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なぜマイナンバーカードを普及させたいのか
2019/05/17(Fri)
 5月17日 (金)

 雑誌 『世界』 の19・6号は 「日本型監視社会」 を特集しています。
 出版社の雑誌紹介文です。
「社会のデジタル化は,私たちのあらゆる情報を検索可能にする.監視カメラの激増や,位置情報を利用するアプリ,顔認証システムなどのさらなる技術開発によって,ディストピア小説が描いてきた状況が現実化しつつある.
 日本も例外ではない.いや,むしろ日本は 『監視先進国』 となりうる位置にある
 オリンピックを前にした 「安心・安全」 のかけ声のもと,EUなどと比較して法的規制は立ち遅れ,戸籍制度とマイナンバーシステムによる市民管理が強められている.さらに,政治的な情報収集を担う公安警察が存在し,企業の持つ個人情報が令状もなく提供されてきた事実も明らかになった.
 私たちの社会的自由を,この状況のもとでいかに守るのか.国際的な動向とこの国の状況を確認しつつ,対抗する軸を考える.」

 日々の事件報道と解決経緯を見ていると、安心感よりも恐怖感が支配します。“だれでも、いつでもあらゆる手法で、あなたが知らないうちにすべて監視・管理されています” のキャッチコピーがぴったりです。

 内容は、共同通信社会部取材班 「丸裸にされる私生活 企業の個人情報と検察・警察」、山本龍彦 「“C“ の誘惑 スコア監視国家と 『内心の自由』」、白石孝 「インタビュー マイナンバー・リスク」、宮下紘 「政治のプライバシーとプライバシーの政治」 です。

 この中の、白石孝さんへの 「インタビュー マイナンバー・リスク」 を紹介します。
「マイナンバーというシステムに至るまでには、少なくても40数年の歴史があります。もともとは戦前の治安維持などを担った内務省官僚的な発想で、『住民票に番号を付けて全国民を管理したい』 というアイディアから始まりました。
 最初のその構想が実現したのが、住民基本台帳です。1999年に改正住民基本台帳法が通り、2002年から住民基本台帳ネットワークシステム (住基ネット) として実施されました。ところが、住民票に番号をつけることはできたものの、住基カード普及率は10年かけても10%にも達しないくらい低迷しました。そこで浮上したのが、住基ネットをベースとして、さらに機能を数多く上乗せした個人番号、『マイナンバー』 制度です。」

「住基ネットからマイナンバーに転換するアイデアが出たのは、2009年の民主党政権下でした。目玉政策の 『社会保障と税の一体化』 がきっかけです。社会保障の拡充、つまり低所得層だけでなく中間層にも広く公平に社会保障を行き届かせて充実させていくためには、所得を厳密に把握してリンクさせていく必要がある。所得の捕捉は住基ネットではできませんので、そこでマイナンバー制度が必要だという流れです。」
 しかし民主党政権は実現するまえに瓦解します。

「その後、2012年に第二次安倍内閣が誕生し、民主党案を踏襲しつつも民間利用に広く道を開くよう手直しし、新たに番号法案が上程されます。そして2013年3月の閣議決定からわずか3か月というスピード審議で可決、成立し、5月末には公布となります。
 番号管理は、住基ネットでは自治事務でした。そのため、当時、横浜市、杉並区、国立市、福島の矢祭町など、強固に反対してそのシステムの導入を拒む自治体が全国に存在しました。マイナンバーは、そうした抵抗の余地を残さないため、国の事務に変えました。50年近く激しい議論を繰り返してきた、いわゆる 『国民総背番号制度』 は、安倍政権の数の力によって導入されてしまったのです。」

 戦中の治安維持の思考を踏襲した内務官僚とその流れをくむ者たちが、住民などからの反対、抵抗にあい、うまくいかないことがつづいても諦めずに完成を目指しているのが現在です。
 地方自治での住民の社会保障の志向は放棄させられ、国の管理システムに作り変えられて逆に格差社会は拡大しています。
地方自治の解体と国家の権限拡大、個人の管理強化が同時に進められています。


「日本の 『マイナンバー』 のように、生活のさまざまな領域を1つの番号で管理している国はほとんどありません。思いつく限りでは、韓国と北欧、エストニアぐらいですね。ただ、エストニアの人口はわずか130万人程度です。アメリカやカナダ、欧州各国などは分野ごとの番号制になっています。
 たとえば、オーストラリアの番号制度は、所得の把握と徴税などに限定した納税のためのシステムとしてむしろ効率的に機能しています。しかも、強制ではなく、番号を拒むことができ、その際に不都合も生じません。」

 各国で、 もし、日本のマイナンバーのような制度が導入されようとしたならどうなるでしょうか。基本的人権の侵害、国家による個人情報の集中管理、管理強化と猛反発をうけるでしょう。その前に国そのものがそのようなことをすべきではないという認識を持っています。ここが日本との大きな違いです。日本は個人も国も基本的人権を大切にしません。

「日本型の総背番号制をとっている国で、比較的人口規模で近いのは韓国だけですが、韓国の場合、歴史的に北朝鮮との緊張関係を背景として国民背番号制導入されてきた経緯があります。番号には指紋と顔写真、さらに近年では携帯電話番号とも連携しているため、闇会社に流出してしまうと大変な被害が起きてくることになるのです。
 アメリカでも年間900万件を超える社会保障番号 (SSN) 関連のなりすまし犯罪が発生しており、・・・日本ではほとんど報道されていません。」


「『マイナンバー』 と 『マイナンバーカード』 の問題を切り分けて考えることです。
 番号はすでに付番され、通知されています。・・・政府がなぜカード普及にこだわるのか、そこにこの問題の本質があります。・・・マイナンバーカードは、顔写真付きです。
 2015年の段階で自民党の部会が作成したロードマップでは、すでに、カードのコンビニ利用や銀行預金・戸籍との紐づけ、健康保険証とのリンクなどが示されています。安倍政権は基本的にこの内容を、日本再興戦略などの政府文書を閣議決定してオーソライズし、着実に実行に移してきているのだと思います。」

「現在、マイナンバーカードは、まだ500万枚、人口の約12%にしか発行されていません。・・・2015年のロードマップでは、2019年、つまり今年の段階で8700万枚が発行されると描いています。
 しかし、彼らにとって、この8700万枚という数字が終着点ということではないだろうと思います。真のゴールは、すべての日本居住者に保有・所持を義務づけること、任意取得ではなく、強制取得という法律に切り替えることだと思います。
 実際のカードの普及は低調で、2015年の時点では2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終着点として描かれていましたが、新しいバージョンではそれを2023年まで延ばしています。それも、現在の普及のペースであれば、どう考えても実現は難しい。そこで、健康保険証とのリンクなどが進められようとしているのです。」 (2月14日の 「活動報告」 参照)


「ここで、もう一度、先ほどの疑問に戻りたいと思います。それでもとにかくカードを普及させたいのは、なぜなのか。
 マイナンバーカードはすべて顔写真付きで、ICチップにそのデジタルデータを格納することが可能です。普及が進んだ段階でこれを強制所有として、全員が持ち歩くべき国家身分証明書とする。そうすると、個人情報と顔写真がリンクする形でデータベース化され、さらに街頭の防犯・監視カメラやスマホなどの位置情報とリンクさせれば、人々の行動を容易に把握することができるようになります。これこそが真の狙いでしょう。
 ここでは、『利便性』 という話ではなく、『安心・安全』 が市民への説得材料として持ちだされてくるでしょう。」
「すぐに住民全員の顔データを集められなくても、徐々に積み上げていくことは可能です。たとえば出入国管理ではすでに顔データと指紋データの管理を進めています。」


「もっとも重要なことは、カードを持たない、番号を書かない、この2点です。それが個人でできる最大の抵抗です。マイナンバーの記入を拒んだところで罰則があるわけではありません。」
「ただ最近、厚労省が、新社員採用後の労働保険加入の際、労働局に出す書類にマイナンバーを書くよう指導を強めています。会社組織を使って締め付けるというのは、非常に日本的なやりかたです。法的根拠などなくても、会社を通じて同調圧力を強めていくわけです。
 いま問題視すべきなのは、健康保険証との抱き合わせです。・・・
 いったん健康保険証との連携を認めたならば、次はどうなるか。日本政府の手法は、小さく導入して穴をあけてから徐々に拡大していく方式なのです。」

「日本社会は忖度や同調意識に包まれている、世界でも特異な国です。会社組織を通したマイナンバーの提出要請はその最たるものです。個人では嫌だと感じても、組織の中ではそれが言えないで従ってしまう。さらに、市民の無関心や、自分だけは被害者にならないという意識、こういうものが社会的連帯を阻んでいる 『空気』 ではないでしょうか。
 マイナンバー制度には、こういう極めて日本社会的なものがベースにあると思います。秘密保護法や拡大盗聴法、共謀罪など含め、加速する監視社会の問題としてマイナンバー制度も位置付けてとらえる必要があるでしょう。」

 業務に関係ないことでの安易な “会社との連帯” は仲間、社会との連帯を崩壊させることに作用してしまいます。


 2月14日の 「活動報告」 でマイナンバーカーが健康保険証代わりに使用できることについて触れましたが、さらに利便性を口実にしたマイナンバーカード利用の誘導の例です。
 5月15日の朝日新聞に 「マイナンバーカードで医療費控除、簡素化へ 21年から」 の見出し記事が 載りました。
 15日の参院本会議で、健康保険法等改正案が成立しました。
 医療費の自己負担が一定額を超えた場合に税負担が軽減される医療費控除は、いまもマイナンバーカードを使ってネット上で申告できますが、受診した医療機関名や医療費などを領収書をもとに自分で入力する必要があります。
 これを、2021年9月から保険診療のデータをもつ社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会、マイナンバー制度の個人用サイト 「マイナポータル」、国税庁のシステムをそれぞれ連携させ、マイナンバーカードを活用して、確定申告の際の医療費控除の手続きを簡素化します。申告書作成が自動化され、領収書の保管も入力作業も必要なくなります。
 
 さらに今国会ではマイナンバーと戸籍情報を連携させる改正戸籍法が提出されています。
 戸籍情報を伴う行政手続きを簡素化し、国が一元管理する戸籍情報を全国の自治体でも照会できる新システムを構築し、マイナンバー制度とも連携させます。2023年度の導入を目指しています。
 これにより、婚姻や社会保障関連などの手続きで戸籍証明書の添付が不要になるほか、パスポートの申請などに必要な戸籍謄本が、本籍地以外の自治体でも発行できるようになります。

 利便性の説明に隠れて管理社会の強化が進められています。マイナンバーに納められている情報を利用するのは自分以外で、自分は知ることはできません。
 マイナンバー制度に協力をしないで機能しないようにすることが自分を守る最善の方法です。

 「活動報告」 2019.2.14
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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セクハラは措置義務制定で思考停止になり履行されていない      パワハラでも同じになるのではないか
2019/05/14(Tue)
 5月14日(火)

 4月16日の衆議院厚生労働委員会は、いわゆるパワハラ防止法案等の法案審議にあたって5人の参考人陳述がありました。各参考人は各党から推薦を受けて出席します。
 5人は、一般社団法人日本経済団体連合会労働法制本部統括主幹布山祐子さん、独立行政法人労働政策研究・研修機構副主任研究員内藤忍さん、弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長伊藤和子さん、東京大学大学院法学政治学研究科教授山川隆一さん、日本婦人団体連合会副会長・全国労働組合総連合副議長長尾ゆりさんです。

 最初に各参考人が10分間の陳述をおこない、続いて各委員からの質問に答えます。
 パワハラ防止問題を中心に各参考人の答弁を紹介します。(議事録が5月13日に公開されました。)

質問 大西健介委員(国民民主党) 全員の参考人から一言ずつ簡潔にいただきたいんですけれども、この政府提出の法案で、ILOが採択を予定している条約を日本は批准することができると考えているのか。できそう、できる、できると思う、あるいはできないと思う、もし簡潔に理由を言っていただけるなら、一言ずつお願いしたいと思います。
長尾参考人 できないと思います。ハラスメントの定義にしても、範囲にしても、対象とする労働者にしても、そしてその方策にしても、どれをとってもできないと思っています。
山川参考人 内容がどういうものとして確定されるかにもよりますけれども、今提案されているようなことですと、今お話にありましたように、対象、あるいは暴力も含まれている、それから加害行為の主体等について、非常にハードルが高い、難しい面が現時点ではあるのではないかというふうに私としては認識しております。
伊藤参考人 政府提出法案とILO新条約の素案の目指すものというのは著しい乖離がございますので、現行法の範囲では、これを批准するということは非常に難しいというふうに感じておりますが、これを批准できないということも国際社会において非常に恥ずかしいことでありますので、この国会で何とか国際水準に基づく成案になっていただきたいというふうにお願いしたいと思います。
内藤参考人 難しいと思います
 しかし、ILO条約は、批准を目指すは目指したいんですが、問題は、職場からハラスメントをなくすこと、職場だけではありませんが、ハラスメントをなくすことですので、その過程の中で条約が批准できればいいかなというふうに思っております。
布山参考人 昨年のILOの議論以降、各国からまた新たな意見が出て、今度の六月の総会でまた新たにこの点も含めて議論がなされるというふうに思っておりますので、現状では、どういうふうになっていくかということによるかと思っています。
むしろ、今、我が国でハラスメントについての議論をしているので、ぜひとも、ILOの条約にかかわらず、この国会の中で我が国の防止対策についてまとめていただければと思っております。


質問 高木美智代委員(公明党) パワハラ、セクハラについての禁止規定を設けるかどうかという点でございます。中長期的であっても検討を開始する必要があるのではないかと私は考えております。これは、山川参考人、内藤参考人、伊藤参考人に伺わせていただきたいと思います。
山川参考人 私としては、労政審での調整の結果を現時点では尊重いたしたいと思っております。
 禁止規定というと、違反の場合の権力的な対応をどうするかという問題を、通常の労働法制ですと検討しなければいけないということがございます。そうした点で、禁止規定というものをどのように考えるかも含めて検討を続けていくということは、先生御指摘のとおりというふうに考えております。
 現状では、措置義務の履行確保の体制を十分に強化していくということは必要と思いますけれども、その中で、社内的には禁止されて、使用者としては対応ができる、そのあたりも考慮して、将来的な観点から検討を続けていくということではないかと思います。
内藤参考人 均等法に措置義務が二〇〇六年の改正で入ったわけですが、我々も、それでセクハラの対策が終わったということで思考停止してきたかというふうに思っております。
 しかし、実態は、セクハラは減っておりません。企業も守っておりませんで、措置を履行しておりませんで、セクハラは多いままです。
 その状況で、今、次に何を法制度として考えるかといったときに、今の措置義務のままでいくのかというと、違うのではないかと私は思います。
 諸外国も同じ道をたどっていて、禁止がやはり必要だという話になっておりますので、今回、禁止を入れるか、もし入れないのであれば、すぐにでも、どうやったら諸外国のように禁止規定を導入できるかの検討を始めるべきだというふうに思っております。今回、児童に対する体罰禁止を児童虐待防止法に盛り込むということが話し合われたということですが、そういうことができるのであれば、均等法にセクハラの禁止を盛り込むことも可能ではないかというふうに私は思っております。
伊藤参考人 誰が一番このセクハラ問題に関して変わるべきかというと、事業主であり、そしてやはりシニアクラスの管理職が変わらなければならないというふうに私は思います。なぜ若い女性だけが心を痛めなければならないのかというのは、非常に理不尽に感じております。
 そういった中で、やはり緊張感のある対策をとっていくということは非常に大事でありますので、禁止という規定を置いて、そして、場合によっては損害賠償であるとかサンクション、制裁と結びつくような形の規定を置くということは非常に大事だと思いますし、個々の事業所で就業規則などに禁止ということを書く前提としても、法律の中に書き込んでいくということがまず手本としてあるべきだというふうに思っております。

質問 高木(美)委員 セクハラの企業名公表すらたどり着いていないという現状、そうしたことにつきまして、セクハラ対策をどのように今後進めていけばいいか、その点につきましても簡潔に御答弁をいただければと思います。
布山参考人 セクハラの企業名公表になかなか至らないという話ですが、行政の指導の中には、助言、指導、それから勧告、そして勧告を受けても何もしない場合に企業名公表という形になっていますので、私の理解は、企業名公表に至るまでに各企業が是正をしているのではないかというふうに思っているところでございます。

質問 高木(美)委員 今回、パワハラにつきまして、初めてこれが法に明確化されまして、定義また措置と盛り込まれたわけですけれども、この効果をどのように考えていくかということにつきまして伺いたいと思っております。これは、布山参考人、山川参考人に伺わせていただきます。
布山参考人 今回の政府の法案の中には、明確に、優越的な関係に基づく業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、労働者の職場環境を害することということが定義されております。実際にこの内容でもし法律が通れば、その後、具体的な内容について、例えば優越的な関係に基づくというのはどういう意味なのか、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によりというのはどういうことなのか、労働者の就業環境を害することとはどういうことなのかということを議論した上で指針の中に盛り込み、それを企業の中に周知するということで聞いております。
 そういう中で、ここを明確にしていただければ、今先進的にやっている企業が困っている、ではパワハラとは何なのかというところの対応というのも随分変わってくるのではないかと思っています。
 それから、そもそも、パワハラに至らないまでも、職場の風土、職場の環境を風通しのよいものにして、それを推進していくということも、パワーハラスメントを起こさない一つの予防になるのではないかというふうに考えているところでございます。
山川参考人 どのような行為がパワハラに該当するかという点は、今後、指針策定の過程で検討されて、明確化が図られるものと思います。
 もう一つは、いわば意識の問題といいますか、パワハラが従業員本人あるいは企業にとって一体どういうインパクトをもたらすか、その点についての共通の理解を含めて醸成を図っていくということが重要かと思います。これは国の責務でもあると思います。
 また、その中で、私の感じといたしましては、職場の管理者の役割、これは単に指揮命令をするというだけではなくて、職場環境配慮義務とか調整義務という言葉にもあらわされておりますように、職場でパワハラ等紛争が起きないようにすることは管理職の本来の職務の一つであるということを十分周知していくことも有益ではないかと考えております。


質問 高橋千鶴子委員(共産党) ILOにおいて、先ほど来議論がされている、仕事の世界における暴力とハラスメントの終えんに関する委員会が六月の総会で初の国際労働基準を採択するという予定で、今回の法案にその包括的なハラスメント禁止規定が盛り込まれることが期待されていたと思います。
 内藤参考人と長尾参考人に伺いたいと思います。
 ハラスメントの定義及び対象の範囲はILO基準に合わせるということで、雇用関係にない従業者に対して、政府はいろいろ言うんですけれども、それは、措置義務と努力義務ということで適切に分けることで対応可能ではないか。あわせて独立した救済機関としての行政委員会の設置が必要ではないか。これは二つが相互に関係し合う問題だと思っておりますが、御意見を伺いたいと思います。
内藤参考人 禁止規定と救済機関ということでしたでしょうか。禁止規定は導入して、救済機関は今の行政救済の検証をもとに、どのような救済の改善があり得るか検討していって、その上で、当事者の求めているのがハラスメントの認定である、調査をして認定であるということを踏まえて、どのような救済機関があり得るか。今おっしゃっていただいたパリ条約に基づく独立した人権救済機関、このようなものが本来的には望ましいというふうに私も思っております。
長尾参考人 私も、禁止規定はすぐにも必要なものであると思いますし、ILOでは、昨年のILO総会から本当に丁寧に議論が行われ、そして各国政府の意見も聴取しながら今改善を進めているところですから、目の前にお手本があるという状況だろうと思います。
 これをもとに、たたき台にして日本の法整備を進めていけば、それほど困難な課題、例えば指針の中で中長期的に考えていくなどと言われていますけれども、そういう中長期的な時間が必要な問題ではなく、今まさにヨーロッパの法制そしてILO条約をお手本にすれば日本で禁止の法制化はすぐにも可能だと思っています。
 救済機関は、独立した救済機関が必要だということです。


質問 中島克仁委員(社会保障を立て直す国民会議) 今回、我が国で初めてパワーハラスメント防止に関する制度化に向けて今現在議論が始まったということでございますが、政府案においては、パワハラ三要件が定義をされ、事業主にはパワハラ防止のための雇用管理上必要な措置を講ずることとされています。
 私自身は、パワハラは、長時間労働をしなければいけないような職場環境あるいは有給休暇が取得しにくいなど、いわゆる企業風土、そういったものが背景にある、ハラスメント対策は、日本の職場慣行や風土改善につながる、まさに働き方改革の本丸だというふうに考えています。
 そこで、布山参考人、内藤参考人、山川参考人、それぞれの参考人の方に、今回の政府のパワハラ対策内容は、日本の職場慣行、企業風土改善につながり、変化をもたらすものになっているか、また、もしさらなる工夫が必要だということがあれば、お答えをいただきたいと思います。
布山参考人 パワーハラスメントのそもそも検討を始める厚生労働省がつくった当時の検討会は、その前の年の実行計画に基づいて、パワーハラスメントについての検討も、労使を含めた検討会で検討をするということを発端にしております。そういう意味で、働き方改革の一環としてこれは私どもとしても位置づけています。
 今回の政府案につきましては、その検討会あるいは労政審の内容を踏まえていただいた内容になっているかと思いますので、私どもとしては、これで何度も整理させていただければというふうに思っているところでございます。
内藤参考人 パワハラ予防のために、企業風土改善を促せる仕組みということですね。
 まず、社会的にハラスメントがだめだというルールがないので、ハラスメントは禁止する、これが重要だと思っています。もちろん救済にもつながりますが、抑止にもつながることです。
 今回、措置義務が提案されていますが、セクハラで措置義務が導入されて以来、その効果がまだわかっておりませんし、守られていない部分が大きいです。そのために、いかにこれを守らせるかという仕組みをもう一回考えなければなりませんし、どのような取組をすれば効果が上がるのか、こういったことも検証する必要があると思います。
 労働局で措置義務違反を取り締まっていくわけなので、人員の確保はもっと必要だと思います。
 それから、風土改善ということでいえば、やれよ、やれよと上から言うだけではだめ、やっていないだろうといって窓口を外形的につくらせるだけではだめで、自律的に企業風土を変えるような、労使でともに取り組むことを促すような法的な仕組みが必要だろうというふうに思っております。
山川参考人 審議会での議論の結果を経て措置義務という内閣提出法案の形になっているわけですけれども、件数の多さからいって、履行体制を充実させて、十分な措置義務の履行確保が図られれば一歩前進になっていくであろうというふうに考えております。
 職場風土の改善は大変重要な課題であると思います。
 自発的に自分たちの問題と捉えて改善を種々話合いで図っていく、そういう体制を促進していくことは非常に重要だと思います。

質問 中島委員 長尾参考人にちょっとお尋ねをしたいんですが、今の長時間労働を強いられる風土というか環境、先日、医師の働き方について有識者検討会が報告書をまとめました。地域医療を支える医療機関の勤務医などの残業時間上限が例外的に、一般の医師の年間九百六十時間を大幅に上回る年間千八百六十時間、月に換算すると、過労死ラインの倍に相当する月百五十時間とされました。
 このことは一部の医師に対するいわゆるパワハラとなっている状況かと思われますが、この件について、お考え、御見解をお伺いさせていただきたいと思います。
長尾参考人 医師の長時間労働について、そしてそれに対する方針については、本当に論外だと思います。人間をどう考えているのか。本当に、生き、働いている人間として、そして生活している人間として、家族と一緒に暮らしている人間としてどれだけの生活時間が必要なのかということから考えて、人間としての労働時間というのを出していかなければならないと思っています。
 パワハラについても、過労自死の大きな原因になっている問題でもあります。仕事のために人が死ななければならない、受けた人権侵害のために人が死ななければならない、そんな世の中は本当に正していかなければならないと思います。
 今一番必要なのは、本当に人間として生きていけるための労働時間規制だと思います。それは、運輸労働者や医療労働者、例外をつくるのではなくて、全ての国民の一日の生活時間を守っていくという観点からの労働時間規制がつくられなければならないと思っています。


 パワハラ防止法案等は、4月26日衆議院を通過しました。
 参考人の意見は踏襲されたでしょうか。

 「活動報告」 2019.4.9
 「活動報告」 2019.4.5
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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緊急事態条項は檻のなかのライオンに外から鍵を開けること
2019/05/08(Wed)
 5月8日 (水)

 憲法記念日からは日にちがずれていますが憲法記念日集会に参加しました。
 講師は、前文部科学省事務次官の前川喜平さんです。タイトルは 「守り抜こう!憲法9条 不戦の誓い ・・・みんなの声と力をあつめて 止めよう戦争!」 です。
 前川さんは、今、福島、厚木などの夜間中学でボランティア活動もしています。安倍政権から解放された元官僚の姿がありました。


 安保法制は2014年9月18日に成立してしまいました。私はその夜に仕事が終わった後、次官になる前でしたが、国会正門前のシールズの若者たちのデモに参加しました。この法案は明らかに憲法違反であると思っていましたから、国家公務員でしたがこれはおかしいとおもって1国民として、一度は反対の声を挙げておかなければならないとおもっていました。「9条を守れ」 「安倍はやめろ」 と声を挙げていました。昔のシュプレヒコールでは 「9条はいらなーい」 「安倍はやめろー」 ですが今はラップのリズムです。私もラップ調で一緒にしました。

 安保法制は集団的自衛権を前提にするもので明らかに違憲です。自衛隊は合憲と考える人であっても個別的自衛権の範囲でしか自衛権を行使できないと考えていました。
 元自衛官で、亡くなられましたがた茂呂さんという方がわかりやすくいっています。自衛官は命をかけて日本を守るためにいるんだ。しかし集団的自衛権というのは他人の喧嘩を買って出る話だ。縁もゆかりもないところに行って、自分としては何の恨みもない人に戦争を仕掛けることを認めるのが集団的自衛権。そんなことをやったら逆に恨みを買う。これからの戦争というのは国と国との戦争ではなくてテロだ。テロは自衛隊では防げない。

 安倍改憲4項目の中で9条2を追加するということは間違っています。
 アメリカと同盟関係だとよくいいますが、確かに今日米は同盟関係です。しかしアメリカと一緒に戦争をすることは間違っています。第二次世界大戦後、他の国に行って一番戦争をした国はアメリカです。そのアメリカと一緒に戦争をするということは、世界中で他国に行って戦争をすることになります。このようなことは絶対にしてはいけない。
 これは新たな富国強兵政策です。実際経済は回っています。国が回っているからです。しかし安倍政権の考えは、国家を個人より重要なものととらえる倒錯した思想です。戦前回帰志向です。日本人、日本民族という自分たちが世界の中心だという自民族中心主義です。これは戦前の「国体」思想と同じです。

 安倍首相はいろいろなものを私物化しています。
 安倍首相が考えている美しい国とは、戦前のような教育勅語の道徳教育を信奉する、洗脳されるような国をいっているようです。
元号を説明した時も、記者会見で 「くにがら」 という言葉を使いました。「日本の国柄を次の世代へ引き継いでいく」。くにがらという言葉は国体と同じように死語です。72年前に日本国憲法が施行されて以来、使えないことになっています。
 むしろ日本国憲法は人類普遍の原理に立っています。日本だけの憲法ではありません。人類の歴史の波に積み重ねられてきた知恵が詰まっています。そのことは日本国憲法の前文に書いてあります。人類という言葉はもう一回第97条に出てきます。
 そもそも憲法は、人類普遍の原理の上に立っています。先行する様々な憲法を作った人たちから引き継いできたものです。例えば憲法25条の生存権はドイツのワイマール憲法を引き継いでいます。第一次世界大戦のあと、二度とこんな戦争してはするまいと当時の人たちは思いました。そして1928年にパリに集まって 「パリ不戦条約」 で誓い合いました。戦争は国際法上違法なんだということを申し合わせました。これは人類が到達した1つの見識でした。
 それまでの社会は、国と国は戦争をする権利がある、宣戦布告さえすればいいということでした。そうではなく戦争はそもそも違法なんだということを宣言しました。

 しかし 「パリ不戦条約」 の3年後、日本は満州事変を始めました。日本やドイツが戦争を始めました。
 1945年に第二次世界大戦が終わって何千万人という人が死んで、こういうことは二度と繰り返してはならないということで国際連合がつくられ、国際連合憲章がつくられて国際条約が結ばれました。国際連合憲章は改めて戦争は許されないということを国際法上しっかりと確認しました。その際に、武力の行使と武力による威嚇もしないということも決めたわけです。
 それをいち早く取り入れたのが日本国憲法です。それを46年11月3日に公布して取り入れます。9条の思想は、人類が積みかさねてきた戦争は違法だという思想をうけついだものです。人類が到達した最高地点、成果をそのまま憲法は取り入れているのです。そういう意味で、日本だけでなく人類のものだといっていいと思います。

 しかし安倍政権の系譜の人たちは憲法改正を進めようとしてきました。
 改正しようとする人たちの頭の中にあるのは、日本というのは特別に優れた国だという 「国体」 思想です。その人たちが使う言葉が 「くにがら」 です。
 「日本の国柄を次の世代へ引き継いでいく」は言葉を変えれば国体の護持です。国体という言葉は、日本国憲法が書いている象徴天皇制ではありません。天皇は神様に由来するという神話的国家観です。
 それに基づいて国に忠誠心を持って尽くすものこそが立派な人間だと評価します。個人は国家に従属するものだという考え方です。それで憲法を改正しようとしています。


 安倍政権が進めているネオ富国強兵政策は、具体的には、経済政策は弱者切り捨ての新自由主義経済です。小さな政府こそがいい政府だという考え方です。
 一方で教育政策に表れてくるのは国家主義、自民族中心主義です。こういう新自由主義と国家主義の合同政策が安倍政権の政策です。
 これが教育政策のうえではっきりと表れたのが第一次安倍政権のときの、2006年の教育基本法の改正です。国家主義的な、全体主義的な目標が盛り込まれました。道徳心を培う、公共の精神にもとづき社会発展に寄与する態度を養う、伝統と文化をはぐくんできた郷土を愛する態度を養うという文言が入りました。
 道徳心、公共の精神や国を愛する態度とかをどう考えているかというと、個人を超越した国家があることを前提にしています。これが教育基本法に取りこまれました。

 もうひとつ、教育基本法の改正で政治の介入が強まりました。
 かつての教育基本法を変え、法律の根拠があればいくらでも権力が介入できるという考え方を盛り込んでしまいました。具体的にはかつての教育基本法第10条に 「教育は国民全体に対して直接責任を負って行われるべきもの」 とありました。つまりは、間接的民主主義の政治プロセスを経ない、政治権力に支配されるものではないということです。
 ところがこの文言がバッサリなくなり、代わりにどういう文言が入ったか。「教育は法律の定めるところにより行われるべきものである」、つまりは法律に基づいて行われるものというふうに書き直されました。そうすると法律的根拠さえあれば、いくらでも国家権力が教育に介入できるということになりかねないです。

 憲法上は、いくらでも国家権力が教育に介入できるというものではありません。学問の自由がベースにあり、ねじ曲げられてはいけないです。
 道徳についても憲法の価値観に外れるような教育をしてはいけません。憲法が保障するバリアがあって、それを超えて国家権力が介入することはできません。
 しかし改正された教育基本法だけをみると法律の根拠さえあればいくらでも国家権力、政治権力が介入できるように読めてしまいます。

 このようにして政治介入が非常に強くなってきています。
 教育現場の自主性を侵害する、介入しようとする動きが非常に強まっています。
 例えば、去年の2月に名古屋の中学校がある元文部官僚 (?!) を呼んだのですが、政治家が介入してきました。文部科学省の私の後輩たちは弱腰で、政治家にいわれたことを唯々諾々と受け入れてしまいました。授業の録音テープをだせといいました。名古屋市の教育委員会も現場の校長も非常に立派な対応をし、録音テープを出しませんでした。賢い賢明な対応をしました。
 例えば、教科書の検定、採択もそうです。市町村の首長や議員が声を出してこれは採択するなどと言ってきている。教育の自主性を侵害するような介入が増えています。

 もう一つは、憲法の理念に背くような教育をさせようとする、自分で判断しないで全部言うことを聞けというような国家主義、全体主義に資するような道徳教育のような動きが強まってきています。
 特に教育の自主性の侵害ということでは性教育もそうです。異常な関心を持っていまして、性教育をしようとするとそれは家族のあり方にそぐわないといってきます。
 しかし性教育に関しては、2011年に東京高裁から政治の介入に対して鉄槌を加えるような判決が出ています。確定判決です。
 東京都立七生養護学校で、知的障碍者が学ぶ特別支援学校で、ある事件が起きたことをきっかけにちゃんとした性教育をしなければいけないということになりました。教職員が知恵を絞って教材を作り、知的障害がある子どもたちがちゃんと自分と他者の人権を守る、自分の身体を大切にする人権教育の一環としての性教育の非常に優れたプログラムを開発し実践してきました。
 それに対して右翼系都議会議員がかみつきました。議員は東京都教育委員会の指導主事をつれて乗り込んできて使用していた教材を没収していきました。その後、東京都教育委員会は性教育をおこなっていた教職員を処分しました。それに対して教職員と保護者たちが不当だと裁判を起こしました。原告のいい方は 「心と身体の学習裁判」 です。
 判決は、政治家がおこなった行為は教育基本法が禁じている不当な支配であるといいました。教育基本法には 「教育は不当な介入に屈することなく行われなければならない」 とあります。これは改正してもかろうじて残っています。
 東京都に対しても処分は不当だとして取り消しを命じました。
 理由は、教育が政治から不当な介入を受けたとき、教育行政はそれをはねのけなければいけない、現場を保護する義務がある現場の自主性を守るために盾にならなければならないということです。それを怠った。
 教育行政は文科省にもいえることで、政治家が何かをいってきても拒否しなければいけません。

 教育の自主性を侵害する動きが一番激しく出てくるのが歴史教育です。
 安倍政権は、歴史修正主義者の集まりです。しかし修正ではなく、学問の自由によって積み上げられてきた蓄積を政治的意図をもって否定してしまいます。これは改ざんです。
 歴史改ざん主義は、特に戦前の日本軍は正しかった、悪いことをしなかったと強調しようとします。
 歴史学で明らかにされていることに文句をいうことが起こっています。例えば従軍慰安婦、日中戦争のときに起った南京虐殺事件での非戦闘員に対する虐殺、暴行などにたいして日本軍はそんな悪いことはしないという思い込みです。
 あるいは沖縄戦で集団自決について軍の強制はなかったとかいう人たちです。

 人はそれぞれ個性があります。人柄はそれぞれです。しかし今使えない言葉として「家柄」「国柄」があり、死語です。日本国憲法には存在しません。使いたがる人は戦前回帰の思考をもった人たちです。
 1997年に、若手の議員たちが 「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」 をつくりました。その代表が中川昭一です。中川を兄貴分とあおいで会の事務局長をしていたのが安倍晋三です。ここは歴史修正主義者の集まりで、文科省などに介入してきて教科書改ざんをしたりします。

 この歴史改ざん主義の安倍が2006年に総理大臣になった。その時に当時の文部省はやってはいけないことをしてしまいました。政権に忖度した教科書検定をおこないました。それ以前の検定では通っていた高校の日本史教科書で沖縄戦における集団自決の記述について通さなくしました。集団自決においての軍の命令、強制を全部消したわけです。
 発表されたとたんに沖縄では大きな反対運動が起きました。10万人を超える県民集会が開かれました。前知事の翁長さんがイデオロギーよりもアイデンティティーと路線を切り替えたのはこれがきっかけです。この検定は明らかに間違っています。

 当時から安倍政権への忖度があったのです。しかしどんなに歴史改ざん主義者が国会で多数を占めたからといって南京大事件がなかったとか集団自決に軍の関与はなかったとか、教えることは間違っています。学問の自由の積み重ねを否定することです。
学校で教えられること、教材の選定は学問の自由をベースにしていなければなりません。自由を基礎に評価はきめられなければならない。政治家が決めてはいけないのですが、政治の力で捻じ曲げようとしているのが今の現状です。

 忖度で委縮することはいろんなところで起きています。
 1つの例は、埼玉の公民館の9条俳句問題です。俳句サークルで優れた句を詠んだ人の作品は公民館だよりに載せるということになっていたのに、ある句については政治的な意味が含まれているから載せられないということになりました。「梅雨空に 9条守れの 女性デモ」。
 政治的な自由を表現することを政治的公平性、中立性ということで抑圧しています。学校教育ではもっと激しく起きています。
 政治的公平性、中立性がということが政治的規範を封じるために利用されています。権力側が都合よいように使い、当事者たちが委縮してしまいます。

 同じことがメディアで起きています。今の政権はメディアに対して公平性、中立性を強く求めます。取材でメディアが政治批判をしてはいけないと委縮していきます。
 加計問題についてさわりだけいいますと、安倍首相は2015年2月の段階ですでに加計理事長と面談し、獣医学部を作ってほしいと直接要請をうけ、いいねという対応をしています。愛媛県の文書には残っています。
 しかし安倍首相は国会で、新設の計画を初めて知ったのは2017年1月で、加計幸太郎と直接獣医学部のことについて話をしたことはないと答弁しています。安倍首相の答弁は虚偽答弁です。


 政治への忖度、政治の圧力で教育がゆがめられる、特に歴史教育がゆがめられる。ゆがめられた歴史教育をうけている子どもたちが増えてきたらどんどんおかしな国になります。
 もう一つは 国家主義的な観点からする道徳教育が政権によって推し進められています。私もそれを推し進めていた政権にいたわけです。

 ついに去年の4月から小学校で、今年の4月から中学校で道徳の教科化が始まりました。道徳の教科化とは何か。検定の教科書を必ず教材として使用すること、もう一つは子どもたちが道徳の授業を受けたことでどのように道徳的に成長したかを評価することが義務として教員に課せられました。
 道徳の教科書のなかには問題になることはたくさんあります。道徳以外でも強制されることが増えています。行動を規律していこう、校則を厳しくしていこうという傾向が教育基本法の改正以降全国的に強まっています。その一つで全国に広まっているのが無言清掃、無言給食です。
 個人の尊厳という日本国憲法がいちばん大切にしていることにはまったく触れていません。国境をこえた地球市民としての位置づけにもまったく触れていません。個と地球の欠如です。

 公教育は国が基準を決めていますが、それは憲法の範囲以内です。これが国民が憲法を作って国に守らせる立憲主義です。国は憲法の枠内でしか仕事ができません。
 そのことを広島の若い弁護士楾大樹さんが 『檻の中のライオン』 に書いています。ライオンは国家権力で、檻は国民です。国民はライオンを檻のなかに閉じ込めて鍵をかけてそこから出ないようにします。国家は憲法からはみでてはいけません。
 しかし今の道徳の教科書は憲法から導き出されないことがたくさんあります。例えば父母・祖父母に対する敬愛の念を持ちなさい。自然の感情として持つのはいいですが、父母・祖父母だから敬愛できると必ずしもいえますか。
 個人の尊厳は憲法が大切にしています。1人ひとりの命、生活、幸せが大事、1人ひとりが自分らしく生きられることが一番大事です。これはちゃんと教えなければいけません。そこから基本的人権、平和主義がでてきます。
 平和主義、戦争放棄は個人の尊厳から出てきます。戦争ほど個人の尊厳を踏みにじる害悪はありません。何百万人の尊厳が踏みにじられた第二次世界大戦のようなことは当然のことですが二度と繰り返してはいけません。

 私は、安倍政権を支えている人たちが、道徳教育について次に打ち出すのは何かと考えると、道徳の学習指導要領に天皇に対する敬愛の念を盛り込むのではないかと思います。これが入ったら教育勅語の考え方が完成します。親に孝はすでに入っています。それに天皇を敬いなさいが入ると忠と孝がそろいます。


 アメリカのホロコースㇳ記念博物館に、ファシズムを研究した政治学者のローレンス・ブㇼッㇳの言葉が書いてあります。14項目のファシズムの初期症候といわれるものです。
 1、強大で執拗な国家主義の宣伝 2、人権の重要性の蔑視 3、団結のための敵/スケープゴートづくり 4、軍隊の優位性/熱烈な軍国主義 5、性差別の蔓延 6、マスメディアの統制 7、国家の治安への執着 8、宗教と支配層エリートの癒着 9、企業権力の保護 10、労働者の力の抑圧もしくは排除 11、知性と芸術の軽視と抑圧 12、犯罪取り締まりと刑罰への執着 13、縁故主義と汚職の蔓延 14、不正選挙
 これらはすべて安倍政権に当てはまります。

 私がいちばん怖いのは憲法9条の改憲です。自衛隊を合法化するだけでなくて集団的自衛権を合憲化するということです。緊急事態条項は憲法をなきものにしてしまいます。『檻の中のライオン』 でいうと、檻のなかのライオンに外から鍵を開けることで憲法がなくなることです。

 憲法改正の4項目のうちに憲法26条3項追加があります。教育の無償化、教科書無償化、教育環境を整備するとあります。
 毒が含まれています。目的の中に、学習権の保証から外れたことが盛り込まれています。「教育が国の未来を切り開くうえで重要な役割を担うものでることに鑑みて」。国の役に立つならば環境整備をするが役に立たないならしないという論理が紛れ込んでいます。これは危険です。
 私も現役時代に帰さなくてもいい奨学金を何とか作りたいと思っていました。夜間中学校に行くための給付型奨学金の給付金が予算化されました。それ自体はいいことです。
 安倍政権が進めている給付型奨学金には大きな問題があります。
 出す大学は、産業界の要望に応える大学です。具体的には、実務家による教育が1割以上開設されている、大学の理事に産業界の代表が加わっているの条件を付けています。進学先で選別するのは問題です。なにを学ぶかは学生本人が決めればいいことです。既に起こっています。

 平和教育についてです。
 ユネスコ憲章の前文に 「戦争は無知から生じる」 と書いてあります。逆にいうと学ぶことで戦争は防げます。
 何を学ぶか。まずは隣の国の人たちのことを学ぶ、そして歴史を学ぶ、歴史に学ぶ、加害の歴史を学び被害の歴史を学ぶ、人類の歴史の積み重ねを学ぶ、核兵器を禁止する人類の知恵もあるということを学ぶ。そして世界を学ぶ、世界に学ぶ。
 現在の紛争のマイナスの面を学ぶだけではなくて、世界の知恵でどんなことがおこなわれているかも学ぶ。ICANの活動とか、国際教科書を作っているドイツに学ぶとか。
 ユネスコ憲章の前文には「戦争は人の心の中に生まれるものであるから人の心の中に平和の砦をきづかなければならない」とも書いています。これこそが本当の永久の平和の礎です。学ぶことで平和は達成されます。

 「積極的平和主義」 とは1958年にノルウェーの平和学者ヨハン・ガルトゥングが主張した概念です。単に戦争のない状態をいうのではなくて、人びとが幸せに暮らしている状態、人権が保障されている状態で生存権、学習権、表現の自由、思想の自由の条件が保証され、満たされている状況についてはじめて積極的平和主義という言葉が使われたのす。

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時間外労働を月80時間以内に削減するよう指導した事業場2,216
2019/04/26(Fri)
 4月26日 (金)

 4月25日、厚労省労働基準局監督課過重労働特別対策室は、昨年11月に実施した2018年度の 「過重労働解消キャンペーン」 の重点監督の実施結果を公表しました。
 キャンペーンにおける重点監督は、長時間の過重労働による過労死等に関する労災請求のあった事業場や若者の 「使い捨て」 が疑われる事業場などを含め、労働基準関係法令の違反が疑われる8,494事業場に対して集中的に実施したものです。その結果、5,714 事業場 (全体の67,3%) で労働基準関係法令違反を確認し、そのうち2,802事業場 (33,0%) で違法な時間外労働が認められたため、それらの事業場に対して、是正に向けた指導を行いました。

 8,494事業場の事業場規模別の監督指導実施事業場数です。
 1~9人が2253、10人~29人が2931、30~49人が1282、50人から99人が975人、100~299人が800、300人以上が271です。
 企業規模別の監督指導実施事業場数です。
 1~9人が826、10人~29人が1369、30~49人が786、50人から99人が925人、100~299人が1515、300人以上が3073です。
 決して企業規模が小さいところが違法行為をおこなっているということではありません。むしろ300人以上の企業が36%を占めています。


 違法な時間外労働が認められたものについてです。
 2,802事業場において時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数についてです。
 月80時間を超えるもの:    1,427事業場 (50.9%)
 そのうち月100時間を超えるもの:868事業場 (31.0%)
 そのうち月150時間を超えるもの:176事業場 ( 6.3%)
 そのうち月200時間を超えるもの: 34事業場 ( 1.2%)です。

 賃金不払残業があった463事業場 (5.5%)
 過重労働による健康障害防止措置が未実施948事業場 (11.2%)です。

 違法な時間外労働が認められた事業場の業種です。
 製造業808、商業484、運輸交通業409、接客娯楽業243、建設業222、その他 (派遣業、警備業、情報処理サービス業等)247です。

 健康障害防止に係る指導として過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導した事業場は4932です。そのうち、時間外・休日労働を月80時間以内に削減するよう指導した事業場は2,216、月45時間以内に削減するよう指導した事業場は2,677です。

 労働時間の管理方法についてです。
 使用者が自ら現認することにより確認780事業場です。
 事業場でタイムカードを基礎に確認3,057、
 事業場でICカード、IDカードを基礎に確認1,712
 事業場で自己申告制により確認2,791でした。

 労働時間の把握方法が不適正なため指導した事業場1,362です。


 労働時間以外についてです。
 賃金不払残業の指摘された事業場数です。
 製造業75、商業104、運輸交通業44、接客娯楽業55、建設業48、その他52です。全体の5.5%で発生しています。

 健康障害防止措置 (衛生委員会を設置していないもの等、健康診断を行っていないもの、1月当たり100時間以上の時間外・休日労働を行った労働者から、医師による面接指導の申出があったにもかかわらず、面接指導を実施していないもの) についてです。
 製造業203、商業198、運輸交通業94、接客娯楽業154、建設業49、その他104です。


 労基署の重点監督は、長時間の過重労働による過労死等に関する労災請求のあった事業場や、若者の 「使い捨て」 が疑われる事業場など、労働基準関係法令の違反が疑われる事業場に対して14年度から実施されます。
 今年の具体例です。
その1 脳・心臓疾患を発症した労働者について、労働時間を調査したところ、労働時間の把握方法は勤怠 システムに各人が出退勤時刻と休憩時間を入力する自己申告制を採用しており、当該労働者についても一定の労働時間が申告されていたものの、同僚労働者への聴き取り等により、適正に自己申告 されておらず、実際の労働時間を把握できていないことが判明した。
 脳・心臓疾患を発症し死亡した労働者について、36協定で定める上限時間 (特別条項:月80時間)を超えて、月100時間を超える違法な時間外・休日労働 (最長:月134時 間) を行わせ、それ以外の労働者1名についても、月100時間を超える違法な時間外・休日労働 (最長:月219時間) を行わせていた。
 労働者について、定期健康診断 (1年以内ごとに1回) 及び深夜業に従事させる場合の健康診断 (6か月以内ごとに1回) を実施していなかった。

その2 労働者4名について、月100時間を超える時間外・休日労働 (最長:月127時間) を行わせていた。 また、労働時間の把握は、タイムカード及び作業日報に始業・終業時刻を打刻、記入することで行われていたが、タイムカード及び作業日報を確認したところ、法定の休憩時間を与えていなかったことが判明した。
 長時間労働を行った労働者の氏名及び当該労働者に係る超えた時間に関する情報について産業医に提供していなかった。
 18歳未満の年少者について、その年齢を証明する証明書を事業場に備え付けていなかった。

その3 労働者4名について、36協定で定める上限時間 (月45時間) を超えて、月100時間を超える時間外・休日労働 (最長:月195時間30分) を行わせていた。
 常時50人以上の労働者を使用しているにもかかわらず、安全管理者、衛生管理者、産業医を選任 しておらず、安全委員会及び衛生委員会を設けていなかった。また、労働者に対して心理的な負担を把握するためのストレスチェックを実施していなかった。


 厚労省は、健康被害が生じるリスクが発生するとした月45時間を超える時間外労働を含む過重労働による健康障害防止のための総合対策についてなどさまざまな通達を出しています。しかし過重労働削減の方向には向かっていません。それよりも、「長時間労働を行った労働者に対する医師による面接指導等の過重労働による健康障害防止措置を講じるよう指導」 は、それを行なったならば長時間労働を容認する、労災申請されても、意思の面接指導のときは大丈夫だったと反論する口実になっています。

 改善指導する事業場がなかなか減らないということは、現在の対応は実効性がともなっていないということです。


 この4月から働き方改革法が施行され、その中には労働時間に関するものも含まれています。そこでは、長時間労働を促進するものと、時間外労働月80時間と規制するものとをあわせもっています。政府と経済界は長時間労働を本気で改善しようとは思っていません。
 厚労省の仕事はデータを作成することではありません。そのなかから読み取れる問題点を改善するための政策を実行することです。


 「2018年度 「過重労働解消キャンペーン』」
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『82年生まれ、キム・ジヨン』
2019/04/19(Fri)
 4月19日 (金)

 韓国で女性差別をテーマにした趙南柱の小説 『82年生まれ、キム・ジヨン』 が110万部売れています。日本でも9万部に達しました。
 主人公は82年生まれということでは、現在なら37歳。ストーリーは、彼女が生まれてから2016年までの生い立ち、体験です。その間の韓国の時代背景、社会状況も知ることができますが、日本とも制度、文化、風土は似ています (3月5日の 「活動報告」 参照)。その時代を象徴するような出来事の個所を抜粋して紹介します。


 幼少時のキム・ジヨンの家族は、祖母、両親、姉、弟との6人です。
「炊き上がったばかりの温かいご飯が父、弟、祖母の順に配膳されるのは当たり前で、形がちゃんといている豆腐や餃子などは弟の口に入り、姉とキム・ジヨン氏はかけらや形の崩れたものを食べるのが当然だった。箸、靴下、下着の上下、学校のかばんや上ばき入れも、弟のものはみんなちゃんと組になっていたり、デザインがそろっていたが、姉とキム・ジヨン氏のはばらばらなのも普通のことだった。・・・実際のところ幼いキム・ジヨン氏は、弟が特別扱いされているとか、うらやましいとか思ったことはなかった。」

 2人続けて女の子が生まれます。
 1980年代は、女だということが医学的な理由でもあるかのように、性の鑑別と女児の堕胎が大ぴらに行われていました。90年代のはじめに性比のアンバランスは頂点に達し、3番目以降の子どもの出生性比は男児が女児の2倍以上でした。
 妊娠がわかったとき母が父に問います。
「『もしも、もしもよ、今おなかにいる子がまた娘だったら、あなたどうする?』
 何をばかな、息子でも娘でも大事に産んで育てるもんだろうと、そう言ってくれるのを待っていたのだが、夫は何も答えない。
『ねえ? どうするのよ?』
 夫は壁の方へ寝返りを打つと、言った。
『そんなこと言っていると本当にそうなるぞ。縁起でもないことを言わないで、さっさと寝ろ』」
 母は1人で病院に行き堕胎します。それは母が選んだことではありません。
 数年後、5歳違いの男児が生まれます。

「キム・ジヨン氏が国民学校に通っていたころ、担任の先生が日記帳に書いてくれた一行のメモをじっと見ていた母が、いきなりこう言ったことがある。
『私も先生になりたかったんだよね』
 お母さんというものはただもうお母さんなだけだと思っていたキム・ジヨン氏は、お母さんが変なことを言っていると思って笑ってしまった。
『ほんとだよ。国民学校のときは、5人きょうだいの中で私がいちばん勉強ができたんだから。上の伯父さんよりできたんだよ』
『それなのに、どうして先生にならなかったの?』
『お金を稼いで兄さんたちを学校の行かせなくちゃいけなかったから。みんなそうだったんだよ。あのころの女の子は、みんなそうやってたの』」

 中学生になってからです。
「その日、父は帰宅が遅くなる予定で、ごはんが中途半端に余っていたので、母は夕食にラーメンを3袋煮てごはんを入れて食べることにした。食卓にラーメンの大きな鍋と汁椀が4個並ぶや否や、弟が自分の器に麺をごっそりさらっていき、キム・ウニョン (キム・ジヨンの姉) 氏が弟にゲンコツを見舞った。
『あんた1人でこんなにいっぱい食べたら私たちはどうなんのよ。それに、まず、お母さんが盛るのを待っていなきゃだめでしょう』
 キム・ウニョン氏は母の器に、麺とスープとかき卵をいっぱいに入れ、弟の器から麺の半分を自分の器に移した。キム・ウニョン氏はキーッとなって叫んだ。
『お母さん! 自分で食べてよ!・・・』
 ・・・
 キム・ウニョン氏が弟をにらむと、母は弟の髪を撫でながら言った。
『まだ小さいじゃないか』
『どこが小さいの?・・・』
『だって、末っ子じゃないか』
『末っ子だからじゃないでしょ、男の子だからでしょ!』」


 高校生になり、予備校の特別講義にも通っていました。
 バスでの帰宅途中、予備校で同じクラスの男子生徒がつきまとってきます。
 自宅近くのバス停で降りると男子生徒もついてきます。降りたのは2人だけです。
 出発したバスが停まると、さっきのあの (バスの中で不信に思い声をかけてくれた) 女性が降りてきて叫びます。
「ななた! そこのあなた! 忘れものよ!」
 彼女が自分の首に巻いていた、ぱっと見にも高校生のものとは絶対に思えないスカーフを振りかざしながら走ってくると、男子生徒は 「このクソアマ」 と悪態をついて大股で行ってしまいます。
 そこに、バスのなかから携帯で迎えを頼んだ父親が到着します。

 家に着くとキム・ジヨンは父親からひどく叱られます。何でそんなに遠くの予備校に行くんだ、何で誰とでも口をきくんだ、何でスカートがそんなに短いんだ。気をつけろ、服装をちゃんとしろ、たちふるまいを正せ、危ない道、危ない時間、危ない人はちゃんと見分けて避けなさい。気づかずに避けられなかったら、それは本人が悪いんだ。
 キム・ジヨンは女性にお礼の電話をします。
「彼女はよかったと言い、それからすぐに、あなたが悪いんじゃないと言ってくれた。世の中にはおかしな男の人がいっぱいいる。自分もいろいろ経験した。でも、おかしいのは彼らの方で、あなたは何も間違ったことはしていないという彼女の言葉を聞いて、キム・ジヨン氏はいきなり泣き出してしまった。ぐずぐずと涙をのみ込み、何も答えられずにいるキム・ジヨン氏に、電話の向こうから彼女は付け加えた。
『でもね、世の中にはいい男の人の方が多いのよ』」


 1999年、「男女差別禁止及び救済に関する法律」 が制定されます。
 そして2001年、女性の地位向上、家族の健康福祉、多文化家族の支援、児童・青少年の育成・福祉・保護などを管轄する行政機関 「女性家族部」 が発足します。
「だが、決定的な瞬間になると 『女』 というレッテルがさっと飛び出してきて、視線をさえぎり、伸ばした手をひっつかんで進行方向を変えさせてしまう。それで女子はなおさら混乱し、うろたえる。」


 キム・ジヨンは大学に入学します。
 数人の友人たちと勉強会を開催し、就活情報を共有します。その中の1人はかなり悲観的です。キム・ジヨンよりも単位をいっぱい取り、TOEICの点数も高く、コンピュータ活用能力やワープロ技術など就職に必須の資格も持っていました。
 しかし大企業どころか、月給がまともに出るかどうか疑わしいような企業に入るのだって難しいと言います。
「『どうして?』
『だって私たちはSKY (ソウル大学、高麗大学、延世大学の頭文字。一流大学の意味) じゃないもん』
『でも就職説明会のときに来てた先輩たち、見たでしょ。うちの学校からも、いい会社にいっぱい行っているよ』
『それ、みんな男じゃない。あんた、女の先輩を何人見た?』
 ハッとした。・・・少なくともキム・ジヨン氏が行った行事には女性の先輩はいなかった。」


「2005年、大企業50社の人事担当者に行ったアンケートでは、『同じ条件なら男性の志願者を選ぶ』 と答えた人が44パーセントあり、残りの56パーセントは 『男女を問わない』 と答えたが、『女性を選ぶ』 と答えた人は1人もいなかった。」


 彼女は先輩の話をしました。
「その先輩はずっと学部の首席で、外国語の成績も良く、受賞歴、インターシップの経歴、資格、サークル活動やボランティアまで、スペックはもれなくそろっていたそうだ。彼女には絶対に入りたい企業があったのだが、その企業の学科推薦枠に男子学生4人が推薦されて面接を受けたことを後で知った。面接で落ちた学生が愚痴を言ったことからわかったのだ。先輩は指導教授に、推薦基準を教えてほしい、納得できる理由がない場合は公に問題にすると強く抗議し、何人かの教授を経由して学科長とも面談したという。その過程で教授たちは、企業が男子学生をほしそうな様子だったからとか、それは軍隊に行ってきたことへの補償なんだとか、男子学生はこれから一つの家庭の家長になるんだからとか、先輩としては理解に苦しむ説明を持ち出したが、中でもいちばん絶望的だったのは学科長の答えだった。
『女があんまり賢いと会社でも持て余すんだよ。今だってそうですよ。あなたがどれだけ、私たちを困らせているか』」
 ここで争っても無意味だと思った先輩は抗議を止めます。

 彼女の先輩は就職しますが6カ月くらいで辞めます。
「ある日、改めてオフィスを見回したら、部長クラス以上には女性がほとんどいなかったんだって。それと、社内食堂でお昼を食べていたら妊婦さんがいたので、この会社は育児休暇は何年ですかって聞いたら、同じテーブルにいた課長も5人の社員も全員、そんな人見たことがないからわからないと答えたんですって。――ここでは十数年後の自分が想像できないと思った先輩が悩んだ末に辞表を出すと、これだから女はダメなんだという皮肉が返ってきたそうだ。先輩は、女性職員への対応があんまりだからですよと答えたという。」


「出産した女性勤労者の育児休暇取得率は、2003年に20パーセント、2009年には半分を超えたものの、依然として10人中4人は育児休暇なしで働いている。もちろんそれ以前に、結婚、妊娠、出産の過程で辞めてしまったため、育児休暇の統計サンプルに入っていない女性も多い。また、2006年に10.22パーセントだった女性管理職の比率は、粘り強く、しかしわずかずつ増加して2014年には18.37パーセントになった。だが、まだ10人中2人にもならない。」


 キム・ジヨンはことごとく就職試験に落とされます。面接試験に残っても試験官からセクハラ発言を浴びせられた後落とされます。
 社員50人くらいの公告業界としてはそれなりの規模の会社に就職します。
 オフィスの雰囲気はよかったです。だが、仕事量は多く、手当がつかない土日の業務も多くありました。毎日全員にコーヒーをいれます。
「ある日報告書に目を通した課長が、キム・ジヨン氏を会議室に呼んだ。
 キム・ウンシル課長は、4人いる課長の中で唯一の女性だった。小学生の娘が1人おり、実のお母さんと一緒に住んでいるので子育てと家事は完全に母親に任せ、本人は仕事だけしていたという。・・・
 課長は報告書のファイルを返して、ほめてくれた。・・・
『それと、これからは私にコーヒーを入れてくれなくていいですよ。食堂でお箸を並べるのや、私が食べた後の器を片づけるのもね』
『よけいなことだったでしょうか。すみません』
『そうじゃなくて、それはキム・ジヨンさんの仕事じゃないからよ。これは新人が入るたびに感じてきたことなんだけど、今までもずっと、だれも頼んでないのにいちばん年下の女性が細かい面倒な仕事は全部やってきたのよね、男性はやらないのに。いくら年下の新入社員でも、やれといわれていない以上やらなくていいのよ。どうして女性社員が自分から進んでやるようになるのかなあ』
 ・・・
 キム・ウンシル課長は、女はだめだと言われないように、会食の席でも最後まで残り、残業や出張も自分から買って出て、出産後も1カ月で復帰した。初めはそれが誇りだったが、女性の同僚や後輩が会社を辞めるたびに心中複雑で、最近は申し訳ないと思っているそうだ。・・・
 管理職になったときはときにはまず、不要な食事会やレクレーション、ワークショップなどの行事をなくし、男女を問わず出産休暇と育児休暇を保障した。後輩が会社創立以来初の育児休業を終えて1年後に復帰したとき、そのデスクにお祝いの花束を置きながら覚えた感動は、忘れられないという。
『それは、どなたなんですか?』
『何か月か前に辞めたのよ』
 残業と土日出勤までは、課長にもどうすることもできなかったのだ。」


「大韓民国はOECD加盟国の中で男女の賃金格差が最も大きい国である。2014年の統計によれな、男性の賃金を100万ウォンとしたとき、OECDの平均では女性の賃金は84万4000ウォンであり、韓国の女性の賃金は63万3000ウォンだった。また、英国の 『エコノミスト』 誌が発表した 『ガラスの天井指数』 でも、韓国は調査国のうち最下位を記録し、最も女性が働きづらい国に選ばれた。」


 キム・ジヨンが結婚し、妊娠した時、夫婦のどちらか1人が会社を辞めて子どもの世話をするしかないという結論になります。キム・ジヨンが辞めることになります。
 夫がいいます。
「『子どもがちょっと大きくなったら短時間のお手伝いさんに来てもらえばいいし、保育園にも入れよう。それまで君は勉強したり、他の仕事を探してみればいいよ。この機会に新しい仕事を始めることだってできるじゃないか。僕が手伝うよ』
 夫は本心からそう言い、それが本心であることはよくわかっていたけれど、キム・ジヨン氏はかっとなった。
『その 「手伝う」 っての、ちょっとやめてくれる? 家事も手伝う? 私が働くのも手伝うって、なによそれ。この家はあなたの家でしょ? あなたの家事でしょ? 子どもだってあなたの子じゃないの? それに、私が働いたらそのお金は私一人が使うとでも思ってんの? どうして他人に施しをするみたいな言い方するの?』」


「キム・ジヨン氏が会社を辞めた2014年、大韓民国の既婚女性5人のうち1人が、結婚・妊娠・出産・幼い子どもの育児と教育のために職場を離れた。」


 キム・ジヨンが辞めた後、会社の女性トイレで盗撮カメラが仕掛けられていたことが発覚します。写真はアダルトサイトにアップされ、男性社員もシェアしていました。女性社員の追及に社長は隠蔽しようとします。「こんなことが知れ渡ったら会社がどうなると思う、男性社員にもみんな家庭があり両親がいるのに、人の人生を台無しにしたらすっきりするのか。君たちにしたって、写真が出回ったことが噂になったら、良いことはないじゃないか」。
 女性社員たちは辞めたり、神経科に通院したりしています。
 キム・ジヨンにそのことを報告した女性社員がいいます。
「『だって取り調べを受けた男性社員が私たちに、あんまりだって言うのよ。自分たちがカメラを仕掛けたわけでもないし、写真を撮ったわけでもないのに、だれでも見られるサイトにアップされた写真をちょっと見ただけで性犯罪者に仕立て上げようとしているって言うの。だけどあの人たち、写真をシェアしたんだよ。犯罪を幇助したんだよ? なのにそれが悪いことだとも思っていないのよ。ほんとに、なーんにも考えていないんだから』
 ・・・
 加害者が小さなものを1つでも失うことを恐れて戦々恐々としている間に、被害者はすべてを失う覚悟をしなくてはならないのだ。」

 キム・ジヨンが子どもと一緒に公園のベンチでコーヒーを飲んでいると、近くからの声が聞こえます。
「そのときベンチに座っていた1人の男性がキム・ジヨン氏をじろっと見て、仲間に何か言った。正確には聞き取れなかったが、途切れ途切れの会話が聞こえてきた。俺も旦那の稼ぎでコーヒー飲んでぶらぶらしたいよなあ…ママ虫 (家事もろくにせず遊びまわる、害虫のような母親いう意味のネットスラング) もいいご身分だよな…韓国の女なんかと結婚するもんじゃないぜ…。
 キム・ジヨン氏は熱いコーヒーを手の甲にこぼしてしまった。そして急いで公園を抜け出した。・・・」

「その後、キム・ジヨン氏はときどき別人になった。生きている人にもなったし、死んだ人にもなったが、それはどちらもキム・ジヨン氏の身近な女性だった。どう見ても、いたずらをしているとか人をだまそうとしているようではなかった。ほんとうに完璧に、まるっきり、その人になっていたのである。」


 解説です
「(キム・ジヨンの母親の) バイタリティーは、たとえばパートで家計を支える日本女性とはスケールが違う。いざという時のために隠し不動産をもち、コツコツ投資でお金を増やし、さらに頼母子講という女同士の扶助組織もある。小説にもIMF通貨危機の話が登場するが、あの時も女性たちが本当に頑張った。
 女だからと差別され、常に社会の中心から疎外され、周囲に追いやられていた。ところが、その中心が崩れてしまった時、社会は女性たちに頼るしかなかった。茫然自失となった男たちに代わり、家族の危機を救い、国家の危機を救った。
 数字に表れない女性たちの頑張りは、もっと、もっと評価されるべきだろう。『天の半分』 は中国の言葉だが、韓国の場合はそれ以上ではないか。」
「ちょうどこの解説を書きはじめた頃、東京医大での入試差別事件 (男子学生だけ一律加点したというもの) が発覚し、日本の女性たちの多くが足元が崩れ落ちるようなショックを受けた。怒りと情けなさの中で思ったのは、韓国なら即時に2万人の集会が開かれているだろうということだ。」

 訳者あとがきです。
「・・・さて、まだ決定的な診断がついていないとおぼしきキム・ジヨン氏の今後はどうなるのだろうか。原書に解説を寄せたキム・コヨンジュ (女性学専攻) は、キム・ジヨンは回復しうるのか (=自分自身を取り戻すことができるのか) という問いに対し、『彼女1人で解決できないことは明らかだ』 とし、この本を読んだすべての人がともに考え、悩むことからすべては始まるだろうと示唆している。訳者としてもこれにつけ加える言葉はない。・・・」

 「活動報告」 2019.3.5
 「活動報告」 2019.2.8
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