2017/07 ≪  2017/08 12345678910111213141516171819202122232425262728293031  ≫ 2017/09
「自動車運転従事者」 は過労死予備軍
2017/07/07(Fri)
 7月7日 (金)

 7月5日、国土交通省は今年3~5月に労働組合を通じて実施した全国のバス運転手の勤務状況アンケート調査結果を発表しました。7.083人が回答しました。2016年1月15日に起きた軽井沢スキーバス事故の対策を検討する有識者委員会の要請を受けたものです。
 直近4週間の勤務状況を尋ねたところ、国は運転手の拘束時間について 「原則13時間以内」 などとする基準を定めていますが、1日当たりの平均拘束時間が 「13時間以上」 は19.1%でした。睡眠時間についての規定はありませんが、平均睡眠時間が 「5時間未満」 24.9%、「5~7時間」 63.7%、「7時間以上」 11.4%でした。その結果、約2割が1日13時間以上拘束され、4人に1人は睡眠が5時間未満という実態が明らかになりました。
 一方、1200のバス事業者を対象とした調査では、「運転手を仮眠させる施設の確保に苦労する」 「高齢化、運転手不足が課題」 という意見が多かったといいます。
 業種がおかれている状況は深刻です。


 6月30日、厚労省は2016年度 「過労死等の労災補償状況」 を公表しました。
 「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」 については、請求件数825件で支給決定件数は260件、そのうち死亡件数は107件です。
 請求件数は12年までは800件台半ばに至っていましたが、13年度からは700件台に減っていました。16年度はまた800件台になりました。
 支給決定件数は13年度まで300件台でしたが、14年度から200件台に減っています。認定率は、11年度43.2%、12年度45.6%、13年度44.8%、14年度43.5%でしたが、15年度は37.4%、16年度38.2%と急減しています。
 「審査請求事案の取消決定等による支給決定状況」、つまり一旦請求は認められなかったが不服を申し立てて支給決定になった事案が、16年度は16件ありました。この数字は 「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」 には含まれていません。合わせると16年度の支給決定認定件数は277件です。

 支給決定件数を職種別 (中分類) にみると 「自動車運転従事者」 が89件で断トツです。続いて 「法人・団体管理職員」 22件、「飲食物調理従事者」 14件、「商品販売従事者」 13件、「営業職業従事者」 10件の順です。「自動車運転従事者」 3分の1を占めます。
 年齢別では50~59歳が99件、40~49歳が90件、30~39歳が34件、60歳以上が33件です。
 労働時間数別の支給決定件数では、時間外労働時間が1か月又は2~6か月における1か月平均80時間以上が全体の94%、100時間以上では52%を占めます。160時間が17件です。

 しかし6月5日の労働政策審議会の時間外労働の上限規制についての建議は、現行の時間外限度基準告示の①自動車の運転の業務、②建設事業、③新技術、新商品等の研究開発の業務、④厚生労働省労働基準局長が指定する業務、についてはそのまま上限規制の適用除外を容認し、さらに医師を追認しました。
 上限規制の法改正がおこなわれた施行期日の5年後に、年960時間以内の規制を適用することとし、将来的には一般則の適用を目指す旨の規定を設けることが適当であるとしています。
 全国のバス運転手の勤務状況アンケート調査結果と 「過労死等の労災補償状況」 をみるとバス運転手は過労死等の予備軍です。放置することは許されません。抜本的改善が早急に必要です。


 「精神障害の労災補償状況」 については、請求件数1.586件で支給決定件数 (いわゆる労災認定) は498件、認定率は36.8%です。請求件数はこの間増え続けていて13年度から1.400件台、15年度に1.500件台に達しました。労災認定の基準は11年12月に 「判断指針」 から 「認定基準」 に改善されました。それにより12年度以降は申請件数、支給決定認定件数が増えました。申請件数が15年度と比べて16年度に71件増えている背景としては過労死防止法案をはじめとして労災問題にたいする社会の関心が強まったことが影響していると思われます。
 支給決定認定率はこの間30%後半で大きな変化はありません。
 「審査請求事案の取消決定等による支給決定状況」 は16年度は13件ありました。13年度12年、14年21件、15年21件でした。これらの数字は 「精神障害の労災補償状況」 には含まれていません。合わせると16年度の支給決定認定件数は511件です。そのうち自殺者 (未遂を含む) は91件です (84+7)。

 支給決定件数を職種別でみると、専門的・技術的職業従事者115件 (前年度114件1位)、事務従事者81件 (93件2位)、サービス職業従事者64件 (53件3位)、販売従事者63件 (48件4位)、生産工程従事者52件 (36件6位)、輸送・機械運転従事者32件 (37件5位) の順になっています。
 職種の中分類別では、一般事務従事者47件、営業職業従事者37件、法人・団体管理職員29件、自動車運転従事者26件、商品販売従事者25件の順です。

 発表された資料から細かいことはわかりませんが、政府はいま、高度な能力を持つ人に労働時間でなく、仕事の成果に応じて賃金を決める働き方を認める 「高度プロフェッショナル制度」 の導入をおこなおうとしています。
 専門的・技術的職業従事者など 「専門的・・・」 の職種の労働者は 「高度プロフェッショナル制度」 の対象者ではないでしょうか。だとしたらやはり時間外労働を野放しにすることは危険です。

 年齢別では、40~49歳144件、30~39歳136件、20~29歳107件、60歳以上20件です。
 支給決定件数を、時間外労働時間が1か月又は2~6か月における1か月平均の20時間刻みの労働時間数区分でみると、100時間以上が120時間未満49件、120時間以上140時間未満38件、140時間以上160時間未満19件、160時間以上52時間となっています。この状況はあまり変化がありません。一方、20時間未満が84件、40時間未満43件、60時間未満41時間です。体調不良におちいる原因は労働時間だけでないことを物語っています。

 「出来事の類型」 では、出来事の類型の 「事故や災害の体験」 では 「(重度の) 病気やケガをした」 が42件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」 53件です。「仕事の量・質」 では 「仕事内容・仕事量の (大きな) 変化を生じさせる出来事があった」 63件、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」 47件、「役割・地位の変化等」として「配置転換があった」 14件、「対人関係」 として 「ひどい嫌がらせ、いじめ又は暴行をうけた」 74件、「上司とのトラブルがあった」 24件、「セクシャルハラスメント」 として 「セクシャルハラスメントを受けた」 29件などとなっています。
 「配置転換があった」 は、リストラ部屋などが含まれるのでしょうか。

 支給決定件数・率が都道府県によって大きなばらつきがあります。問題があると思われる府県の請求件数、決定件数、支給決定件数について、12年度、13年度、14年度、15年度、16年度の流れを見てみます。カッコは支給決定率です。
 埼玉県 43件-42件-50件-50件-48件   45件-34件-49件-36件-39件
      6件 (13.3%)- 8件 (23.5%)-22件 (44.9%)-11件 (30.5%)-16件 (41%)
 千葉県 46件-43件-46件-48件-48件   41件-47件-39件-48件-39件
      9件 (21.2%)-13件 (27.7%)-19件 (48.7%)-17件 (35.4%)-12件 (40%)
 愛知県 67件-57件-61件-67件-98件   83件-51件-51件-52件-81件
      19件 (22.9%)-10件 (19.6%)-17件 (33.3%)-10件 (19.2%)-27件 (33.3%)
 三重県 16件-12件-22件-19件-21件   14件-13件-12件-21件-23件
      0件 ( 0.0%)- 2件 (15.3%)- 6件 (50.0%)-6件 (28.6%)-9件 (39%)
 熊本県 15件-10-件18件-14件-22件   16件- 8件-13件-10件-17件
      3件 (18.7%)- 2件 (25.0%)- 4件 (30.8%)-3件 (30%)-6件 (35.3%)
 これらの県は、まだまだ総就業者と比べて今も申請件数が少ないです。労働者が期待していません。


 今回初めて裁量労働制対象者に係る支給決定件数が6年分発表されました。
 「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」 は、11年度専門業務型1件、企画業務型0件、12年度は4件と0件、13年度は5件と0件、14年度は7件と1件、15年は3件と0件、16件度は1件と0件です。
 「精神障害の労災補償状況」 は、11年度専門業務型2件、企画業務型0件、12年度は11件と0件、13年度は10件と0件、14年度は6件と1件、15年は7件と1件、16件度は1件と0件です。
 裁量労働は労働者の都合にあわせて業務遂行できる、早期に終了した時は自由に時間を使えるなどをうたい文句に導入されましたが、特に専門業務型は逆な状況になっていることが明らかにされました。
 働きかた改革においても議題になっていますが安易な導入・促進派危険です。


 「過労死等の労災補償状況」 と 「精神障害の労災補償状況」 を合わせて750人以上が労災に認定され、しかも200人近くが死亡・自殺 (未遂) している状況が続いている国は他にあるでしょうか。しかも経済的問題、時間の問題で申請に至らなかったり、別の対応で解決している事案もたくさんあります。また認定基準が厳しすぎるから認定率が低いことをしってあきらめる人も多くいます。
 労働者の命の価値が低く取り扱われています。しかし政府も使用者も労働者もこれらの数字に慣らされています。
 労災の申請数が増えることは歓迎されることではありません。
  “働き方” “働かせ方” “働かされ方” について労働者の側から根本的問い直しが必要です。


 6月1日の河北新報は 「宮城の労災死傷者2467人 3年ぶり増加」 の見出し記事を載せました。
 宮城労働局がまとめた2016年の労災発生状況によると、県内の死傷者数 (休業4日以上) は前年比185人増の2467人となり、3年ぶりに増加した。東日本大震災の復興事業で作業員が足りず、現場監督や安全教育が不十分になっているためとみられている。
 業種別の死傷者数は、製造業が前年比53人増の474人、建設業は60人増の432人だった。全体の死者数は6人減の16人で統計を始めた1998年以来、最少となったが、そのうち建設業が5人、製造業が4人と半数以上を占める。
 16年は、高台移転などの土地造成が終わった地域で、建物やインフラの建設が進み、資材の製造も多くなった。作業員が重い材料を運ぶ際に手足を挟まれたり、製造ラインの機械や重機に巻き込まれたりする事故が目立った。
 同局は 「復興事業の人員不足で事故が増えた一方、作業現場で高所からの転落防止機能の設置が進んでおり、死者数は減った」 と分析している。
 ほかの業種では、サービス業が全体で56人増の1115人。内訳は小売りが25人増の310人、社会福祉施設が12人増の170人だった。介護機器が十分に普及していない施設で、介護士らに過度の負担がかかり、腰痛などを患うケースが多いという。
 17年1~4月の県内の労災死傷者数は、前年同期比62人減の609人。建設業では28人減の104人となっている。同局担当者は「今年は件数が減るよう対策を考えたい」と話した。

 東日本大震災の被災地の岩手や福島も同じj状況だと思われます。人手不足は長時間労働をもたらしています。
 人手不足をもたらしたのはオリンピックです。オリンピックにかまけて被災地が忘れられ、そして被災地では労働安全衛生に目をつぶった作業が進められています。
 被災地にとってオリンピックは人災の災害です。
 国土交通省は、オリンピック工事がおわったら 「輸送・機械運転従事者」 「自動車運転従事者」 でも人手に余剰が出てくると考えているから深刻さがないのでしょうか。
 今、状況は深刻です。

   「活動報告」 2017.6.9
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 長時間労働問題 | ▲ top
人間らしい生き方を取り戻すための労働時間規制を
2017/06/09(Fri)
 6月9日 (金)

 6月5日、労働政策審議会は厚生労働大臣に対し、いわゆる “働きかた改革” における時間外労働の上限規制等についての建議を行いました。建議をうけてこの後は労基法の改正に向かいます。具体的内容です。

 1 時間外労働の上限規制 (1) 上限規制の基本的枠組み についてです。
 現在は上限なしの時間外労働が可能になっている 「時間外限度基準告示」 を法律に格上げし、上限を設定します。
 上限は原則として月45時間、かつ、年360時間です。この上限に対する違反には、特例の場合を除いて罰則を課します。また、一年単位の変形労働時間制 (3か月を超える期間を対象期間として定める場合に限る。) にあっては、あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分することにより、突発的なものを除き恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度の趣旨に鑑み、上限は原則として月42時間、かつ、年320時間とします。

 これを原則としつつ、特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても上回ることができない時間外労働時間を年720時間と規定します。かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限として、
 ①休日労働を含み、2か月ないし6か月平均で80時間以内
 ②休日労働を含み、単月で100時間未満
 ③原則である月45時間 (一年単位の変形労働時間制の場合42時間) の時間外 労働を上回る回数は、年6回まで
とします。なお、原則である月45時間の上限には休日労働を含まないことから、①及び②については、特例を活用しない月においても適用します。

 現行の36協定は、省令により 「1日」 及び 「1日を超える一定の期間」 についての延長時間は、時間外限度基準告示で 「1日を超え3か月以内の期間及び1年間」 としなければならないと定められています。
 今後は、「1日を超える一定の期間」 は 「1か月及び1年間」 に限ることとします。併せて、省令で定める協定の様式において1年間の上限を適用する期間の起算点を明確化します。


 まだまだ長時間労働を本気で規制するものにはなっていません。
 特別な事情とは、あくまで通常を前提にしたうえでの特別で、イレギュラーのことを指します。「あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分すること」 とも違います。しかし 「上限は原則として月45時間、かつ、年360時間」 を通常としたうえでの特例になっています。そして具体的にどのようなことを想定しているのかの説明がありません。
 この間、過労死での労災が認定された事案のなかに外食産業があります。そこでは特別の事情は明記されないまま、恒常的な人手不足を補充するものとして 「時間外限度基準告示」 の36協定が締結されています。さらに長時間労働を隠ぺいするためにサービス残業が強制されていました。
 イレギュラーが予想・発生してから協定を締結することも可能です。例えば、大震災が発生した被災地において、協定が締結されていないことを理由に時間外労働を拒否した労働者はいません。あらかじめ協定を締結することが長時間労働を常態化・蔓延化することになっています。
 「2か月ないし6か月平均で80時間以内」 は長期間です。それを容認するのは使用者の努力義務を免除することです。


 (2) 現行の適用除外等の取扱い、についてです。
 現行の時間外限度基準告示では、①自動車の運転の業務、②建設事業、③新技術、新商品等の研究開発の業務、④厚生労働省労働基準局長が指定する業務 が適用除外とされています。

 労働政策審議会で出た意見です。
「現行、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準という改善基準告示では、年間の拘束時間が3.516時間となっています。これは、休日出勤を含めて、年間1.170時間の時間外労働を可能とする内容です。……
 今次、……改正法施行5年後に960時間以内の規制適用、かつ、将来的には一般則の適用を満たす旨の規定が設けられたということで、先ほども御説明をいただきました。
 ……休日労働が960時間の別枠となりますと、現行の改善基準告示と何ら変わらないという意見が多く挙げられています。実行計画が明らかになって以降、政府が掲げた目標から我々自動車運転者、特にトラックドライバーから、『切り捨てられた』 という声が全国から寄せられています。皆さん御存知のとおり、過労死等の現状を見れば、自動車運転従事者、あるいは道路貨物運送業は、共に脳・心臓疾患の支給決定件数ワーストワンとなっています。是非ともこの実態を直視していただきたいということ、そして、自動車の運転業務こそ長時間労働の改善に向けて最優先に取り組まなければならない職種であるということです。……
 私ども運輸労連には運輸共済という共済制度があり、13万4.000名が加入しています。実は、この仲間の中で、自殺者が10年間で241名という、非常に痛ましい状況となっています。自殺の原因に関するアンケートも行っているところ、業務上に関連する問題が多くを占めている実態です。原因の全てが過重労働に結び付くかは定かではありませんが、我々としては、何としてでもこの業界の体質改善が必要であることを強く訴えさせていただきます。」

 しかし建議は、自動車の運転業務については、医師を含めて罰則付きの時間外労働規制の適用除外とせず、改正法の一般則の施行期日の5年後に、年960時間以内の規制を適用することとし、かつ、将来的には一般則の適用を目指す旨の規定を設けることが適当であるとしています。

 運送業の労働者は肉体的、精神的、そして経済的にゆとりのない劣悪な労働環境に翻弄されています。そのような現場からの切実な意見は切り捨てられました。
 今、産業界も消費者も “ジャスト・イン・タイム” を要求します。そのせわしない経済活動での数値の上昇も政府が掲げる経済成長に “貢献” したことになります。まやかしの経済成長です。しかもその裏では料金のダンピングが強要されています。
 産業界同士、労働者同士、そして労働者でもある消費者に思いやりがありません。昨今問題になっているヤマト運輸の問題は、他業界の労働者への “働きかた・働かせ方” の問題提起でもあります。運輸業だけでなく労働のあり方、サービスのあり方を社会問題として捉え返す契機にしていく必要があります。労働者の声でこの構造にメスを入れ、意識を転換させる必要があります。


 (3) 労働基準法に基づく新たな指針 についてです。
 36協定の必要的記載事項として、原則の上限を超えて労働した労働者に講ずる健康確保措置を定めなければならないことを省令に位置づけたうえで、当該健康確保措置として望ましい内容を指針に規定することが適当であるとします。


 2 勤務間インターバル についてです。
 労働時間等設定改善法第2条 (事業主等の責務) を改正し、事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務を課すとともに、その周知徹底を図ることが適当であるとします。その上で、労働者の健康確保の観点から、新たに 「終業時刻及び始業時刻」 の項目を設け、「前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息時間を確保すること (勤務間インターバル) は、労働者の健康確保に資するものであることから、労使で導入に向けた具体的な方策を検討すること」 等を追加することが適当であるとします。
 インターバルの導入は努力義務なりましたが、導入に際しては、労働者は “待ち” ・期待ではなく検討の主体です。積極的取り組みと提案が必要になります。


 3 長時間労働に対する健康確保措置 についてです。
 (1) 医師による面接指導と(2) 労働時間の客観的な把握 があります。
 長時間労働が体調不良を発症させます。しかし医師による面接指導は “ストレスに強い労働者作り” “まだ大丈夫” になっています。あわせて長時間労働を前提としながらの労働時間の把握は、会社が労災申請された時の反論書づくりにしかとらえられません。


 4 その他 (2) 上限規制の履行確保の徹底 ①過半数代表者、についてです。
 36協定を締結するに際して従業員代表は民主的に選ばれなければなりません。労働政策審議会に出された意見です。
「約4割の企業において過半数代表者の不適切な選出がされているというデータが提示されています。その中身を見てみますと、社員会、親睦会などの代表者が自動的に過半数代表になっている例や、会社側が指名したことで選ばれている所が4割に及ぶということです。こうした実態にあることを踏まえて、罰則付き時間外労働規制の実効性担保のためには、36協定の適正化が必要であり、過半数代表の選出手続の厳格化及び適正化等の検討をすることも必要であると考えております。」
 従業員は協定を知らないけれども強制されているということが多々あります。
 これは労働組合による協定でも同じです。労働組合は、36協定については大会で議論をして協定を結ぶ必要があります。

 別の委員からの意見です。
「労働協約の存在を知らない使用者ということで言うと少し語弊があるかもしれませんが、『時間外労働・休日労働に関する労使協定の締結の有無等』 という調査結果が出ています。……そこの中に 『協定あり』 という事業所が55.2%、『協定なし』 の事業所が44.8%となっています。『協定なし』 の中で 『時間外・休日労働がない』 という所が43%になっているわけですが、これを裏返して言うと、『協定なし』 の事業所の中で協定を取らないで時間外・休日労働を実行している所は、逆に言うと57%あるとも読めるわけです。さらに、『時間外労働・休日協定の存在を知らなかった』 という事業場は35%。それと、非常に残念ですが、『時間外労働・休日労働に関する労使協定の締結・届出を失念していた』 という事業場が14%あるという結果が、実際出てきているわけです。」
 労働基準監督署の監視と指導、そして提出に際しては従業員代表の選出方法も必須記載事項にする必要があります。

 建議は 「使用者の意向による選出」 は手続違反に当たるなど通達の内容を労働基準法施行規則に規定することが適当である、また、過半数代表者がその業務を円滑に遂行できるよう必要な配慮を行わなければならない旨を、規則に規定する方向で検討するとしています。
 きちんとして制度を確立されることを期待します。


 「働き方改革」 についてさまざまな方面から意見が出されています。
 経済界からは、改革で生産性が上がるのかという意見があります。生産性は労働時間と正比例するというような意見ですが、正比例しません。なぜなら労働者は “飼いならされて” も “生き物” だからです。長時間労働のリスク管理が無視され、使い捨て可能の思いが隠されています。
 生産性が向上した後に分配があって労働者の労働条件は改善するという意見があります。産業の歴史は技術革新と生産性向上の歴史でした。しかし、例えばQC運動がそうであったように、その結果はより過重な、過酷な労働の登場です。分配は成長のわずかばかりのものでしかありませんでした。そして過労死・過労自殺です。このことを冷静に労も使も捉え返すことが必要です。
 スキルをあげるために頑張っている労働者が挑戦するチャンスを奪うという意見があります。スキルをあげるための努力が時間外労働に至ることもありえます。努力は続ければいいです。その代わりドイツの 「残業で働いた時間は口座に貯蓄しておき、後で休暇として使う」 『労働時間貯蓄口座 (ワーキング・タイム・アカウント)』 のような制度を設ける方がよりクリエイティブな労働ができます。
 残業代をあてにしている労働者が存在するという意見があります。残業代を稼がせることが労働者のことを思っているということではありません。労働者個人の問題ではありません。低賃金が蔓延したり、社会保障が充実していない政治の問題をとらえかえす必要があります。

 労働時間の縮小の問題は、過労死防止のためではありません。過労死が発生するような働きかた・働かせ方がそもそも異常です。
 労働時間の縮小は、労働者がより人間らしい働きかた・生き方を取り戻すことにむけた挑戦です。

   「活動報告」 2017.1.31
   「活動報告」 2017.1.20
   「活動報告」 2016.12.16
   「活動報告」 2016.12.13
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 長時間労働問題 | ▲ top
教師は孤立して長時間労働に耐えている
2017/05/09(Tue)
 5月9日 (火)

 4月28日、文部科学省は2016年度の 「公立小中学校教員の勤務実態調査」 の集計速報値を公表しました。
 調査は、昨年10月と11月に分けて、全国の小学校400校、中学校400校を確率比例抽出により抽出し、そこに勤務するフルタイム勤務職員全員 (校長、副校長、教頭、主幹教諭、指導教 諭、教諭、講師、養護教諭、栄養教諭) を対象に実施しました。
 回収率は、小学校397校8.951人、中学校399校10.687人と100%にちかいです。おそらく学校ごとの回収だったと思われますが、そうすると回答者が記載内容に何らかの “判断” を利かせたということもありえます。
 学校調査票は学校に1票、教員調査票は大きく個人調査と教員ストレスチェック調査に分かれていて教員1人に1票配布されます。ストレスチェック調査結果については後日に発表されます。さらに教員業務記録を記載する票が教員1人に1日につき1票、1週間分として7票が配布されました。
 同じような調査は、16年にもおこなわれていて、その比較もおこなわれています。

 平日の1日あたりの職種別平均勤務時間です。(持ち帰り残業時間は含みません)
 小学校は、校長10.37時間 (16年は10.11時間)、副校長・教頭12.12時間 (11.23時間)、教諭11.15時間 (10.32時間)、講師10.54時間 (10.29時間)、養護教諭10.07時間 (9.38時間)です。10年前も長時間労働でしたが、副校長・教頭、教諭は16年と比べると40分以上長くなっています。
 中学校は、校長10.37時間 (10.19時間)、副校長・教頭12.06時間 (11.45時間)、教諭11.32時間 (11.00時間)、講師11.17時間 (10.04時間)、養護教諭10.18時間 (10.01時間)です。教諭は16年と比べると30分以上長くなっています。
 小学校、中学校とも副校長の勤務時間が最も長くなっています。
 土・日については、かつては土曜日が勤務日でなかったり、すべての学校が出勤日とはなっていませんので比較できません。

 1週間当たりの平均勤務時間です。
 小学校は、校長54.59時間 (16年は52.19時間)、副校長・教頭63.34時間 (59.05時間)、教諭57.25時間 (53.16時間)、講師55.18時間 (52.59時間)、養護教諭51.03時間 (48.24時間)です。教諭は16年と比べると4時間以上長くなっています。
 中学校は、校長55.57時間 (53.23時間)、副校長・教頭63.36時間 (61.09時間)、教諭63.18時間 (58.06時間)、講師61.43時間 (58.10時間)、養護教諭52.42時間 (50.43時間)です。教諭は16年と比べると5時間以上長くなっています。
 どちらも副校長・教頭が最も長くなっています。


 1週間の総勤務時間の小学校教諭 (主幹教諭・指導教諭を含む) の分布です。
 55時間~60時間未満24.3%、50時間~55時間未満24.1%、60時間~65時間未満16.4%、45時間~50時間未満13.4%です。80時間~85時間未満0.7%、85時間~90時間未満0.2%、90時間~95時間未満0.1%が存在しました。
 中学校です。60時間~65時間未満17.0%、55時間~60時間未満16.5%、50時間~55時間未満14.8%、65時間~70時間未満14.0%、70時間~75時間未満10.8%です。80時間~85時間未満4.6%、85時間~90時間未満2.2%、90時間~95時間未満1.1%、100時間以上0.2%存在しました。
 小学校と比べると分布の山は長時間のほうに向かっていっています。

 持ち帰り勤務です。
 小学校は、平日平均0.29時間 (16年0.38時間)、土日1.08時間 (1.07時間)です。
 中学校は平日0.20時間 (0.22時間)、土日1.10時間 (1.39時間)です。

 業務内容別の勤務時間です。
 平日の小学校は、授業、授業準備のほかには、生徒指導 (集団) 1.00時間、朝の業務0.33時間、成績処理0.33時間、学校行事0.26時間、学年・学級経営0.24時間、学校経営0.22時間、職員会議などの会議0.22時間などの順です。
 中学校は、授業、授業準備のほかには、生徒指導 (集団) 1.02時間、部活動・クラブ活動0.41時間、成績処理0.38時間、学年・学級経営0.38時間、朝の業務0.37時間、学校行事0.27時間、学校経営0.21時間、職員会議などの会議0.19時間などの順です。
 小中とも、学校行事、学年・学級経営、学校経営、職員会議などの会議に1時間半以上が当てられています。
 土日については、中学校で部活動・クラブ活動が2.10時間です。

 部活について詳しくみると、部活動の活動日数が多いほど、学内勤務時間全体が長くなっています。また、土日の部活動については、部 活動の種類により差が見られます。運動部や吹奏楽部などです。


 基礎調査です。
 「1週間に何コマの授業を担当していますか」 の質問に、中学校では、21コマ~25コマ49.9%、26コマ以上が20.8%、です。70%以上の教師が1日4コマ以上を担当しています。
 「昨年にあなたが取得した有給休暇は何日程度でしたか」 の質問です。
 小学校は6~10日30.2%、11~15日22.7%、16~20日15.6%、無回答15.2%です。
 中学校は、6~10日33.4%、3~5日20.8%、11~15日13.6、%、16~20日7.5%、無回答13.6%です。
 中学校の方が有給休暇を取りにくくなっています。


 いつも送られてくるミニコミ誌の最新号は 「教育の 『貧困』 を考える」 の特集です。そこへの教師の投稿です。
  「多忙という労働強化は学びの機会を奪う」
 「先生方は忙しいのよね」 とお母さん同士の会話。先生も 「学校って1年中忙しいのよ」 と言う。先生の忙しさはもう世間の常識になっています。まず、ある女性教師 (小学校) の1日を紹介します。
  教師の学校での1日
 勤務開始は午前8時15分ですが、学校には7時頃にきています。もう何人かきています。出勤簿に押印し、1日の予定を確認し教室に行きます。早朝練習が始まります。練習終了、職員の 「朝の打ち合わせ」 で職員室にいきます。子どもたちは教室で 「朝自習」 です。打ち合わせが終わり教室へ、ここから子どもたちとの1日が始まります。
 「朝の会」 では子どもたちの健康状態を観察し、今日の予定や注意事項を伝えます。そして 「授業」 開始です。授業は1時間目から5時間目まで切れ目なく続きます。間に 「5分休み」 と 「ロング休み20分」 と 「昼休み」 が入ります。担任は次の準備をしたり、子どもの相談を聞いたりして休み時間にはなりません。「給食指導」 や 「清掃指導」 もあります。「帰りの会」 では、1日の反省と明日の連絡、そして連絡帳の確認です。
 ここまでは昔も今も変わりません。変わったのはこれ以外です。
  増えた授業以外の活動
 放課後には職員会議や研究会議、学年会議等が次々に入ってきます。子ども同士のトラブルがあった場合には臨時の生徒指導部会も開かれます。学校対抗の 「サッカー」 「ミニバスケット」 「水泳」 「陸上競技」 等の大会、「合唱」 や 「吹奏楽」 の発表会の練習もあります。放課後の練習は午後4時半から5時位まで続きます。クラスの子どもたちのことに取りかかれるのはそれからです。出張して1日研修会に参加した場合は 「研修報告書」 の提出が必要となります。文書作成は時間がかかるものです。
 以上のような事を次々とこなしたとしても、仕事量が多すぎて退勤が午後9時や10時になってしまうのです。
  学びの機会が奪われる
 先生方が一番欲しているのは 「明日の授業の準備をする時間」 です。授業は料理と同じです。手をかけないと美味しい料理は出せません。子どもたちが食いついてくれる授業をするには準備が不可欠です。「教材研究」 といいますが、この教材研究の時間が 「多忙」 という労働強化で奪われてしまっています。自分で調べたり、先輩の先生方に聞いたりして学んでいくことによって先生として成長していきます。また子どもたちに関わることによって気づかされ、親が子育てをしていくのと同じです。
 多忙という労働強化は 「自分で考え、判断する」 という主体性を弱体化させてしまっています。自分で教材研究する時間がないので、出来合いの 「指導書」 に頼って授業をしてしまいます。指導書は文部省の検定を合格した教科書の内容を教えるために作られたものです。これを使えば一応授業は出来ます。料理ではなくインスタント食品を食べさせているような授業になります。これでは学びがないから先生は成長しません。子どもたちも成長出来ません。多忙化は、子どもの現実に近づく機械も奪ってしまいます。多忙化解消のためには、保護者の声が必要です。子どものために先生とのつながりを深めていきましょう。


 以前と比べて授業以外の活動、特に報告書作成業務が増えたということをよく聞きます。いわれるところの管理教育、文部省―教育委員会―校長―教師の管理支配体制と評価に繋がっています。その結果、時間的ゆとりもありませんので横の繋がりもなかなか生まれません。

   孤独には慣れているが
    人は孤立には耐えられないと知る 職員室
        (3月20日 「朝日歌壇」)

 全国で学校のいじめが社会問題となっています。
 13年9月から施行されたいじめ防止対策推進法は、いじめの防止や早期発見、対処の理念などを定め、重大事態の発生時は調査組織による事実関係解明と被害者側への適切な情報提供を求めています。重大事態とは 「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた……児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」 と定義されています。
 しかし推進法どおりに進めたら対応や調査に時間がかかり過ぎ、さらに業務過重になるという不満が起きています。そのためその場しのぎの対処になり、それぞれの立場で 「いじめはなかった」 への期待となって処理されたり、責任転嫁が進みます。重大事態の認定には学校あげて隠ぺい思考に向かいます。
 児童・生徒の生命に影響しかねない問題は何にもまして優先して対処されなければならないのは当然のことですが、“見過ごし” “放置” の批判と一緒に教師の労働環境も検討される必要があります。

 今、政府は自殺総合対策大綱の見直しを進めていますが、その中の若者対策には、教師による自殺しそうな場所や駅のホームなどでの監視も盛り込まれようとしています。さらなる過重労働がおこなわれようとしています。

 日本では子どもの教育だけでなく生活指導まで学校の責任になります。そのため日常的問題も含めてさまざまな問題が学校には寄せられオールマイティーが要求され、教師の資質が問われます。まさしく 「聖職」 です。その一方で保護者には “お任せ教育” と学校の私物化・「モンスターペアレント」 が同居しています。学校はその防御としてますます孤立と同時に排除を進めます。その結果、外部から教師の労働環境には意識が向きません。
 海外では子どもは市民として存在し、学校は社会のなかで共存しています。学校で起きた問題は社会で起きたことととらえ、教師と保護者、市民は共同で対応します。
 日本の教師は、世界の中で孤立しています。深刻な職場環境の犠牲者は子どもたちです。教師はもっと声をあげ、無理なことについてははっきりと 「できません」 と主張することが解決に向かわせます。保護者と市民はもっと学校と教師が抱えている問題に、国とは違う方向から監視・干渉をして協同していく必要があります。

   「公立小中学校教員の勤務実態調査」
   「活動報告」 2017.2.3
   「活動報告」 2016.12.13
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 長時間労働問題 | ▲ top
ヤマト運輸  ただのサービスなどない
2017/02/24(Fri)
 2月24日 (金)

 ヤマト運輸労働組合は2017年の春季労使交渉で、18年3月期の宅配個数が17年3月期を上回らない水準に抑えることを要求したという報道がありました。人手不足とインターネット通販の市場拡大などにより長時間労働が常態化しているなかで 「現在の人員体制では限界」 という主張です。会社側も応じる意向です。
 要求はこの他に、ネット通販会社など割引料金を適用する大口顧客に対して値上げを求め、交渉が折り合わなければ荷受けの停止を検討する、ドライバーの労働負荷を高めている再配達や夜間の時間帯指定サービスなども見直しの対象とするなどもあります。長時間労働の抑制では10時間以上の 「勤務間インターバル制度」 の導入もあげています。ベースアップについては前年と同じ組合員平均1万1000円 (前年の妥結額は5024円) の要求です。
 切実さが垣間見られますが、労働組合が長時間労働の抑制をめぐって経営の改善までふくめて具体的要求をおこなうことはめずらしいことです。

 ヤマト運輸は宅配便最大手で46%のシェアをもっています。荷物の伸びには人員の増強で対応してきました。
 16年12月にヤマト運輸が扱った 「宅急便」 の個数は前年比6%増、11年と比べると20%増えています。一方人員は17年3月期末見通しが20万500人と、2012年3月期実績17万7301人の13%増にとどまっています。今期はパートやアルバイトなど非正規従業員を含む売上高人件費比率は51.0%となっています。
 人手不足は深刻化し、思うように人員を確保できない状況にあります。そのため宅配便は基本的に午前8時から午後9時までの配達で、ドライバーや荷物の仕分け担当者は交代制勤務になっていますが処理が追いつかず、早番の勤務者が夜まで残って作業することがあるという実態が生まれています。
 自社での人手確保が追いつかず、外部業者への配送委託が増えて、ヤマトHDの売上高に占める委託費の比率は今期15.5%と5年前に比べて1ポイント近く上昇する見通しです。


 ヤマト運輸における36協定は、年末年始などの繁忙期と閑散期の仕事量に波がある業務内容を踏まえ、17年度は残業時間を月単位ではなく年間456時間とすることで労働組合と合意しました。
 実態はどうでしょうか。15年11月17日の 「活動報告」 を抜粋します。
 横田増生著 『仁義なき宅配 ヤマト vs 佐川 vs 日本郵便 vs アマゾン』 (小学館 15年9月刊) にヤマト運輸の1人の配達員の労働実態が報告されています。
 労働時間の事態は朝6時から積み込み作業をはじめ、終了は午後10時までになるといいます。しかし業務開始を記録する携帯の専用端末 〈PP (ポータブル・ポス) 端末〉 を立ち上げるのは8時以降と決められています。午後9時20分前後に再配達を終了したら締めます。しかしその後の作業が残っています。昼食は、車を停めてとる時間がないのが現状で、運転したままでとることもあります。
 端末を立ち上げる前と締めた後、お昼の1時間はサービス残業です。サービス残業だけで月60時間以上に及びます。これらは、会社が厚労省などの調査で報告する記録上の残業時間の計算には含まれません。運輸業界の長時間労働の実態は隠されています。
 サービス残業ではない通常の残業は1日4時間以上で、月80時間です。実際の残業時間は月140時間です。これで残業代や諸手当を含めた賃金は額面で約30万円です。
 07年から労働者の残業時間の上限を決めた 〈計画労働時間制度〉 を導入しました。初年度の08年3月期の総労働時間は2.550時間でした。15年3月期は2.464時間です。16年度は2456時間、17年度は2.448時間にする計画だといいます。この設定自体が異常です。
 賃金体系は、基本給と残業代、それにどれくらい荷物を集荷配達したかによって支払われる業務インセンティブの3本柱になっています。業務インセンティブは賃金全体の60%から80%を占めます。総労働時間に近づくと期末には仕事ができません。業務インセンティブの手当が期待できなくなります。このことがサービス残業を温存する原因にもなっています。
 国土交通省が2013年に発表した資料では、全産業平均の月収が31万円であるのに対し、トラック事業の平均は29万円台でした。年収は416万円で50万円以上の開きとなっています。賃金が低いから残業に走ります。

 著者は、ヤマト運輸で3か月ごとに契約更新が行われる下請けの軽トラに1日同乗する体験を試みます。3か月ごとの更新は、繁忙期と端境期があるのでその調整のためです。
 午前8時過ぎ、配送センターで70個の荷物を積み込んで出発します。受け持ちエリアを午前中、昼過ぎから夕方まで、夕刻から夜9時までの3回配達に回ります。不在の場合には2回、3回と回ります。3回の配達で合計100個の荷物を配り終えたのは午後9時前。拘束時間は14時間近くで、日当1万5千円です。換算すると時給は1000円強ですがそこから車輌代、ガソリン代、車検代を支払います。
 夏の繁忙期にもう一度同乗をお願いして了承を得ましたが、運転手は前日頸動脈からのくも膜下出血で病院に搬送されていました。
 厚労省の2014年度に労災と認定された過労死が一番多かったのが 〈運輸業・郵便業〉 で92件です。


 ヤマト運輸は17年3月期の宅配便取扱個数は前期比7%増の18億5000万個と過去最高が見込まれています。一方、親会社のヤマトホールディングス (HD) は1月末、人手不足による人件費の高騰や外部委託費の増加などを理由に、17年3月期の連結営業利益の予想を前期比15%減の580億円 (従来予想は650億円) に引き下げました。取扱個数は増えたが利益は上がらないという構造になっていました。
 荷物の急増の背景はいうまでもなく、インターネット通販の拡大です。消費者向け電子商取引 (EC) の市場規模は15年度実績で13兆円を超えました。10年前と比べたら10数倍になっています。
 ネット通販は2000年代以降、「配送料無料」 などを武器に急速に拡大し、個人宅への配達が急増しました。その結果は受取人の不在件数も大幅に増えました。14年12月の国土交通省の全国調査では、1回目で配達が済むのは約80%で再配達が2回以上のケースも約3.5%あり、現場のドライバーたちへの負担が大きくなります。代金引き換えサービスやクール便利用者も増えています。ドライバーは現金やクレジットカードを取り扱わなければならず、利用者対応の手数が増えています。
 その一方で、顧客は自分の宅配便がどこにあるのか自宅のパソコンやスマートフォンで確認できるので配達が遅れたり、どこかで荷物が止まっていたりするとすぐに宅配業者側にクレームをつけることがでるようになりました。


 宅配業界では、1個当たりの運賃が250円以下になると、どのように工夫しても利益がでない構造になっています。
 以前、佐川急便が最大手の荷主であるアマゾンとの契約で合意したのは全国一律で250円をわずかに上回る金額だったといわれます。しかしアマゾンの配送を扱うことで、収支だけでなくサービスレベルも悪くなったといいます。13年春、宅配便単価の低下問題で契約を打ち切りました。経営の舵をシェア至上主義から “運賃適正化” を掲げて利益重視へと切り替えました。
 アマゾンの配送を運ぶことになったのはヤマト運輸です。

 ヤマト運輸は13年10月に稼ぎ頭のクール宅急便が常温で仕分けが行われていたことが新聞ですっぱ抜かれました。対策として、クール宅急便を取り扱える個数の上限を決め、それを上回った場合は荷物を引き受けることを断る総量管理制度を導入した再発防止と法人向けの運賃の適正化に取り組みます。運賃上昇→利潤率上昇→設備投資の増額→労働環境の改善をすすめ “豊作貧乏” から抜け出すことに挑戦します。
「本来はサービス内容で競争するべきなのでしょうが、運賃 (の値引きをするの) もサービスの一環だという考え方もありました。特にネット通販事業者から荷物をいただくには、運賃が大きな要因になります。けれど、そうした通販業者さんからも採算の合う運賃をいただかないと、輸送サービスの品質が担保できないと考えて、運賃の適正化に踏み切ったのです」
 14年3月末、コストに見合わない個人向けメール便の取り扱いを中止します。佐川急便はメール便については日本郵便に委託しています。
 
 佐川急便ホールディングの会長は14年の 「会長訓示」 で打ち切りについて触れました。
「昨年、ライバルに 『通信販売の100億円のエサを提供した』 と私は思っている。これは (佐川) 急便の収入の1.5%である/結果としてライバルは、集配品質の低下と固定費が増加した/必ずこれまでの体制を見直すはずである/事実クール便を40%UPで交渉を始めたとも聞く」 (『仁義なき宅配』)
 アマゾンジャパンや楽天などでは配送料無料、さらに返品無料もあります。そのために費やされる労働への対価はどうなっているのでしょうか。また配送料無料は往々にして運賃のダンピングにつながっていきます。運賃適正化は成功しませんでした。
 今回のヤマトの動きは、この時すでに想定されていました。しわ寄せは労働者にのしかかっていきます。
 佐川急便では、多忙のなかでの駐車違反に身代わり出頭が各地で摘発されています。


 ではヤマト運輸をふくめてトラック労働者の労働条件を向上させるためにはどうしたらいいでしょうか。
 今は時間指定の荷物とそれ以外は同額ですが、時間指定の場合は追加料金を徴収すべきです。特に夜間の指定に対しては当然です。
 多口顧客が配送会社にダンピングを強制するとそのしわ寄せは労働者にきます。労働の価値を認めず、労働者を愚弄するものです。誰かを犠牲にした経済活動はまともとはいえず、社会正義に反します。運賃適正化は厳格にすすめられなければなりません。
 アマゾンなどのネット通販事業者は配送料無料をうたって販売促進をしていますが、利用者は送料はどこに含まれているかを見極める必要があります。ネット通販事業者負担というのなら送料は商品に含まれているということです。消費者は騙されています。
 配送料無料などのサービス過多は労働の価値を低め、労働者同士の思いやりを奪います。社会秩序を破壊しています。国交相は、配送無料の広告を禁止し、運賃適正化を監視する必要があります。
 無理なサービスはまた事故を発生させる危険性があります。配送労働者の生活がネット通販事業者の犠牲になる必要はありません。
 ヤマト運輸労働組合の要求を、運輸業のサービスのあり方を社会問題として捉え返す契機にしていかなければなりません。
 このようなことが長時間労働を削減し、労働条件を改善し、労働力不足を解消する早道です。
 労働者がお互いの労働の価値を認め合い、尊重し合う関係性、あたりまえの社会秩序を作り上げていくことが必要です。

 本物の “働き方改革” は、働く者が現場から生の声をあげ、要求していくなかから “働きやすさ” “安心” を獲得するものです。

   「長時間労働問題」
   「活動報告」 2015.11.17
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 長時間労働問題 | ▲ top
ひどすぎる教育労働者の労働実態
2017/02/03(Fri)
 2月3日 (金)

 12月22日、文科省は 「平成27年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」 を発表しました。この中に 「教育職員の精神疾患による病気休職者数 (平成27年度)」 も含まれています。
 休職者数は5,009人で全教育職員数の0.54%です。
 病気休職者の推移をみると、20011年5274人、12年4960人、13年5079人、14年5048人、15年5009人です。
もう少し遡ってみると、2001年2503人 (0.29%)、02年2687人 (0.29%)、03年3194人 (0.35%)、04年3559人 (0.39%)、05年478人 (0.45%)、06年4675人 (0.51%)、07年4995人 (0.55%)、08年5400人 (0.59%)、09年5458人 (0.60%)、10年5407人 (0.59%)です。12年頃から急増し、18年には5000人台になりました。
 2001年と比べると10年間で2倍になっています。

 学校種別・年代別・性別・職種別状況 (教育職員) の率をみると、小学校が0.55%、中学校が0.64%、高校が0.37%、中等教育学校0.30%、特別支援学校0.66%です。中学校と特別支援学校が高くなっています。
 男女別では、男性0.51%、女性0.57%です。職種別では教諭0.60%、主管教諭等0.36%の順です。

都道府県別でもっとも発症率が高いのが沖縄で1.24%です。全病休者も2.86%でいずれも4年連続で過去最高を更新しています。全病休者の発症率は全国平均の3倍で、8年間全国ワーストを続けています。
 原因について2016年10月8日の沖縄タイムスは沖教組の 「もともと勤務実態が厳しい上に、近年は学力向上対策や教員評価システムが加わり、負担感は増している」 の見解を紹介しています。
 沖教組が2015年にまとめた教職員アンケート (1122人回答) では、1週間の超過勤務は平均23時間36分。1か月換算では平均94時間24分になり、教職員のほぼ3割が月80時間以上の超勤をしているとの推計が出ています。

 沖縄以外の都道府県別の発症率が高い順は、東京0.85% (全病休者1.12%)、広島0.77%(1.19)、高知0.77%(1.23%)、大阪0.74%(1.14%)です。精神疾患による病気休職者率が高いところは全病休者の率も高いです。


 もっと詳しく検討する必要がありますが、死亡、休職期間満了・途中での退職、任用期間の満了などの資料は公表されていません。
 例えば2016年5月24日の 「活動報告」 に書いた東京都の状況です。情報公開制度などを活用して明らかにしました。
「東京都教育委員会の退職理由統計があります。定年以外です。
 高校です。2011年度は、死亡14人、病気15人、家事・介護5人などで、合計40人です。12年度は、死亡20人、病気5人、看護・体調不良・健康上の問題7人などで、合計39人です。13年度は、死亡6人、病気12人、介護等6人で、合計45人です。
 義務教育学校です。2011年度は、死亡14人、病気34人、家事・育児10人、体調不良6人などで、合計89人です。12年度は、死亡20人、病気29人、指導力不足・健康上の理由等14人などで、合計88人です。
 死亡が結構な数になっています。これをどう見ることができるでしょうか。

 東京都白書の 「2013年度の条件附採用教員の任用について」 です。条件附採用とは、正規採用は2年目からということです。
条件附採用教員数2740人、そのうち正規採用者数は2661人で、正規採用にならなかった数は79人です。79人の内訳は、年度途中の自主退職者数65人、正式採用 「不可」 の者数13人などです。
 年度途中の自主退職者数は、09年度59人、10年度66人、11年度76人、12年度77人です。この数字をどう見たらいいのでしょうか。」


 「平成27年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」 のなかにおもしろい数値があります。希望降任制度のここ5年間の数です。都道府県で大きなばらつきがあります。
 副校長等からの希望降任が北海道、東京都、大阪府は12年から、10人を超えています。千葉県、鹿児島県、大阪市は10人を含む1桁台です。
 主幹教諭からの希望降任は、東京都と神奈川県が20人台から40人台になっています。大阪府は10人台後半から30人台、横浜市が10人台後半から20人台になっています。
 これらのところは確かに職員数・学校数は多いです。しかし都道府県ごとの教育職員総数における休職者の割合は公表されていませんが、割合は高くなっているのではないでしょうか。
 東京都の教育職員総数は60017人で、休職数は全国の1割を超える528人で0.85%です。
 希望降任数と求職者数はリンクしているようです。


 日本の教職員の勤務環境については、2013年にOECDが行った 「国際教員指導環境調査 (TALIS)」 でも 「日本の教員の1週間当たりの勤務時間は最長」 と指摘されています。そこでは日本の教員は 「授業時間は参加国平均と同程度であるが、課外活動 (スポーツ・文化活動) の指導時間が特に長く、事務業務、授業の計画・準備時間も長い」と分析されています。


 2016年12月に連合総研は 「とりもどせ!教職員の 『生活時間』 -日本における教職員の働き方・労働時間の実態に関する研究委員会報告書-」 を発表しました。
 小中学校・高等学校・特別支援学校の教員5000名を対象としたアンケート調査結果です。
「(1) 長時間勤務の実情
 出退勤時刻と在校時間 (学校にいる時間) をみると、小学校教諭は出勤時刻7時31分、退勤時刻19時4分、在校時間11時間33分、中学校教諭が、出勤時刻7時25分、退勤時刻19時37分、在校時間12時間12分であり……。ただ、民間の労働者の平均出勤時刻9時00分、平均退勤時刻18時15分、在社時間 (職場にいる時間) 9時間15分 (連合総研2007年調査) に比べ、かなり長いことが読み取れる。
 勤務日の労働時間を、学校内、自宅、自宅外で分けてみると、まず学校内の労働時間が、小学校教諭で平均11時間6分 (中央値11時間)、中学校教諭で平均11時間43分 (中央値12時間) であった。自宅の労働時間が小学校教諭で平均値58分 (中央値1時間)、中学校教諭で平均48分 (中央値30分) であった。自宅での主な業務は教材研究・授業準備、提出物や成績の処理、校務分掌に係る業務、そして資料や報告書の作成であった。学校及び自宅以外の労働時間は小学校が平均21分 (中央値0分)、中学校で平均28分 (中央値0分) であった。
 勤務日の労働時間と休日の労働時間を合わせた週の実労働時間数をみると、週60時間以上の割合が小学校教諭の72.9%、中学校教諭の86.9%であった。

「勤務日に学校内・自宅以外で行った業務をまとめると……小・中学校双方で回答が多かったのは 『課外授業・補習指導』 (小学校28.4%、中学校21.4%)、『会議 (校外)』 (小学校26.0%、中学校21.4%) であった。前者には学校外での補習指導も含まれることから、児童生徒の自宅を訪問して、学習指導を行っている実態がうかがえる。それ以外には 『保護者・PTA対応』 (小学校13.9%、中学校15.3%)、『児童・生徒指導』 (小学校13.5%、中学校16.8%) で回答が多かった。家庭訪問や学外で生徒指導・生活指導にあたる小・中学校教諭が一定数確認された。」

 自宅での仕事です。
「さらに勤務日に自宅で行った業務をまとめると……小・中学校ともに、勤務日に自宅で行う業務として多くあげられたのは、『教材研究・授業準備』 (小学校85.5%、中学校83.3%)、『提出物や成績の処理』 (小学校64.5%、中学校49.9%)、『校務分掌に係る業務』 (小学校33.6%、中学校29.7%)、『資料や報告書の作成』 (小学校27.5%、中学校26.9%)、『学年・学級経営』 (小学校25.2%、中学校21.5%) であった。」


 教員はとにかく忙しいです。いずれかの業務が減ってもその分を他の業務に充てることになります。自己啓発は夢物語です。多忙のため社会との接点をなくし、精神的にもゆとりがないままに児童・生徒そして保護者と接することになります。

 労働者が精神的不調になるのは長時間労働だけではありません。労働の質も問題になります。「報告書」 は長時間労働に関するものですが、「管理教育」 は教員を追い詰めます。

 今、政府と厚生労働省は残業時間の短縮を掲げています。教育労働者ももっと社会に実態を明らかにし、その改善を迫っていくことが必要です。

  「平成27年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」
   「とりもどせ!教職員の 『生活時間』」
   「活動報告」 2016.5.24
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 長時間労働問題 | ▲ top
| メイン | 次ページ