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女性スポーツの発展は女性解放の歴史であり、闘いの歴史
2018/06/15(Fri)
 6月15日 (金)

 毎日新聞社の6月14日の会員限定有料記事に、筑波大学教授で柔道家の山口香さんへのインタビュー記事が載りました。タイトルは 「いま、性被害を語る スポーツ界の 『絶対的な服従関係』 がセクハラとパワハラを生む」 です。会員限定有料記事ですので長文の引用は控えます。
 取材した小国綾子記者は、5月29日の夕刊に 「あした元気になあれ アメフットとMeToo」 の記事を書いています。そこから引用します。

 山口さんは 「選手が指導者と対等にものを言い合えない服従関係こそがスポーツ界のハラスメントの温床」 と訴え続けてきました。
 日大事件の経過の 「報告分」 を読んで 「親に虐待された子の苦しみに重なりました」 と語ったといいます。
 日大側は 「指示」 を認めていないが、それでも指導者が選手を心理的に支配していくプロセスが読み取れます。監督が試合後のミーティングで反則タックルについて「こいつが成長してくれればそれでいい」と述べたことについて、「虐待する親もそう。虐待しながら 『お前のためだ』 と言う。だから子は自分を責めるしかなくなる。逃げられない。親に愛されなければ生きていけないから」
 「今回の件はスポーツ界の縮図です。彼だけじゃない」 と言い切った。「理不尽なことを強いられ、傷つき、人知れず消えていった選手がスポーツ界にどれほどいるか。指導者だけでなく、時に仲間からも 『負け犬』 『途中で投げ出した』 と批判されながらね」
 そして山口さんは 「今こそMeTooを」 と呼びかけます。


 取材の後、5月29日に発表された日本大学アメリカンフットボール部選手一同の 「声明文」 の抜粋です。
「ただ、少なくとも、私たちは、私たちの大切な仲間であるチームメイトがとても追い詰められた状態になっていたにもかかわらず、手助けすることができなかった私たちの責任はとても重いと考えています。これまで、私たちは、監督やコーチに頼りきりになり、その指示に盲目的に従ってきてしまいました。それがチームの勝利のために必要なことと深く考えることも無く信じきっていました。・・・そのような私たちのふがいない姿勢が、今回の事態を招いてしまった一因であろうと深く反省しています。」
「ただし、絶対に必要だと今思っていることは、対戦相手やアメリカンフットボールに関わる全ての人々に対する尊敬の念を忘れないこと、真の意味でのスポーツマンシップを理解して実践すること、グラウンドではもちろんのこと、日常生活の中でも恥ずかしくない責任ある行動を心がけるなど常にフェアプレイ精神を持ち続けることを全員が徹底することです。」


 会員限定有料記事です。(こっそりと)
記者 スポーツ界には、セクハラが起きやすい背景があるのでしょうか。
山口 スポーツ界における指導者と選手の“主従関係”の厳しさは、一般企業の上司と部下の比ではありません。良い方に転がれば、絆の強さや信頼関係につながるのですが、悪い方に転がれば、絶対的な服従関係となってしまう。
 これは男女ともに言えることですが、スポーツ界では絶対的な服従関係が、セクハラとパワハラの両方の温床となってしまっています。選手が指導者と対等に物を言える関係ができない限り、セクハラもパワハラもなくならないと思います。

記者 スポーツ界のセクハラ問題でガイドラインとなるようなものはないのですか?
山口 日本オリンピック委員会 (JOC) に女性スポーツ専門部会があり、そこでセクハラについてのガイドライン=注=を作成しました。一般に公開されているものではありませんが各競技団体を集めて説明しました。
  (注) JOCは2013年2月、加盟・準加盟計57団体の強化選手や指導者を対象にセ
  クハラや 暴力行為などについての無記名アンケートを実施した。それによると、暴力行為
  を含むパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを受けたと答えた選手は、全体の
  11・5% (206人)。一方、パワハラやセクハラを行ったと回答した指導者はわずか
  3・0% (43人) だった。
 記述回答では 「自分が競技をやめ、死んだら楽になるのかな。ゴミのように言われ存在すら否定される」 「いくら相談しても話が通じないため、自殺未遂をしたり何年たっても強烈なトラウマとして残る選手が多い」 と悲痛な訴えがつづられていた。
 JOCはその年、「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」 を採択。身体的制裁、言葉や態度による人格の否定、脅迫、威圧、いじめや嫌がらせなどに加え、「セクシュアルハラスメント」 も暴力行為として宣言に明記した。

山口 スポーツ界において、セクハラとパワハラは紙一重だと思います。その背景の一つが、女子アスリートへの偏見です。
 もともとスポーツは男性のものとしてスタートしました。1896年の第1回近代オリンピックに女性選手は参加すら許されていません。1904年の日本の新聞記事には「女子のスポーツが発達すると、女子らしさが失われ、品位を下げるのではないか」というような論調すら見られました。
 例えば、最近は少なくなりましたが、かつては女子選手に 「恋愛禁止」 を命じる指導者がとても多かった。「女は恋をすると弱くなる」 という偏見からです。「女性は感情をコントロールできない」 と。
 そもそも、男性指導者が女子選手に恋愛を禁じるのは、圧倒的な主従関係を維持したいからではないでしょうか。
 スポーツは社会を映す鏡です。女性活躍が叫ばれる時代ですから、スポーツ界でも日本の女子選手たちが世界で活躍しています。ところが、いまだにレスリングや柔道で強い女子選手を紹介する記事では 「ひとたび柔道着を脱げばこんなに女性らしい」 「実は料理上手」 「編み物が趣味で意外と女子力も高い」 などの記述が散見されます。


記者 セクハラなど嫌がらせの温床となっている選手と指導者の 「絶対服従」 の関係性は、どのように変えていけば良いのでしょうか。
山口 これは実はとても根が深い問題なんです。なぜなら、日本では少年スポーツからして、選手が 「服従」 を求められる場面が多い。少年スポーツの指導者の意識改革も必要になります。
 私は1993年、JOCの在外研修制度で英国に1年間留学し、現地の柔道教室で子供たちに柔道を教えました。この時に選手と指導者の関係性について多くを学びました。
 面食らったのは、良くも悪くも先生と生徒の距離が近いことでした。・・・先生を一人の人間として見ていた。尊敬しつつ、同時に、対等な関係だったんです。
 「今日はこういう練習をするよ」 と伝えると、子供たちに 「なぜ?」 と問われる。コーチには説明責任があるので、なんとか伝わるよう説明しました。・・・なぜその練習が必要なのか、選手と指導者がともに考え、合意形成をしながら練習を進めていくことを、英国では少年スポーツのレベルで学んでいるのだと思いました。

記者 確かに、今回の日大アメフット部の反則タックルの背景にも、監督やコーチと選手との絶対的な服従関係があったようです。
山口 この件に関して多くのスポーツ関係者が 「ありえない事態だ」 「こんなひどい話は聞いたことがない」 と批判しています。でも、一人一人胸に手をあてて考えてほしい。・・・
 何も理由を説明せずに・・・選手との合意形成を積み重ねることなく、一方的に命令し、選手本人との主従関係の上にあぐらをかいて、従えばいいんだ、というような指導をしていませんか?


記者 日本で#MeToo運動が広がらない背景として、声を上げた被害者へのバッシングが指摘されています。・・・
山口 これも難しい問題です。・・・スポーツの場合 「あのコーチのお陰で今の私がある」 というような思いを持つ選手は、どうしても自分の指導者を否定したくないのです。特に、チームスポーツの場合、レギュラーに起用されなかった人がセクハラ被害を訴えたら「あの人はレギュラーから漏れたから言ってるだけ」というような批判のされ方もします。告発した途端、指導者やコーチからだけでなく、仲間からも批判されるかもしれない。これが、被害者が声を上げにくい一因となっているように思います。
 日大アメフット部の問題では、現役選手たちがみんなで声明文を出しました。感情を抑制しつつ、責任を転嫁せずに自己反省という形で声明文を出したことで、アスリートが自立していく姿を見せてくれました。一人で記者会見したチームメートを、本当に独りにはしなかった。
 これはアメリカンフットボール界にとどまらず、スポーツ界における大きな一歩だと思います。このような連帯によって、声を上げやすい社会の実現に近づいていくと信じています。

記者 山口さんはどんな思いで、スポーツ界における女性リーダーの育成を唱えてこられたのですか。
山口 スポーツは社会の縮図であり、スポーツ界の抱える問題は多かれ少なかれ社会が抱える問題です。女性スポーツの発展は、まさに女性解放の歴史であり、闘いの歴史だったと私は思っています。今でも世界を見渡せば、女性が自由にスポーツを行えない国すらあるのです。
 セクハラの被害者は女性に限りません。一人一人の選手が自立したアスリートとして、セクハラに対してきちんと声を上げていくことが大切だと思っています。そのことによって被害者が声を上げやすい社会、声を上げた被害者を一人にしない社会が実現するのだと信じています。


 2012年に発覚した柔道女子日本代表への暴力事件について、山口さんは13年2月7日付 「朝日新聞」 のインタビューに答えています。
 13年2月26日の 「活動報告」 です。

「昨年9月、園田隆二前監督が暴力行為をしていたと、私自身、耳にしました。個人的に何人かの選手に話を聞いて事実を確認し、全日本柔道連盟の幹部に伝えました。まずはきちんと調べて、広く選手に聞き取りをして下さいとお願いした。」
 全柔連は園田前監督にだけ話を聞き、厳重注意の処分をしました。しかしそれだけでした。
「相談してくれた選手たちに 『こういう結果になってしまって申し訳ない。私の力がなかった』 と謝りました。そして 『申し訳ないが、ここから先は私ができることじゃない』 と話しました。」
「私は選手に言いました。『これからはあなたたち自身でやりなさい』 と。さらに 『あなたたちは何のために柔道をやって来たの。私は強いものに立ち向かう気持ちを持てるように、自立した女性になるために柔道をやってきた』 という話もしました。」
「悪い言い方をすれば、選手たちはここまで我慢してしまった。声をあげられなかった。『こんなひどいことが行われてきたのに、誰にも相談せず、コーチにも言えず、がっかりしている』 とも話しました」
「私はもう助けられない。だから自分たちで考えて、と。」
 12月、選手たちはJOCに告発しました。
「彼女たちは気づいたのです。何のために柔道をやり、何のために五輪を目指すのか。『気づき』 です。監督に言われ、やらされて、ということでいいのか。それは違うと」
 選手たちは自分たちだけで立ち上がりました。
 今、全柔連だけでなくJOCも社会的監視の中で対応を迫られています。


 選手たちは自分たちだけで立ち上がりました。JOC作成のセクハラについてのガイドラインはこのすぐあとです。
「日大アメフット部の問題では、現役選手たちがみんなで声明文を出しました。感情を抑制しつつ、責任を転嫁せずに自己反省という形で声明文を出したことで、アスリートが自立していく姿を見せてくれました。一人で記者会見したチームメートを、本当に独りにはしなかった。」

 スポーツ界のハラスメント、セクシャルハラスメントは、まだまださまざまな種目から聞こえてきます。
 #MeToo運動がもっともっと広がることが人権を拡大します。
 #MeToo運動は社会への 「共に立ちあがろう」 のアピールです。
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ILO総会でのセクハラ対策条約議論で                                 日本政府 「態度保留」
2018/06/05(Tue)
 6月5日 (火)

 ILOの第107回総会が、5月28日から6月8日までジュネーブ開催されています。総会は、毎年1回行われ、ILO加盟国187カ国の政府、労働者、使用者からなる代表団が一同に会する最高意思決定機関で、ILO条約などの国際労働基準の策定を含め、労働問題に係る議論を行います。
 今回は7議題について議論されますが、メインテーマは 「仕事の世界における男女に対するハラスメント」 (「Ending violence and harassment against women and men in the world of work」 ) です。
 ILOにはこれらを直接取り上げた基準は存在しませんでした。ディーセント・ワークと相容れず、許容できない問題に取り組む緊急の行動を求める声に応え、今年は新たな基準の採択を目指す2回討議手続きの1回目の討議が行われます。
 『仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメントに終止符を打つ』 と題し、仕事の世界における暴力とハラスメントの現状を、その内容、関係者、発生場所、影響、推進要素、リスク要因、危険度が特に高い職種や集団などの切り口から解説し、国際・国内の取り組みをまとめた報告書 (Report V (1) ) と、これに関する基準設定についての加盟国政労使の見解を記した報告書 (Report V (2) ) の2冊の討議資料をもとに、2年越しの検討が開始されます。

 長文ですが 、ILO駐日事務所の 「第107回ILO総会の議題について」 をコピーします。

 第5議題 「仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメント (基準設定、第一次討議)」
 仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメント対策に取り組むための労働基準につい て、今回の第107回 ILO 総会において第一次討議が行われ、次回の第108回総会におけ る第二次討議を経て基準の採択を目指すものである。

【仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメントの現状】
 近年、仕事の世界における男女に対する暴力及びハラスメントに対する問題意識が高まって きており、対応措置を早急に取ることが求められている。この問題に対する対策は持続可能 な開発のための2030アジェンダの 「目標8.5の女性及び男性の完全かつ生産的雇用及びディーセント・ワークの達成;目標10の国内及び国際間の不公平の低減;目標3のすべての人のための健康な生活の確保及び福祉の増進;目標5のジェンダー平等の達成及びすべての成人女性及び少女の権利拡張」 と密接に関連している。

 仕事の世界における 「暴力」 又は 「ハラスメント」 について現在世界的に受け入れられている定義はないが、2016年の仕事の世界における男女に対する暴力に関するILO 専門家会議では、暴力及びハラスメントを身体的、精神的又は性的な痛手又は苦痛を及ぼす可能性の高い許容できない一連の振る舞い及び慣行としている。

 労働関連の暴力及びハラスメントについては、定義していない国、身体的行為に限っている国もあるが多くの国々では身体的及び精神的行為の両方を含んでいる。また、別の形態の定義では、行為そのもの (殴打、侮辱、悪態及び怒鳴ることなど) より、行為の結果また影響 (痛手、又は尊厳の喪失) に重点を置いている。

 身体的暴力の例として、職場における銃乱射事件及び殺人事件となる事案があるが、死者を出す暴力は、仕事の世界の身体的暴力の少数の事例を占めるのみである。また、仕事の世界における種々の形態の身体的暴力は一般的に精神的暴力に比べて報告される頻度が低い。精神的な暴力及びハラスメントは、 一連の口頭又は非口頭の虐待、セクシャル・ハラスメント、弱い者いじめ及び言葉による虐待・脅迫を含んでいる。

 性的暴力及びセクシャル・ハラスメントには、欲せざるコメント又は口説き、ジョーク、短い身体的接触などが含まれる。一般的な性別に基づく暴力と同様に、成人男性及び少年も性的な暴力及びハラスメントの犠牲となり得るが、対象の多くは、成人女性及び少女である。セクシャル・ハラスメントには、仕事に関する決定と関連して労働者が性的な接待を要求される場合もある。労働現場の組織又は構造から生ずる心理社会的リスクも、それが犠牲者の尊厳、安全・健康及び福祉に影響を及ぼす場合には、暴力及びハラスメントとなる。労働環境の劣化、分離及び労働者にそのスキルに相応する職を与えないことを含む労働条件や不当なノルマ (非現実的な処理件数・期限等) も一種のハラスメントと見なされる

 【暴力及びハラスメントの対象】
 潜在的に、誰でも暴力及びハラスメントの行為の加害者及び被害者となり得る。暴力及びハラスメントは職場内部の水平 (同僚間) 及び垂直 (上司と部下の間) の関係 において、また顧客や第三者など職場外部の人との間でも起こり得る。医療、教育、接客及び運輸部門においては、労働者が接触する顧客や一般公衆との間に生ずるケースも多い。

 暴力及びハラスメントは、様々な状況・要因と関連し、しばしば、仕事の世界及び一般社会に働くダイナミクス (力関係、ジェンダー規範、文化的及び社会的規範、差別意識など) により影響される。性別に基づく暴力及びハラスメントには、男性と女性の間の不平等な力関係から生じている場合、被害者の行動が社会的に受け入れられている性別役割に一致しないがゆえに行われている場合、妊娠・出産等と関連するマタニティー・ハラスメントなどがある。ジェンダーに基づく暴力及びハラスメントはジェンダー不一致の男女に対して行われレスビアン、ゲイ、両性愛者、トランス及びインターセックス (LGBTI) の人々が対象となる。

 仕事の世界における暴力及びハラスメントが起こりうる状況としては、仕事の行われる公的・私的空間、給与の支払い場所、食事又は休憩をとる場所、通勤途上、仕事に関連した旅行・訓練・イベント・クリスマス会などの行事、及びEメールなどを使って行われる連絡などがある。そして、仕事の世界における暴力及びハラスメントの被害者及び加害者は労働者、使用者、第三者 (取引先、顧客、サービス提供者、患者、一般公衆) と多岐に渡る。身体的暴力及びハラスメントは、教育、ヘルスケア、ソーシャルワーク、行政、宿泊・飲食業のサービスのような労働者が公衆と直接接する職業において頻繁に報告されている

 【労働者及び企業に対する影響】
 身体的な暴力及びハラスメントは、明白な身体的な傷跡のみならず、リハビリテーション及びカウンセリングを必要とする精神的傷跡を残すことがある。精神的な暴力及びセクシャル・ハラスメントは、不安、抑圧、頭痛、睡眠障害などを引き起こし、仕事の遂行能力に悪影響を及ぼす。

 経済的観点では、性的暴力及びハラスメントは、しばしば女性が労働市場に参入すること及び職に留まることへの障害となっており、女性労働者の所得能力の低下、男女賃金格差拡大に寄与している。企業にとって暴力及びハラスメントは、常習的欠勤の増加、疾病手当及び管理費用の増大を招く。また、虐待された労働者が適切なサポートなしに会社に留まる場合、生産性はしばしば低下し、それが企業の費用を増大させるほか、被害者が離職した場合には、新規労働者の採用及び訓練費用として負担増となる。さらに企業の評判・イメージの観点か らマイナス効果がある。

 【既存の対策と枠組み】
 強制労働・児童労働・差別撤廃等に関連するILO基本条約は暴力及びハラスメントに関連する対策を内在しているほか、夜間労働者、家事労働者、先住民及び種族民、船員などを対象とした国際労働基準では、一定の種類の暴力又はハラスメントに言及している。また、労働安全衛生関連の基準は、暴力及びハラスメントに直接言及していないが、労働者の安全と健康確保の観点から、その防止及び管理に関係している。しかしながら、これらは広くすべての労働者の保護と暴力及びハラスメントの防止を目指したものではない。

 ヨーロッパ社会憲章では、加盟国が使用者及び労働者の代表と協力して意識を高め、情報を提供し、職場におけるセクシャル・ハラスメントとモラル・ハラスメントの両方を防止することを求めている。米州では 「女性に対する暴力の防止、処罰及び撲滅に関する米州条約」 が多くの国における女性に対する暴力に関する法律の採択を促している。アフリカにおける女性の権利に関する 「人権および人民の権利に関するアフリカ憲章」 の議定書 が各国の職場におけるセクシャル・ハラスメント対策に寄与している

 暴力及びハラスメントのない職場で働く権利、あるいは仕事の世界における暴力及びハラスメントの禁止が、多くの国々の法律、判例法及び団体協約において規定されている。多くの場合、権利付与及び禁止は、労働法、刑法及び差別禁止法で、防止措置は労働安全衛生対策についての法律で規定されている。職場の精神的暴力及びハラスメントは、「言葉による暴力」、「弱い者いじめ」、「暴力」 又は 「ハラスメント」 などの用語に基づいて規制されて いる。

 暴力及びハラスメントをOSHマネジメントシステムの対象としている場合には、労働者参加のもとに危険要因 (職場の暴力及びハラスメントを発生させる精神的危険要因を含む) を予測し、評価し、対策を講じることになる。労働安全衛生法令で職場における該当行動の識別法と防止方針の策定、ハラスメントに関する意識向上活動、苦情手続の確立を求めている国もある。暴力及びハラスメントに関する内部紛争解決機構の設置を義務付けている国もあり、苦情の訴え・通報に基づく対処がなされる。また多くの国々では、外部紛争解決機構が、提起された苦情に基づき、一定期限内に調査、その他の措置を取っている。

 【第一次討議】
 第一次討議では、条約・勧告における暴力及びハラスメントの定義、対象となる労働者や暴力及びハラスメントが起こる状況などの範囲、すべての形態の暴力及びハラスメントの禁止、暴力及びハラスメントを受けるリスクの高い労働者 (妊婦、HIV感染者、移民、LGBTI等) が差別を受けない等労働者の権利、リスクアセスメントに基づく防止対策、労働者への情報 提供と訓練、法令の施行、被害者支援等の規定について検討される。


 ILOは、総会にむけて各国に、会議報告書のためにもっとも代表的な使用者・労働者組織と協議のうえ、2017年9月22日までに見解を提出することを要求しました。日本でも、政府、経団連、連合などが提出しています。
 報告書への条約制定にたいする日本政府の見解は 「YES」 でした。しかし 「当該条約では、各締国が仕事の世界におけるあらゆる形態の暴力およびハラスメント、とりわけあらゆる形態のジェンダーに基づく暴力を禁止す国内法、とりわけあらゆる形態のジェンダーに基づく暴力を禁止す国内法令を定めるべきであると規定すべきか?」 には回答しませんでした。


 6月4日の共同通信発信の見出し記事 「ILO、セクハラ対策条約制定へ 米反対、日本は態度保留」 です。
「【ジュネーブ共同】 国際労働機関 (ILO) の委員会は2日、職場でのセクハラや暴力をなくすための国際基準の枠組みについて、拘束力を持つ条約を制定する方針を決めた。社会規範の異なる各国の事情に合わせるため、勧告を作成し条約を補完する。会議筋が明らかにした。
 世界各地で性被害を告発する運動が広がる中、セクハラを含めたハラスメント対策は初の国際基準制定へ一歩前進することになった。
 会議筋によると、委員会の議論では、欧州連合 (EU) 各国や中国、中南米、アフリカ諸国などが条約制定に賛成。米国、ロシアなどは勧告にとどめるべきだと反対し、日本は態度を保留した。」

 共同通信の発信を、6月4日の東京新聞 【ジュネーブ=共同】 から補足します。
「(日本は) ハラスメントの定義などをきちんと議論する必要があるとしている。……
 来年度の年次総会での条約制定を目指す。条約を批准するかどうかは各国が判断する。……
 5月28日に始まった委員会には各国の政府・労働者。使用者代表が参加し、ILOがまとめた国際基準案を基に議論を進めてきた。当初、枠組みを先に決める予定だったが、議論が紛糾したため後回しにしていた。
 国際基準案は職場でのあらゆる形の暴力とハラスメントの禁止を目指すもので、ハラスメントの定義や、対象となる労働者や行為者の範囲、防止措置なども盛り込んだ。」
「日本政府は 『勧告が望ましい』 との態度を崩さず、ILOのまとめた基準案の内容を弱めるような修正案を相次いで提出するなど 『使用者側寄りとみられてもしかたがない』 (外交筋) との指摘もある。……関係者は 『条約ができても日本は批准しない恐れもある。国際的な反ハラスメントの動きに取り残されかねない』 と懸念する。」

 この後は、6月6日にILOの委員会が職場でのセクハラや暴力をなくす条約制定の方針を盛り込んだ報告を採択、8日にILO総会で報告を承認、その後、条約案と勧告案を議論して、2019年6月頃、ILOの年次総会で条約と勧告を制定する予定です。


 昨年3月28日、政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 には 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」 と盛り込まれました。これをうけて 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」 が10回開催され、3月30日に 「報告書」 が発表されました。
 検討会では、事業主に対する措置義務の検討を中心に検討を進めるという意見が多数をしめました。しかし使用者側委員はガイドラインに固執し、最終的にまとまりませんでした。ILOにおける日本政府の対応をみると、検討会における使用者側の “自信” が理解できます。

 「仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメント」 報告書の内容は日本の労働者にとっても喫緊の課題であり渇望するものです。
 安倍政権が掲げる 「すべての女性が輝く社会づくり」 「女性の活躍」 とハラスメント防止に取り組みの放置は矛盾します。厚労省は、来年のILO総会にむけ新たな「職場のパワーハラスメント防止のための検討会を開催し、広く意見を聴取して職場のハラスメント対策を策定する必要があります。
 労働者の人権、人格権・尊厳を否定する日本政府の姿勢を、世論を巻き込んで転換させ、来年のILOの年次総会で条約と勧告を批准させるための運動を進めていかなければなりません。
 

 「ILO駐日事務所の『第107回ILO総会の議題について』」
 「ILOの第107回総会に向けた報告書」
 「ILOの第107回総会に向けた報告書」
 「ILOの第107回総会に向けた報告書」
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『サービス残業は犯罪です』 の通達は、外国人労働者の闘いから
2018/06/01(Fri)
 6月1日 (金)

 政府は、いわゆる 「働き方改革」 を推進しようとしていますが、労働力不足が深刻ななかで外国人労働者へのまさしく 「働かせ方改革」 を推し進めようとしています。
 そのような動きのなかで、『世界』 18年6月号に 「隠される外国人の労働問題 移民国家・日本のいのちの差別」 のタイトルで、長年外国人労働者の問題に取り組んできた鳥井一平さん (全統一労働組合)、村山敏さん (神奈川シティユニオン)、飯田勝泰さん (東京労働安全センター)、指宿昭一さん (弁護士)の座談会が載っています。
 外国人労働者がおかれている状況の深刻な問題が指摘されています。かなりの好評で、いくつかの書評、論評で取り上げられています。


 日本では、単純労働者の受け入れは原則、認められていなません。とはいいながら、17年10月末時点の外国人労働者数は127万人と過去最高です。労働力の50人に1人は外国人労働者です。
 その一方で、「発展途上国へ技術・技能を移転して国際貢献をする」 と、農業や介護、建設などで非熟練労働者を受け入れ、働きながら技能を身につける技能実習制度については最長5年の滞在を認めて事実上、単純労働者の受け皿をつくってきました。技能実習は学んだ技術を母国に伝えることが建て前で、修了したら帰国することになります。17年10月末で25万人います。
 しかし、現在、労働力不足は深刻です。政府は今秋の臨時国会にも入国管理法改正案を提出し、来年4月にも新制度を始める方針です。
 最長5年間を、特定技能の試験に合格すれば 「特定技能 (仮称)」 としてさらに最長で5年間就労できる新たな在留資格制度をつくります。しかし外国人の永住権取得の要件の一つに 「引き続き10年以上の在留」 があります。そこで、新資格は一定期間、母国に帰って再来日した後に付与します。政府は長期間、国内労働力に定着させることができると見込んでいます。
 さらに、新資格の保有者は、専門技能に関する試験に合格すれば、在留資格の上限がなく、家族を招いたり、永住許可を付与するなどの制度も検討しています。

 政府は外国人労働者の受け入れを拡大していくのに合わせ、企業が医療など社会保障の費用負担を逃れるといった不正を防ぐ体制の強化に取り組むため、実態把握の強化に向けた対策について、6月にもまとめる成長戦略に盛りこみ、早期に実施する方針といいます。
 企業は外国人労働者の社会保障の費用負担などを回避しようと、届け出を怠っています。こうした不正を防ぐため、厚労省と法務省が互いの情報を照合し、届け出が漏れている企業に対して厚労省が指導するように改めます。
 在留資格で認められた範囲を超えて働いている恐れがあります。個々の在留者から届け出を受ける法務省と、雇用主からの情報を集約する厚生労働省が連携して届け出が漏れている企業を指導し、より正確な実態の把握をめざし、人手不足が深刻になるなか、外国人の働き手を受け入れる環境整備を急ぐといいます。


 座談会をかいつまんで紹介します。

「1980年代半ば過ぎから、バブル経済とともに中小の製造業や建設現場で人手不足が起き、『底辺のきつくて危険な仕事』 を誰が担うのかと考えたとき、南アジアから観光ビザで入国して、そのまま出かせぎを目的として労働現場に入る外国人労働者が非常に増えてきたという歴史的な経過があります。」
「80年代、入管どこ吹く風という感じで入ってきた外国人たちが、オーバーステイ (不法滞在者) になっていく。入管も警察も表向きは取り締まるけど、事業主、使用者の要請に従って実際は捕まえない。そうした外国人の数は93年が統計的なピークで29万人、実際は30万人を超えていたと思います。」
「1990年に入管法が改正されて、日系人は定住者として家族と一緒に日本に入国しやすくなったため、その数が急増しました。30数万人にもなり、自動車や電機、食品加工の生産現場で働いていました。」
「惣菜工場などでは家族ビザで働いている人も多い。90年頃は、オーバーステイだから雇っている実態を隠すところが多かった。目立たないように、夜勤中心のところもありました。」
「在留特別許可は、これまで年間平均で7000人ほどに出されていて、日本人と結婚するなどして、定住している人が結構いるんです。」
「そうして、かつて30万人いたオーバーステイの人たちが6万人ほどに減りました。日本人と結婚したのは、半分くらい。在留資格を持っている人たちがどんどん増えているということです。あとの半分は帰国させられていますが。」
「2010年の改正入管法施行以降は、外国人技能実習生と呼ばれている人たちがいますね。数多くの人権侵害が報告されています。残業代が300円程度しか支払われないことが多く、『時給300円の労働者』 と呼ばれています。」

「そうして外国人が増えていく中で、多くの労働問題が当然のごとく起きる。とりわけ、バブルがはじけて以降は、外国人労働者の多くが使い捨ての状態に陥りました。労災や解雇、賃金未払いといったことが起きていく。」
「80年代、90年代は、入管法違反をおそれた事業主による労災隠しがほとんどでした。」
「労災事故現場のねつ造もよくありました。重傷だから病院には連れていかないといけない、でも労災適用すると工事現が止まってしまうから、別の場所にけが人を移動してから申請する。」
「製造業末端にいる日系人労働者の労働条件はひどくて、最低賃金ギリギリで働かされ、何年働いても賃上げもボーナスもない。残業割り増しの計算が違っていたり、雇用保険や労災保険に入っていなかったりもします。」
「精神疾患にかかる人も増えてきていますね。外国人は海を渡ってきているくらいだから、根性もあるだろうと勝手に思われていますが。」
「日本人からの差別が原因の精神疾患もあります。ムスリムの人たちは生活慣習も違うし、サラート (毎日のお祈り) やラマダーンについても理解されていない。そういったところから差別されて、精神疾患に陥ってしまう。言語、文化、生活、信仰の違いなどでも、大きなストレスになってしまう。」
「国際研修協力機構 (JITCO) が技能実習性の死亡事案についての統計を取っていますが、毎年1,2名は自殺者がいます。そこに記載がなくとも、おそらく自殺と思われる事例も聞いています。ノイローゼ状態で高い橋から投身自殺してしまった事案があって、私は労災だと確信しているのですが、遺族にお金がわたって終わりにされてしまったので、労災申請ができませんでした。過労死も、過労自殺も、ほとんど表に出てこない。実習生の過労死はかなりあると思っていますが、まだ2件しか認定されていません。」
「労務実態として賃金が払われていれば、労基法をはじめとした労働諸法令が適用されるのが基本ですが、研修生は制度上、適用がないとされていました。そのため、労基署も動かず、受け入れ企業は労働法を無視していました。」

「こうした外国人労働者の権利問題について突破口を開いたのが、安全センターでした。安全センターは1991年に 『外国人労働白書』 を発表します。労基法3条 (「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」) をテコにして外国人にも労災保険が適用できることを示しました。この場合の 『社会的身分』 とは、在留資格があるかどうか。オーバーステイであっても、労働実態があれば労災保険の適用があるということです。
 労災隠しをさせないために入管法よりも労働法を優先させる、使用者も免罪させない、という原則は、当時参議院議員だった大脇雅子さんが国会答弁で労働大臣から引き出しました。」
「日本に出稼ぎに来て不幸にして重篤な労災に遭った外国人労働者は、入管に通報されてしまうと、働くこと自体ができなくなってしまう。だから沈黙させられてきました。それで、『白書』 によってそうした実態を世に知らしめつつ、労働省と交渉を始めました。当時の労働省は、不法就労を取り締まるという基本方針を掲げていた。しかし私たちの働きかけにより、労働者としての権利救済、労災の申請、認定、補償は、労働者の命にかかわるものなので、優先すべきである、という方向に動きました。」
「建設と港湾の現場は、建設業法と港湾労働法が労災や賃金に関する元請け責任を謳っているので、製造業とは違い、責任追及がしやすいです。」
「日本人と賃金差別をつけるそうした扱いは、そもそも差別です。これに対しては、1993年から毎年、シティユニオン、安全センター、全統一、東京南部が一緒になって、『生活と権利のための外国人労働者1日行動』 を実施、当事者と一緒に権利春闘として取り組んでいます。
 かつては、たくさんのオーバーステイの労働者自身も参加して法務省や厚労省に訴えに行きましたね。」

「外国人労働者自身が労働問題に対して立ち上がり、結果として日本社会をもよくしているケースもあります。
 たとえば、1980年後半から90年前半頃にかけて急成長した居酒屋グループは、たくさんのオーバーステイの外国人の力に頼っていました。これらが96年に外国人労働者の一斉解雇を行う。それまでサービス残業にもかまわず、一生懸命頑張ってきた外国人労働者たちは怒り、全国の労働組合に入ってきた。本社にみんなで押しかけて、補償金を勝ち取ります。
 事態はそれで終わらない。それを見ていた居酒屋チェーン本社で働く事務職員の日本人女性たちが地域の労働組合に入り、自ら残業代を請求した。さらには、当時の労働省が、『サービス残業は犯罪です』 という通達を出すに至ります。」

「『あいつら難民だから』 とか言ってね。より弱い者をたたくのが差別構造ですからね。アフリカ系の人に対して南アジアの人間は責めたてるし。」
「外国人労働者同士でケンカをした場合は、ケンカ両成敗として両者とも国に還してしまいがちです。違いがあればトラブルは起きるものだ、ということを前提に、研修を行なったりコミュニケーションをとったりしないと、いまの時代にはそぐわないですね。企業は、多文化共生を前提にした職場環境配慮義務を尽くすべきだと思います。」
「他民族・多文化共生社会を考えたとき、日本人と外国人の差についてだけでなく、外国人同士の違いも見ないといけません。それは何も、多言語化すれば済むということでもない。」
「2000年にインドネシア人の研修生が指を落とした。安全装置もついていなかった。ノルマがあり、労働実態が存在していたのに、労災にならなかった。労働保険審査会まで訴えても、研修生は労働者ではないから、の一点張り。研修生は、合法的労災隠しの最たるものです。かれらは研修生保険でしか補償されない。」
「2009年に、研修生も実態に即して労働者と認定される判決が初めてでました。同じ09年に法改正がなされ、10年にいまの外国人技能実習制度が施行され、その後の事案対応がだいぶやりやすくはなっています。」

「外国人の問題を難しくしているのは入管行政です。
 そもそも、労働のためだけに入国する仕組みが、日本には実質的にないんです。厚労省の2016年度のデータによると、外国人労働者は、専門的・技術的分野 (大学教授、医師、弁護士などの 「高度人材」) が15%、技能実習が22%、留学生が20%で、『裏口』 的な労働者は40%を超えています。留学生が労働するには資格外活動の許可が必要なので、ここでもブローカーが暗躍する。」
「いまの政府は移民政策をとらないと言いつつ、労働力として現実的には外国人を必要としている。技能実習生ではその適用範囲を広げて、職種について何でもありの状況になってきている。実習期間を増やすという話もあります。」
「外国人は在留資格をごまかして働いていると考える人もいます。でも、労働者自身が偽装しているのではなくて、社会が、政府が偽装させている。」
「こうしたことは全部、中途半端な歪んだ移民政策ですよ。こういうことを続けていたら、社会の経済構造は壊れていく。留学生の資格外活動について、週28時間以内賭していたものを35時間に広げようという、本末転倒なことを言っている。建設や製造の技術を担っていく人を、技能実習生では育てていけない。」
「2018年2月、安倍首相は、経済財政諮問会議で、外国人労働者の受け入れ拡大方針を検討するよう指示を出しました。農業、建設などこれまで単純労働として受け入れを禁止していた分野の外国人労働者を受け入れるというのです。それはいいのですが、これは移民政策ではなく、在留資格に上限を設けて在留期間が終われば帰国することが前提で、永住申請を認めない、といいます。技能実習制度類似の短期就労型の受け入れを考えている。
 この会議で出された方針は、外国人労働者の人間としての生活に配慮した日本社会との共生を考えていない内容で、とても危険を感じます。外国人労働者の問題は、社会できちんと議論されないまま、政府主導でどんどん話が進んでしまう。」
「外国人労働者との共生を一番みていないのは、やはり政府ですよ。」


 外国人労働者についスイスの作家マックス・フリッシュの 「われわれは労働力を呼んだが、やってきたのは人間だった」 を紹介しています。同じことは、かつてトルコから労働者を呼び寄せた時の西ドイツでもいわれました。労働力と人間を切り離すと人権が否定されます。
 労働力を必要としながら、その労働力に差別と分断を持ち込み、使い捨てです。
 戦時中の強制連行と戦後の排除、迫害の対処の問題はまだ解決していません。だからヘイトがはびこっています。
 日本は歴史から何も学びません。

 第二次世界大戦後すぐに 「基本的人権」 が独立して登場し 〈世界人権宣言〉 が発せられます。
「第一条 すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」
 世界に恥ずかしくない振る舞いをしてこそお互いを理解し合え、尊重し合えます。それは国同士においても人間同士においてもです。
 

 「活動報告」 2018.3.31
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過労死、過労自殺は 「われわれ」 のなかでおきている
2018/05/29(Tue)
 5月29日 (火)

 5月25日の 「活動報告」 で、吉田裕著 『日本軍兵士 -アジア・太平洋戦争の現実』 (中央公論新社刊) を紹介し、兵士の心身の不調はどのような状況で発生し、どのように対処されてきたかについてふれました。
 『本』 は、さらに日本軍が持っていた構造的問題と、どのように形成されてきたのかにもふれています。

「よく知られているように、日本の陸海軍の軍事思想には独特の特徴がみられた。
 第一には、欧米列強との長期にわたる消耗戦を戦い抜くだけの経済的、国力を持たないという強い自覚から、長期戦を回避し 『短期決戦』、『速戦即決』 を重視する作戦思想が主流を占めていたことである。……
 第二には作戦、戦闘をすべてに優先させる作戦至上主義である。そのことは、補給、情報、衛生、防禦、会場護衛などが軽視されたことと表裏の関係にある。
 相次ぐ船舶の喪失にもかかわらず、船団護衛などを任務とする海上護衛総司令部が発足したのは、1943年11月だった。陸軍も、必要な生活物資、特に食料を後方から補給せずに、 『現地徴発』 を基本とした。『徴発』 といっても対価を払わないことが多い。実際には民衆からの略奪である。……
 もちろん、最大の犠牲者は中国の農民だが、補給を無視し略奪なしには生きていけないような作戦を強行し続けた軍幹部の責任は大きい。」
「第三には、日露戦争後に確立した極端な精神主義である。それは、砲兵などの火力や航空戦力の充実、軍の機械化や軍事技術の革新などに大きな関心を払わず、日本軍の精神的優越性をことさらに強調する風潮を生んだ。」

 「短期決戦」、「速戦即決」 を重視する作戦思想において、孤立していったときにとられる 「戦術」 が、自決、集団自決 (軍の命令による集団自殺)、戦闘能力を喪失した兵士への 「措置」 です。「「生きて虜囚 (りょしゅう) の辱 (はずかしめ) を受けず」 は精神主義の変形と口実です。
 そこには兵士を大事にするという思想はありません。


 逆に日本軍は米軍をどう見ていたでしょうか。
 43年12月に発行した米英軍の編制、装備、兵器、戦法等を概説した 『米英軍常識』 のなかの 「米軍の特性」 についてです。
「『国家観念』 の項では、『優越的国家観念、個人主義に基づく愛国心旺盛にして、団結掃蕩強固なり』 とあり、『攻撃精神』 の項では、『闘争心旺盛にして冒険を好み、進取放胆』、『任務を無頓着に実行し、危険に対しても全くこれを眼中に置かず、不撓不屈の精神を有す』 と記している。」
 「闘争心旺盛」 は自己を守る十分な装備を身に着けてのうえでです。日本軍とは対照的です。
 大本営は43年12月、「開戦以来、敵は我が戦法を深刻に研究しきわめて活発にこれが対策を講じあるに対し、我が方の努力は必ずしも十分ならざるものあり」 と総括しています。
 さらに、「米軍の戦法を、『物的優越を基調とし、大兵力をもって勝ちやすきに勝たんとする』 ことを根本とし、『合理的かつ計画的』 で、常に陸海空の圧倒的な兵力を集結使用する戦法に依存している、この傾向はマリアナ作戦以降、いっそう明確となり、上陸作戦でも従来の戦術的奇襲より戦術的強襲を採用し、『膨大なる物量』、なかでも圧倒的な砲爆撃によって、『我が防備を震倒せしめんと企図』 するようになったと特徴づけている。」
 「合理的かつ計画的」 は日本軍に最も欠けていたことです。敗北が想定できたこの時点での決断があったら、甚大な被害は免れました。


 大正デモクラシーの期間はいつからいつまでをいうのかについてはさまざまな見解があります。
 治安維持法の制定までとすると1925年、満州事変までなら1931年です。その期間に労働運動や小作争議を体験した者たちも入隊してきました。上官の言動に批判的な兵士たちも出てきます。
「しかし、満州事変が始まると、そうした動きは完全に頓挫し、日本の軍隊は天皇親率の軍隊= 『皇軍』 であるというイデオロギーが急速に拡大し、『日本精神』 がことさらに強調されるようになる。上官の命令は天皇陛下の命令であるとして、上官の命令への絶対服従を兵士に強制する古い体質を温存したまま、陸海軍は総力戦の時代に突入していく。」
 満州事変前後に幼年期をむかえ、後に生まれた子供たちは、戦争真っただ中の意識しかありません。日本では反戦を訴えた学生はほとんどいません。中学生・女学生は完全に軍国主義に染まっていました。


 戦時中の状況についてこれだけで語ることはできませんが、軍事思想は戦後どのようになったでしょうか。
 戦後の労働組合の多くは、戦中の産業報国会の組織をそのまま踏襲して結成されました。職制が役員に横滑りします。イデオロギー色をもった労働組合は、実際は多くありませんでした。生活防衛闘争、民主化闘争は、大正デモクラシーの経験を持つ労働者が中心になって進められました。
 その後、現場労働者を中心に生産自主管理闘争が展開されます。経営者側も力が失っていました。これも最初からイデオロギーに裏打ちされたものではありません。
 もしかしたら、「必要な生活物資、特に食料を後方から補給せずに、『現地徴発』 を基本とした」 軍の思想が染みついたままでの今でいう “自己管理” ・ “自己責任” の発想が生産自主管理だったのかもしれません。
 その一方で、民衆からの略奪という捉え方はしませんでした。日本 (軍) の精神的優越性を保持していました。それが今に至るまで戦後補償の問題を解決できない状況を作り出しています。沖縄は戦時中が続いています。

 現在の労働法制では、会社・企業という言葉は出てきません。使用者を指す時には 「事業場」 です。これは、制定の時点では企業内労働組合ではなく、横断的産業別労働組合を想定していたからです。
 しかし、産業報国会の組織形態を踏襲し、職制が役員に治まっている労働組合では横断歴産業労働組合への転換は難しく、企業内労働組合の性格を強めていきました。
 その後、首切り反対闘争などが展開されましたがその頃になると労使ともに抗争に疲弊が見えて、少しずつ終身雇用、年功序列、企業内組合のいわゆる 「日本的経営」 が定着していきます。
 闘争における労働組合の戦術は 「作戦思想」 と 「精神的優越性をことさらに強調する風潮」 です。「ことさらに強調する風潮」 は上層部から出される指示に対する 「一糸乱れぬ団結」 です。それに無理が生まれた時に出されたのが 「長期抵抗路線」 です。
 敗戦を体験しても米英軍の 「優越的国家観念、個人主義に基づく愛国心旺盛にして、団結掃蕩強固なり」 の闘争における強さの本質を知ろうとはしませんでした。

 それどころか、企業内組合は軍隊組織と同じで、トップは経営者のいわゆる 「タテ型社会」 です。
 17年11月10日の 「活動報告」 の再録です。
 中根千枝の 『タテ社会の人間関係』 (講談社現代新書) から探ってみます。
「『会社』 は、個人が一定の契約関係を結んでいる企業体であるという、自己にとって客体としての認識ではなく、私の、またわれわれの会社であって、主体化して認識されている。そして多くの場合、それは自己の社会的存在のすべてであり、全生命のよりどころというようなエモーショナルな要素が濃厚にはいってくる。」
 ですから日本では、会社という 「場」 は、使用者も労働者も 「われわれ」 です。「やつら」 がいません。ここがヨーロッパの労使関係の構造とは決定的に違います。そしてそこではいわゆる “しがらみ” の関係性が大きく作用します。「みんなで渡れば怖くない」 の発想、意志一致はこのようななかから生まれます。そして扇動する者が最も強い愛社精神をもっていると評価されます。
 規律違反、違法行為にたいする不安感や恐怖感も払拭され、逆に自信となっていきます。神戸製鋼、スバルの現実です。
 過労死、過労自殺は 「われわれ」 のなかで起きています。
 「タテ型社会」 は日本の軍隊で成就されたといえます。

 「タテ型社会」 は下部に延びていきます。非正規労働者、派遣労働者、下請け企業などなどが登場しました。正規労働者は彼らからの権利剥奪と、差別と分断を黙認しました。自分の立場を固守する時は、他者を犠牲にします。しかし自己をも孤立させていきました。

 「働き方改革」 のなかで、「同一労働同一賃金」 は労使ともあまり議論になっていません。しかし 「同一労働同一賃金」 が抱える問題は、非正規労働者だけでなく、正規労働者の権利の拡大と働きやすさを獲得するものでもあります。

 「活動報告」 2018.5.25
 「活動報告」 2017.11.10
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行政の進める労働安全衛生のモデルは軍隊                            「数」 や 「モノ」 としか見ていない
2018/05/25(Fri)
 5月25日(金)

 ストレスチェック制度についての勉強会のとき、日本では会社が社員におこなう健康診断を社員は健康管理をしてくれていると捉え何の抵抗もなく受け入れている、労働者は自分の健康情報を会社に管理されることに何の疑問も感じていないという議論になりました。
 労働安全衛生法第六十六条は(健康診断) 「労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。」 とあります。法律で定められた検査項目は、身長、体重、視力、聴力、血圧、尿検査、貧血、肝機能、血中脂質、血糖、胸部X線などです。
 第六十六条の六は(健康診断の結果の通知) 「事業者は、第六十六条第一項から第四項までの規定により行う健康診断を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該健康診断の結果を通知しなければならない。」 とあります。
 第六十六条の七は (保健指導等) 「事業者は、第六十六条第一項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。」 とあります。

 労働安全衛生法は、作業環境測定等の作業環境管理について、もう1つは労働者個人の健康管理について定めていますが事業者の責務はあいまいです。事業者は労働者の健康状態について情報を集めて管理し、提供するが、健康管理は労働者の責務ということです。労働者は、健康情報を会社任せで安心していますが危険です。もっと関心を持つ必要があります。そうしないと健康どころか自分自身を守れません。

 日本では、健康診断項目を増やすのは健康維持のためでいいことだと捉える傾向があります。
 2015年にストレスチェック法が施行されました。事業者は労働者の精神状態、“心身のストレス反応” をチェックできるようになりました。労働者は、“内心” まで提供します。しかし疑問や反対の声はほとんど上がりませんでした。結果がどう取り扱われているかも関心がありません。日本以外で同じようなものを導入しようとしたらただちに反対運動がおき、実施できなません。

 以前の相談案件です。
 労働者は就業中の交通事故で精神的体調不良に陥りました。しかし隠していました。会社の定期検診のときに保健師の問診があったので、精神的体調不良を訴えました。
 体調は悪化し、休職せざるを得ませんでした。その段階で団体交渉を申し入れました。
 交渉で、当該労働者は定期検診のとき保健師に体調不良を伝えたので会社は掌握していたはず、しかし業務の見直しは行われなかったと主張します。
 会社は、保健師から聞いていない。保健師は労働者の精神的体調不良は個人情報なので会社に報告しないと反論しました。
 保健師を責めることはできません。労働者の個人情報は漏らさなかったのです。労働者は期待を持ちましたが健康管理は自己責任なのです。


 「働き方改革法案」 の審議が続いています。労働安全衛生法改正も含まれています。いつものように長時間労働を前提にしたうえでの “健康管理” です。
 第百四条は、(法令等の周知) 「事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による (新設) 措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
 2 事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理する ために必要な措置を講じなければならない。」 とあります。

 まさか、情報のなかにストレスチェックの結果が含まることにはならないと思いますが、不安と恐怖を感じてしまいます。厚労省や事業者は、やむをえなかった、労働者のためを思ってやったと言いわけをするようなことがないよう監視していかなければなりません。


 精神科医の島悟医師が雑誌の座談会で次のように語っています。
「行政の進める労働安全衛生のモデルは軍隊なんですね。産業保健スタッフで言えば、産業医は軍医、衛生管理者は衛生兵です。『場の管理』 が基本なんです。それぞれの現場で使っている有機溶剤や薬剤など危険物の種類の違いなどに対応するために 『場を管理する』 という発想。実際のオフィスワークの場合はどこでも同じですよね」
 では「場を管理する」とは具体的にどのようなことを言うのでしょうか。
「ジェノサイド (大量殺戮) の恐ろしさは、一時に大量の人間が殺戮されることにあるのではない。『そのなかに、ひとりひとりの死がないということが、私にはおそろしいのだ。人間が被害においてついに自立できず、ただ集団であるにすぎないときは、その死においても自立することなく、集団のままであるだろう。死においてただ数であるとき、それは絶望そのものである。』 (石原吉郎著 『望郷と海』 ちくま学芸文庫)」
「総力戦としての戦争は、民衆が戦争に総動員され、その生命が危険に晒され奪われるというばかりでなく、人々をまさに 『数』 や 『モノ』 や 『原子的存在』 へと貶める極限状況を生み出した。」 (三谷孝編 『戦争と民衆 戦争体験を問い直す』 旬報社刊)
 「場を管理する」 政策は、画一的対応・管理をし、労働者を集団としか見ません。
 現在の競争社会においては会社も労働者を 「数」 や 「モノ」 や 「原子的存在」 としか見ていません。

 安倍首相の全国過労死を考える家族の会との面会拒否の対応は、過労死した労働者を 「モノ」、高プロや月100時間の時間外労働で働く労働者を 「数」 としか捉えていない証左です。だから被害者家族の声には関心がないのです。


 今、吉田裕著 『日本軍兵士 -アジア・太平洋戦争の現実』 (中央公論新社刊) が好評です。
「戦争に必要な兵員数を満たすため、陸海軍は徴兵検査などの見直しに取り組んだ。1927年に公布された兵役法によって、満20歳の青年は徴兵検査を受検することが義務づけられていた。
 徴兵検査では全国一律の基準で身体検査が行われ、身長や身体の強健度を基準にして、身体的な 『格付け』 が行われ、その優劣に従って1人ひとりの青年は順次、甲種・第一甲種・第二乙種・乙種・丁種・戊種にふるい分けられる。甲・乙種が現役に適する者、……現役とは軍隊に入営して軍務につく者のことをいう。」
「1940年1月には、陸軍身体検査規則が改正され徴兵検査の基準が大幅に引き下げられた。
 改正のポイントは、『身体または精神にわずかな異常があっても、軍陣医学上』、軍務に支障なし判断できる者は、『できるだけ徴集の栄誉に溶し得るよう、身体検査の条件を全般的に緩和した』 ことである。」

 兵士の健康診断は健康状態を診るものではありません。兵士の人数合わせ・体制維持をするために逆算するための手段です。「数」 です。
 同じようなことをイギリスの精神科医R.D.レインは朝鮮戦争の時の体験を 『レイン わが半生』 (岩波現代文庫) に書いています。
「私の仕事の一部は、陸軍が必要としない兵士たちを精神病だという理由で陸軍から 『降職』 させることだった。そもそもそういう兵士たちはまず患者であるということで自動的に 『降格』 されていた。だが、8項目から成る基準に基づいて一体どの程度までダウングレイドさせればよいのか。……診断とグレイドづけは、どの患者にも並たいていでない影響を及ぼした。……私に判断できる限りでは、経済的にも影響を及ぼすこのような臨床資格の格付けの基準設定に関する方針は、陸軍の医療部門の外から発していた。その実態は私には永久に分るまい。誰と誰を原隊に復帰させ、誰と誰を除隊させたらよいのか。ある月は10%の人を復帰させ、90%の人を除隊させたかと思うと、翌月には10%を除隊させ、90%を留任させた。陸軍がどの程度まで人員を切り詰めるかという決定は陸軍当局次第だった。」

 企業は、合理化・人員削減を遂行しながら業績を強制する一方で健康管理は労働者の自己責任です。軍隊と同じです。
 労働者は1日24時間の半分以上を職場で拘束されたらだれでも自己を失います。「数」 「モノ」 として粗末に扱われると 「人間という生き物」 はメンタルヘルスの体調不良に陥ります。この方が “正常” です。
「神経症を直視せず、『疲労問題』 を重視するならは、問題解決の方向は 『疲労回復』 に向けられる」 必要があります。
 「働き方改革法案」 の高プロ、月100時間の時間外労働の危険性の本質はここにあります。


 『日本軍兵士』です。
「結核患者に対する軍の基本的対策は、結局は 『排除』 だった。……
 このため、徴兵検査の際にレントゲン検査を行うことが決定され、1941年度の徴兵検査は受検者の半数に対して、42年度は受験者のほとんど全員に対して同検査が実施されている。……
 しかし、排除方針は 『両刃の剣』 でもあった。……
 身体検査の際、『既往症に肺結核ありとしてまたは自ら肺結核患者なりとして、診断書ないしはレントゲン写真を携え』、当然しないまま自宅に帰れるものと考えて、受診を申し出る者が多数いたため、医務室はその対応に忙殺された。しかし、別の機会に歩兵第一連隊の 『この種の兵の胸部レントゲン検査を行』 ったところ、『大多数は認むべき所見なく』、入隊して軍務についても問題のない者たちだったという。
 3人の軍医は、レントゲン検査の器機を持たず近隣に陸軍病院が存在しない部隊の場合、入営の可否を短時間で判断しなければならないこともあって、傾向としては結核の病歴を訴える者は、症状を 『重く見らるる嫌なきにあらずと言う』 と書いている。
 つまり、当時の軍事医学の水準からすれば、レントゲン検査によって結核患者であるか否かを正確に判断すること自体が困難だった。そのため少しでもその可能性がある者は軍隊から排除せざるをえない。しかし、それは誤診の可能性、あるいは結核の既往症を強調して入営を免れようとする者が増大することを意味した。」

 軍隊の結核検査は、「働き方改革法案」 の “健康管理” と似ています。
 産業医の多くは精神科が専門ではありません。長時間労働では誰もが体調不良に陥っています。労働者の心身を思慮して診察すると会社からクレームを受けたり敬遠されます。「数」 が不足するからです。しかしまだ大丈夫などと診断した場合はあとで損害賠償訴訟を起こされます。
 『重く見らるる嫌なきにあらずと言う』 の逆を訴える労働者も確実にいます。経済的事情、会社における将来の立場を考えてです。
 長時間労働の強制を最終的に止めることができるのは産業医ではなく事業主です。そして防止のための強制法の確立です。
 健康診断の前に、頻繁に受診しなくても健康が保たれる労働条件・環境づくりが先です。

 「活動報告」 2018.4.17
 「活動報告」 2018.3.2
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