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No.1にならなくてもいい もともと特別な Only one
2019/07/12(Fri)
 7月12日 (金)

 芸能プロダクションジャニーズ事務所の社長・ジャニー喜多川さんが亡くなりました。テレビは連日追悼番組を流しています。
 ジャニーズという名称は、輩出する若いタレントたちを 「旅人たち」 とたとえて名付けられたのかと思っていました。しかし本当はアメリカ・ロサンゼルスに生まれで、日本とアメリカの二重国籍を持っていて、ミドルネームがジャニーズでした。1931年生まれでその後に来日しますが、幼年期、少年期はまさに第二次世界大戦の真っただなかでした。
 二重国籍を持っていているということだけでどこにいても双方から 「スパイ」 「敵のまわし者」 などといじめられます。アメリカで日系人は 「強制収容所」 に送られます。1988年代になってアメリカ政府はこのことを謝罪と個人賠償をおこないます。アジアからの強制連行にいまだなにも謝罪しない日本政府とは違います。
 その体験からでしょうか、戦争というものをとにかく嫌ったようです。


 ジャニーズ事務所所属のタレントたちにもその思いは引き継がれているようです。
 これまで 「活動報告」 に書いたものをコピーします。

 2003年の紅白歌合戦です。

「みなさん、目を閉じて2003年を思い出してください。」
「今年世界中でたくさんの尊い命が失われました。」
「また目を覆いたくなるようなこともたくさんありました。」
「僕たちに今何ができるでしょうか。」
「みんながみんなすべての人にやさしくなれたら、きっと幸せな未来がやってくると信じています」
 大とりだったSMAP 『世界に1つだけの 「花」』 をこう5人でリレートークしてから歌いはじめました。

  花屋の店先に並んだ
  いろんな花をみていた
  ひとそれぞれ好みはあるけど
  どれもみんなきれいだね
  この中で誰が一番だなんて
  争う事もしないで
  バケツの中誇らしげに
  しゃんと胸を張っている

  それなのに僕ら人間は
  どうしてこうも比べたがる?
  一人一人違うのにその中で
  一番になりたがる?

  そうさ 僕らは
  世界に一つだけの花
  一人一人違う種を持つ
  その花を咲かせることだけに
  一生懸命になればいい
   ……
  そうさ 僕らも
  世界に一つだけの花
  一人一人違う種を持つ
  その花を咲かせることだけに
  一生懸命になればいい

  小さい花や大きな花
  一つとして同じものはないから
  No.1にならなくてもいい
  もともと特別な Only one

 2003年3月にアメリカ軍がイラクへの攻撃を開始します。12月からは自衛隊が派遣されました。歌は、日本政府への抗議のように聞こえてきまし。
 そしてこの1年間に労働相談を受けた労働者の顔が浮かんできました。
 解決に至っていない者、解決しても体調を崩して再スタートを切ることができない者もたくさんいました。会社に忠誠を誓い、貢献をしていると思っていても頑張っていても簡単に首を斬られたりしています。
 そのような相談者に 「ナンバーワンにならなくてもいい もっともっと特別なオンリーワン」 とアドバイスし、自分を取り戻させることが本当の相談員の役割だと思っています。
 この歌を聞いてますますSMAPが好きになっていきました。
 SMAPの魅力は、1人ひとりが個性を大切にしながらスターらしくなく振る舞うことです。スター然としないスター性が魅力を作り出しています。


 2011年3月11日に東日本大震災が発生すると、ジャニーズ事務所は復興支援プロジェクト 「マーチングJ」 を立ち上げ、所属タレントたちは代々木第一体育館で募金イベントなどを展開しつづけました。タレントを見に来たファンもいたと思います。そうであったとしても支援活動の輪を全国に拡げたことは確かです。多額のカンパを集め被災地に届けました。

 所属タレントはそれぞれ、東日本大震災の被災地に 「出しゃばらない」 で支援を続けています。
 12年の春の選抜高校野球・甲子園大会に被災地代表として宮城県石巻工業高校が選ばれました。
 石巻工高はグラウンドが浸水し、用具は使用不能になってしまいました。そのようななかにあっても空き地で基礎練習を開始し、グランドの水かきを続けました。
 野球部は震災直後の県大会開会式に 「あきらめない街・石巻 その先頭に俺たちは立つ!」 の横断幕を掲げて入場行進しました。横断幕のフレーズは顧問の発想で、揮毫は書道教師でした。顧問は野球部員のひたむきな姿を見た時にそう思ったといいます。
 そして2012年春の選抜甲子園大会に21世紀枠で出場しました。出場が決定しても財政は厳しいものでした。被災地でカンパを集めましたが予算の半額にもなりませんでした。
 それを聞いた中居正広は個人として用具やカンパを届けました。被災地の各地の野球チームにもグラブやボールを贈っています。「野球番組などに出演して儲けさせてもらったから」 と “ばれたとき” 語っていました。
 初戦で負けましたが、震災になんかに絶対に負けないという気持ちで全力プレーして全国からの復興支援に感謝を表明しました。


 2011年の紅白歌合戦で嵐は 「ふるさと」 をうたいました。その後も何回かうたわれました。

  夕暮れ迫る空に 雲の汽車見つけた
  なつかしい匂いの町に 帰りたくなる
  ひたむきに時を重ね 想いをつむぐ人たち
  ひとりひとりの笑顔が いま 僕のそばに

  巡りあいたい人がそこにいる やさしさ広げて待っている
  山も風も海の色も いちばん素直になれる場所
  忘れられない歌がそこにある 手と手をつないで口ずさむ
  山も風も海の色も ここは ふるさと

  朝焼け色の空に またたく星ひとつ
  小さな光が照らす 大いなる勇気
  なにげない日々の中に 明日の種を探せば
  始まりの鐘が響く いま 君のために

  雨降る日があるから虹が出る 苦しみぬくから強くなる
  進む道も夢の地図も すべては心の中にある
  助け合える友との思い出を いつまでも大切にしたい
  進む道も夢の地図も そこは ふるさと

  巡りあいたい人がそこにいる やさしさ広げて待っている
  山も風も海の色も いちばん素直になれる場所
  忘れられない歌がそこにある 手と手をつないで口ずさむ
  山も風も海の色も 君の ふるさと
  僕の ふるさと 
  ここは ふるさと

 12年9月11日の 「活動報告」 です。
 
 2人の若い監督が製作した東日本大震災をテーマにした映画 『なみのおと』 が完成しました。被災地を北から南に移動しますが被災地そのものは映りません。そこで出会った人との対話、被災者どうしの対話から震災を受け止め、捉えかえします。
 石巻では監督が被災した市議会議員の方と故郷について語り合います。
 議員が監督に質問します。
「あなたの故郷はどこ?」
「信州です。いつかの震災でがけ崩れがありました。」
「それでも故郷に帰っていけるよね」
「はい」
「距離的に離れている故郷は帰っていける。しかし、私は、以前の故郷に帰れない。震災によって時間的に絶たれてしまった。しかしここが私の故郷」

 生まれた時からずっと住んでいるならそこが故郷です。今は遠く離れていても、旅立ったところ、思いを寄せるところが故郷です。帰れなくなっても思い出すことができるところが故郷です。
 故郷は、距離的、時間的に離れていたりします。物理的に帰れる故郷も帰れない故郷もあります。
 福島の人たちは、距離的にそう離れていなくて、震災での被害が大きくなくても、つまりは時間的に絶たれていなくても故郷に帰れません。視界には入っても、見えない放射能が帰ることを遮ります。
 震災発生して数日後の三陸地方から、もうここでは生活ができないと判断し、戻らないことを決意してバスに乗った人たちがいました。この人たちにとって三陸地方は故郷です。

 一瞬にして何もかもが奪われてしまっても、思い出す生活の場所だったところが故郷です。そしてそこでの生活の復活を決意している人たちがいます。
 そのような被災者の思いを嵐がうたいました。
 聞きながら被災者は励ましと勇気をもらいました。

 三陸海岸を襲った東日本大震災から8年経ちました。毎年紅白歌合戦はその年に何があったのかをおさらいするために観ています。そこではこれまで一度も大漁旗が振られたことがありません。大漁旗は海の復興には欠かせないものです。NHKは東日本大震災の復興には関心がないようです。しかし出演者は思いを寄せています。
 その一方で、最後に 「蛍の光」 みんなで合唱する際の指揮者が日本会議会員のすぎやまこういちになりました。ほかに適任者がいなかったのでしょうか。政権肝いりの人選です。


 TOKYOは震災前から福島第1原子力発電所から20~30km圏内にある浪江町を拠点にした農業番組に出演していました。そこはその後、帰還困難区域に指定されます。
 原発事故は農作物に大きな被害をもたらしました。風評被害ひどいはいまもひどいです。
 栽培する農家の人たちは (漁民の人たちも) 危険なものを出荷しません。きちんと検査をうけのて安全なものを提供します。
 TOKIOは震災後の風評被害がひどいなかでも “逆風に抗して”、メディアを使って被災地の復興を支えつづけてきました。12年には 『新生! ふくしまの恵み発信事業』 のイメージキャラクターに任命され、CMなどで福島県の農作物をPRしてきました。
 いまも福島支援を自分たちの活動の一環に組み入れて続けています。


 ジャニーズ事務所所属のタレントだけでなく、東日本大震災、そして各地で襲われている大災害への支援の手を差しのべている人たちに心から感謝します。

 7月11日で、東日本大震災から8年4カ月がたちます。

 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」 のホームページ・ご相談はこちらから
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希望・早期退職者数 リーマンショック時と同じに
2019/07/09(Tue)
 7月9日 (火)

 7月7日の日経新聞は 「早期退職はや8000人、18年の倍 次見据える中高年 上場企業1~6月」 の見出し記事を載せました。引用が長いですが、全体像を解説していますので紹介します。
「人手不足が続くにもかかわらず、大企業で定年前の退職を募る早期退職が増えている。2019年1~6月には上場企業の17社が合計で約8200人の早期退職者数を発表し、半期で18年を上回った。製薬など、業績が好調なうちに人員を適正化して事業環境の変化に備える動きも目立つ。応募者側も人生100年時代をにらみ、早期にキャリアの再設計に動く中高年も増えている。
 ■業績好調な製薬も
 調査会社の東京商工リサーチによると、19年1~6月に上場企業が募集 (または応募) を発表した早期退職者数は、18年の年間 (12社、4126人) の人数の約2倍になった。7月以降もこのペースなら19年は年間で13年以来6年ぶりの1万人超えとなりそうだ。
 45歳以上を対象にした早期退職者数が増えている。エーザイでは応募が当初見込みの3倍にのぼり、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスやアルペンでも募集より20~35%程度多く集まった。

 19年1~6月の17社のうち人員が多かった業界は電機 (5社) と製薬(4社)だった。電機は経営再建に揺れるジャパンディスプレイ (JDI) や富士通など経営不振による人員削減だったが、製薬は様子が違う。
 中外製薬は4月に45歳以上の早期退職者を募集。応募は172人にのぼった。同社は18年12月期の純利益が2期連続の過去最高を達成したばかり。だが 「デジタル化で経営環境が大きく変わり、従来の専門性や技術で競争力を維持するのは困難」 (同社) と将来への危機感が強い。希望者に退職金と特別加算金を支給し、外部の専門会社による再就職支援もする。
 東京商工リサーチの二木章吉氏は最近の希望退職について、従来のリストラ型から「成長分野に事業転換するため余裕のあるうちに人員構成の見直しを進める 『先行実施型』 が増えている」 と指摘する。
 1990年代に大量に採用されたバブル世代 (19年に49~52歳) や人口が多い団塊ジュニア世代 (45~48歳) を削り、若手を増やして新分野の技能を育てる狙いだ。
 ■デジタル化に若手必要
 年功序列型の賃金では企業の負担が大きい。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると大企業で年齢別に賃金が最も高くなるのは50~54歳 (男性) で平均月給は51万円だ。45~49歳も46万円と高い。

 団塊ジュニア世代が50歳に近づき 「多くの企業で中高年がボリュームコストになっている」 (日本総合研究所の山田久主席研究員)。一方で同所の調査では、およそ1千社の約8割が 「若手の人材が不足」 と答えた。
 20年3月期に3期連続で増収増益を見込むエーザイも、デジタル対応や新薬開発に向けて組織の若返りを進める。45歳以上の約300人が3月末までに早期退職した。全従業員の9%にあたる人数だ。新卒採用は例年の約40人から100人規模に増やし、初任給を上げたほか20~30歳代の給与もベースを引き上げた。
 日本経済新聞社が今月まとめた 「社長100人アンケート」 では5割超が年功序列型の賃金制度を見直すと回答した。業績が良く余裕のあるうちに退職金などを上積みして中高年の転職を促す。攻めの早期退職は人事と賃金制度の抜本見直しにもつながりそうだ。」


 募集人数の最多は、富士通 (グループ会社を含む) の応募2,850人です。成長領域のITサービス等を強化し、間接部門の効率化を目指した 「成長に向けたリソースシフト」 の一環として実施しました。次いで、収益力強化に向けた構造改革計画の一環で実施した東芝 (グループ会社を含む) の約1,060人 (応募823人)。(東芝は予想を超えた流出に対して、社内に 「まだ大丈夫希望を持とう」 のポスターが貼られているといいます) 物流費等の上昇に人件費圧縮で経営効率化を目指すコカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス (グループ会社を含む) の募集700人 (応募950人)。経営計画に沿って国内事業の再編を進めるアステラス製薬 (グループ会社を含む) の応募約700人と続きます。
 中外製薬の応募人数172人、カシオ156人、アルペンは募集人数300人程度に対して応募人数355人でとなっています。

 パイオニアはこの4月から希望退職者の募集を開始し、当初の募集人員700名に対し、すでに希望退職に950名が応募したことが明らかになっています。2018年12月に公表した、今後2年間で国内外グループの従業員約3000人を削減する計画を打ち出した合理化策の一環として実施したもので、対象となったのは同社および国内グループ会社の社員です。
 主力のカーナビ事業の不振で、2019年3月期の純損益が3年連続の赤字になる見通しです。昨年12月、香港の投資ファンド 「ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア」 の完全子会社になって再建をめざすと発表し、3月に東京証券取引所第1部の株式の上場を廃止しました。希望退職のほか、採用の抑制や非正規社員の縮小なども実施する方向で、開発や生産、販売などの拠点を再編する方針も示しています。想定人数は 「公表できない」 (広報) としていますが管理職以外の募集についても、労働組合から合意を得ているといいます。

 医薬品では過去最高の売上収益・営業利益を達成した中外製薬など、業績好調な企業でも希望退職者募集や配置転換など人員構成の見直しに動き出しています。医療費抑制を背景に、2年に1度の薬価改定が2021年度から毎年改定に変わり、薬価引き下げによる業績低下の可能性が影響しています。さらに、技術高度化に伴う新薬開発費の上昇に加え、グローバルマーケットでのメガファーマ (巨大製薬企業) 化の動きなど、事業環境が急速に厳しさを増していることも要因にあげられます。


 2000年代に入ってからの状況をみると、希望・早期退職者の実施は、2000年に80社でしたが01年に132社、02年に200社と急増します。その後減少し、リーマンショック後の09年に再度191社にのぼりましたがその後はまた減少をたどり、14年以降は円安などの影響があって50社を割り17年25社、18年は最小の12社でした。
 希望・早期退職者は、2000年は1万5千人でしたが02年は39,732人になり、03年2万数千人に減り、その後は1万人台がつづきましたが、09年22,950人に急増します。その後は減少を続け13年は10,782人でしたがさらに1万人を割り続けていました。


 もう一度日経新聞です。
「■中高年、人生100年見据える
 中高年の転職は難しいとされてきた。ただスタートアップ企業などの引き合いも強く過去の常識が崩れつつある。
 総務省の労働力調査では、18年の転職者数は329万人で8年連続で増えた。年齢別では45歳以上の転職者が145歳以上の24万人で5年前に比べ3割以上増えている。
 日本人材紹介事業協会 (東京・港) がまとめた人材紹介大手3社の紹介実績でも、18年10月~19年3月の41歳以上の転職者数は5,028人で、前年同期比40.4%も増えた。世代別でも最も伸び率が大きい。
 リクルートワークス研究所によると、企業が年功序列型から成果主義型にシフトするなか、上場企業で40歳代で課長になる人は10年前に比べて2割減った。大久保幸夫所長は 「40歳代で会社での自分の先が見えてしまい、モチベーションを持って働くために早期退職で新天地を求める人が多い」 と分析する。
 また 「今のうちに厚待遇を提示してくれる別の会社に移り70歳まで働きたい」 (メーカーを早期退職した55歳男性) と長く働ける環境を求める人もいる。
 政府は人生100年時代を見据え、中途採用の拡大に力を入れている。大企業には中途採用の比率の公開を求める方針だ。転職先の選択肢が広がれば、成長企業への人材移動が進みやすくなる。
 中途採用市場が広がり、年功ではなく実力主義の評価・賃金制度を持つ企業が増えれば、高齢者も60歳を超えて再雇用になって賃金が一律でカットされるといったことがなくなり、モチベーションの維持にもつながる。」


 2001年に松下電器が1万3千人の早期退職を募集すると、他社は雇用を大事にする松下電器がおこなうならと 「勇気」 をもらって真似をしました。経営陣のなかで松下電器は雇用問題を牽引する位置にありました。その結果失業率が5%台に跳ね上がりました。(厚労省の 「毎月勤労統計」 改ざんが問題になりましたが、その始まりは 「失業率が5%」 を覆い隠すためにおこなわれたことが始まりです)

 松下電器が雇用を大事にしていたといっても、労働者はみな正規社員や直接雇用者だったわけではありません。非正規労働者、請負労働者、派遣労働者が製造現場を支えていました。
 雇用問題は、正規社員の問題がクローズアップされているとき、実は非正規労働者の問題が深刻化を増します。非正規労働者でもパート労働者の問題が論議されているときに派遣労働者の処遇が悪化しました。非正規労働者の問題がクローズアップされているとき、正規労働者に早期退職、解雇が持ち上がります。

 リーマンショックのときは 「派遣切り」 が社会問題になりました。その時も派遣切りだけでなく多くの正規労働者が退職を強要されていました。

 今回は、それらの時とは違います。現時点で “リストラ (合理化)” が回避できない状態に陥った企業もあれば、本物の “リストラクチャー (企業の再編構築)” を進めようとしているところもあります。そして、募集人数を超えた企業もあれば、満たない企業もあります。なかなかその実態は漏れてきません。


 中高年の転職を促す早期退職は確実に人事と賃金制度の抜本見直しにもつながります。
 年功序列型の賃金制度は諸手当が占める割合が増えていますがまだ残っています。それをさらに縮小したりなくす方向にむかっています。これまでの貢献、経験は否定され、成果主義から、さらに役割給の制度に変えられています。役割給は会社が要請する任任務にたいする ”貢献度” に対する評価によります。競争社会が激化します。
 2000年に入ってからの人員削減の経験をへて企業はいろいろな教訓を積みました。有能な人材を残しながら”金食い虫”を排斥していきます。そのマニュアルが流布されています。

 企業が退職勧奨、解雇を実行することが不可欠であったとしても、その行使は最後の手段でなければなりません。ましてや年金問題で老後の生活の不安が煽られるなかにおいては、企業の社会的責任を含めて慎重でなければなりません。

 かつて中高年の労働者がリストラに直面している時に “見て見ぬふり” をしていた世代が今度は直面させられています。団塊世代の団塊ジュニア・ゆとり世代がリストラされています。それにしても当該を含めて労働者は静かです。

  「活動報告」 2019.6.18
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「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」 (素案) に罰則規定
2019/07/02(Tue)
 7月2日 (火)

 6月19日、川崎市の福田市長はヘイトスピーチの規制にむけて 「あらゆる差別を許さない決意を持ち、差別の根絶を目指す。多様な人々が暮らす市にふさわしい条例になるよう市民の総意でつくりあげていく」 と決意を表明しました。

 この表明をふまえ、6月24日、川崎市は市議会文教委員会にあらゆる差別を禁止し、根絶を図る 「(仮称) 川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」 (素案) を公表しました。
 素案はすべての市民が生き生きと暮らせるまちづくりを掲げ、人種や国籍、民族、性的指向、出身、障害などを理由にした差別の禁止を明示します。ヘイトスピーチに関しては在日コリアン集住地区の川崎区桜本を標的にしたヘイトデモがふたたび行われる恐れが続いていると判断し、実効性を確保するために刑事罰を導入します。導入に当たっては正当な表現行為を侵害しないよう配慮します。
 
 取り組みの推進としては、「何人も、市の区域内の道路、公園、広場、駅その他の公共の場所において、次に該当する 『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』 を行い、又は行わせてはならない。」 とします。その ≪類型≫ として、◎特定の国若しくは地域の出身である者又はその子孫 (以下 「特定国出身者等」 という。) を、本邦の域外へ退去させることをあおり、又は告知するもの ◎特定国出身者等の生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることをあおり、又は告知する もの ◎ 特定国出身者等を著しく侮蔑するもの、≪手段≫ として、◎拡声機を使用する ◎看板、プラカード等を掲示する ◎ビラ、パンフレット等を配布する ◎多数の者が一斉に大声で連呼する をあげています。
 運用面では、市長による勧告、命令と段階を踏み、それでも従わなかった場合に氏名の公表と罰則に踏み切ります。条例違反として市が検察か警察に告発する形を取るほか、恣意 (しい) 的な判断とならないよう勧告、命令の際は有識者でつくる 「差別防止対策等審査会」 に意見聴取します。
 成立すれば全国で被害が続くヘイトスピーチへの刑事規制が初めて実現します。「50万円以下の罰金に処する。また、法人等の場合には、行為者を罰するほか、法人等も罰する (両罰規定)。」。罰金額は刑法の名誉毀損 (きそん) 罪や県迷惑行為防止条例を参考にしました。
 インターネット上のヘイトスピーチは罰金の対象外ですが、事例の公表や削除要請などの拡散防止措置を行います。

 このほかに ▽市と市民、事業者の責務 ▽差別解消・人権尊重に関する施策の基本計画策定 ▽教育・啓発の推進 ▽人権侵害の被害者支援、も盛り込みます。
 市は7月8日から8月9日まで市民の意見を募るパブリックコメント (意見公募) を実施。12月議会で成立させ、同月下旬に一部を施行、2020年7月に罰則を含めた全面施行にするとしています。

 川崎市は、去年3月に、ヘイトスピーチに公共施設が悪用されるのを防ぐため、事前に規制することを盛り込んだ 「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく 『公の施設』 利用許可に関するガイドライン」 施行しました。しかし、実効性の面で課題があるとして、条例に罰則を設けるよう求める声が上がっていました。


 2016年は、「解消」 をうたう3つの法律が制定・施行されました。4月1日に 「障害者差別解消法」、6月3日に 「ヘイトスピーチ解消法」、12月16日に 「部落差別解消推進法」 です。2020年の東京オリンピック開催をひかえ、人権問題への取り組みが世界から後れをとっていることを放置できませんでした。
 しかしいずれも理念法で禁止条項がなく、その実効性のある救済手続きには疑問がありました。

 ヘイトスピーチ解消法 (「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」) です。
「一 前文
 我が国においては、近年、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、適法に居住するその出身者又はその子孫を、我が国の地域社会から排除することを煽 (せん) 動する不当な差別的言動が行われ、その出身者又はその子孫が多大な苦痛を強いられるとともに、当該地域社会に深刻な亀裂を生じさせている。・・・
 ここに、このような不当な差別的言動は許されないことを宣言するとともに、更なる人権教育と人権啓発などを通じて、国民に周知を図り、その理解と協力を得つつ、不当な差別的言動の解消に向けた取組を推進すべく、この法律を制定する。
二 総則
 1 定義
 この法律において 『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』 とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの (以下1において 『本邦外出身者』 という。) に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加える旨を告知するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。
 2 基本理念
 国民は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の必要性に対する理解を深めるとともに、本邦外出身者に対する不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない。
 3 国及び地方公共団体の責務
三 基本的施策
 基本的施策として、国は、相談体制の整備、教育の充実等及び啓発活動等を実施することとし、地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえて、当該地域の実情に応じ、これらの基本的施策を実施するよう努めることとする。」

 法案成立に際しては、「本邦外出身者」 以外のマイノリティーの人たち、例えばオーバーステイの人びとや、アイヌ民族などが対象外になっていることが指摘され、付帯決議に憲法や人種差別撤廃条約の精神にかんがみた適切な対処が盛り込まれました。
 川崎市の条例 (素案) には 「人種や国籍、民族、性的指向、出身、障害などを理由にした差別の禁止」 と明記されています。
この点でも評価できます。全国に広げていく必要があります。
 付帯決議には、インターネットを通じて行われる不当な差別的言動を助長したり、誘発する行為についても、解消に向けた施策を実施することが盛り込まれました。しかしながら、差別を扇動するサイトの規制は、もとのサイトが削除されてもミラー・サイトが規制の及ばない国に置かれたりと、現行法での対応には難しいものがあることも確かです。

 それでも、インターネットによる部落差別の解消にむけた取り組みは開始されています。(6月4日の 「活動報告」 参照)

 1月16日、川崎簡易裁判所は、昨年12月に神奈川検察が、インターネットの匿名ブログで在日コリアンの高校生の実名を公開して嫌悪発言をしたとして侮辱罪の容疑で略式起訴した大分市に住む日本人男性 (66) に対して9千円の科料を課する略式命令を下していたことを高校生の代理人弁護士が会見で明らかにしました。
 日本人男性は、昨年1月、在日韓国人を 「バクテリアのようだ。悪性外来妓生生物」 と中傷しました。高校生は、昨年7月ブログ管理会社に日本人男性の情報を開示請求して告訴しました。
 インターネット上のヘイトスピーチが日本国内で侮辱罪と処罰されたのは初めてです。


 18年1月20日の毎日新聞は 「EU ヘイト投稿7割削除 運営企業、外部通報に迅速対応」 の見出し記事を載せました。
「【ブリュッセル八田浩輔】 欧州連合 (EU) の欧州委員会は19日、インターネットで差別や憎悪を扇動する違法な 『ヘイトスピーチ』 を巡り、ソーシャルメディアの運営企業が、外部から通報を受けた投稿の7割を削除していたとの調査結果をまとめた。ネット上のヘイト対策を巡り、法規制を導入する加盟国も出る中、欧州委は企業の自主努力に委ねる方針を示す。
 欧州委とフェイスブックやツイッターなどIT大手4社は2016年5月、ネット上のヘイトスピーチ拡散を防ぐための行動指針に合意した。利用者などから通報を受けた書き込みについて、内容を24時間以内に確認し、必要なら速やかに削除を求めている。
 欧州委の調査はこの指針に基づくもので、民間の監視組織などから通報を受けた運営元が削除した投稿の割合は、16年12月には平均28%だったが、今回は70%に上昇。通報分の8割以上は24時間以内に検証を始めていた。対象となった分野は特定の民族、反イスラム、移民を含む外国人———の順に多かった。
 司法担当のヨウロワー欧州委員は同日、企業側にさらなる努力を促す一方、『指針は違法なコンテンツに迅速、効果的に取り組む手段になっている』 と評価し、新たな法的規制の導入には慎重な見方を示した。
 一方、ドイツはソーシャルメディアの運営企業を対象に、ヘイトスピーチなど違法な投稿を放置した場合、最大5000万ユーロ (約67億5000万円) の罰金を科すことができる新法を今年施行した。表現の自由を損なう可能性もあるとして法規制には批判も根強い。
 欧州ではヘイトスピーチ以外にも、過激派組織 「イスラム国」 (IS) が戦闘員の勧誘やプロパガンダの拡散に用いたことで、ソーシャルメディアの運用元への圧力が強まった。各社は人工知能 (AI) で違法な書き込みを検知するための取り組みも進めている。」

 IT大手4社のフェイスブック、ツイッター、マイクロソフト、グーグル (You Tubeを運営) 各社は、こうしたサイトをモニターする市民団体との連携を進めるとしています。
 ヘイトに抗する、「実効性」 ある取り組みが、市民を含めた多様な主体によって、多様な方法で進められることを日本でも大いに期待されます。


 6月26日の日経新聞に 「ヘイト投稿者情報の提出、フェイスブックが仏と合意」 の見出し記事が載りました。
「【シリコンバレー=中西豊紀】 米フェイスブックがヘイトスピーチにまつわる投稿をしたユーザーについて、個人情報をフランス政府に提出することで合意したことが25日分かった。仏政府はテロや暴力に関する書き込みでユーザー情報を得ていたが、この範囲を広げる。ネット業界は長く 『表現の自由』 を重視してきたが、相次ぐ不祥事で政府の介入姿勢が強まっている。
 マクロン仏大統領のもとでデジタル担当長官をつとめるセドリック・オ氏が自身のツイッターを通じて発表した。他者を糾弾するようなヘイトスピーチで政府が問題があると判断した場合、フェイスブックはユーザーのIPアドレスや個人情報を司法関係部局に提出するという。投稿の発信元の特定にフェイスブックが協力することになる。
 セドリック氏はツイートとあわせてロイター通信の取材に応じ 『フェイスブックがヘイト関連のユーザー情報を提供するのはフランスに対してだけだ。非常に重要なことだ』 と述べた。
 フェイスブックは日本経済新聞社に対し 『犯罪的なヘイトスピーチについて、今後は (手続きが煩雑で時間がかかる) 刑事共助条約に照らさずに仏政府の情報請求に応じていくことになる』 とコメントした。一方で 『米国を含め司法当局からの要請はすべて精査のうえ、人道上あるいは合法的におかしいものには対応しない』 との考えを強調した。」

 課題はあります。しかし企業倫理、責任も含めて 「グローバルな規制が必要」 な時代になっています。
 
 日本でも差別発言・扇動も 「表現の自由」 という主張があります。
 しかし表現の自由は、基本的人権を守るためのものであって、傷つけ、否定するためのものではありません。基本的人権に国教、民族の壁などありません、基本的人権を守らない表現の自由などありません。
 取り組むか否かは政府の姿勢いかんです。

  「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」 (素案)
  「活動報告」 2019.6.4
  「活動報告」 2018.9.4
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「パワハラ防止法」 を改正してILO条約批准を
2019/06/28(Fri)
 6月28日 (金)

 6月10日から21日、国際労働機関 (ILO) 第108回総会が開催されました。主要議題は 「仕事の世界における暴力とハラスメント」 に関する条約案で、昨年からの継続です。政労使から327本の修正案が提出されました。
 条約は6月21日に採択されました。日本政府は、昨年は反対の論陣をはりました。今年は直前まで態度を決めていませんでしたが、最終的に賛成しました。労働者を代表した連合は賛成、使用者を代表した経団連は棄権しました。
 条約案です。
「I. 定義
第1条 (a) 仕事の世界における 『暴力とハラスメント』 とは、一回性のものであれ繰り返されるものであれ、身体的、精神的、性的または経済的危害を目的とするか引き起こす、またはそれを引き起こす可能性のある、許容しがたい広範な行為と慣行、またはその脅威をいい、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む。
 (b) 『ジェンダーに基づく暴力とハラスメント』 とは、性別またはジェ ンダーを理由として直接的に個人に対して向けられた、または特定の性またはジェンダーに偏向して影響する暴力およびハラスメントをいい、セクシュアル・ハラスメントを含む。
 Ⅱ 被害者・加害者の範囲
第2条 この条約は、都市か地方にかかわらず、フォーマル経済およびインフォーマル経済の双方におけるあらゆるセクターの労働者、国内法および慣行で定義された被雇用者、契約上の地位にかかわらず労働する者、実習生および修習生を含む訓練中の者、雇用が終了した労働者、ボラ ンティア、求職者および就職志望者を含むその他の者について適用する。
第4条 この条約の適用上、仕事の世界における暴力とハラスメントの被害者および加害者は、以下であり得る。
 (a) 使用者および労働者、ならびにそれぞれの代表者、ならびに第2条で定める
  その他の者、
  (b) 国内法および慣行に即したクライアント、顧客、サービス事業者、 利用者、
  患者、一般の人々を含む第三者。」

 第2条と第4条との重複が懸念されました。
 第4条について、ニュージーランドから 「仕事の世界におけるハラスメントについて、誰が加害者か被害者かを言及する必要はない」 として削除するよう提案があり、日本政府、EU、中東湾岸諸国、カナダ、アメリカ、ロシアなどの政府、使用者が賛成を表明しました。ニュージーランドやEUなどと日本政府の意図は真逆でしたが、削除の要求は一緒だったのかもしれません。
 コスタリカは、削除されると条約にどのような影響があるかILO事務局に質問し、ナミビアもアフリカグループを代表して第三者が明示されないことによる影響を尋ねました。
 ILO事務局の法律顧問は、「第4条が削除されても、権利・責任関係に影響はなく、第三者は条約案の対象から除外されない」 と明言しました。
 採決では第4条は削除されました。
 委員会終了後、連合の代表は日本政府と話し合いを行い、ILO事務局の法律顧問の発言も踏まえ、「第4条が削除されても、本条約案の対象には第三者も含まれている」 との日本政府の認識を確認しました。

 仕事の世界における暴力とハラスメント予防・防止には、「すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ」 (フィラデルフィア宣言) ことの共通認識、つまりはお互いの人権、人格権を認め合うことが底流にあります。
 日本で5月に成立した 「パワハラ防止法」 の定義は 「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」 です。パワハラ防止の主体は事業主で、使用者の支配・管理の視点からとらえています。そのため身体的、精神的、性的または経済的危害などの人権、人格権、労働者保護の視点が欠落しています。


 12年3月15日に厚生労働省が発表した 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) は、はじめて職場のパワーハラスメントの定義を行いました。「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」です。いわば 「あらゆるハラスメントの包括的規制」 です。
 提言を検討した 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」 に出席した使用者側の委員は、第一回目の会議で、店員に暴言を吐く客がいる、このような問題についても議論をしたいと提案しました。しかし 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議 ワーキング・グループ」 が最終的にまとめた報告書では同じ職場で働く者以外からのいじめについては対象外になりました。円卓会議もそれを承認しました。

 17年3月28日に政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 に 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」 と盛り込まれていました。それをふまえ厚生労働省は 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」 を開催します。
 検討会は、いじめの定義について、「提言」 を大きくいじらないで、混乱を生じさせないためにわかりやすくしたといいながら、定義を分解して活用しにくくしました。報告書には 「必ずしもパワーハラスメントとは言えない事案もある」、発生の要因については、行為者及び被害者となる労働者個人の問題によるものと、職場環境の問題によるものがあるとの意見が示され、「自己責任」 が登場します。 「職場のパワーハラスメン トの概念」 は、
「【職場のパワーハラスメントの要素】
 ① 優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われること
 ② 業務の適正な範囲を超えて行われること
 ③ 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」
の要素のいずれも満たすものとなります。まさしく 「働かせ方改革」 です。
 当初、UAゼンセンがおこなったアンケートから労働現場の切実な声が紹介されたりしましたが、途中からトーンダウンします。終盤で公益の学者委員が、「カスタマーハラスメントと呼べる第三者の暴力は、得意先、親会社、商店における顧客からなどさまざまで、それぞれ特徴があり同にように扱うことができない、別個に検討会を設けて議論すべき」 と発言すると議論は止まってしまいました。(この時 「カスタマーハラスメント」 の言葉が初めて使用されます。)
 被害者である労働者にとっては猶予できない問題であるという訴えは無視されました。
 定義と第三者からの暴力のスタンスは同じです。使用者が管理・支配をしやすくする、責任の範囲を小さくする、損害賠償等の訴訟の対象になりにくくするです。企業の対応が免罪され、被害を受ける労働者の人権が軽視され、声をあげにくくなります。


 その後に開催された労働政策審議会における議論は、基本的に審議会のベースを崩すことはできませんでした。
 「職場のパワーハラスメントの定義については、・・・以下の3つの要素を満たすものとすることが適当である。ⅰ) 優越的な関係に基づく ⅱ) 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により ⅲ) 労働者の就業環境を害すること (身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)」 と建議しました。
 これを受けて 「パワハラ防止法案」 は、今後の職場のハラスメントの法的定義を 「1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」 の3要素を満たすものとしました。

 「提言」 の 「精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」 は、「報告書」 では 「③ 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」 と3つの要素の1つとなり、「建議」 では 「ⅲ) 労働者の就業環境を害すること (身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)」 と3つの要素の1つの 「労働者の就業環境」 の中にかっこで括られ、法案では消されてしまいました。人権、人格権が消されていったといえます。
 さらに法案は禁止項目も罰則規定もないまま成立しました。


 2003年10月、ILOは 「サービス業の職場における暴力とストレス (生産性とディーセントワークに対する脅威) についての実施基準作成の専門家会合」 を開催し、11月、「サービス業における職場暴力及びこの現象を克服する対策についての実施基準案」 を発表しました。
目的。「この実施基準の目的は、サービス業における職場暴力の問題に対処するための一般的な手引きを提供するものである。この基準は、特に異なる文化、状況及び必要性にそれぞれ適合するように、国際的地域、国家、業種、企業、団体、職場のそれぞれのレベルで同様の手引きを作成する際の参考資料として利用されることを意図したものである。」
範囲。「この基準は、民間及び公的なサービス業における経済活動のすべての分野に適用される。」
職場暴力の定義。「妥当な対応を行っている者が業務の遂行及び直接的な結果に伴って攻撃され、嚇かされ、危害を加えられ、傷害を受けるすべての行動、出来事、行為」で、「直接的な結果とは、業務との明確な関連があって、かつ、妥当な期間の範囲で発生した行動、出来事、行為と解されるものである。」
「部内職場暴力とは、管理者、監督者を含めた労働者間で発生したものを言う。」 「部外職場暴力とは、管理者、監督者を含めた労働者と職場に存在するその他の者との間で発生したものを言う。」
原則。「・1981年 (155号) 労働安全衛生条約の規定に基づき健康的で安全な職場環境が、業務の遂行に際して最適な肉体的及び精神的健康を保てるようにすること、また、職場暴力を未然に防止し得ること。
 ・使用者、労働者及びそれらの代表、適当な場合には政府との間での労使対話が、職場暴力
  防止の方針及び計画の実施の成功に際して基本的なカギとなる。そのような労使対話は、
  労働における基本的な原則と権利についてのILO宣言とその関連文書に記載されて
  いるものである。
 ・職場暴力防止のための方針及び行動は、ディーセントワークと相互尊重と1958年
  (第111号) 差別 (雇用及び職業) 条約に基づく職場における差別の防止を促進す
  ることに結びつかなければならない。
 ・性の平等の促進は、職場暴力の減少に貢献し得るものである。」

職場暴力に対する方針。「政府、使用者、労働者及びそれらの代表は、職場暴力の撲滅に寄与する職場慣行を合理的に実行可能な範囲で促進すべきである。この目的を達成するため、政府、使用者、労働者及びそれらの代表は、職場暴力の危険性を最小限にするため適切な方針及び手続きを開発し実施することが肝要である。」
方針の重要性。「ディーセントワーク、労働倫理、安全、相互尊重、寛容、機会均等、協力、サービスの質に基づいた建設的な職場文化が構築されることを優先しなければならない。これは次のものを含む。
 ・質の高いサービスを実現する人材が重要な役割を担う旨の明確な目的
 ・共通の目的を分かち合う組織及び構成員についての強調
 ・職場暴力防止の宣言
 職場暴力の撲滅への努力の重要性を認識した上で、経営トップによる明確な経営戦略の表明及び周知を行わなければならない。」
方針における責任の所在として、「方針は、関係者すべてにより検討され、使用者、労働者、一般公衆、顧客及び取引先に率先して周知されるべきである。」 などがあげられています。
関係者の役割及び責任として、政府には、防止措置の策定と適用についてリーダシップをとるべきであるとして、調査、ガイドライン、法令、財源、国際地域間及び国際間の協力の推進、支援をあげています。
使用者には、職場暴力の危険性を撲滅し最小限にするための適切な方針と手続きを策定し実行するため労働者及びそれらの代表と協議すべきであるとして、危険性の低減及び管理、国家、業種及び企業職場での合意、人事方針、苦情及び懲戒手続きをあげています。
苦情及び懲戒手続きとしては、「労働者及びそれらの代表が職場暴力についての苦情を申し立てられるような手続きを定めなければならない。職場暴力の申し立ては可能な限り調査が完了するような時まで内密に保たなければならない。」 とあります。
労働者の訓練として、「使用者は、職場暴力の防止について、職場における企業方針と戦略について、また、職場暴力が発生した際の支援について労働者に周知、教育及び訓練する職場におけるプログラムを開始しまた支援しなければならない。」 とあります。
 そのうえで、「サービス業における職場暴力の防止のために行われる訓練は、次のようなものが含まれる。
 ・潜在的な暴力の危険性を感知する能力を向上させること。
 ・事態の評価、協力体制及び問題解決の対応能力を向上させること。
 ・潜在的な暴力の危険性を回避し軽減できる会話コミュニケーション技能を教えること。
 ・協力体制を形成できるような積極的な姿勢を育成すること。
 ・リスクアセスメントに従い必要に応じて積極的に主張する訓練。
 ・リスクアセスメントに従い必要に応じて自己防衛する訓練。
 特定の環境下における職場暴力を防止し対処するために必要な特定の訓練と技能を明確化した特定の業種及び職業におけるガイドラインを新たに開発するべきである。」 とあります。
 実施基準案は、「第三者からの暴力」 にたいして、国、使用者、労働者全体の問題ととらえたうえでそれぞれの課題としています。


 日本においても、2011年3月、厚労省と中央労働災害防止協会は 「小売業におけるストレス対処への支援」 を作成しました。「小売業の仕事に特徴的なものとして、接客、すなわちお客 様と接し対応することが挙げられます。・・・しかしながらこのような事柄は、例えばトラブルが発生してしまったような場合に、従業員がお客様に対して過度に責任を大きく感じてしまったり、無理して対応を続けるあまり、疲弊してしまったりするようなこともあるかもしれませ ん。そのようなことは、小売業に特徴的で、小売業に従事しているからこそ存在する仕事のストレス要因であると考えられます。」
「お客様からのクレームの矢面に立つこともしばしばありますので、非常に大きな対人ストレスにさらされます。特に、度を超えたクレーム (執拗に来店して些細な事で高圧的に詰め寄る、特定個人を集中して非難する等) については個人の裁量に任せるのではなく、標準的な対応方法を教育し、組織として対応することが必要です。」
 小売業では大きなストレスが発生していることが認識されています。しかしその後議論はおこなわれず、対策は進んでいません。
 労働者が発症したストレスには原因があります。個人的対応では解消できません。特に 「第三者からの暴力」 の場合はそうです。やはり国、使用者、労働者全体の問題ととらえながらそれぞれの課題として取り組んでいかなければなりません。

 日本政府は 「仕事の世界における暴力とハラスメント」 に関する条約の批准が迫られます。「パワハラ防止法」 を再度改正し、ILOの要請に答えていかなければなりません。
 お互いの人権、人格権を認め合い、被害者を救済することを目的に、「あらゆるハラスメントの包括的規制」 を法律に明記させる社会的運動を盛り上げることが必要です。

 「活動報告」 2019.6.11
 「活動報告」 2019.5.31
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司法的救済は機能しているか
2019/06/21(Fri)
 6月21日 (金)

 5月23日、参議院構成労働委員会での 「女性の職業生活における活躍の推進等の法律」 改正案の審議にさいして参考人質問がおこなわれました。議事録が1カ月近くたってやっとホームページに載りました。
 5人が意見を述べました。法政大学キャリアデザイン学部武石惠美子教授、日本経団連輪島忍労働法制本部長、連合井上久美枝総合男女・雇用平等局総合局長、早稲田大学浅倉むつ子名誉教授、角田由紀子弁護士です。
 その中の井上参考人、浅倉参考人、角田参考人の発言を抜粋して紹介します。

○井上参考人
 この6月のILO総会において、仕事の世界における暴力とハラスメントに関する新たな条約が採択される予定です。
 世界的にハラスメントの根絶が求められる中で、昨年のILO総会で発言したほとんどの政府は条約と勧告の採択に賛成の立場です。しかし、日本政府の対応は、日本にとって定義がやや広過ぎるとして立場保留と発言されました。
 女性活躍の更なる推進と、あらゆるハラスメントの根絶に向けた観点から意見を述べさせていただきます。
 一点目は、ハラスメントの禁止規定です。
 現在、日本においてハラスメント行為そのものを禁止する規定はありません。セクシュアルハラスメント、マタニティーハラスメント、育児や介護に関するいわゆるケアハラスメントについては、法律に基づいて事業主に防止措置義務が課せられていますが、とりわけセクシュアルハラスメントについては、1999年に防止配慮義務、2007年に防止措置義務が導入されてから10数年が経過しているにもかかわらず、都道府県労働局には年間約7000件もの相談が寄せられています。国連の女性差別撤廃委員会から禁止規定を創設するよう長年勧告を受けていることもあり、禁止規定を求める声は大変強いものがあります。
 今年のILO総会で議論される条約案の第五条では、暴力とハラスメントを法的に禁止すると明確にうたっており、条約が採択されれば、ハラスメントの禁止は世界的な潮流となります。
 労政審の建議において、禁止規定の創設に当たっては、民法等との関係整理などの課題があるとして先送りされましたが、一方で、児童虐待防止に関して、体罰禁止については、こちらも民法との関係がありながらも、言わば先行して明記されることになりました。並べて論じるのは適切ではないのかもしれませんが、なぜハラスメントの方は禁止するとうたうことができないのか
 二点目は、パワーハラスメントの定義です。
 建議では、2018年三月の職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書の概念を踏まえ、3つの要素として、1、優越的な関係に基づく、2、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、3、労働者の就業環境を害することを満たすものとすることが適当とされました。これらは暴力とハラスメントの全体を網羅していると言え、これから新たにパワーハラスメントの防止措置義務を事業主に課そうという中では、その行為類型について、狭小化するのではなく、包括的に定義するべきだと考えます。
 三点目は、行為者、被害者の定義です。
 誰が加害者かによって事業主の対応が変わるのでしょうか。誰が加害者であっても守るのが事業主の責任ではないでしょうか。
 四点目は、被害者の救済です。
 今回の法案では、パワーハラスメントに関して、セクシュアルハラスメントと同様の紛争解決の仕組みを規定、適用するとされていますが、今ほどのような問題を放置したままで、果たして実効性はあるのでしょうか。
 最後になりますが、ILO条約は国際労働最低基準です。政府も使用者もグローバルスタンダードを強調しますが、労働環境は決してグローバルにはなっていません。

○浅倉参考人
 2013年には第三回目の均等法の見直しが期待されておりました。しかし、施行規則や指針の部分的改正に終わり、性差別禁止の核心に触れる改正はありませんでした。今回こそ均等法の本格的見直しを期待しておりましたけれども、これが現国会の焦点になっているようには見えません。
 真に日本の女性が能力を発揮できるようになるためには、均等法に禁止されるべき性差別の定義規定を置き、そこに直接差別と間接差別が含まれるというふうに明記すること、そして7条の間接性差別禁止規定をより分かりやすい条文にする、そういう抜本的な法改正が必要であると考えております。
 第三ですが、現在焦点となっておりますハラスメントについては、全般的なハラスメント禁止規定が必要不可欠だと考えております。
 ハラスメントに対するこれまでの日本の法政策的な対応は、ハラスメントを名称によって分類して、行政がそれぞれ個別に対応していくという形を取ってまいりました。しかし、その定義の谷間に落ちてしまう、そういうハラスメントがあるために、本当にそれでよいのか反省する必要があると考えます。
 現在のような、事業主に対するハラスメントへの適切な対応という雇用管理上の措置義務だけでは決して十分ではありません。それでは一般の人々に対して、なぜハラスメントが許されない行為なのか理解させることができないからです。
 EUやイギリスの平等法では、ハラスメントは、他者の尊厳を侵害する行為であり、脅迫的、敵対的、品位をおとしめるような屈辱的な行為であり、さらに不快な環境をつくる行為であると述べられております。
 ハラスメントは許されない。なぜなら、それは人の尊厳を侵害する言動だからです。このことをまずしっかりと条文化すべきだと考えます。
 禁止規定を作ることはハラスメント防止対策のイロハであって、この禁止規定から漏れてしまう人々があってはならないと考えます。人の尊厳の侵害行為がハラスメントなのですから、全般的、包括的ハラスメント禁止規定を置く必要性であると考えます。
 第四ですが、ハラスメントを禁止する規定を置いた場合でもその実効性をいかに確保すべきか、何といっても重要です。
 措置義務を遵守していない事業主に対しては行政が助言、指導、勧告をすることができますが、しかし勧告違反に対する制裁である企業名公表は、長い均等法の歴史の中でもただ一回行われたにすぎません。しかも、これは妊娠、出産をめぐる解雇事案でございました。

○角田参考人
 私は、ほぼ30年近くセクシュアルハラスメントの被害者の側に立って仕事をしてまいりました。そこで、セクシュアルハラスメント被害者への司法的救済というのは本当に機能しているのかというこの論点に絞ってお話をさせていただきます。
 1989年、1人の若い女性が職場での語りにくい女性差別をなくそうと、初めてセクシュアルハラスメントを理由として不法行為による損害賠償請求事件を福岡地裁に提訴しました。それ以前は、それを告発する言葉も法的枠組みも日本にはありませんでした。
 この第一号事件は、92年に不法行為であると認定されて、原告のほぼ全面勝訴で終わりました。私たちは、アメリカでのセクシュアルハラスメント事件の扱いに見習ったのですが、日本にはアメリカと違って職場の性差別禁止法がありません。そこで、私たちはやむなく、せめて違法行為として損害賠償をされるべきと考えて、当時、今もですが、使えそうな法律を含めてたった1つあった民法の不法行為を使いました。判決では、直接の行為者である編集長に加えて、原告と編集長が勤めている会社の不法行為責任が明確に認められました。
 原告は、それが不法行為であり慰謝料の支払責任があるということを認定してもらうためには、性差別であるということを強調することが必要だと考えましたので、次のように主張しました。いわゆるセクシュアルハラスメントは、職場で行われる相手方の意思に反する性的な言動であって、労働環境に悪い影響を与えるような行為をいう、それは相手方、とりわけ女性を性によって差別し、性的自己決定の自由等のプライバシーを含む人格権を侵害するものであり、また働く権利を侵害し、ひいては生存権を脅かすものであって、憲法十三条、十四条、民法一条二等に違反する。このような性差別が許されないことは諸外国においても既に広く認識されており、さらに、女性差別撤廃条約、男女雇用機会均等法、労働基準法等々によりセクシュアルハラスメントを受けずに働く権利は法律で保障されているんだと。
 つまり、性差別であって、自己決定権を含む人格権侵害であり、その結果、労働する権利が奪われ、挙げ句には生存権が奪われると、こういう三段階にわたる違法行為であることがセクシュアルハラスメントの特徴であります。
 働く女性には、セクシュアルハラスメントはまさに死活問題です。私は30年にわたって被害者に関わってきましたが、加害者からはたったそれだけのことかと言われるような出来事であっても、被害者は心身に大きなダメージを受け、仕事はもちろん、食べたり眠ったりする日常生活すら満足にこなせなくなっているということは決して珍しいことではありません。
 さらに、行為そのものと周囲の人々の誤った対応などから受ける屈辱感、自尊感情の破壊などがもたらす被害は、傷そのものが身体的な傷のように外部から見えないので理解されませんし、被害者は更に苦しむことになるのです。PTSDのもたらす心身の不調は、それを知らない人には単なる怠け者としてしか見えなかったりするわけです。
 しかし、今、30年を振り返ってみると、セクシュアルハラスメント事件は不法行為のカタログを1つ追加したにすぎない面があったのではないかと思っております。なぜならば、いまだに不法行為の枠を超えられず、本当に被害者が求めているものを獲得できないからです。被害者の求めているものは、事実をセクシュアルハラスメントと認めること、それから加害者が謝罪すること、さらに再発防止策を取るというこの3つです。
 ところが、セクシュアルハラスメント裁判を不法行為を使ってやってきた、現在ではその限界が私は大きく見えているというふうに思います。
 今回の改正案でも、法的解決手段としては不法行為裁判しか考えられていないようですけれども、30年にわたってそのことを行ってきた私の経験からは非常にそれは不十分であるし、結論としては原告の救済になっていないというふうに考えております。
 次に、被害者と加害者に平等な位置付けを与える司法手続、つまり民事訴訟という、非常に時間の掛かる手続はこの事案に対して適切かという問題があります。
 裁判は原告と被告とが攻撃、防御を繰り返す場ですが、過失相殺が許されることで、そのための主張、立証のために裁判期間は必然的に長引きます。これは、被害者から見れば、改めて加害者側の攻撃にさらされ、心身の負担が激しくなる二次被害の期間でもあるわけです。
 それから、三番目の困難な問題は、不法行為法を基にして裁判を行いますと、ゴールは金銭賠償でしかないということです。その上に、日本では賠償金額が非常に低いという問題があります。
 現状の法案では、司法的救済としては相変わらず不法行為というものが期待されているようですけれども、それでは不十分であって、とても被害者の救済には役に立たないというのが三十年間これをやってきた私の結論でございます。

○立憲民主党川田龍平
 今回の改正案ではセクシュアルハラスメントを抜本的に根絶する対策とは言い難いような状況です。参考人からもこのハラスメント行為そのものを禁止する規定が必要だという意見がある中、具体的にどのような規定が必要と考えるか。
○井上参考人
 禁止規定としては大きく分けて二種類あるというふうに思っております。ひとつめは行為者の刑事責任を伴うもの、また2つ目は違法として損害賠償請求の根拠規定となるものというふうに考えております。
 世界銀行の調査によりますと、189か国のセクハラに関する調査によりますと、禁止規定となり得る刑法上の刑罰は79か国、民事救済措置は89か国が有しているという調査もございます。

○角田参考人
 セクハラという言葉があります。 この言葉は、私たちが1989年に福岡で最初に裁判を始めたときには、セクシュアルハラスメントという言葉ではなくて、その当時暫定的にあった日本語訳、性的嫌がらせという言葉を使って始めたんです。しばらくやっていると、どうも性的嫌がらせという日本語はセクシュアルハラスメントの本来持っている意味と離れているんじゃないかということに気が付いたんですが、残念ながら弁護団で適切な訳を見付け出すことができなかった。そこで、セクシュアルハラスメントという片仮名のままでその後続けていったんです。
 そうすると、第一号事件のときに、女性が何を生意気なというような反響が周りからたくさんあったものですから、男性週刊誌がそういうふうにセクシュアルハラスメントの告発を始めた女性を半ばやゆするような感じで、セクハラという言葉を作ったんですね。
 セクシュアルハラスメントという英語そのものは、アメリカではそういう被害を体験している女性たちが編み出した言葉だったんです。でも、日本では、残念ながらセクハラという男性がやゆする表現が作られてわあっと広がったんです。広がったことはいいことではあるんですけれども、大体セクハラって何なのと、意味が付いていかないわけです。セクハラという分かりやすい日本語になった途端に本来持っていた意味がすっかり抜け落ちてしまったと。何となく曖昧のままで、人権の問題だという認識も薄かったということで、今のような状況になっているんじゃないかと私は思っております。

○日本共産党倉林明子
 セクシュアルハラスメントで被害を受けた被害者が裁判に打って出るというのは本当に大変なことだと思うんです。裁判に立ち上がって、しがいと言うか、そういう結果は得られているんでしょうか。
○角田参考人
 私は89年からセクシュアルハラスメントの裁判に関わってきました。最初のうちはただ勝つわけなので悪くはなかったんですけれども、4、5年やっていくうちに、自分の依頼者が何を獲得したのかととても疑問になってきたわけです。私は、その疑問を持ちながら、不法行為というその枠の中でやることの矛盾も考えました。
 日本では、裁判をやるということはとても重大なことというか重荷のことなんです。特に、セクシュアルハラスメントで会社も含めて訴えたいと思ったときには、大変難しいと思います。日本人の意識では、自分の雇主に何か要求する、しかもそれを裁判でやるということは非常にやりにくいことで、決意が要ると思うんです。
 裁判に訴える人は、とりわけセクシュアルハラスメントについて言えば、裁判に行く前の段階でほとんどエネルギーを使い尽くしている、精も根も尽き果てているという状況が率直なところではないかと思うんです。それにもかかわらず裁判を始めるのは大きなプレッシャーであると。個人相手だけならまだいいんですけれども、会社も相手にするときに、在職しながら訴えるのはとても難しいと思うんです。
 私が30年間に扱った原告で、在職しながら裁判やった人は2人しかいないんです。ひとりはキャリアのある人です。キャリアが中断するということはとても彼女にとっては耐え難いことなので、何とか大変でも守り抜きたいということ。もうひとりは公務員だった人です。普通の会社に勤めている人よりはまだ立場上ましであったということがありました。それ以外の人はほとんど全員が仕事を辞めてから、やっぱりこの状況に納得できないということで、文字どおり最後の手段として訴訟を起こすことになってきているわけです。
 それでは在職中の人たちは周りの同僚から支援を得られたかというと、ほとんど得られないです。トラブルメーカーだと扱われたり、いろいろ良くないことを言われる、非難されるということ。場合によっては、証人になってもいいという人もいます。実際に会って話を聞いて、裁判になると、いや、やっぱり自分の立場が悪いので証人になることはちょっと勘弁してとなってくるわけです。
 セクハラに限らず刑事事件でもそうですけれども、性被害に遭った人に対して、周りは何と言うか。あんたに落ち度があったんじゃないか、あんたが悪いんだよと言われることです。そうすると、告発をすることは、私にも落ち度がありましたと、その反面で言っているような結果になってくるわけです。
 そういうことがあるので、本当に覚悟を固めて、しかも孤立無援の闘いになってもやり抜けるのかということなんです。こういう全体的な状況、裁判をめぐる基本的な状況と、とりわけ性被害に関わる裁判をめぐる特殊な状況とがあるので、日本の中では裁判を選択するということは非常に難しい、消極的になるんです。
 裁判で勝った結果、周りに対してうそを言っていなかったということにはなるわけです。しかし、そのことが証明されたからとして、周りの人が考えを変えるかというと、そんなことは余りないです。
 被害者にしてみれば、PTSDなどの重い被害が残っているときは、裁判は2年か3年で終わっても、その後もっと長い期間を付き合わなければいけない不条理もあるわけです。だから、裁判に勝ったら終わりではない、被害者本人の救済にならないんじゃないかと私は思うようになったわけです。
 措置義務だって、会社に対して手続規定としては措置義務を申し立てることができると言っても、一体何人が言い出せるだろうかというと大変難しいと思いますし、辞めてからだったら意味ないわけです。
 ですから、不法行為だけを当てにするのではなくて、もっと別の、もっと時間が掛からなくて、しかも煩わせが少ない、それからプレッシャーの少ない、そういう別の法的な救済方法を考えなければいけないと思います。
 外国では、禁止規定を持っていることと連動し、もちろん司法的な救済はあるんですけれども、それ以外の人権委員会とか雇用平等委員会とか、いわゆるそういう行政機関での訴訟にない、もっといろんなうまみを持った解決方法ができていることを日本でも検討する必要がある
と思っております。

 予防をどうするかは大変難しい問題です。
 裁判をやっても、原告にとっては本当の回復にならないし救済にならないので、講演を頼まれると、裁判というのは余り役に立たないですよと。
 それよりは、お金を掛けるのであれば、企業も予防に掛けてほしいと思います。そのときに、やっぱりセクシュアルハラスメントは何なのかということを基本的に教育するというものがないと、おざなりなことをやっていてはしようがないと思っています。
 本当に深刻な解決すべき問題であるということを、企業も従業員も理解できるような内容の研修をすべきだと私は考えています。
 自分が呼ばれたときも、私の話を聞いて、今日研修したからいいというのでは困りますよと、これは単なる入口だから、もっと本格的な理解に進まないと、どうすれば予防できるかという理解も進まないでしょうと。もっと連続して中身のあるものをどういうふうにやっていくかと考えていただかなければいけないと思うんです。
 外国の例をもっと真剣に参照した方がいいと思います。日本の中だけだったら何か行き詰まったような感じになるんですけど、そうじゃない国があるわけなので、どうしてほかの国ではできているのかということを考える必要があると思います。
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