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労働政策審議会が有識者だけで構成される
2017/09/19(Tue)
 9月19日 (火)

 7月31日、労働政策審議会 「労働政策基本部会」 が初会合を開きました。「労働政策基本部会」 は、昨年12月14日に 「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」 が提出した報告書を受けて新設されました。
 目的は、「現在行われている労働政策についての議論が分科会及び部会単位で行われており、分科会及び部会を横断するような課題については議論されにくい環境にある」 「研究会等や労政審での議論は法改正の具体的な内容が中心となり、中長期的な課題についての議論が不足している」 のでこのような問題に対応するといいます。
 具体的には、「各分科会及び部会を横断する中長期的課題、就業構造に関する課題、旧来の労使の枠組に当てはまらないような課題について審議を行う」 といいます。例えば・技術革新 (AI等) の動向と労働への影響等 ・生産性向上、円滑な労働移動、職業能力開発・時間・空間・企業に縛られない働き方等のような事項について審議します。

 構成員は 「基本部会運営規程」 に 「委員は公益を代表するもののみ」 とあり15人以内です。
 7月31日に開催された部会の委員は12人でした。学者5人、経営者4人、弁護士1人、エコノミスト1人、そして連合の元会長の古賀信明氏です。15人を予定していて残りの3人の枠は企業代表者と労働組合関係者だといいます。公益を代表するものだけでは労使自治が否定されているという意見に対応するため、実態としては労働者代表も含まれているという言い訳も準備されています。しかし決まらないままで止まっていました。8月に内閣改造がおこなわれることになると、改造前にとにかく開催の既成事実をつくっておくということになりました。
 安部政権が推し進めている 「働きかた改革」 は経産省の主導だといわれていますが、8月の内閣改造では、それまで官邸で 「仕掛け人」 として 「働き方改革実行計画」 をまとめてきた加藤勝信内閣府担当相が、厚生労働相に横滑りしています。

 労働政策についてはILOで労使の協議によって決定するということになっています。
 日本でも厚労大臣の諮問機関である労働政策審議会 (労政審) において 「労働者代表」 「使用者代表」 「公益代表」 三者の10人ずつで構成され、合意で決定することになっています。審議会の下にある7つの分科会や部会でも 「三者合意」 が徹底されています。
 「労働政策基本部会」 はそれが覆されています。このようなことを許してしまうと、労働現場の労使関係にも影響が出てきます。

 「有識者会議」 の報告書には 「法制度上は、我が国が批准しているILO条約で要請されているものを除き、法律の制定・改正を行う際に労政審での議論を必ず行わなければならないこととはなっていない」 とし、「働き方やそれに伴う課題が多様化する中、旧来の労使の枠組に当てはまらないような課題や就業構造に関する課題などの基本的課題については、必ずしも公労使同数の三者構成にとらわれない体制で議論を行った方がよいと考えられる」 としています。政府と自民党、財界は、条約の隙間を拡大解釈し、労働政策における労使自治の原則・政策決定のプロセスを否定し、解体しようとしています。
 具体的例として挙げられたのが 「・時間・空間・企業に縛られない働き方等のような事項」 は 「高度プロフェッショナル制度」 を見据えています。


 2015年6月30日に閣議決定された規制改革実施計画に 「多様な働き手のニーズに応えていくため、従来の主要関係者のみならず、様々な立場の声を吸収し、それらを政策に反映させていくための検討を行う」 ことが盛り込まれました。
 これを受け、2016年5月公表の 「規制改革実施計画のフォローアップ結果」 では 「働き方の多様化等により的確に対応した政策作りのため、労働政策審議会等の在り方について検討を行う」 とされました。
 また2016年2月23日、自民党の 「多様な働き方を支援する勉強会」 (会長:川崎二郎、事務局長:穴見陽一) からも 「労働政策審議会に関する提言」 を受けました。そこには 「ILOの政労使三者構成の原則を踏まえ、政策を議論する場面においては、厚生労働省の政務三役が会議に参加するなど、『政』 の役割を強化すべき」 とあります。
 2016年12月14日、これらの意見をうけて設置された 「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」 は 「労働政策基本部会」 の設置を決定しました。
 当初は、「労働政策基本部会」 を労政審本審議会の下に置くことは想定していませんでした。しかし抵抗にあい、本審議会の下に部会として置くことになりました。
 安倍政権の規制改革、働き方改革実現会議が労政審にも進出してきました。


 なぜこのような動きが登場したのでしょうか。
 2015年2月13日、労政審から 「高度プロフェッショナル制度」 に関する建議 「今後の労働時間法制等の在り方について (報告)」 が提出されました。そこには、使用者代表委員と労働者代表委員からの対立する意見が併記されています。「三者合意」 が成立しませんでした。
 規制改革実施計画が閣議決定されたのはその後の2015年6月30日です。


 2015年6月に閣議決定した 「日本再興戦略」 を踏まえて、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」 が設置され、20回の検討会の議論をへて2017年5月に報告書が提出されました。そのなかにいわゆる 「解雇自由法制」 がありました。
 報告書には 「・解決されていない法技術的論点が多く、現時点で新制度を設けるのは時期尚早等の意見もあった。」 「・解決されていない法技術的論点が多く、現時点で新制度を設けるのは時期尚早等の意見もあった。」 「現行の労働審判制度が有効に機能しており、こうした現行の労 働紛争解決システムに悪影響を及ぼす可能性があることのほか、労使の合意による解決でなければ納得感を得られないので、合意による解決を大事にすべきということや、企業のリストラの手段として使われる可能性があること等の理由から、金銭救済制度を創設する必要はないとの意見があったことを、今後の議論において、十分に考慮することが適当である。」 と記載されています。

 これまでは労政審を経たならば、労働者代表の同意も得たということで法改正の作業に進めたのですがそうは進みません。検討会や審議会からも期待するブーメランの報告が返ってきません。急ぐはずの 「高度プロフェッショナル制度」 の法改正は2年経過しても成立していません。全国過労死を考える家族の会などは必死に反対運動を展開しました。
 安倍政権と経産省は、「働き方改革」・「働かせ方改革」 を強引に推し進めようとしています。そのためさまざまなところで異論が出ています。逆に反対運動が盛り上がっていきます。

 「労働政策基本部会」 はその教訓を踏まえての制度改革です。反対の世論をまき起こさないで決定していく方策がとられます。安部政権は 「働き方改革実現会議」 を設置し今年3月末には 「働き方改革実行計画」 をまとめています。


 では 「高度プロフェッショナル制度」 を巡る状況は、今、どうなっているでしょうか。
 7月13日、連合の神津会長は安倍首相と会談し、これまで反対の姿勢を表明してきた 「高度プロフェッショナル制度」 の創設を 「年104日以上の休日確保の義務化」 などの条件付きで容認する姿勢を表明したことを明らかにしました。安倍首相は 「しっかり受け止めて検討する。経団連とも調整する」 と応じたといいます。神津会長は3月頃から水面下で政府と交渉をつづけてきていたことも明らかにしました。
 労政審を無視し、重要法案を労・公の “ボス交” で決定しようとしました。なおかつ裏交渉を公表してはばかりませんでした。しかし傘下単産などから反対意見に遭遇し、あらためて反対を表明せざるを得なくなりました。

 8月30日、厚労省は残業時間の上限規制と 「高度プロフェッショナル制度」 を労基法改正として一本化した方針を固めて労政審労働条件分科会で概要説明の資料を提出し説明しました。分科会は9月4日にも開催されます。
 一本化のヒントを与えたのは連合です。相反する2つの政策を一緒にすれば連合は反対の意思を表明していてもいつかは折れるとよみ、揺さぶりをかけています。連合は安倍政権に助け舟を出したのです。
 それをふまえて9月8日には 「働きかた改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」 が諮問されました。「法律案要綱」 は8種類の労働法規の改正を一まとめにした一括法案で48ページにおよびます。
 (1)労働基準法 残業時間の上限規制 ▽裁量労働制の対象拡大 ▽高プロ ▽年休取得促進
 (2)じん肺法 産業医・産業保健機能の強化
 (3)雇用対策法 「労働施策総合推進法」 に改称。働き方改革の理念を定めた基本法
 (4)労働安全衛生法 研究開発職と高プロ社員への医師の面接指導
 (5)労働者派遣法  同一労働同一賃金
 (6)労働時間等設定 勤務間インターバルの努力義務改善
 (7)短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律 (パートタイム労働法) 「パート有期法」 に改称。
   不合理な待遇の禁止 (同一労働同一賃金)。
 (8)労働契約法 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止に関する規定を削除。期間の
   定めのある労働者は (7) に移す。

 これらの内容がこのスピードで審議し、答申されたのです。15日、労働者側は 「高プロと裁量労働制拡大は必要なく、これらを含む答申は遺憾であり、残念」 と意見表明しました。しかし答申には要綱を 「おおむね妥当」 としました。「高度プロフェッショナル制度」 の導入と裁量労働制の対象拡大に対しては、労働者代表委員からの 「長時間労働を助長するおそれがなお払拭されておらず、実施すべきではない」 の反対意見が付記されました。
 政府は原則2019年4月の施行を目指します。

 安倍政権の経済政策は挫折してしまいました。経済界はそれを克服するには労働市場の改革、雇用の流動化が必要で、生産性向上とコスト削減を目指すとなりふり構わす主張し、労働者の生活や健康には関心を示しません。労働者と労働組合は 「高度プロフェッショナル制度」 の法制化を絶対に阻止しなければなりません。

 9月5日の 「活動報告」 の再録です。
 8月10日、厚生労働省は2016年度 「過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業報告書」 を公表しました。
「特に、『把握されている労働時間の正確性』 に関しては、把握されている労働時間が 『全く正確に把握されていない』 場合に比べて、『正確に把握されている』 方が、1週間当たりの残業時間が約6時間短縮される傾向があるほか、年次有給休暇の取得日数の増加、メンタルヘルスの状態が良くなる影響も示唆された。加えて…… 『1週間当たりの残業時間』 に対しては、『把握されている労働時間の正確性』 に関して 『正確に把握されている』 場合や、『残業を行う場合の手続き』 に関して 『事前に本人が申請し、所属長が承認する』 場合や 『所属長が指示した場合のみ残業を認める』 場合において、他の要因よりも長時間労働の抑制に特に強く関連性を有していることが伺えた。 これらの結果を踏まえると、労働者の心身の健康の確保、過労死等の防止に向けては、労働時間を正確に把握することや残業する場合の手続きを適正に行うことが、非常に重要な取組基盤となることが改めて確認された」
 この調査結果からも、「高度プロフェッショナル制度」 は 「過労死促進法案」 です。

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過労死防止対策  課題ははっきりしている
2017/09/05(Tue)
 9月5日 (火)

 過労死問題は長時間労働や医学的知見からだけでは説明できません。長時間労働はその原因やその中で発生す精神状態の分析も必要です。
 8月10日、厚生労働省は2016年度 「過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業報告書」 を公表しました。

 調査の目的は、「過労死等の実態を把握するためには、『過労死等の防止のための対策に関する大綱』 にも記載されているとおり、医学面の調査研究だけではなく、長時間労働の実態、企業の取組等、労働・社会面の調査研究も必要である。とりわけ、過重労働が多く発生し、重点的な調査を行う必要のある職種、業種等を検討し、さらに詳細な調査、分析を行うことが必要である」 ことを踏まえ、「過労死等の実態を労働・社会的側面から明らかにすることを目的として」 います。

 報告書の 「第2章 既存の統計資料等の整理」 の集計対象データは 「平成27年度調査における労働者調査において、『正社員 (フルタイム)』 であり、かつ 『通常の 勤務時間制度』 で働いていると回答のあった者のうち、『最終学歴』、『平均的な1週間当たりの残業時間』、『残業が最長の週の残業時間』、『労働時間の把握方法』、『残業を行う場合の手続き』 についてそれぞれ有効回答 (回答が 『その他』 を除く。) があり、かつ、『労働時間の把握方法』 が 『特に把握されていない』 と回答した者を除いた7.242件」 についてです。

 平均的な1週間当たりの残業時間に影響を及ぼす要因についてです。
 「労働者の特性が及ぼす影響」としては、「残業時間が長くなる要因として、男性であること、年齢が低いこと、主たる家計の維持 (支持) 者であることが挙げられた。また、最終学歴においては、『中学校卒・高校卒』 の場合に比べて、『短期大学・高等専門学校卒』 の場合に残業時間が短くなる傾向が見られた」といいます。

 労働環境が及ぼす影響としては、「『職階』 では、『一般社員』 に比べて何らかの役職者の方が、残業時間が長くなる傾向が見られた。
 『従事している仕事の種類』 では、『事務職』 に比べて 『管理職』、『専門職・技術職』、『生産工程職』、『輸送・機械運転職』、『建設・採掘職』 において残業時間が長くなる傾向が見られた。特に 『輸送・機械運転職』 では、『事務職』に 比べて1週間当たり約1.8時間長くなる傾向が見られた。
 『従業員規模別』 では、『10人未満』 に比べて 『30人以上50人未満』 以上の企業において、残業時間が長い傾向が見られた」 といいます。

 企業の管理・対応等が及ぼす影響においては、「『残業手当の支給の有無』 では、残業手当が『支給されていない』 (サービス残業の者等含む) 者に比べて、『全額支給されている』 者の方が残業時間は短くなる傾向が見られた。
 『把握されている労働時間の正確性』 では、把握されている労働時間が 『全く正確に把握されていない』 場合に比べて、『正確に把握されている』、『概ね正確に把握されている』、『あまり正確に把握されていない』 場合の方が残業時間は短くなる傾向が見られた。特に 『正確に把握されている』 場合では1週間当たり6時間近い残業時間の短縮が見られた。 『残業を行う場合の手続き』 では、『本人の意思や所属長の指示に関わらず残業が恒常的にある』 場合に比べて、『事前に本人が申請し、所属長が承認する』 場合や 『所属長が指示した場合のみ残業を認める』 場合において、残業時間は短くなる傾向が見られた」といいます。

 企業の経営環境が及ぼす影響については、「企業の経営環境 (ただし、労働者による評価に基づくもの) が 『平均的な1週間当たりの残業時間』 に及ぼす影響についてみると、『この会社の経営はうまくいっている』と感じている方が、残業時間は短くなる傾向が見られた」 といいます。


 年次有給休暇の取得日数に影響を及ぼす要因についてです。
 労働者の特性が及ぼす影響については、「男性であること、年齢が低いこと、配偶者がいないこと、『こころの耳』 を知らない場合において、取得日数が短くなる傾向が見られた」 といいます。

 労働環境が及ぼす影響については、「『従業員規模別』 では、『10人未満』 に比べて従業員規模が大きい方が、取得日数が多くなる傾向が見られた(ただし、『500人以上1000人未満』 の規模は有意な違いは見られなかった)。
 『労働組合の有無』 別では、『労働組合がない、もしくは分からない場合』 に比べて、加入・未加入に関わらず、『労働組合がある』 場合において取得日数が多くなる傾向が見られた。
 また、『年次有給休暇の年間新規付与日数』 が多いほど取得日数が多くなる傾向が見られた。『平均的な1週間当たりの残業時間』 では、『0時間』 に比べて 『5時間以上』 の場合に、取得日数は少なくなる傾向が見られた。平均的な1週間当たりの残業時間が長くなるほど取得日数が短くなり、休みがとりづらい状況が伺えた。特に平均的な1週間当たりの残業時間が 『20時間以上』 の場合には 『0時間』 に比べて約3日、取得日数が少なくなることが分かった」といいます。

 企業の管理・対応等が及ぼす影響については、「『残業手当の支給の有無』 では、残業手当が 『支給されていない』 者 (サービス残業の者等含む) に比べて、『全額支給されている』 者の方が取得日数は多くなる傾向が見られた。
 『把握されている労働時間の正確性』 では、把握されている労働時間が 『全く正確に把握されていない』 場合に比べて、『正確に把握されている』、『概ね正確に把握されている』 場合の方が取得日数が多くなる傾向が見られた」 といいます。

 企業の経営環境が及ぼす影響については、「企業の経営環境 (ただし、労働者による評価に基づくもの) が 『年次有給休暇の取得日数』 に及ぼす影響についてみると、有意な関連性はみられなかった」 といいます。


 メンタルヘルスの状況に影響を及ぼす要因についてです。
 調査には 「GHQ精神健康調査票」 を使用しています。主として神経症者の症状把握、評価および発見に有効なスクリーニング調査であり、「日本版GHQ12」 は12問からなる調査で、各問の回答に応じて0点または1点を付与し、0~12点の合計得点を算出します。スコアが高いほど精神的には不健康 (メンタルヘルスの状態が悪化している) といえます。

 労働者の特性が及ぼす影響については、「『年齢が高い』、『配偶者がいる』、『勤務日1日の睡眠時間が長い』 場合において、GHQ-12のスコアが低くなる、即ち、メンタルヘルスの状態が良好になる傾向が見られた。また、 最終学歴においては、『中学校卒・高校卒』 の場合に比べて、『大学卒・大学院修了』 の場合にメンタルヘルスの状態が良好になる傾向が見られた。
 一方、『介護をしている』、『業務以外にストレスや悩みを感じた経験がある』 場合において、GHQ-12のスコアが高くなる、即ち、メンタルヘルスの状態が悪化する傾向が見られた」といいます。

 労働環境が及ぼす影響については、「『平均的な1週間当たりの残業時間』 では、『0時間』 の場合に比べて 『10時間以上』 の場合に、メンタルヘルスの状態が悪化する傾向が見られた。また、『残業が最長の週の残業時間』 では、『0時間』 の場合に比べて 『30時間以上』 の場合に、メンタルヘルスの状態が悪化する傾向が見られた。
 『ハラスメントの有無』 別では、『ハラスメントはない』 場合に比べて、『ハラスメントを受けている』 または 『自分以外がハラスメントを受けている』 場合において、メンタルヘルスの状態が悪化する傾向が見られた。
 『職場環境に対する評価』 に関しては、『自分に与えられた仕事について、裁量を持って進めることができる』場合や 『今の職場やこの仕事にやりがいや誇りを感じている』 場合及び 『全体として、仕事の量と質は適当だと思う』 場合は、そうでない場合に比べてメンタルヘルスの状態が良好になる傾向が見られた」 といいます。

 企業の管理・対応等が及ぼす影響については、「『残業手当の支給の有無』 では、残業手当が 『支給されていない』 者 (サービス残業の者等含む。) に比べて、『全額支給されている』 者の方が、メンタルヘルスの状態が良好になる傾向が見られた。
 『把握されている労働時間の正確性』 では、把握されている労働時間が 『全く正確に把握されていない』 場合に比べて、『正確に把握されている』、『概ね正確に把握されている』、『あまり正確 に把握されていない』 場合の方が、メンタルヘルスの状態が良好になる傾向が見られた
 『残業を行う場合の手続き』 では、『本人の意思や所属長の指示に関わらず残業が恒常的にある』 場合に比べて、『事前に本人が申請し、所属長が承認する』 方が、メンタルヘルスの状態が良好になる傾向が見られた」とあります。


 まとめにあたる 「留意事項」 です。
「労働者の特性や労働環境、企業の管理・対応等のいずれも、『平均的な1週間当たりの残業時間』、『年次有給休暇の取得日数 (2014年度)』、『メンタルヘルスの状況』 (GHQ-12) と有意に関連している可能性が示唆されるとともに、『平均的な1週間当たりの残業時間』 に関しては、企業の経営環境とも関連している可能性が示唆された。また、労働環境としての 『週間当たりの残業時間』 は 『年次有給休暇の取得日数 (2014年度)』 や 『メンタルヘルスの状況』 (GHQ-12) と有意に関連しており、残業時間が長いほど年次有給休暇が取りづらく、また、メンタルヘルスの状態が悪化する可能性があると考えられた。
 さらに、労働者の特性や労働者が置かれている労働環境は様々であるが、そうした要因を考慮してもなお、企業の管理・対応等は、残業時間や年次有給休暇の取得日数だけでなく、メンタル ヘルスの状態にも関連している可能性が示唆された。特に、『把握されている労働時間の正確性』 に関しては、把握されている労働時間が 『全く正確に把握されていない』 場合に比べて、『正確に把握されている』 方が、1週間当たりの残業時間が約6時間短縮される傾向があるほか、年次有給休暇の取得日数の増加、メンタルヘルスの状態が良くなる影響も示唆された。加えて…… 『1週間当たりの残業時間』 に対しては、『把握されている労働時間の正確性』 に関して 『正確に把握されている』 場合や、『残業を行う場合の手続き』 に関して 『事前に本人が申請し、所属長が承認する』 場合や 『所属長が指示した場合のみ残業を認める』 場合において、他の要因よりも長時間労働の抑制に特に強く関連性を有していることが伺えた。 これらの結果を踏まえると、労働者の心身の健康の確保、過労死等の防止に向けては、労働時間を正確に把握することや残業する場合の手続きを適正に行うことが、非常に重要な取組基盤となることが改めて確認された」 といいます。


 この調査結果から、今、働きかた改革において法案化がおこなわれようとしている 「残業代ゼロ法案」 ・ 「高度プロフェッショナル制度」 (高プロ) をみたらどうなるでしょうか。
「『残業を行う場合の手続き』 では、『本人の意思や所属長の指示に関わらず残業が恒常的にある』 場合に比べて、『事前に本人が申請し、所属長が承認する』 場合や 『所属長が指示した場合のみ残業を認める』 場合において、残業時間は短くなる傾向が見られた」
「『把握されている労働時間の正確性』 では、把握されている労働時間が 『全く正確に把握されていない』 場合に比べて、『正確に把握されている』、『概ね正確に把握されている』、『あまり正確に把握されていない』 場合の方が残業時間は短くなる傾向が見られた。」
「『把握されている労働時間の正確性』 では、把握されている労働時間が 『全く正確に把握されていない』 場合に比べて、『正確に把握されている』、『概ね正確に把握されている』、『あまり正確 に把握されていない』 場合の方が、メンタルヘルスの状態が良好になる傾向が見られた。」
 「高度プロフェッショナル制度」 はこのような実態に逆行しています。これだけでメンタル状況は不調になります。


 これらの調査結果のほとんどは日々の労働相談のなかで実感していることです。しかし行政は “素人” の意見・要求は聞き入れません。
 日本における行政の調査は、取り組みの糸口を探るのではなく、データを作成して公表することで落着してしまいます。糸口を探ろうとするなら沢山の課題が見えています。
 調査結果を公表してそれ以降は企業の良心に任せるのではなく、議論をまき起こし、行政は指導、規制、法制化へと進めていかなければなりません。
 そうでないとせっかくの過労死対策も絵に描いた餅になってしまいます。

   「活動報告」 2017.7.7
   「活動報告」 2017.6.9
   「活動報告」 2017.1.31
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オリンピックは誰のため
2017/09/01(Fri)
 9月1日 (金)

 今年の夏は異常気候が続き、東京は雨続きでしたが晴れた時はかなり暑かったです。秋が例年より早いです
 この時期に2020年は東京オリンピックが開催されます。炎天下や異常気象が想定されるなかでの競技は選手の虐待です。誰が設定したのでしょうか。そして国立競技場の建設現場では、労働者が長時間労働の犠牲者になっています。
 まだ間に合うので東京オリンピックはこれ以上犠牲者を出さないためにも中止したほうがいいいう思いに駆られます。その勇気が必要です。

 この時期を選んだ事情は、放映権と放映時間等からきています。つまりは主催者の営業上の設定です。開催地の誘致においては主催者にかなりの裏金が動いたこと明らかになっています。運営については電通等がうごめいています。競技場建設では暴露されたように利権がうごめいています。オリンピックはどす黒い祭典です。そして政治的です。
 パラリンピックが取り上げられるようになりました。しかし昨年のリオデジャネイロ開催の時、オリンピックは深夜もテレビ中継がされましたがパラリンピックの中継はまったくありませんでした。スポンサーがつきませんでした。それでも不満の声は上がりませんでした。 
 そもそも障碍者が競技に参加することに意義はあっても、勝たせることにどんな意味があるのでしょうか。競技に参加しても勝つことを目指すことに苦痛を感じる障碍者も大勢います。パラリンピックは健常者の大会運営委員が引き回しているのではないでしょうか。

 オリンピックは政治的祭典です。それは、モスクワオリンピック等の記憶が残っている人たちは実感したことです。
 昨年のリオデジャネイロのオリンピックは開会式が8月6日でした。当初、演出を手掛けた映画監督のフェルナンド・メイレレスは広島に原爆が投下された8時15分に合わせて1分間の黙祷を提案ました。しかし、開会式にはいかなる国の扱いにも差があってはいけないというルールがあるのと、政治的行動にあたるとの判断から、IOC側から反対されたといいます。
 原爆投下は一国の問題なのでしょうか。原爆被害者への黙とうは政治的なのでしょうか。
 昨年5月27日のオバマ米国大統領の広島訪問を思い出します。
 オバマ大統領は、「安らかにお眠りください 過ちは繰り返しませぬから」 の慰霊碑に献花し、近くにいた被爆者の方たちに近づいて握手を交わしました。しかし記念撮影の段階になると慰霊碑から離れて、バックに原爆ドームが写る場所に異動して応じたといわれます。原爆ドームはアメリカ大統領にとっては軍の戦果です。あえてそのように演出したのです。「安らかに眠ってください 過ちは繰返しませぬから」 は消えてしまいました。
 これらの流れとつなげて今年7月の国連での核兵器禁止条約採択に核保有国と日本が不参加だったことを捉えることはうがった見方でしょうか。
 政治的というのなら、ウサイン・ボルトはいつも左腕に 「グローバルな貧困根絶キャンペーン」 のホワイトバンドをはめています。これは政治的といえないのでしょうか。


 12年8月31日の 「活動報告」 の再録です。
 7月29日、オリンピックが開催されているロンドンで、元サッカー選手の中田英寿や元陸上選手の為末大らが実行委員となって、世界の人たちに東日本大震災の支援に感謝の気持ちを伝えるイベント 「ARIGATO in London」 が開催されました。日本の文化を紹介するコーナーも設けられました。そして 「ありがとう」 の文字が83か国の言葉で次々と現れる映像も流されました。
 テレビ、新聞などが連日、これでもかこれでもかとナショナリズムを煽り続ける陰での目立たないイベントでした。
 中田選手、為末選手、本当に 「ARIGATO」 「ありがとう」 ございます。

 このイベントに日本の関係者は何人が顔を出したのでしょうか。
 中田選手、為末選手は日本のスポーツ界では異端児です。本来のオリンピックはこのような精神を掲げていました。選手たちが政治的中立などのポーズをとって 「国民」 の期待に応えようとすること自体が政治的です。
 いっそのこと変なポーズを取らないでオリンピックは終了してもいいのではないでしょうか。開催に立候補する都市もなくなりつつあります。


 異端児の為末選手のブログや発言はいつも面白いです。東京オリンピック開催に反対はしていません。
 現代ビジネス (講談社) の16年1月22日のインタビュー記事 「東京五輪っていったい何のためにやるんですか?」 からの抜粋です。

 2015年は東京五輪に関してエンブレムや新国立競技場が話題となりましたが、新国立競技場の第三者委員会の経験を振り返ると、実際に会った人はみんな一生懸命にやっている印象を持っています。
 しかし、そこには 「何に向かってやるのか」 ということがありませんでした。報告書にも書かれていますが、たとえば 「上限がいくらなのか」 については全員に共有されていませんでした。みんながバラバラの数字を頭に浮かべ、お互いに慮り合い、ふわっとした空気ができあがっていました。
 だから、いまはオリンピック・パラリンピック全体が不安定というか大丈夫なのかどうかと思ってしまうんです。ぼくは、五輪開催の明確な目的が決まっていないんじゃないかと考えています。
 もちろん、「全員が自己ベスト」 「多様性と調和」 「未来への継承」 といったコンセプトは公開されていますが、具体的なアプローチは見えてきません。どうしてもすべての課題をただ盛り込んでいるだけのように感じます。

 五輪について、ぼくはパラリンピックに注力することを決めているので、選手の強化や義足の製作などを通じて応援・貢献していきたいです。パラリンピックを開催することで、高齢化社会に向けた解決の糸口が見えたらいいなと思っています。
 わかりやすいところでいえば、パラリンピアンたちが街を点検して、都市計画に反映する。そうすれば、高齢化社会でもバリアフリーになり、みんなが自由に移動できる社会ができると思っています。

 東京五輪でも、渋谷区の 「同性パートナーシップ証明書」 交付の話でも、「ダイバーシティ」 という言葉をよく聞くようになりました。
 ダイバーシティは端的に 「マイノリティを支援しよう」 ということかもしれませんが、本質論でいえば 「マイノリティのエネルギーをうまく使おう」 ということだと思います。マイノリティが困る社会ではなく、マイノリティが価値を生み出せる社会です。
 好きな話に、全盲の選手と車いすの選手が一緒に移動する、というものがあります――。
 どうやるかというと、車いすの選手が方向を指示して、全盲の選手が車いすを押すんです。とてもシンプルですが、現状の障害者の支援というと、全盲と車いすの方のどちらにも支援するとなりがちです。でも、本来は双方のもつ価値や役割を提供し合うことが大事だと思います。

 これからの少子高齢化社会、労働人口は減り、障害者や認知症をもつ人は増えるでしょう。人の障害はますます多様になり、年の取り方も多様になるため、それぞれがまんべんなく、もっているものを分配することがカギになります。そのことが、ダイバーシティの本質だと思うんです。
 現代社会では人の役割が決まりすぎている気がするので、高齢者でも働いたり、賢い人がどんどん意思決定に関わったり、障害者同士が価値を提供し合ったり……。それらの資産が東京五輪後に見えてくるといいなと思います。

 先ほどパラリンピックに注力するといいましたが、いくつも課題はあります。たとえば、盛り上がりの違い。これを解消するには、遠慮なくいえば、おもしろくするほかありません。「パラリンピックを応援しましょう」 と言っているのは、野球でいえば 「好きな球団を応援しましょう」 と言っているようなものです。
 でも、よく考えてみると、ふつうは 「応援しましょう」 と言われて応援しているのではなくて、「応援したくてしている」 だけです。パラリンピックは社会的にすばらしいかどうかを喧伝するのではなく、おもしろくすることが先決だと考えています。
 おもしろいものを見たいのは、人間の欲求の本質だと思います。東京五輪を真面目かつ正しい路線で攻めてしまうと、その正しさは2020年で終わってしまうのではないかとやや不安です。

 スポーツ界だけを見ていれば、東京五輪の成功がゴールなのかもしれないですが、社会のほうを向くと五輪後の社会――これまで隠れていた問題の表面化とそれに対するアプローチ――を真剣に考えなければいけません。
 今年の春にはXiborgの新義足が完成予定です。実際の競技にも利用できるので、2016年リオ五輪に出場するような選手を輩出できればと思います。
 ただ、障害者スポーツの世界では、障害の種類が多いことから、競技数も多く、コーチが圧倒的に不足しているんです。善意での活動や専門ではない場合も多いので、各コーチがさまざまな情報にアクセスでき、レベルアップできるシステムが必要でしょう。
 ぼくはそもそも競技数を減らしたほうがいいと思っています。健常者よりも選手数が少ないのに、種目数が多いために多数の選手が出場できてしまう状況です。これでは競争があまりないので、スポーツとして健全ではないと考えています。2020年まであと5年、多くの人にパラリンピックはおもしろいと思ってもらえるように、さまざまなところでかかわっていきたいです。

 これからの少子高齢化の時代、いうまでもなくヘルスケアが重要になります。だからこそ、社会全体で健康になれるように、週に1回だけ一駅歩いてみるとか自転車で走りやすい道をつくるとか、そういう部分を促進できるような活動・事業をおこなっていきたいです。
 いまや健康や運動に関する有益な情報はたくさんありますが、みんなが唯一できていないのは実行・継続することです。
 だからこそ、日本陸上競技連盟や全国の陸上競技協会などスポーツに関する組織・団体はチャンピオンを生み出すよりも、健康と余暇の領域でバリューを発揮すべきだと思います。
 特に30~80歳くらいの人たちが、スポーツをはじめやすい環境をつくることが大事です。なぜなら、日本の課題はどう考えても、メダルの獲得よりも、医療費の抑制だからです。そこに対して、責任を取る協会が出てくると未来が少し明るくなると思います。

 東京五輪の招致に成功したからよかったけれど、仮に来なかったとしたら何をしなければいけなかったのか――。そのことを考えるべきです。2020年に祭典があっても、たった一瞬の気分が変わるだけで、本質的な解決は果たせないでしょう。五輪が来なかったときの気分や時代を想像しつつ、特に興味のある高齢化にアプローチしていけたらと思います。


 為末選手の提言は政治的です。このように政治的なオリンピック・パラリンピックなら国別は無視して少しは応援しようとかおもうのですが・・・。

   「活動報告」 2017.1.28
   「活動報告」 2014.2.21
   「活動報告」 2012.8.31
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小池知事の表明はサイレンスのヘイトスピーチ
2017/08/29(Tue)
 8月29日 (火)

 毎年10月下旬から11月上旬に秩父困民党蜂起の足跡を追う旅・ツアーに車で出かけます。
 東京から秩父に向かうには関越高速道路に乗りますが、このルートは旧中山道・JR高崎線に沿っています。1923年9月1日に発生した関東大震災の時に朝鮮人が避難したルートでもあります。
 関東大震災の時、流言飛語が飛び交い、たくさんの朝鮮人が虐殺されました。中国人、沖縄人も殺されました。虐殺は横浜から始まり、東京、千葉、埼玉へと広がっていきます。同時に住民のなかに自警団が結成されます。東京で大杉栄は自警団に加わっていましたがのちに警察に殺されます。

 中山道にそった関東大震災の時の朝鮮人虐殺の状況です。
 流言のなかで、埼玉県警は県南に住んでいたり、荒川の河川工事に従事していた朝鮮人、東京から県南方向に避難してくる朝鮮人をまとめて群馬方面に護送することにします。最初は警察や自警団が付き添って徒歩や自動車で中山道を下ったりしました。しかし県北まできた時に自警団の一部と群集が朝鮮虐殺に走ります。9月4日、県内3か所で虐殺事件が起きます。熊谷約60人、神保原42人、本庄88人です。
 寄居でも1人虐殺されます。朝鮮アメを売り歩いていた具学永 (クハクヨン) は寄居警察署に保護されましたが群衆に襲われ虐殺されます。虐殺の時、具学永は血で 「無罪 日本 責任」 と書きました。お墓は寄居駅近くの正樹院に建っています。戒名は 「感天愁雨信士」。毎年9月1日が近づくと寄居署の警察官は保護できなかった責任を感じてお参りに訪れるといいます。いつもきれいに掃除されています。何度か訪れ、持参したお線香を焚きました。

 児玉でも1人虐殺されました。浄眼寺 (本庄市児玉町八幡山375) の無縁仏のなかに 「鮮覚悟道信士」 があります。後に 「児玉警察署員一同」 で供養塔が建てられました。持参したお線香を焚きました。
 現在の本庄市歴史民俗博物館 (本庄市中央1丁目2-3) は旧本庄警察署です。署員は避難してきた朝鮮人を保護していました。群衆が押し寄せたので玄関に阻止戦を張って守ろうとしましたが多勢に無勢でかないませんでした。日本刀、竹槍、木刀、棍棒、丸太等で朝鮮人88人が虐殺されました。遺骨は共同墓地・長峰墓地 (本庄市東台5丁目) に埋葬されました。翌年に日本人によって 『鮮人之碑』 の慰霊碑が建てられましたがのちに 『関東震災朝鮮人犠牲者慰霊碑』 に建て替えられました。碑には88人の名前が刻まれています。博物館を訪れ、当時の様子を想像しました。
 熊谷では避難を続けていた60人が路上で虐殺されます。この時から埼玉での虐殺が始まります。大原共同墓地には供養塔が建っています。
 妻沼町では、足尾銅山で働いていた秋田県生まれの青年労働者が、東京に出て仕事をしようとたまたま山を下りてきて、利根川を渡って妻沼町に入ったところ、利根川の橋を警備していた自警団によって東北訛りの発音から朝鮮人と間違えられ、虐殺されました。


 神奈川警察署鶴見分署長の大川常吉は、自警団や群衆から殺害されるおそれのあった朝鮮人・中国人らを署に保護しました。1000人以上の自警団らが署を囲み朝鮮人を殺せと叫びます。大川は群衆を説得するが、群衆は朝鮮人に味方する警察を叩き潰せと騒ぎ立てはじめます。大川は群衆の前に立ちはだかり叫びます。
「鮮人に手を下すなら下してみよ、憚 (はばか) り乍ら大川常吉が引き受ける、この大川から先きに片付けた上にしろ、われわれ署員の腕の続く限りは、1人だって君たちの手に渡さないぞ」
 群衆は警察が管理できずに朝鮮人が逃げた場合、どう責任をとるのかと問います。大川は、その場合は切腹して詫びると答えると、そこまで言うならと群衆は引き下がりました。
 横浜市鶴見区潮田町3-144-2にある東漸寺に大川を顕彰する石碑が1953年に在日朝鮮統一民主戦線により建立されました。

 東京の各警察署も朝鮮人を保護し、警察官は身体を張って群衆の暴行や虐殺を止めさせようとしました。
 もし、このような警察官の行動がなかったら虐殺者数は今公表されている6000人ではなく万を超えたでしょう。
 民間人としては、弁護士の布施辰治は自宅に大勢の朝鮮人をかくまいました。


 8月24日、東京都の小池都知事は、歴代の都知事が市民団体などの主催する関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式に都知事名の追悼文を送らない方針を決めたことが明らかになりました。その理由を担当する都建設局は 「毎年9月1日に都慰霊協会の主催で関東大震災の犠牲者全体を追悼する行事があり、知事が追悼の辞を寄せている。個々の追悼行事への対応はやめることにした」 と説明しました。
 虐殺された人朝鮮人、中国人は関東大震災で亡くなったのではありません。デマに煽られた警察官や自警団などによって虐殺されたのです。自然災害と虐殺を一緒に捉えることはできません。虐殺された人たちへの追悼は、同じ歴史をくり返さないという自戒の誓いを込めたものです。小池都知事はそれを拒否したのです。
 行政の長としては、群衆の暴挙を防いだ警察官の活動も忘れずに顕彰をする続けることも大切です。

 今年は秋が早いです。

   幽霊の 正体みたり 枯れ尾花

 小池都知事はそもそも隠しようのないタカ派の人物です。知事に就任してからは、他者を批判はするが自分としては必要な判断をあいまいにしたまま先延ばしをします。しかし今回はさすが判断が早いです。
 あいまいさに期待を持たせてポピュリスムをふりまく幽霊の正体を露呈させたのが今回の判断でした。このような知事の進める都政は、富まない都民にとっては恐怖と枯れ尾花の廃墟しかもたらしません。

 小池知事は虐殺された人たちを自然災害の犠牲者と同じにしか見ていません。そもそも、なぜ当時多くの朝鮮人が日本にいたのかと検証することもしません。
「無視、もしくは無言の拒否というやりかたで、人は途方もなく恐ろしい差別をする。侮蔑的な発言をしたとか、侮蔑的な文章を配ったり貼ったりしたとか、そうしたわかりやすい差別行為とは別次元の、底なしの沼のような差別である。」 (高山文彦著 『生き抜け、長崎の被差別部落とキリシタン その日のために』 解放出版)
 あったことを無視することでないと言いくるめる手法です。小池知事の表明は間接的、サイレンスのヘイトスピーチです。

 
 なぜ朝鮮人の虐殺が起こったのでしょうか。虐殺者の数は6000人にのぼると言われています。
 関東大震災が発生すると1日の午後には 「不逞鮮人」 への流言飛語が飛び交い始めます。
 2日、山本内閣は戒厳令を出します。
 3日、内務省警保局長が各地方長官あて、「朝鮮人暴動に対する厳重な警戒を要する」 と指示します。各地に自警団が結成されます。

 10年の日韓併合は日本による朝鮮の植民地化です。土地調査により所有者が不明な土地は没収すると称して土地を奪い、人びとを路頭に惑わせました。その人たちが日本に渡って各地に住み着いていました。
 18年、全国で米騒動が起きます。シベリア出兵という国策が打ち出されていた時に、全国規模で群衆が国策に異議を打ち出した行動でした。
 19年3月1日、日韓併合に反対して朝鮮全土で独立運動が起きました。運動を鎮圧するために日本政府は残虐な行為を繰り返しました。当時の朝鮮総督府政務総監が水野錬太郎、朝鮮の警務総監が赤池濃、朝鮮の一九師団の師団長が石光真臣でした。
大震災の時、内務大臣が水野、警視総監が赤池、第一師団長が石光でした。
 だから震災が起きると、この機を利用して日韓併合に不満を持ち、3、1の鎮圧に抗議する朝鮮人が暴動をおこすだろうと勝手に連想したのです。政府も軍隊も自分らが行った行為が反撃を受けると恐怖に襲われていたのです。そのため異分子を先に抹殺することでしか自分らの安心を保障できないのです。
 そして民衆の政府に対する不満と不安のはけ口を朝鮮の人たちに向けさせたのです。
 20年、民心の動向を把握するため日本ではじめて国勢調査が実施されました。米騒動の後、検察は警察と一体となるべき民間組織を作り上げていきます。この頃から互助組織の社会が破壊され、縦型の組織に再編されていきます。自警団はまさにそのような組織です。


 9月6日、千葉県東葛郡福田村 (現野田市) では、香川県三富郡の被差別部落から行商に来ていた一行15人が船で利根川を渡って茨城県に行くため渡し船に乗ろうとしていて船頭と言い合いになりました。船頭が 「どうもお前たちの言葉づかいが日本人でないように思うが、朝鮮人と違うか」 と言い出しました。半鐘が鳴らされ、自警団が押し寄せると 「君が代を歌え」 「15銭50銭と言ってみろ」 と迫ったりします。このような中で9人が虐殺されます。「福田村事件」 です。
 襲った側は8人が逮捕されました。田中村では各戸から弁護費用のための金を集めます。結局は昭和天皇の即位で恩赦になります。その後、中心人物は後に村長に。
 この事件は隠され続けました。事件現場近くの円福寺・大利根霊園内に慰霊碑が建立されたのは2003年9月6日です。
 そして甘粕事件、亀戸事件と続きます。


 まだまだ隠されている事件があると思われます。追悼は忘れることなく過ちを繰り返さないという未来への誓いです。事実の発掘は未来への警鐘です。

   「活動報告」 2013.9.3
   「活動報告」 2011.9.6
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トヨタという会社
2017/08/25(Fri)
 8月25日 (金)

 トヨタ自動車は現在、企画・専門業務の係長クラス(主任級)約1700人に裁量労働制を導入していますが、“自由な働き方” を認める裁量労働の対象を拡大すると発表しました。事務職や研究開発に携わる主に30代の係長クラスの総合職約7800人のうち一定以上の自己管理・業務遂行能力を持ち、本人が希望し、所属長、人事部門の承認がある者が対象です。非管理職全体の半数を占めることになります。
 残業時間に関係なく毎月17万円 (45時間分の残業代に相当) を支給し、さらに一般的に残業代を追加支給しない裁量労働制とは違い、勤務実績を把握して月45時間を超えた分の残業代も支払います。これまでの残業代支給額は月10万円程度でした。そのための原資は、以前すすめた人事・賃金制度の改革で浮いた分を充てるといいます。16年1月から、全社員約6万8000人のうち生産現場で働く約4万人の労働者の賃金体系を見しました。
 対象者には年末年始や夏休みのほかに平日で連続5日の年休取得を義務付けます。20日間の年休を消化できなかった場合、制度の対象から外します。
 新制度導入の理由を、自動車産業では自動運転分野などで米グーグルなど異業種との競争が激しくなっていて、仕事のメリハリをつけて創造性と生産性を高める必要があると判断したと説明しています。専門性の高い技術者の間では一律の時間管理の弊害を指摘する声が出ていたといいます。
 現在は、繁忙期の超過を認める労特別条項付きの36協定を結んでいますが、新制度はこの範囲で運用します。新制度では繁忙期に備え残業の上限時間を月80時間、年540時間にします。(ちなみに、2009年の協定は月80時間、年720時間)
 上司が対象者に時間の使い方の権限を移します。
 新制度案を7月末に労働組合に提示し、12月の実施を目指します。

 政府は今秋の臨時国会に高収入の専門職を労働時間規制の対象から外す 「高度プロフェッショナル制度」 (高プロ) の法案を提出しますが、新制度は 「脱時間給」 の要素を現行法の枠内で、製造業の現場で独自の制度で先行導入します。
 「脱時間給」 は、ネスレ日本が4月に工場以外の社員を対象に労働時間で評価する仕組みを原則撤廃、住友電気工業は4月に研究開発部門で裁量労働制を導入しています。


 トヨタの新制度は、現在の労働時間削減に向けたうごきを嘲笑しています。時間外労働は例外であるということを無視し、いわゆる “働きかた改革” における時間外労働の上限規制等について労政審が6月5日に厚生労働大臣におこなった建議の 「上限は原則として月45時間、かつ、年360時間」 を “通常” と設定しています。この段階ですでに長時間労働です。そのうえで 「仕事のメリハリをつけて創造性と生産性を高める必要がある」 特別な事情や、臨時的な特別の事情がある場合として年540時間が設定されます。
 日本における残業は “周囲の雰囲気” が強制します。それも含めて 「新制度では上司が対象者に時間の使い方の権限を移します。」 本気で実行する社員はいません。中間層の社員にも長時間労働が強制され、恒常化が合法化されます。
 いわゆる “働きかた改革” のもう1つの柱である 「高度プロフェッショナル制度」 の年収制限のハードルを下げた導入でもあります。「高度プロフェッショナル制度」 が導入されたら他社でトヨタの新制度を変形させたものが登場してくることは明らかです。

 「一定以上の自己管理・業務遂行能力を持ち、本人が希望し、所属長、人事部門の承認がある者が対象」 はトヨタの社員選別に際しての常套文句です。
 16年1月からの賃金体系変更の1つに、団塊世代の大量退職による技術力の低下を防ぐため、「スキルド・パートナー」 と呼ばれる60歳定年後の再雇用制度も見直しがありました。それまの再雇用制度では60歳の定年後65歳まで賃金が半減しました。
 制度見直しでは作業レベルや指導力など技能伝承に向けて極めて高い能力を持つ「余人を持って代えがたいような卓越した技能を有する人材」の優秀な人材は囲み込み、処遇を変えずに65歳まで再雇用し、若手の指導や高度な技術の伝承が円滑に継承できるようにしました。定年に際して峻別がおこなわれました。一定の評価基準に到達しないと評価された多くの労働者については従来の制度が継承されるといいますが、期待しないから早期に辞めろという位置づけです。峻別をするのは所属長、人事部門です。
 60歳間際になっても競争が煽られ、「会社人間 」 としての忠誠が試され、再雇用になっても処遇に差が付けられます。長年の労働者の貢献は簡単に切り捨てられます。後期高齢者制度が法制化されても形式になっています。「違法ではない」 がトヨタの人事制度です。
 このような危険な、無慈悲な制度を労働組合は了承するのでしょか。こう問いかけること自体が無駄のようです。


 8月21日の日刊工業新聞は 「トヨタ、部品価格引き下げ要請。原価低減で減益回避狙う 下期は上期と同水準に。サプライヤーの協力がカギに」 の見出し記事が載りました。
 トヨタは取引先部品メーカーと毎年2回、部品価格改定の交渉を実施しています。
 14年3月期決算から3年連続で2兆円を超える営業利益をあげました。14年度下期 (10月―3月) と15年度上期 (4月―9月) は利益の社会への還元を優先する形で部品価格の引き下げを見送りました。15年度下期に再開し、16年度下期からは引き下げ幅を拡大していました。
 16年3月4日の中日新聞の社説は、トヨタが16春闘のさなかに部品価格引き下げ要請を再開したことについて、「下請け企業から賃上げへの余力をも奪う」 と痛烈に批判しました。全トヨタ労連内の小企業約80社の平均獲得額は861円にすぎませんでした。
17年度下期の部品価格引き下げ幅について、17年度上期と同等水準にする方針を固め取引先部品メーカーへの正式要請を前に、内々に示し始めています。大半が1%未満の要求になる見込みですが、赤字の会社などは値下げが免除される場合もあります。
 18年3月期連結決算で2期連続の減益を予想しており、原価低減を継続します。18年3月期に設備投資が1兆3200億円 (前期比8.9%増)、研究開発費が1兆600億円 (同2.1%増) と高水準の投資を計画します。
 トヨタは例年、3000億―5000億円規模で製造原価を低減し、営業利益の押し上げ要因としてきました。ただ、17年度の原価低減は原材料費の高騰などもあり、期初時点の予想で900億円にとどまっています。原価改善効果は営業利益段階で前期比1000億円の増益要因としています。2期連続の減益を回避したいトヨタは、利益改善策の1つとして引き続き原価低減を推進します。
 部品価格の引き下げ以外にも18年度から新たな原価低減活動を始めます。主要部品メーカーに 「RRCI」 (良品・廉価・コスト・イノベーション) と呼ぶ活動の第3期目の取り組みを始めると伝えました。コスト目標などは個別に定めるが、20年代前半に市場投入する車種に活動成果を反映する考えだ。

 簡単にいうとトヨタの取引先は、本体の利益確保の調整弁になっています。利益が低い時は “製造原価を低減” するということで納品価格の引き下げをおこないます。これが本体としては “原価改善効果” となって利益をつくります。
 このことが本体の労働者の賃金を保障させています。
 トヨタ労組は今春の春闘まで4年連続でベアを獲得し、子育て支援や非正規従業員の処遇改善など勝ち取ってきましたが、ベアを保障させたのは “原価改善効果” でもありました。


 2月2日の聯合通信は 「付加価値の循環運動」 は本物か/トヨタの2017春闘」 の見出し記事を載せました。
 トヨタ自動車が、その突出した利益から日本の賃上げ水準を決めるようになって20年ほどになります。
 トヨタ労組の17春闘の方針案にはこれまでにない「表」が掲載されました。全トヨタ労連 (315労組、約34万人) の賃上げ比較表です。14、15、16春闘で、トヨタ労組以上の回答を獲得した組合数などが示されています。たとえば16春闘 (製造部門) では、トヨタ労組が1500円を獲得しましたが、それ以上獲得した組合は前年までのゼロから一気に32労組になりました。豊田鉄工の1600円をはじめ、デンソー、アイシンがトヨタと並ぶ1500円でした。こんなことはこれまでにありませんでした。トヨタ労組の獲得額は14年2700円、15年4000円、16年1500円でした。
 しかしこれはトヨタが関連会社の労働者のことを考えているということなのでしょうか。
 労働力不足はトヨタだけでなく関連会社にも押し寄せ、そこでの事故も多発して、トヨタ全体に大きな影響を与えました。処遇改善をおこなわないと再発します。トヨタにおいても非正規労働者の労働条件を改善せざるを得ませんでした。

 自動車総連は、16春闘から自動車産業全体の底上げをめざす 「付加価値のWIN‐WIN最適循環運動」 を3年がかりで始めました。リーフレットには現状分析から3つの課題をあげています。「企業収益のバラつき二極化」 「労働条件の格差拡大」 「人材不足」 です。これに対して 「裾野の広い自動車産業の基盤を支えている中堅・中小企業の底上げがなされてこそ、真の意味で経済や産業の持続的な発展が可能となる!」 と呼びかけ 「労働条件の改善」 と 「現場力の底上げ」 の両面からの取り組みが必要だと訴えています。
 自動車は、約3万点の部品からなる裾野の広い産業であり、トヨタだけでも関連・下請け・取引先は2万9315社 (帝国データバンク調査) になります。
 「付加価値のWIN‐WIN最適循環運動」 は労働組合主導の生産性向上運動です。「表」 は “頑張ればなんとでもなる” とj説得する手法です。そして “自力更生” “自己責任” の通告です。労使協調の窮極です。

 しかし、付加価値=利益はトヨタなどメーカーが独り占めしてきました。下請けは、「賃上げの余力があるのなら単価を切り下げよと言われる」 (JAM元幹部) というのが実態でした。部品など自動車関連のメーカー労組も多いJAMは、16春闘で517労組が平均1346円の賃上げ獲得でした。
 親会社より子会社の方が労働条件がいいということでは子会社の意味がありません。トヨタの子会社はトヨタよりも “当然” 低い賃金で、時間外労働月80時間、年540時間の長時間労働を強制されます。

 トヨタ労組はトヨタと一体です。トヨタ労組は全トヨタ労連を支配します。
 そして全トヨタ労組は自動車総連を主導し、自動車総連は連合で大きな発言力を持っています。その連合が “働きかた改革” を勝手に推し進めます。
 経済界で発言力が大きいトヨタは政府進める “働きかた改革” に違法にならない範囲の現状維持を提示してけん制します。

 労働者と労働組合は、政府と使用者のごまかし・居直りの “働かせかた改革” ではなく本当の “働きかた改革” の議論をすすめ法案に活かしていく必要があります。

   「活動報告」 2017.7.25
   「活動報告」 2016.7.15
   「活動報告」 2015.2.3
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