本当に独りにはしなかった。
 これはアメリカンフットボール界にとどまらず、スポーツ界における大きな一歩だと思います。このような連帯によって、声を上げやすい社会の実現に近づいていくと信じています

記者 山口さんはどんな思いで、スポーツ界における女性リーダーの育成を唱えてこられたのですか。
山口 スポーツは社会の縮図であり、スポーツ界の抱える問題は多かれ少なかれ社会が抱える問題です。女性スポーツの発展は、まさに女性解放の歴史であり、闘いの歴史だったと私は思っています。今でも世界を見渡せば、女性が自由にスポーツを行えない国すらあるのです。
 セクハラの被害者は女性に限りません。一人一人の選手が自立したアスリートとして、セクハラに対してきちんと声を上げていくことが大切だと思っています。そのことによって被害者が声を上げやすい社会、声を上げた被害者を一人にしない社会が実現するのだと信じています。


5月23日の 「活動報告」 です。

 事件後、テレビ出演したスポーツ評論家は、スポーツは近代国家形成とともに、お互いが遵守することを前提にしたルールをつくって競い合う民主的ゲームとして発展してきたと語っていました。そこでは全力で競うことができ、フェアプレーの精神が生まれ、相手を讃えることもできるのです。
 日大の一方的にルールを順守することを放棄し、しかも無防備な状態に身体的攻撃を加えることは、近代以前の貴族たちのものであったといわれるスポーツ遊びよりも劣ります。そこからは日大が持つ体質が見えてきます。

 これでは不十分でした。
 山口さんの 「スポーツは社会の縮図」 「女性スポーツの発展は、まさに女性解放の歴史であり、闘いの歴史だった」 は、近代社会において女性の地位はまだまだ解決していない奥深い課題であることを具体例をあげて訴えています。


 2012年に発覚した柔道女子日本代表への暴力事件について、山口さんは13年2月7日付 「朝日新聞」 のインタビューに答えています。
 13年2月26日の 「活動報告」 です。

「昨年9月、園田隆二前監督が暴力行為をしていたと、私自身、耳にしました。個人的に何人かの選手に話を聞いて事実を確認し、全日本柔道連盟の幹部に伝えました。まずはきちんと調べて、広く選手に聞き取りをして下さいとお願いした。」
 全柔連は園田前監督にだけ話を聞き、厳重注意の処分をしました。しかしそれだけでした。
「相談してくれた選手たちに 『こういう結果になってしまって申し訳ない。私の力がなかった』 と謝りました。そして 『申し訳ないが、ここから先は私ができることじゃない』 と話しました。」
「私は選手に言いました。『これからはあなたたち自身でやりなさい』 と。さらに 『あなたたちは何のために柔道をやって来たの。私は強いものに立ち向かう気持ちを持てるように、自立した女性になるために柔道をやってきた』 という話もしました。」
「悪い言い方をすれば、選手たちはここまで我慢してしまった。声をあげられなかった。『こんなひどいことが行われてきたのに、誰にも相談せず、コーチにも言えず、がっかりしている』 とも話しました」
「私はもう助けられない。だから自分たちで考えて、と。」
 12月、選手たちはJOCに告発しました。
「彼女たちは気づいたのです。何のために柔道をやり、何のために五輪を目指すのか。『気づき』 です。監督に言われ、やらされて、ということでいいのか。それは違うと」
 選手たちは自分たちだけで立ち上がりました。
 今、全柔連だけでなくJOCも社会的監視の中で対応を迫られています。


 選手たちは自分たちだけで立ち上がりました。JOC作成の 「セクハラについてのガイドライン」 はこのすぐあとです。
「日大アメフット部の問題では、現役選手たちがみんなで声明文を出しました。感情を抑制しつつ、責任を転嫁せずに自己反省という形で声明文を出したことで、アスリートが自立していく姿を見せてくれました。一人で記者会見したチームメートを、本当に独りにはしなかった。」

 スポーツ界のハラスメント、セクシャルハラスメントは、さまざまな種目から聞こえてきます。
 #MeToo運動がもっともっと広がることが人権を確立・拡大します。
 #MeToo運動は社会への 「共に立ちあがろう」 のアピールです。
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ILO総会でのセクハラ対策条約議論で                                 日本政府 「態度保留」
2018/06/05(Tue)
 6月5日 (火)

 ILOの第107回総会が、5月28日から6月8日までジュネーブ開催されています。総会は、毎年1回行われ、ILO加盟国187カ国の政府、労働者、使用者からなる代表団が一同に会する最高意思決定機関で、ILO条約などの国際労働基準の策定を含め、労働問題に係る議論を行います。
 今回は7議題について議論されますが、メインテーマは 「仕事の世界における男女に対するハラスメント」 (「Ending violence and harassment against women and men in the world of work」 ) です。
 ILOにはこれらを直接取り上げた基準は存在しませんでした。ディーセント・ワークと相容れず、許容できない問題に取り組む緊急の行動を求める声に応え、今年は新たな基準の採択を目指す2回討議手続きの1回目の討議が行われます。
 『仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメントに終止符を打つ』 と題し、仕事の世界における暴力とハラスメントの現状を、その内容、関係者、発生場所、影響、推進要素、リスク要因、危険度が特に高い職種や集団などの切り口から解説し、国際・国内の取り組みをまとめた報告書 (Report V (1) ) と、これに関する基準設定についての加盟国政労使の見解を記した報告書 (Report V (2) ) の2冊の討議資料をもとに、2年越しの検討が開始されます。

 長文ですが 、ILO駐日事務所の 「第107回ILO総会の議題について」 をコピーします。

 第5議題 「仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメント (基準設定、第一次討議)」
 仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメント対策に取り組むための労働基準につい て、今回の第107回 ILO 総会において第一次討議が行われ、次回の第108回総会におけ る第二次討議を経て基準の採択を目指すものである。

【仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメントの現状】
 近年、仕事の世界における男女に対する暴力及びハラスメントに対する問題意識が高まって きており、対応措置を早急に取ることが求められている。この問題に対する対策は持続可能 な開発のための2030アジェンダの 「目標8.5の女性及び男性の完全かつ生産的雇用及びディーセント・ワークの達成;目標10の国内及び国際間の不公平の低減;目標3のすべての人のための健康な生活の確保及び福祉の増進;目標5のジェンダー平等の達成及びすべての成人女性及び少女の権利拡張」 と密接に関連している。

 仕事の世界における 「暴力」 又は 「ハラスメント」 について現在世界的に受け入れられている定義はないが、2016年の仕事の世界における男女に対する暴力に関するILO 専門家会議では、暴力及びハラスメントを身体的、精神的又は性的な痛手又は苦痛を及ぼす可能性の高い許容できない一連の振る舞い及び慣行としている。

 労働関連の暴力及びハラスメントについては、定義していない国、身体的行為に限っている国もあるが多くの国々では身体的及び精神的行為の両方を含んでいる。また、別の形態の定義では、行為そのもの (殴打、侮辱、悪態及び怒鳴ることなど) より、行為の結果また影響 (痛手、又は尊厳の喪失) に重点を置いている。

 身体的暴力の例として、職場における銃乱射事件及び殺人事件となる事案があるが、死者を出す暴力は、仕事の世界の身体的暴力の少数の事例を占めるのみである。また、仕事の世界における種々の形態の身体的暴力は一般的に精神的暴力に比べて報告される頻度が低い。精神的な暴力及びハラスメントは、 一連の口頭又は非口頭の虐待、セクシャル・ハラスメント、弱い者いじめ及び言葉による虐待・脅迫を含んでいる。

 性的暴力及びセクシャル・ハラスメントには、欲せざるコメント又は口説き、ジョーク、短い身体的接触などが含まれる。一般的な性別に基づく暴力と同様に、成人男性及び少年も性的な暴力及びハラスメントの犠牲となり得るが、対象の多くは、成人女性及び少女である。セクシャル・ハラスメントには、仕事に関する決定と関連して労働者が性的な接待を要求される場合もある。労働現場の組織又は構造から生ずる心理社会的リスクも、それが犠牲者の尊厳、安全・健康及び福祉に影響を及ぼす場合には、暴力及びハラスメントとなる。労働環境の劣化、分離及び労働者にそのスキルに相応する職を与えないことを含む労働条件や不当なノルマ (非現実的な処理件数・期限等) も一種のハラスメントと見なされる

 【暴力及びハラスメントの対象】
 潜在的に、誰でも暴力及びハラスメントの行為の加害者及び被害者となり得る。暴力及びハラスメントは職場内部の水平 (同僚間) 及び垂直 (上司と部下の間) の関係 において、また顧客や第三者など職場外部の人との間でも起こり得る。医療、教育、接客及び運輸部門においては、労働者が接触する顧客や一般公衆との間に生ずるケースも多い。

 暴力及びハラスメントは、様々な状況・要因と関連し、しばしば、仕事の世界及び一般社会に働くダイナミクス (力関係、ジェンダー規範、文化的及び社会的規範、差別意識など) により影響される。性別に基づく暴力及びハラスメントには、男性と女性の間の不平等な力関係から生じている場合、被害者の行動が社会的に受け入れられている性別役割に一致しないがゆえに行われている場合、妊娠・出産等と関連するマタニティー・ハラスメントなどがある。ジェンダーに基づく暴力及びハラスメントはジェンダー不一致の男女に対して行われレスビアン、ゲイ、両性愛者、トランス及びインターセックス (LGBTI) の人々が対象となる。

 仕事の世界における暴力及びハラスメントが起こりうる状況としては、仕事の行われる公的・私的空間、給与の支払い場所、食事又は休憩をとる場所、通勤途上、仕事に関連した旅行・訓練・イベント・クリスマス会などの行事、及びEメールなどを使って行われる連絡などがある。そして、仕事の世界における暴力及びハラスメントの被害者及び加害者は労働者、使用者、第三者 (取引先、顧客、サービス提供者、患者、一般公衆) と多岐に渡る。身体的暴力及びハラスメントは、教育、ヘルスケア、ソーシャルワーク、行政、宿泊・飲食業のサービスのような労働者が公衆と直接接する職業において頻繁に報告されている

 【労働者及び企業に対する影響】
 身体的な暴力及びハラスメントは、明白な身体的な傷跡のみならず、リハビリテーション及びカウンセリングを必要とする精神的傷跡を残すことがある。精神的な暴力及びセクシャル・ハラスメントは、不安、抑圧、頭痛、睡眠障害などを引き起こし、仕事の遂行能力に悪影響を及ぼす。

 経済的観点では、性的暴力及びハラスメントは、しばしば女性が労働市場に参入すること及び職に留まることへの障害となっており、女性労働者の所得能力の低下、男女賃金格差拡大に寄与している。企業にとって暴力及びハラスメントは、常習的欠勤の増加、疾病手当及び管理費用の増大を招く。また、虐待された労働者が適切なサポートなしに会社に留まる場合、生産性はしばしば低下し、それが企業の費用を増大させるほか、被害者が離職した場合には、新規労働者の採用及び訓練費用として負担増となる。さらに企業の評判・イメージの観点か らマイナス効果がある。

 【既存の対策と枠組み】
 強制労働・児童労働・差別撤廃等に関連するILO基本条約は暴力及びハラスメントに関連する対策を内在しているほか、夜間労働者、家事労働者、先住民及び種族民、船員などを対象とした国際労働基準では、一定の種類の暴力又はハラスメントに言及している。また、労働安全衛生関連の基準は、暴力及びハラスメントに直接言及していないが、労働者の安全と健康確保の観点から、その防止及び管理に関係している。しかしながら、これらは広くすべての労働者の保護と暴力及びハラスメントの防止を目指したものではない。

 ヨーロッパ社会憲章では、加盟国が使用者及び労働者の代表と協力して意識を高め、情報を提供し、職場におけるセクシャル・ハラスメントとモラル・ハラスメントの両方を防止することを求めている。米州では 「女性に対する暴力の防止、処罰及び撲滅に関する米州条約」 が多くの国における女性に対する暴力に関する法律の採択を促している。アフリカにおける女性の権利に関する 「人権および人民の権利に関するアフリカ憲章」 の議定書 が各国の職場におけるセクシャル・ハラスメント対策に寄与している

 暴力及びハラスメントのない職場で働く権利、あるいは仕事の世界における暴力及びハラスメントの禁止が、多くの国々の法律、判例法及び団体協約において規定されている。多くの場合、権利付与及び禁止は、労働法、刑法及び差別禁止法で、防止措置は労働安全衛生対策についての法律で規定されている。職場の精神的暴力及びハラスメントは、「言葉による暴力」、「弱い者いじめ」、「暴力」 又は 「ハラスメント」 などの用語に基づいて規制されて いる。

 暴力及びハラスメントをOSHマネジメントシステムの対象としている場合には、労働者参加のもとに危険要因 (職場の暴力及びハラスメントを発生させる精神的危険要因を含む) を予測し、評価し、対策を講じることになる。労働安全衛生法令で職場における該当行動の識別法と防止方針の策定、ハラスメントに関する意識向上活動、苦情手続の確立を求めている国もある。暴力及びハラスメントに関する内部紛争解決機構の設置を義務付けている国もあり、苦情の訴え・通報に基づく対処がなされる。また多くの国々では、外部紛争解決機構が、提起された苦情に基づき、一定期限内に調査、その他の措置を取っている。

 【第一次討議】
 第一次討議では、条約・勧告における暴力及びハラスメントの定義、対象となる労働者や暴力及びハラスメントが起こる状況などの範囲、すべての形態の暴力及びハラスメントの禁止、暴力及びハラスメントを受けるリスクの高い労働者 (妊婦、HIV感染者、移民、LGBTI等) が差別を受けない等労働者の権利、リスクアセスメントに基づく防止対策、労働者への情報 提供と訓練、法令の施行、被害者支援等の規定について検討される。


 ILOは、総会にむけて各国に、会議報告書のためにもっとも代表的な使用者・労働者組織と協議のうえ、2017年9月22日までに見解を提出することを要求しました。日本でも、政府、経団連、連合などが提出しています。
 報告書への条約制定にたいする日本政府の見解は 「YES」 でした。しかし 「当該条約では、各締国が仕事の世界におけるあらゆる形態の暴力およびハラスメント、とりわけあらゆる形態のジェンダーに基づく暴力を禁止す国内法、とりわけあらゆる形態のジェンダーに基づく暴力を禁止す国内法令を定めるべきであると規定すべきか?」 には回答しませんでした。


 6月4日の共同通信発信の見出し記事 「ILO、セクハラ対策条約制定へ 米反対、日本は態度保留」 です。
「【ジュネーブ共同】 国際労働機関 (ILO) の委員会は2日、職場でのセクハラや暴力をなくすための国際基準の枠組みについて、拘束力を持つ条約を制定する方針を決めた。社会規範の異なる各国の事情に合わせるため、勧告を作成し条約を補完する。会議筋が明らかにした。
 世界各地で性被害を告発する運動が広がる中、セクハラを含めたハラスメント対策は初の国際基準制定へ一歩前進することになった。
 会議筋によると、委員会の議論では、欧州連合 (EU) 各国や中国、中南米、アフリカ諸国などが条約制定に賛成。米国、ロシアなどは勧告にとどめるべきだと反対し、日本は態度を保留した。」

 共同通信の発信を、6月4日の東京新聞 【ジュネーブ=共同】 から補足します。
「(日本は) ハラスメントの定義などをきちんと議論する必要があるとしている。……
 来年度の年次総会での条約制定を目指す。条約を批准するかどうかは各国が判断する。……
 5月28日に始まった委員会には各国の政府・労働者。使用者代表が参加し、ILOがまとめた国際基準案を基に議論を進めてきた。当初、枠組みを先に決める予定だったが、議論が紛糾したため後回しにしていた。
 国際基準案は職場でのあらゆる形の暴力とハラスメントの禁止を目指すもので、ハラスメントの定義や、対象となる労働者や行為者の範囲、防止措置なども盛り込んだ。」
「日本政府は 『勧告が望ましい』 との態度を崩さず、ILOのまとめた基準案の内容を弱めるような修正案を相次いで提出するなど 『使用者側寄りとみられてもしかたがない』 (外交筋) との指摘もある。……関係者は 『条約ができても日本は批准しない恐れもある。国際的な反ハラスメントの動きに取り残されかねない』 と懸念する。」

 この後は、6月6日にILOの委員会が職場でのセクハラや暴力をなくす条約制定の方針を盛り込んだ報告を採択、8日にILO総会で報告を承認、その後、条約案と勧告案を議論して、2019年6月頃、ILOの年次総会で条約と勧告を制定する予定です。


 昨年3月28日、政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 には 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」 と盛り込まれました。これをうけて 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」 が10回開催され、3月30日に 「報告書」 が発表されました。
 検討会では、事業主に対する措置義務の検討を中心に検討を進めるという意見が多数をしめました。しかし使用者側委員はガイドラインに固執し、最終的にまとまりませんでした。ILOにおける日本政府の対応をみると、検討会における使用者側の “自信” が理解できます。

 「仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメント」 報告書の内容は日本の労働者にとっても喫緊の課題であり渇望するものです。
 安倍政権が掲げる 「すべての女性が輝く社会づくり」 「女性の活躍」 とハラスメント防止に取り組みの放置は矛盾します。厚労省は、来年のILO総会にむけ新たな「職場のパワーハラスメント防止のための検討会を開催し、広く意見を聴取して職場のハラスメント対策を策定する必要があります。
 労働者の人権、人格権・尊厳を否定する日本政府の姿勢を、世論を巻き込んで転換させ、来年のILOの年次総会で条約と勧告を批准させるための運動を進めていかなければなりません。
 

 「ILO駐日事務所の『第107回ILO総会の議題について』」
 「ILOの第107回総会に向けた報告書」
 「ILOの第107回総会に向けた報告書」
 「ILOの第107回総会に向けた報告書」
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『サービス残業は犯罪です』 の通達は、外国人労働者の闘いから
2018/06/01(Fri)
 6月1日 (金)

 政府は、いわゆる 「働き方改革」 を推進しようとしていますが、労働力不足が深刻ななかで外国人労働者へのまさしく 「働かせ方改革」 を推し進めようとしています。
 そのような動きのなかで、『世界』 18年6月号に 「隠される外国人の労働問題 移民国家・日本のいのちの差別」 のタイトルで、長年外国人労働者の問題に取り組んできた鳥井一平さん (全統一労働組合)、村山敏さん (神奈川シティユニオン)、飯田勝泰さん (東京労働安全センター)、指宿昭一さん (弁護士)の座談会が載っています。
 外国人労働者がおかれている状況の深刻な問題が指摘されています。かなりの好評で、いくつかの書評、論評で取り上げられています。


 日本では、単純労働者の受け入れは原則、認められていなません。とはいいながら、17年10月末時点の外国人労働者数は127万人と過去最高です。労働力の50人に1人は外国人労働者です。
 その一方で、「発展途上国へ技術・技能を移転して国際貢献をする」 と、農業や介護、建設などで非熟練労働者を受け入れ、働きながら技能を身につける技能実習制度については最長5年の滞在を認めて事実上、単純労働者の受け皿をつくってきました。技能実習は学んだ技術を母国に伝えることが建て前で、修了したら帰国することになります。17年10月末で25万人います。
 しかし、現在、労働力不足は深刻です。政府は今秋の臨時国会にも入国管理法改正案を提出し、来年4月にも新制度を始める方針です。
 最長5年間を、特定技能の試験に合格すれば 「特定技能 (仮称)」 としてさらに最長で5年間就労できる新たな在留資格制度をつくります。しかし外国人の永住権取得の要件の一つに 「引き続き10年以上の在留」 があります。そこで、新資格は一定期間、母国に帰って再来日した後に付与します。政府は長期間、国内労働力に定着させることができると見込んでいます。
 さらに、新資格の保有者は、専門技能に関する試験に合格すれば、在留資格の上限がなく、家族を招いたり、永住許可を付与するなどの制度も検討しています。

 政府は外国人労働者の受け入れを拡大していくのに合わせ、企業が医療など社会保障の費用負担を逃れるといった不正を防ぐ体制の強化に取り組むため、実態把握の強化に向けた対策について、6月にもまとめる成長戦略に盛りこみ、早期に実施する方針といいます。
 企業は外国人労働者の社会保障の費用負担などを回避しようと、届け出を怠っています。こうした不正を防ぐため、厚労省と法務省が互いの情報を照合し、届け出が漏れている企業に対して厚労省が指導するように改めます。
 在留資格で認められた範囲を超えて働いている恐れがあります。個々の在留者から届け出を受ける法務省と、雇用主からの情報を集約する厚生労働省が連携して届け出が漏れている企業を指導し、より正確な実態の把握をめざし、人手不足が深刻になるなか、外国人の働き手を受け入れる環境整備を急ぐといいます。


 座談会をかいつまんで紹介します。

「1980年代半ば過ぎから、バブル経済とともに中小の製造業や建設現場で人手不足が起き、『底辺のきつくて危険な仕事』 を誰が担うのかと考えたとき、南アジアから観光ビザで入国して、そのまま出かせぎを目的として労働現場に入る外国人労働者が非常に増えてきたという歴史的な経過があります。」
「80年代、入管どこ吹く風という感じで入ってきた外国人たちが、オーバーステイ (不法滞在者) になっていく。入管も警察も表向きは取り締まるけど、事業主、使用者の要請に従って実際は捕まえない。そうした外国人の数は93年が統計的なピークで29万人、実際は30万人を超えていたと思います。」
「1990年に入管法が改正されて、日系人は定住者として家族と一緒に日本に入国しやすくなったため、その数が急増しました。30数万人にもなり、自動車や電機、食品加工の生産現場で働いていました。」
「惣菜工場などでは家族ビザで働いている人も多い。90年頃は、オーバーステイだから雇っている実態を隠すところが多かった。目立たないように、夜勤中心のところもありました。」
「在留特別許可は、これまで年間平均で7000人ほどに出されていて、日本人と結婚するなどして、定住している人が結構いるんです。」
「そうして、かつて30万人いたオーバーステイの人たちが6万人ほどに減りました。日本人と結婚したのは、半分くらい。在留資格を持っている人たちがどんどん増えているということです。あとの半分は帰国させられていますが。」
「2010年の改正入管法施行以降は、外国人技能実習生と呼ばれている人たちがいますね。数多くの人権侵害が報告されています。残業代が300円程度しか支払われないことが多く、『時給300円の労働者』 と呼ばれています。」

「そうして外国人が増えていく中で、多くの労働問題が当然のごとく起きる。とりわけ、バブルがはじけて以降は、外国人労働者の多くが使い捨ての状態に陥りました。労災や解雇、賃金未払いといったことが起きていく。」
「80年代、90年代は、入管法違反をおそれた事業主による労災隠しがほとんどでした。」
「労災事故現場のねつ造もよくありました。重傷だから病院には連れていかないといけない、でも労災適用すると工事現が止まってしまうから、別の場所にけが人を移動してから申請する。」
「製造業末端にいる日系人労働者の労働条件はひどくて、最低賃金ギリギリで働かされ、何年働いても賃上げもボーナスもない。残業割り増しの計算が違っていたり、雇用保険や労災保険に入っていなかったりもします。」
「精神疾患にかかる人も増えてきていますね。外国人は海を渡ってきているくらいだから、根性もあるだろうと勝手に思われていますが。」
「日本人からの差別が原因の精神疾患もあります。ムスリムの人たちは生活慣習も違うし、サラート (毎日のお祈り) やラマダーンについても理解されていない。そういったところから差別されて、精神疾患に陥ってしまう。言語、文化、生活、信仰の違いなどでも、大きなストレスになってしまう。」
「国際研修協力機構 (JITCO) が技能実習性の死亡事案についての統計を取っていますが、毎年1,2名は自殺者がいます。そこに記載がなくとも、おそらく自殺と思われる事例も聞いています。ノイローゼ状態で高い橋から投身自殺してしまった事案があって、私は労災だと確信しているのですが、遺族にお金がわたって終わりにされてしまったので、労災申請ができませんでした。過労死も、過労自殺も、ほとんど表に出てこない。実習生の過労死はかなりあると思っていますが、まだ2件しか認定されていません。」
「労務実態として賃金が払われていれば、労基法をはじめとした労働諸法令が適用されるのが基本ですが、研修生は制度上、適用がないとされていました。そのため、労基署も動かず、受け入れ企業は労働法を無視していました。」

「こうした外国人労働者の権利問題について突破口を開いたのが、安全センターでした。安全センターは1991年に 『外国人労働白書』 を発表します。労基法3条 (「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」) をテコにして外国人にも労災保険が適用できることを示しました。この場合の 『社会的身分』 とは、在留資格があるかどうか。オーバーステイであっても、労働実態があれば労災保険の適用があるということです。
 労災隠しをさせないために入管法よりも労働法を優先させる、使用者も免罪させない、という原則は、当時参議院議員だった大脇雅子さんが国会答弁で労働大臣から引き出しました。」
「日本に出稼ぎに来て不幸にして重篤な労災に遭った外国人労働者は、入管に通報されてしまうと、働くこと自体ができなくなってしまう。だから沈黙させられてきました。それで、『白書』 によってそうした実態を世に知らしめつつ、労働省と交渉を始めました。当時の労働省は、不法就労を取り締まるという基本方針を掲げていた。しかし私たちの働きかけにより、労働者としての権利救済、労災の申請、認定、補償は、労働者の命にかかわるものなので、優先すべきである、という方向に動きました。」
「建設と港湾の現場は、建設業法と港湾労働法が労災や賃金に関する元請け責任を謳っているので、製造業とは違い、責任追及がしやすいです。」
「日本人と賃金差別をつけるそうした扱いは、そもそも差別です。これに対しては、1993年から毎年、シティユニオン、安全センター、全統一、東京南部が一緒になって、『生活と権利のための外国人労働者1日行動』 を実施、当事者と一緒に権利春闘として取り組んでいます。
 かつては、たくさんのオーバーステイの労働者自身も参加して法務省や厚労省に訴えに行きましたね。」

「外国人労働者自身が労働問題に対して立ち上がり、結果として日本社会をもよくしているケースもあります。
 たとえば、1980年後半から90年前半頃にかけて急成長した居酒屋グループは、たくさんのオーバーステイの外国人の力に頼っていました。これらが96年に外国人労働者の一斉解雇を行う。それまでサービス残業にもかまわず、一生懸命頑張ってきた外国人労働者たちは怒り、全国の労働組合に入ってきた。本社にみんなで押しかけて、補償金を勝ち取ります。
 事態はそれで終わらない。それを見ていた居酒屋チェーン本社で働く事務職員の日本人女性たちが地域の労働組合に入り、自ら残業代を請求した。さらには、当時の労働省が、『サービス残業は犯罪です』 という通達を出すに至ります。」

「『あいつら難民だから』 とか言ってね。より弱い者をたたくのが差別構造ですからね。アフリカ系の人に対して南アジアの人間は責めたてるし。」
「外国人労働者同士でケンカをした場合は、ケンカ両成敗として両者とも国に還してしまいがちです。違いがあればトラブルは起きるものだ、ということを前提に、研修を行なったりコミュニケーションをとったりしないと、いまの時代にはそぐわないですね。企業は、多文化共生を前提にした職場環境配慮義務を尽くすべきだと思います。」
「他民族・多文化共生社会を考えたとき、日本人と外国人の差についてだけでなく、外国人同士の違いも見ないといけません。それは何も、多言語化すれば済むということでもない。」
「2000年にインドネシア人の研修生が指を落とした。安全装置もついていなかった。ノルマがあり、労働実態が存在していたのに、労災にならなかった。労働保険審査会まで訴えても、研修生は労働者ではないから、の一点張り。研修生は、合法的労災隠しの最たるものです。かれらは研修生保険でしか補償されない。」
「2009年に、研修生も実態に即して労働者と認定される判決が初めてでました。同じ09年に法改正がなされ、10年にいまの外国人技能実習制度が施行され、その後の事案対応がだいぶやりやすくはなっています。」

「外国人の問題を難しくしているのは入管行政です。
 そもそも、労働のためだけに入国する仕組みが、日本には実質的にないんです。厚労省の2016年度のデータによると、外国人労働者は、専門的・技術的分野 (大学教授、医師、弁護士などの 「高度人材」) が15%、技能実習が22%、留学生が20%で、『裏口』 的な労働者は40%を超えています。留学生が労働するには資格外活動の許可が必要なので、ここでもブローカーが暗躍する。」
「いまの政府は移民政策をとらないと言いつつ、労働力として現実的には外国人を必要としている。技能実習生ではその適用範囲を広げて、職種について何でもありの状況になってきている。実習期間を増やすという話もあります。」
「外国人は在留資格をごまかして働いていると考える人もいます。でも、労働者自身が偽装しているのではなくて、社会が、政府が偽装させている。」
「こうしたことは全部、中途半端な歪んだ移民政策ですよ。こういうことを続けていたら、社会の経済構造は壊れていく。留学生の資格外活動について、週28時間以内賭していたものを35時間に広げようという、本末転倒なことを言っている。建設や製造の技術を担っていく人を、技能実習生では育てていけない。」
「2018年2月、安倍首相は、経済財政諮問会議で、外国人労働者の受け入れ拡大方針を検討するよう指示を出しました。農業、建設などこれまで単純労働として受け入れを禁止していた分野の外国人労働者を受け入れるというのです。それはいいのですが、これは移民政策ではなく、在留資格に上限を設けて在留期間が終われば帰国することが前提で、永住申請を認めない、といいます。技能実習制度類似の短期就労型の受け入れを考えている。
 この会議で出された方針は、外国人労働者の人間としての生活に配慮した日本社会との共生を考えていない内容で、とても危険を感じます。外国人労働者の問題は、社会できちんと議論されないまま、政府主導でどんどん話が進んでしまう。」
「外国人労働者との共生を一番みていないのは、やはり政府ですよ。」


 外国人労働者についスイスの作家マックス・フリッシュの 「われわれは労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」 を紹介しています。同じことは、かつてトルコから労働者を呼び寄せた時の西ドイツでもいわれました。労働力と人間を切り離すと人権が否定されます。
 労働力を必要としながら、その労働力に差別と分断を持ち込み、使い捨てです。
 戦時中の強制連行と戦後の排除、迫害の対処の問題はまだ解決していません。だからヘイトがはびこっています。
 日本は歴史から何も学びません。

 第二次世界大戦後すぐに 「基本的人権」 が独立して登場し 〈世界人権宣言〉 が発せられます。
「第一条 すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」
 世界に恥ずかしくない振る舞いをしてこそお互いを理解し合え、尊重し合えます。それは国同士においても人間同士においてもです。
 

 「活動報告」 2018.3.31
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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“いじめ” は組織的、社会的に発生している
2018/05/23(Wed)
 5月23日 (水)

 日本大学学生アメリカンフットボール部員の関西学院大学部員への暴力行為が社会問題になっています。試合中に行われた行為ですが、ボールの行方を巡った行為ではありません。反則行為というより、やってはいけない行為をグランド内で行ったのです。しかし監督とコーチという指導者からの指示だったといいます。
 学生スポーツは選手の将来を奪うようなことをしてまで勝つことに執着しなければならないのでしょうか。その際に、相手選手が怪我をし、選手生命だけでなく、生涯生活に支障をきたすことにもなりかねないということを想像しないのでしょうか。最悪の場合は命を失います。
 選手は、監督、コーチからの指示があったとしても、相手選手に思いがおよばなかったのでしょうか。
 お互いが相手方チームの選手に思いがはせられない行為は、学生スポーツというよりスポーツといえるのでしょうか。プロの世界ではあり得ないことなのだそうです。
 
 結局は日大の監督、コーチは自分のチームの選手を傷つけ、将来を奪ってしまいました。家族の夢を奪ってしまいました。
 理不尽なニュースを聞いて、與謝野晶子の 「君死にたまふことなかれ」 が浮かんできました。

  あゝをとうとよ、君を泣く、
  君死にたまふことなかれ、
  末に生れし君なれば
  親のなさけはまさりしも、
  親は刃 (やいば) をにぎらせて
  人を殺せとをしへしや、
  人を殺して死ねよとて
  二十四までをそだてしや。

  堺の街のあきびとの
  舊家 (きゅうか) をほこるあるじにて
  親の名を繼ぐ君なれば、
  君死にたまふことなかれ、
  旅順の城はほろぶとも、
  ほろびずとても、何事ぞ、
  君は知らじな、あきびとの
  家のおきてに無かりけり。

 日大の監督、コーチの指示は旧日本軍の指揮者と同じです。軍の体質と今回の問題の本質とは重なっているのかもしれません。
 「君死にたまふことなかれ」。しかし指示に従った選手は、悲しいことに精神的には殺されてしまいました。選手の家族は 「人を殺せとをしへしや、人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや」 ではありません。
 大学指導者の責務は、選手を育て、将来に送り出すことです。学生や親の夢を奪うことではありません。


 監督、コーチは、指示の内容がちゃんと伝わっていなかったと言い訳します。
 しかし、アメリカンフットボールは各ポジションでの役割分担をこなしながら複雑な連携プレーをチームプレーを展開するスポーツです。以心伝心です。試合におよんで指示や伝言の意味するところをいちいち確認しなければならないようなことはありません。
 コミュニケーションが成立しなくて、勝手な受け止めをして個人プレーが発生したという説明は、自己保身にしても度を越えています。指示をうけた選手がかわいそうです。


 そこにあったのは構造的 “いじめ” です。
 エミリー・バセロン著 『ある日、私は友達をクビになった』 (早川書房 2014年邦訳) は、スウェーデン、イギリス、アメリカなどの学校のいじめへの対応の25年間の思考錯誤を紹介しているルポルタージュです。(16.11.24の 『活動報告』 参照)
 被害者が回想して語っています。
「毎日が地獄のようで本当に辛かった。心の傷は今でも痛むわ」 「あの頃のことを話すと今もぞっとする。頼るものがない無力感。自分に何か欠陥があるのではないかという気持ち。今の私なら、自分が悪かったわけではないと自信をもって言えるけど、それでもあの惨めさは簡単によみがえってくる」
 いじめは、いじめられている時だけでなく心に傷を残します

 スウェーデンの公立学校の校医になったピーター・ポール・ハイネマンは子どもたちのいじめを観察し、1968年に雑誌に論文を発表し、学校が早いうちから対策を打つことを呼びかけます。「これは人間の社会では集団でのリンチ、集団犯罪に近い、しかし、モビングが子ども時代にすでに始まっていることは忘れられている。子どもが仲間から繰りかえし嘲りの言葉を浴びせられることは、その子にとって壊滅的な影響をおよぼす」。
 「モビング」 とは動物学の用語で、鳥が群れを作って違う種類の鳥や弱いメンバーを攻撃することをいいます。

 1969年、スウェーデンのダン・オルウェーズはハイネマン論文に疑問をいだき、子どものいじめの研究のためにいくつかの学校に何度も足を運び、1000人の6年生と8年生子どもたちにいろいろな問題を質問し、答えてもらいました。
 子どもたちの答えの中から、「彼らが特に苦痛だと感じている種類の攻撃を特定することができた。子供たちは長期にわたっていじめが繰り返され、しかもそれに対して自分を守ることができない状況にある時に、最も深く傷つくことが分かった。同等の力をもつ者同士喧嘩は問題ではなかった。本当のダメージは、優位にある者からひっきりなしに苦痛が与えられることによって起きる
 このことからいじめは3つの条件を満たすものと定義づけました。
 いじめとは、「言語的あるいは身体的攻撃であり」、「ある程度の期間繰り返され」、「両者の間に力の差が存在する」。つまり1人あるいは複数の子どもが自分たちの強い立場を利用して相手を支配しようとするものです。「いじめの特徴は、相手がどんなに非力であっても攻撃するということです
 いじめを行なうのは1人のボス (lone alpha) と少数の手下ということで、昔から英語圏にあった 「ブリ―イング (bullying)」 の言葉を当てます。

 日大の選手はアメリカンフットボールが嫌いになっていっていたと語っています。ブリ―イングを受けていました。その結果、暴力事件を起こしてしまい、加害者になりました。


 学校のいじめは悲しいことに、全国で発生し、連日のニュースをにぎわします。その都度、再発防止などの対策が叫ばれます。
 しかし、今回のようなことが起きると、小中学校、高校などでどのような取り組みがおこなわれてきたのかと疑問が湧いてきます。命の尊さ、人権・人格権の尊重、共存、協働などがどのように議論され共有されたのでしょうか。その場限りのことだったのではないでしょうか。周囲も個人的問題ととらえ、それ以上は無関心でした。その結論が社会的に提起され、共有されてきていないで現在に至っているというのが今回の事件です。このままでは繰り返されます。


 事件後、テレビ出演したスポーツ評論家は、スポーツは近代国家形成とともに、お互いが遵守することを前提にしたルールをつくって競い合う民主的ゲームとして発展してきたと語っていました。そこでは全力で競うことができ、フェアプレーの精神が生まれ、相手を讃えることもできるのです。
 日大の一方的にルールを順守することを放棄し、しかも無防備な状態に身体的攻撃を加えることは、近代以前の貴族たちのものであったといわれるスポーツ遊びよりも劣ります。そこからは日大が持つ体質が見えてきます。
 スポーツ界でさまざまな問題・事件が発生・発覚しています。競技・競技運営、競技施設設営・管理がさまざまな利害に利用されています。政治的利用もあります。そのなかでいじめ、セクハラなどだけではなくさまざまな問題・事件が発生・発覚しています。往々にして社会的問題とリンクしたり、同じ問題を含んでいます。
 だからといってフェアープレーの精神を捨ててもいいということにはなりません。


 昨今、学生スポーツが学校経営者から歪められています。少子化が深刻になっている中にあって企業としての学校経営に必死で、学生募集の広告塔の役割を果たさせられています。そこでは学生の本分が忘れられています。
 かなり前ですが、プロ野球に進んだ学生選手は入寮するときのテレビインタビューで、部屋番号ともらった背番号と、卒業のために提出が必要なレポート数が同じと笑っていました。間に合ったのでしょうか。
 同じようなことは、数年前にお正月の箱根駅伝で連覇をした大学でもありました。優勝後、寮であった複数の選手へのテレビインタビューでの回答です。まだ1月ということでは時間的ゆとりはあるとしても、取り組まなければならないレポート数が多すぎます。計画的学生生活を送っていません。
 最近は、伝統あるスクールカラーから外れて活躍するスポーツチームがあります。数年後には伝統を守ろうとする大学OBとスポーツチームがいらぬ衝突をしないことを望みます。

 つい最近テレビに出演した、ロッテ球団の小宮山元選手は、入団直後の沖縄キャンプに参加しながら、夜、卒業に必要な最後のレポートを完成させ、郵送したと語っていました。猶予は与えられませんでした。彼は、ロッテ球団で活躍しながら大学院に通い、修了します。
 あるラグビーで有名な大学のレギュラー選手が試合に出られなかったという新聞記事がありました。理由は、進級に必要な単位を取っていなかったからです。これこそが学校としての本来の学生指導です。


 指示を受けて暴力行為を働いた選手と 「企業戦士」 の姿が重なります。
 入社に際しては、自己を磨く、成長させるという目標を持ち、会社のために頑張ろうと決意します。
 しかしまもなくさまざまなしがらみが押し寄せます。「労働者の人権は、会社の門前で立ち止まる」。労働法規が否定され、会社独自のルールが登場します。労働者の正義感が薄められていきます。
 独自のルールは、賃金や処遇、昇格、将来像に影響することが自覚されると従順になります。
 おかしいと自覚できるうちはまだ自己を維持できます。しかしそれを過ぎると自己を失っていきます。「企業戦士」 の登場です。違法行為の指示にさいしても躊躇がなくなります。過労死・過労自殺はこの様な中で発生しています。
 
 会社から 「役割終了」 を告げられる者が出てきます。しかしそのような労働者のために労働組合は行動しません。労働者は個人でも入れる労働組合・ユニオンを探して相談にきます。その時の相談担当員のアドバイスは簡単です。
「あなたが会社のことを思っているほど、会社はあなたのことを思っていないよ」
 このアドバイスを受け入れるか否かがその労働者の将来を決定します。

 日大の事件と「働き方改革」の政府対応がさまざまに重なります。改めて“いじめ”は組織的に、そして社会的に発生していることを実感させられます。
 過労死・過労自殺予防・防止、“いじめ” の予防・防止策としてまず行わなければならないのは、「労働者の人権を会社の門前で立ち止まらせない」 で声を上げることです。そして社会的規制の確立とその世論、合意形成です。
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「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」 Ⅱ
2018/04/13(Fri)

 4月13日(金)

 「検討会」 の目的の1つが職場のパワーハラスメント防止を強化するための方策です。
 現在の職場のパワーハラスメントの防止対策は、「提言」 を周知・情報提供することにより、企業等における自主的な取組を促しています。現状よりも実効性の高い取組を進めるために、5つの規定の創設や施策の実施とそれぞれの具体的内容が示されました。
 ①行為者の刑事責任、民事責任 (刑事罰、不法行為)
 ②事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定 (民事効)
 ③事業主に対する措置義務
 ④事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示
 ⑤ 社会機運の醸成
 5つについてもう少し詳しく述べると
 ① 行為者の刑事責任、民事責任 (刑事罰、不法行為)
 パワーハラスメントが違法であることを法律上で明確化し、これを行った者に対して、刑事罰による制裁や、被害者による加害者に対する損害賠償請求の対応です。
 検討会においては、すぐに実現すべきという意見は示されませんでした。
 ② 事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定 (民事効)
 事業主は職場のパワーハラスメントを防止するよう配慮する旨を法律に規定し、その不作為が民事訴訟、労働審判の対象になることを明確化することで、パワーハラスメントを受けた者の救済を図る対応です。
 ③ 事業主に対する措置義務
 セクシュアルハラスメント対策やマタニティーハラスメント対策の例を参考に、事業主に対し、職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の措置を義務付け、違反があった場合の行政機関による指導等について法律に規定することで、個々の職場において、職場のパワーハラスメントが生じない労働者が就業しやすい職場環境の整備を図る対応です。
 セクシュアルハラスメントについては、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律により、対価型セクシュアルハラスメントや環境型セクシュアルハラスメントのないよう、事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けています。その上で、措置義務の具体的な内容について、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」 で規定しています。
 忘れてならないのは、環境型セクシュアルハラスメントとは、個人ではなく職場全体だということです。そして、LGBTへのハラスメントに対しても援用されようとしています。
 マタニティハラスメントにつては、均等法及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律によって労働者の就業環境が害されることのないよう、 事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けています。
 その上で、措置義務の具体的な内容については、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置 についての指針」 及び 「子の養育又 は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」 で規定されています。
 これらの措置義務は定着して運用され、かなりの効果を上げています。

 この例に倣えば、対象となる行為の具体例やそれに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置は、指針において明確化することとなります。
 ①や②の対応策案に比べると現実的であり、この対応策案を支持する意見が多く示され、検討会では多数を占めました。「報告書」 に盛り込む防止策の方向性としては現実的方策として実効性があると連想され、期待されました。
 ④ 事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示
 職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の一定の対応を講ずることをガイドラインにより働きかけることで、個々の職場 において、職場のパワーハラスメントが生じない労働者が就業しやすい職場環境の整備を図る対応です。
 一方、行為者に対する制裁としての効力が弱く、行政等による強制力も弱いことから取組が進まない懸念があることがデメリットとして指摘されました。
 使用者側委員は、最後まで➃に固執しました。
 ⑤ 社会機運の醸成
 職場のパワーハラスメントは、労働者のメンタルヘルス不調や人命にも関わる重大な問題であることや、職場全体の生産性や意欲の低下やグローバル人材確保の阻害となりかねず経営的にも大きな損失であることについて、広く事業主に理解してもらい、防止対策に対する社会全体の機運の醸成を図る対応です。


 これらを踏まえて、事業主が講ずる対応策として考えられるものが検討されましたが 「提言」 からの大きな変更はありませんでした。
 ただ、職場のパワーハラスメントの発生の要因として、パワーハラスメントの行為者及び被害者となる労働者個人の問題、つまり個人的要因によるものと、職場環境の問題によるものとが一緒のものではなく平行に述べられています。
 また、使用者側・労働者側委員双方から防止策を進めるときの難しさの理由として中小企業においては実態把握や事後対応に難しさがあり、単独で取り組むことの困難さと支援の必要性が提起されました。
 その対策の1つとして、都道府県労働局において個別労働紛争解決促進法に基づき労使双方からの相談に応じていることや、都道府県労働局長による助言・指導及び紛争調整委員会によるあっせんのほか、都道府県労働委員会等におけるあっせん等中立な第三者機関に紛争処理を委ねることができる制度があることを周知し、利用を促すことがあげられました。
 確かに実態調査の結果によれば、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組の実施率は、企業規模が小さくなると相対的に低くなっている結果があります。
 先に述べたように、職場環境と生産性はリンクすることを自覚した企業は 「提言」 に関係なく自主的に取り組みを進めてきています。その結果、職場のパワーハラスメント予防対策の取り組みには企業の規模に関わらず、大きな 「格差」 が出てきている現実があります。
 職場内の “人間関係” は企業の大小に関係ありません。中小企業における対応が難しい、対応が遅れているといたずらに主張することは、職場のパワーハラスメントの発生を職場環境のからの要因追及を放棄して個人的要因によるものと断定し、企業の本来必要な取り組みの遅さを免罪することになりかねません。
 職場内での解決を放棄し、第三者に判断を仰ぐということは、本質的解決に至らず、労使関係に禍根を残します。


 「報告書」 は、最後に顧客や取引先からの著しい迷惑行為について述べています。
 第1回は委員全員が意見を述べました。UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの委員は
「現場ではパワハラだろうがセクハラだろうが、嫌なこと、困ったことなどいろいろな相談がくるのですが、その中には実は、特に流通とか介護の現場では多いのですが、顧客であるとか、利用者家族からのハラスメントも実は無視できない状態です。……相談を受ける側としては、やはり労働者を守るという意味では無視できない実態が実はあるのだということです。……これまでの取組の延長線上で現状を変えられるかということを考えますと、一定程度存在するパワハラ防止対策が進まない企業を、もう少しこの検討会では、今後の法整備に向けた、これまでよりもステップアップした対応についての議論が必要ではないかと考えております。」
 さらにその後の検討会には資料として医療機関や鉄道におけるいわゆる 「第三者からの暴力」 についての資料が提出されました。
 社会全体にとって重要な問題であり、何らかの対応を考えるべきという意見が示された一方で、議論の方向性としては、「提言」 の 「同じ職場で働く者に対して」 が踏襲され、さらに検討会では職場のハラスメントとの違いがクローズアップされ、取り上げない理由付けが縷々述べられました。消費者問題や経営上の問題として対応すべき性格のものであり、労働問題としてとらえるべきなのか疑問であるため、職場のパワーハラスメントについては職場内の人間関係において発生するものに限るべきとの意見が示されました。そして、
「こうした意見を踏まえれば、個別の労使のみならず業種や職種別の団体や労働組合、関係省庁 (厚生労働省、経済産業省、国土交通省、消費者庁等) が連携して周知、啓発などを行っていくことが重要であると考えられる。 ただし、顧客や取引先からの著しい迷惑行為については、業種や職種ごとに態様や状況に個別性が高いことも事実であることから、今後本格的な対応を進めていくためには、関係者の協力の下、更なる実態把握を行った上で、具体的な議論を深めていくことが必要であると考えられる。」
とまとめられました。

 
 「第三者からの暴力」 については、検討会外で問題提起がおこなわれました。
 昨年11月16日、UAゼンセン流通部門は 「悪質クレーム対策 (迷惑行為) アンケート調査結果 ~サービスする側、受ける側が共に尊重される社会をめざして~」 の速報版を公表しました。
 そこには現在、悪質クレームの定義が存在しない、判断が困難なという問題があります。
「クレームの対応の難しさは、悪質クレームの明確な基準がないことがあげられる。……実際には厳格な対応が難しい環境にある。そのことが企業の対応に差異がうまれ、対応の難しさにつながっていることは否めない。一方、企業が自主的に判断基準を設定することは差し支えなく、悪質なクレームに対しては毅然とした対応をするための基準の策定には大きな効果を望める。一企業ではなく、業界全体としての基準作りをしていくことでより効果も大きくなっていく。」
 12月21日、連合は、全国の15歳~69歳の男女2,000名 (一般消費者 (接客業務に従事していない人) 1,000名、接客業務従事者1,000名) の有効サンプルを集計し 「消費者行動に関する実態調査」 結果を発表しました。
 接客業務従事者に、勤務先で、消費者の迷惑行為に関するマニュアル作成や教育などが実施されているかどうかを聞きました。
「実施されている」 が42.9%、「実施されていない」 が57.1%です。
 業種別にみると、実施率が高いのは、「公務」 67.6%、「金融・保険」 59.5%です。続けて 「運輸・郵便」 45.2%、「生活関連サービス・娯楽」 43.4%、「医療・福祉」 42.9%、「情報通信」 41.3%の順です。
 「公務」 は、いずれかの迷惑行為を受けたことがある人の割合が高いですが、それが対応方法にもつながっているのでしょうか。
 しかし、検討会の途中でUAゼンセンの委員の主張はトーンダウンしてしまいました。


 労働者の人権、人格・尊厳は職業によって異なりません。会社によって違いはありありません。そして労働者が消費者や住民の立場になったときにも、相手の労働者の人権、人格・尊厳は尊重しなければなりません。
 ストレスは重層的格差社会が創り出しています。その構造の中で、ストレスを誰かにぶつけることで解消する連鎖をよんでいます。被害は労働者の自己を破壊させます。そして加害者の正義感をも破壊させます。
 お互いが尊重しあうなかから理解・共感が生まれ、さらに共生が生まれています。

 現在、いわゆる先進国において、職場のいじめについて、職場内と外からとで対応が異なり、「第三者」 からの暴力について法律や通達、指針等から排除し、対処していないのは日本だけと思われます。
 2003年、ILOは 「サービス業における職場暴力及びこの現象を克服する対策についての実施基準案」 を発表しています。これと比べるとはるかに対応が遅れています。

 海外における進んでいる取り組みの例としては韓国があります。
 韓国では職場の暴力を 「感情労働」 ととらえています。労働者の労働条件、処遇、健康、労働安全衛生は労働組合が使用者や関係団体に要求しながらキャンペーンなどが展開され、さらに労働安全衛生関係の研究所や学者、議員などが連帯して社会環境を変えていっています。さらに地域住民や利用者の共感を得て共同の闘いを組んでいます。
 例えば、2013年6月、安全保健公団とデパート業界は、「感情労働者健康保護の業務協約」 を締結しました。これにより公団は感情労働に伴う職務ストレスを予防するための 「自己保護マニュアル」 を開発・普及させ、各デパートは協力会社と一緒に共同の安全保健プログラムを運営することに同意し、公団と各業者は「安全誓約運動」共同キャンペーンを展開しました。主張は 「顧客が王様なら、従業員も王様だ」 です。
 フォーラムなども頻繁に開催されています。その中では 「感情労働をするテレマーケッターの場合には電話を先に切る権利を与え、無理な要求をする顧客には一方的に謝らない権利を与えなければならない」 と呼びかけられました。
 女性団体はデパートの前で 「デパートには人がいます」 と書かれたビラを配布し、△デパート労働者に丁寧語を使い△返品・払い戻し規定をよく熟知して不合理な要求をせず△会計をする時にはカードや紙幣を放り投げず△不必要なスキンシップや言語セクハラをしない、などを守ろうと呼びかけました。
 メーデーの日、コーヒーショップで働く労働者は、利用した労働者に 「感情労働者の苦衷、ちょっとだけ考えて見てください」 のチラシを配り連帯していきました。
 感情労働者を守るのは事業主 (元請事業主) の責任です。予防と対応をとらなければなりません。ソウル市は、2016年 「ソウル特別市感情労働従事者の権利保護などに関する条例」 を制定し2017年から施行されました。具体的には、ソウル市に感情労働者の勤労環境改善計画の樹立を義務付けています。

 ストレスは重層的格差社会が創り出しています。その構造の中で、ストレスを誰かにぶつけることで解消する行為は連鎖を呼びます。感情労働の被害は労働者の自己を破壊させます。そして加害者の正義感をも破壊させます。
 それぞれ立場は違っても、みな消費者であって労働者です。お互いが主張し合う中から理解し合って共感が生まれ、さらに共生が生まれています。
 日本においても、韓国の取り組みをまねながら労働者の人権と尊厳を守るための取り組みに着手することが必要です。


 検討会は、職場のパワーハラスメント防止対策を進めるために、事業主に対する措置義務を中心に検討を進めることが望ましいという意見に集約される様子が見られました。
 しかし使用者側委員は、ガイドラインに固執して最後まで反対し、譲りませんでした。多くの委員会等では、最後のまとめは 「座長一任」 ということが多くありますがそうにはなりませんでした。

 現在、政府は 「働き方改革」 の法制化を目指しています。しかし同じ政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 に盛り込まれていた 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため」 の政策は法制化には至りませんでした。
 「働き方改革」 の 「高プロ」 は 「過労死促進法」 と呼ばれています。法制化を固執する 「高プロ」 は企業の生産性向上のなかで労働者は 「自己責任」 が問われます。

 「報告書」 は 「はじめに」 で
「職場のパワーハラスメントは、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに、職場環境を悪化させるものである。こうした問題を放置すれば、人は仕事への意欲や自信を失い、時には心身の健康や命すら危険にさらされる場合があり、職場のパワーハラスメントはなくしていかなければならない。
 また、企業にとっても、職場のパワーハラスメントは、職場全体の生産性や意欲の低下など周りの人への影響や、企業イメージの悪化などを通じて経営上大きな損失につながるものである。」
とあり、労働者と企業双方に悪影響がおよぶことからの克服を目指そうとしています。
 しかし 「報告書」 を貫いているのは、「提言」 と比べると厳密な検討ということでの定義の枠の縮小、解釈等のゆとりの解消です。そして個人的問題・「自己責任」 が登場しました。「仕事への意欲や自信を失い、時には心身の健康や命すら危険にさらされる」 などは建前で、「職場全体の生産性や意欲の低下など周りの人への影響や、企業イメージの悪化などを通じて経営上大きな損失につながる」 の本音を 「防止」 させるための方策が盛り込まれたといえます。まさしく 「働かせ方改革」 の 「職場のパワーハラスメント防止対策」 版です。

 検討会が開催されている最中、さまざまな団体で職場のパワーハラスメント予防・防止の議論がおこなわれ、またさまざまなハラスメントの捉え返しが進みました。特に 「第三者からの暴力」 の被害を被る労働者の思いは切迫したものがありました。
 「報告書」はこの後、労働政策審議会に送られますが、検討会の報告を承認するだけで済ませるのではなく、労働現場の声を届け、反映させるための運動を展開し、「職場のパワーハラスメント予防・防止対策」の対案提起していく必要があります。
 そしてILOの議論においても討論が行われますが、日本政府の言いわけとねつ造を許さない世論を作り上げていく必要があります。
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